顧客の多様化や、欲しいものが無いという「モノ余りの時代」が、昨今加速しています。"良いもの、優れたものならば売れる" という時代は、もはや終わりを告げたといえるでしょう。顧客の求める "商品から得る体験" に基づいたコト消費の軸から商品を提案していかなければ、市場における生き残りが困難となってきているのです。
国内有数のブランド力を誇る花王は、チェーンストア各社と協働し、かねてからデータに基づいて売り場の最適化を進めてきました。近年では、POS 上の販売実績データに加えてソーシャル データなどの外部データも活用。Azure SQL Data Warehouse と Power BI を採用して構築したデータ分析基盤の下、市場の未来を予測した売り場づくりを推し進めています。
未来のコト消費を予測するために
「ビオレ」や「メリット」、「アタック」など、消費者に馴染みの深い数々の商品で知られる花王。同社は、洗剤・トイレタリー市場、及び化粧品市場において、国内でトップ クラスのシェアを誇る、誰もが知る日用品メーカーです。
しかし、そんな同社をしても、目まぐるしく変化する今日の顧客動向には強い危機感を持っているといいます。花王株式会社 情報システム部門 CRM部の城山 久 氏は、「当社は『消費者・顧客を最もよく知る企業に』を、企業理念である『花王ウェイ』の中で掲げていますが、今、正にこの実践が強く求められていると感じます。」と語り、顧客の志向がモノ消費からコト消費へと変化したことに言及しながらこう述べます。
「優れた商品を市場に展開してテレビ CM でプロモーションする、そしてこれをチェーンストア各社の売り場へ置いていただく。従来はこうしたマス戦略を行うことで、当社の商品をお客様に選んでいただけました。しかし、今は違います。まずネットが普及したことで、お客様へ情報を届けること自体が困難になりました。また、お客様の志向も " 商品が欲しい" から " 商品から得る体験が欲しい" に変わってきています。画一的な戦略ではたとえ良い商品であっても選ばれない、そんな時代が訪れているのです。1 人ひとりのお客様を理解し、その傾向を、一定規模のセグメントに分類する。これを『スモール マス』と定義して、チェーンストア各社と協働しながらそれぞれの『スモール マス』に適した売り場づくりを進めることが求められています」(城山 氏)。
ここにあたり、近年はデータ分析の重要性がいっそう高まってきていると城山 氏は説明。これと同時に、分析の在り方自体も変えていかねばならないと語ります。具体的に、どのような形にデータ分析の在り方を変えねばならないのか。花王の販売機能を担う花王グループカスタマーマーケティング株式会社 流通開発部門 KCT 推進部の小谷 高久 氏は、城山 氏の言葉を紡いでこう続けます。
「私たちは、これまでチェーンストア各社との取り組みの中で、販売実績となる POS データ、ここに属性情報を付帯した ID-POS データを売り場づくりに活かしてきました。ただ、販売実績は、性質上 "過去のデータ" となります。これからの売り場づくりでは、ソーシャル データと呼ばれる Twitter などに投稿された消費者の情報、キャリア データに基づいたリアルの行動情報、人口統計などを組み合わせて、これから先どのようなコト消費が生まれるのかをそれぞれの『スモール マス』で予測する必要があります。データ分析の在り方が、過去の分析を主としてきたものから "未来の予測" へと変わってきているといえるでしょう」(小谷 氏)。
膨大なデータを取り扱うべく、分析基盤のクラウド マイグレーションを実施
花王では 30 年以上も前から、POS や ID-POS 上の情報を用いたデータ分析に取り組んできました。同社のデータ分析基盤であり小谷 氏の部署名にもなっている「Kao Collaboration Tools (KCT) 」は、2019 年現在、200 億レコードを超える規模に達しています。
同社はこれまで、オンプレミスにこの KCT を構築。5 年周期で環境を更新しながら同基盤を運用してきました。しかし、城山 氏は「データ分析の在り方を "未来の予測" へと変えていくにあたり、オンプレミスでは限界がありました。」と述べ、2018 年度にクラウド型データウェアハウス (DWH) の Azure SQL Data Warehouse と Power BI を用いて環境をマイグレーションしたと語ります。
取り組みの当時、オンプレミスで運用していたデータ分析基盤は 1 年余りの保守期間を残していました。城山 氏は、それでもマイグレーションを進めた理由を次のように述べます。
「ソーシャル データなど、当社が必要とする外部データは多くが POS データ以上の規模を持ちます。スケーラビリティを備える基盤でなければ、未来を予測するための歩みを加速させることができません。コストを考えれば 2019 年度までオンプレミス環境を使い続けるべきです。しかし、刻一刻と市場は変わりますから、1 日でも早く取り組みをスタートさせるのが望ましいと考えました。前回環境を更新した際は安全性の面から時期尚早だと判断しましたが、テクノロジーの進化に伴い、パブリック クラウドは今やオンプレミスにも劣らない信頼性を有しています。ならばすぐにでもスタートすべきだと、そう考えてマイグレーションを決断したのです」( 城山 氏)。
花王が数あるパブリック クラウドの中から Microsoft Azure ( 以下、Azure) を選択したのには勿論理由があります。
同社は、他社と差別化すべき領域の IT の企画・開発・運用をインハウスで行うことを方針としています。城山 氏は、初期構築に要するリード タイムを短縮するために自社の IT エンジニアにとって手慣れた環境であることを第一に求めたと述べ、そこでは Azure が最良の選択だったと説明します。
「DWH はチューニングによって性能が大きく左右されます。従来のオンプレミス環境では専用アプライアンスを DWH に利用していたのですが、独自の RDB(Relational Database) を実装しているために、中々ここへ慣れることができませんでした。結果、性能低下が発生する度、この解決に多大な労力と時間を割いていたのです。当社はオンプレミスの多くのシステムで SQL Server を利用していますから、Azure SQL Data Warehouse ならば私たちにとってスタンダードな技術を転用することができます。初期構築だけでなくその後の改修・機能拡張も迅速に進めることが可能だと期待しました」( 城山 氏)。
Azure と Power BI の組み合わせによって、コストを半減しながら利便性の高いデータ分析基盤を構築
Azure の備える機能性や Power BI の存在も、花王からは高く評価されました。
従来のデータ分析基盤は、例えばレポートを実行する場合、その都度データ集計のジョブが走り出力までに時間がかかる、数十枚にわたる帳票データとしてレポートが出力されるため何を見ればよいか分からないなど、利便性の面でも課題があったといいます。
小谷 氏は、「集計から出力までに数分を要するため、その間で、"何を分析していたんだったっけ?" と考えが分断されるケースがしばしばありました。KCT をより有用なツールにすること、これによってチェーンストア各社へより良い提案活動を進め、チェーンストア各社と共により魅力のある売り場をつくることが私の使命です。そのため、従来あった課題を強く問題視していました。」と説明。城山 氏と共に、Power BI と Azure によってこれを解決することができたと語ります。
「過去、BI ツールを導入して帳票出力からダッシュボードへとレポートの在り方を変えようと試みたことはありました。しかし、城山も述べたように、従来の DWH は独自の RDB を実装していたため、テーブルの関係づけなどが困難で中々実現できなかったのです。Power BI は Azure SQL Data Warehouse とシームレスに連携ができ、私たちの持つ SQL Server や Access ベースの知識で作業を進めることができます。今回のマイグレーションで、ダッシュボードからドリルダウンしていくだけで直感的かつリアルタイムに欲しいデータへアクセスできる形へとレポート環境を整備することができました。これを実現したこと自体が、クラウド マイグレーションの大きな成果だと考えています」(小谷 氏)。
「オンプレミスから Azure SQL Data Warehouse への移行に伴い、処理性能を大幅に高めることにも成功しています。これもあって、ユーザーにはほとんどストレスを感じずにデータをドリルダウンしていくことが可能です。また、実はこのマイグレーションにあたり、オンプレミスで次期環境を更新する場合と比べてコストを約半分にまで削減できる見通しとなっています。Azure SQL Data Warehouse ではストレージと処理性能を切り分けてリソースが調整可能なため、こうした情報関連経費の最適化が図りやすいのです」( 城山 氏)。
"プロジェクトにあたって、マイクロソフトからは、サービスの提供だけでなく POCから構築に至るあらゆるフェーズで手厚く支援頂きました。ここに Azure のスケーラビリティをかけ合わせることで、構築開始からわずか 3 か月でサービスをリリースすることができました。"
-城山 久 氏 : 情報システム部門 CRM部
MKグループ チームリーダー
花王株式会社
チェーンストア各社と共に、永続的に成長していく
花王では、2018 年 4 月よりマイグレーションの作業をスタート。そこからわずか 3 か月で作業は完了し、2018 年 7 月、同社は新たなサービスを段階的にリリースしています。
ソーシャル データなどを本格的に分析するのはまだこれからとなりますが、サービス基盤やレポートの在り方が変わっただけでも、ビジネスに好影響があったと小谷 氏は述べます。
「ダッシュボードを作成するにあたり社内のユーザー部門にヒアリングしながら要件を固めたのですが、Power BI はデータの紐づけが容易なだけでなく UI についても柔軟性高く作成できるため、ユーザーの要望に近いものを用意できました。実際、サービスをリリースしてから、当社の担当とチェーンストアの担当者様とが一緒にダッシュボードを見ながら協議することが出来るようになった、との声がユーザーから届いています。動的にデータを見ることができるため、ここで得られる洞察もより深いものになっているはずです」(小谷 氏)。
続けて城山 氏は、今回、データ分析基盤のアーキテクチャにある工夫をしたことで、機能拡張なども迅速に進めることができていると語ります。
「Azure の環境では PaaS を全面的に採用しています。仮想マシンを 1 台も利用しないサーバー レスを採ったことで、機能拡張が容易にできるようになりました。定常運用に要する工数も大きく削減でき、" 攻めの IT" 側にリソースの比重を寄せられるようになったことも大きいと思います。拡張性の高い基盤と十分な人的リソースの下、"未来の予測" を実現するための歩みを加速させてまいります」(城山 氏)。
花王は今後、外部データの取り込みを順次進めるとともに、AI などの先進技術を駆使した機能拡張にも取り組んでいきます。城山 氏は、「現行は 6,000 cDWU で運用しており十分な性能を確保できています。今後、取り扱うデータの量は急激に肥大化していくと見通しますが、Azure SQL Data Warehouse は現時点で最大 30,000 cDWU のプランを用意しています。問題なく環境をスケールさせることができると考えています。」と語り、高いスピード感を持って当社の発展に貢献していきたいと意気込みました。
"ソーシャル データと実際の販売実績の相関を分析する、そしてこれを AI によって 自動化すれば、最適な棚割りをコト消費視点から提示するような仕組みも実装可能でしょう。マイクロソフトの力を借りて、チェーンストア各社と共に永続的な成長をしていくためのシステムを作ってまいります。"
-小谷 高久 氏 : 流通開発部門 KCT推進部
花王グループカスタマーマーケティング株式会社
画一的な戦略だけではメーカーと小売ともに生き残ることができない。そんな時代が、今、訪れています。花王がチェーンストア各社と連携してすすめるデータ分析の取り組みは、今後、めまぐるしく変化する社会の中でも企業としてのサステナビリティを維持するための手本となっていくに違いありません。
[PR]提供:日本マイクロソフト