世界シェアトップの CVT(無段変速機)を中心に自動車部品メーカーとして市場をリードするジヤトコが、20 年以上にわたって運用を続けてきた基幹システムのクラウド移行に挑んでいます。COBOL で構築された生産管理システムを含め、約 500 台のシステムの 8 割を 2025 年までに Microsoft Azure に移行する計画です。マイクロソフトの CAF(クラウド導入フレームワーク)やパートナーである富士ソフトの知見とノウハウを活用し、現在までに CVT の設計・開発に関わるワークフローシステムなど台数ベースで約 1 割のサーバー群の移行を早期に実現しました。「成果を出せる組織に変われるようになった」と組織文化の改革を実感しています。
自動車用オートマチックトランスミッション専門メーカーの新たなチャレンジ
1970 年に前身会社のひとつである日本自動変速機が創業されてから 50 年以上にわたり、自動車用オートマチックトランスミッションの専門メーカーとして、ステップ AT(自動有段変速機)、CVT(無段変速機)、ハイブリッド車用トランスミッションなど幅広い商品を世に送り出してきたジヤトコ。現在は日産自動車のグループ企業として、連結従業員は 1 万 2700 名(2022 年 3 月 31 日現在)、売上高は 5613 億円(2021 年度)という規模で事業を展開し、主力商品である CVT では、軽自動車から中・大型車までを唯一カバーする世界トップシェアメーカーとして市場をリードしています。
自動車業界では「100 年に一度の変革期」を迎えており、電動化、自動運転、AI 対応など、社会におけるクルマやモビリティのあり方も大きく変化しています。そんななかジヤトコは、世界初の商品を次々に世の中に送り出すなど、オートマチックトランスミッションのリーディングカンパニーとして市場のニーズを先取りし、次のオンリーワン商品を企画・提案し続けています。
ジヤトコのものづくりの特徴の 1 つに、独自の生産方式「JEPS(JATCO Excellent Production System)」があります。素材仕入、加工、組立、検査、出荷に至る一連の工程を 1 本のラインのように稼動させることで、一切の無駄を排除するシステムです。また、世界中の顧客のニーズをタイムリーに取り入れた商品開発や生産を行うために、顧客に近いところに開発拠点や生産拠点を設置しています。日本以外の拠点は海外 8 カ国、12 拠点におよび、生産はグローバルネットワークを前提とした量産体制を確立しています。
物流部門で長年生産の現場に携わった後、情報システム部長に就任し、現在、情報システムの再構築に取り組んでいる土屋 敦 氏は、こう話します。
「エンジンから電動化の時代に入るなかで、当社の商品も電動車にマッチしたパワートレインユニットにシフトしていっています。生産技術を支える IT システムも新しいかたちに変えていくことが求められています。システムのなかには複雑な状態でレガシー化し、変化に対応しにくいものもあります。それらをシンプリファイしなければ、次のビジネスに適合していくことが難しくなる。100 年に 1 度の転換期のなかで、いま、その瀬戸際にいるという認識です」(土屋 氏)。
そんなジヤトコでは、情報システムの再構築プロジェクトにチャレンジしています。その基盤として採用されたのが Microsoft Azure(以下、Azure)でした。
どんなに優れたシステムであっても長く運用していると課題を抱える
土屋 氏によると、次のビジネスに適合していくためには既存システムのクラウド移行が不可欠だったといいます。クラウドに移行することで既存システムが抱えている課題を解消しながら、新しい顧客ニーズに柔軟に対応していくことを目指しました。ただ、システム基盤をクラウドに移行しただけでは不十分だったともいいます。
「どんなに優れたシステムであっても長く運用していると課題を抱えます。システムを開発した担当者が退職し、中身を知る担当者が少なくなれば、顧客のニーズに合わせてシステムを改修することが難しくなります。また、運用管理も複雑になり、新しい担当者がシステムの中身を把握しにくくなります。システム担当でありながら、As Is が描けないということもありえるのです。その意味では、システム基盤刷新はシステムを変えるというより、ものづくりの会社として働き方やプロセスを見直し、新しい商品の開発・生産・販売に臨んでいくことが重要だと考えています」(土屋 氏)。
パブリッククラウドのなかで Azure を採用した背景には、生産管理を中心とした基幹システムをクラウドに移行しながら、次世代の働き方やプロセスを全社的な文化として取り入れていく狙いがあったといいます。
「組織や文化の新しいあり方を考えるうえで、Microsoft 365 や Azure を中心にクラウドサービスを展開するマイクロソフトは、目指すべき姿を体現したような存在でした。弊社の CIO も東京のマイクロソフトのオフィスにお邪魔して熱い議論を交わしています。インフラ基盤の移行先としてはもちろん、働き方や組織文化、マインドセットを変えるところまで多くの取り組みを参考にしました。参考にすべきガイドラインやフレームワークがすでにあることで取り組みをスムーズに進めることができます」(土屋 氏)。
ガイドラインやフレームワークを活用するという取り組み方は、ジヤトコにおけるクラウド基盤の再構築で具体的に実践されます。プロジェクトをリードした情報システム部 主担 小林 智央 氏はこう話します。
「マイクロソフトが提供する CAF(クラウド導入フレームワーク)を活用しました。クラウド導入の道しるべとの出会いだと捉えています。ジヤトコのサーバー仮想基盤は、これまで自社データセンター内に Hyper-V などの仮想化ソフトウェアを活用し、基盤構築してきましたが、十分に資産を活用することができず、クラウドへの移行を決断しました。CAF を利用すると、オンプレミスの仮想基盤をクラウド基盤への移行プランが立てやすくなります。構想策定から基盤構築まで 2 年半かかるという見積もりがあるなかで、CAF を適用することで、1 年かからない計画を立てることができました」(小林 氏)。
CAF を活用し「クラウドを利用するのは当たり前」という雰囲気を作った
Azure を採用した決め手は、CAF によってクラウド導入のベストプラクティスをもとに移行プランを進めることができること、また過去からの継続性を維持したまま、低リスク・低コスト・高品質で新しい基盤に移行できることにありました。
「Azure は、Azure ハイブリッド特典というオファーが適用でき既存ライセンスの持ち込みが可能なため、移行コストを最適化することができます。また、Azure の場合、ESU(拡張セキュリティ更新プログラム)を利用して、サポート期限の切れた Windows Server のサポートを無償で受けることができます。基盤も非常に安定していて、オンプレミス環境と同等かあるいはそれ以上であることも魅力です。クラウド移行は、マンションの住み替えに似ています。建物自体の老朽化が進み、さまざまな問題が出てきたところで、揃えた家財道具一式を維持したまま、新しいマンションに引っ越すイメージです。古いマンションでは効率が悪く、世界と戦えません。ゴーストタウンになるリスクもあります。新しい環境に移行して効率性を高めながら、競争力を強化することを目指したのです」(小林 氏)。
移行対象となったシステム基盤は、約 500 台の仮想マシンで構成されています。ビジネスの核となる生産管理システムはもとより、販売、物流、人事・総務、財務・会計、ワークフロー、情報共有基盤などのシステムが仮想基盤やオンプレミス環境で稼働しています。
「全体の 8 割が仮想化されていて、アプリケーションの数は 200 超に上ります。生産管理などの基幹システムは 20 年前に開発された COBOL のシステムをダウンサイジングし Linux 環境で動作しています。パッケージ利用とスクラッチ開発の比率はおよそ 6 : 4。仮想基盤としては Windows Server が多く、Windows Server 2008、同 2012、同 2016 とバージョンアップを重ねてきました。現在は 500 台のサーバーのうち、CVT の設計・開発に関わるワークフローシステムなど 30 台を移行し終えたところで、それに加えて Azure 上で 20 台ほどの仮想マシンを新規構築しています。2025 年までに全体の8割の仮想マシンをクラウドに移行する計画です」(小林 氏)。
ジヤトコのシステム群は生産管理システムのように 20 年以上にわたって利用され、ビジネス成長の中心となってきたシステムが数多くあります。そのため、基盤を変えることに戸惑う声も少なくなかったといいます。そうしたなかで取り組みを成功させるポイントは「小さくスタートして、クラウドをとにかく体験してもらうこと」でした。
「利用者側がメリットを実感できなければ移行はスムーズに進みません。そこで、パートナーの力を借りながら、クラウド移行の成功事例を作り、クラウドのメリットを体感してもらうことで『クラウドを利用するのは当たり前』という雰囲気を作っていくことを心がけました」(小林 氏)。
課題に寄り添い、総合的な付加価値をつけたサポートを提供した富士ソフト
パートナーとしてクラウド移行の取り組みを支援したのは富士ソフトです。富士ソフトの水野 陽介 氏はこう話します。
「クラウド移行プロジェクトでは、まず一度取り組んでみて、そこで得られた経験を次の取り組みに生かし、段階的に取り組みを大きくしていくというスモールスタートが重要です。当社では、さまざまなシステム移行を手がけてきた知見とノウハウがあり、次のステップへスムーズに進めるよう支援します。また、Azure を含めてクラウドテクノロジーに対する知見を持ったエキスパートが数多く在籍しており、Azure を使ったクラウド移行や IoT や AI などの DX 事例をご紹介することも可能です。お客様の課題に寄り添い、総合的な付加価値をつけたサポートを提供します」(水野 氏)。
富士ソフトはマイクロソフトのパートナーとして 10 年以上の実績があり、Azure の認定資格取得者は 440 名以上、そのなかでもエキスパート資格をもつエンジニアは 30 名を超える国内有数のパートナーです。Azure のエキスパートである江浜 大輔 氏はこう話します。
「マイクロソフトと連携して CAF の提案や技術サポートをベストプラクティスとして提供できることが強みです。ただ、今回特に実感したのは、ジヤトコ様側で積極的に Azure の情報収集を行ない、スキル習得や社内への周知や啓蒙活動、ルール作りを進められたことです。しっかりとした意図と熱意、関与があったことが成功のポイントだと思っています」(江浜 氏)。
クラウド移行は順次進められていますが、すでにはっきりとした効果を確認することができています。
1 つめの効果は、効率化とコストの最適化です。
「コストについては、初期構築コストをおさえながら、移行先のシステム構成などを最適化・効率化したこと、ライセンス費用や運用費用の低減などを進めたことで、過去 10 年の実績と比較して、実際のキャッシュアウトが約 10 %下がりました」(小林 氏)。
2 つめの効果は、システム刷新の時期を戦略的に後ろ倒しできたことです。
「Azure への移行では無償で提供される ESU を利用すると Windows の保守切れ対応を後ろ倒しにし、システム刷新の優先順位を戦略的に策定していくことができます。競争優位を生むシステムを優先しながら、改修がビジネス効果を生みにくいものについては後で対応することができるようになります」(小林 氏)。
3 つめの効果は、組織風土の改革です。
「成果を出せる組織に変われるようになりました。情報システム部はこれまで安定稼働がミッションでしたが、クラウド移行により基盤のメンテナンスがほとんど不要になりました。そのかわりに Azure の機能を使って新しい取り組みを実践できるようになりました。日々の業務に向きあい、課題を解決する活動により専念できるようになりました」(小林 氏)。
情報システム部として、モダナイゼーション、効率化、DX の 3 つの取り組みを加速
実際、情報システム部員のマインドが変わり、新しい取り組みに集中できる時間と余裕ができたことで、さまざまなサービスが提供されはじめているといいます。
「これまでは計画を立てて予算を確保し、実行するのは次の年ということがほとんどでした。システム運用の負担が減ったことで、ユーザーの課題に向き合うことができ、また、システム基盤としてクラウドを活用できるので、思い立ったらすぐに試してみるということが簡単にできるようになりました。いま取り組もうとしているのは、ファイルサーバーの PaaS 化です。ファイルサーバーは需要を予測することが重要でしたが、PaaS にすると自由に拡張できるため、需要予測や容量設計がほとんどいらなくなり、スピーディーな開発ができるようになります。また、すでに移行した IaaS 上の仮想マシンを Web Apps を中心にした PaaS へシフトさせていく取り組みもスタートしました。そのほかにも、Microsoft Teams の活用推進や、Microsoft 365 を活用したオペレーションの自動化などを進めています。情報システム部を見るだけでも、働き方がだいぶ変わってきています」(小林 氏)。
富士ソフトの江浜 氏は、PaaS 活用の支援内容についてこう話します。
「Azure には、IoT や AI / ML、Digital Twins など、製造業のお客様にとって有益なサービスが多数提供されています。安定して稼働することはもちろん、セキュリティについてもさまざまな機能を使って高いレベルで製造業の重要データや機密情報を保護することができます。マイクロソフトと連携しながらソリューションアセスメントを行い、お客様のニーズをシステムに落とし込んでいます」(江浜 氏)。
それに対し小林 氏は、富士ソフトとの出会いを振り返りながら、こう信頼感を寄せます。
「富士ソフトさんとの最初の仕事は、基盤再構築のプロジェクトの前段階として、Active Directory のバージョンアップをお願いしたことにはじまります。こちらの要望を丁寧にヒアリングし、最適なかたちで移行を実現してくれました。Azure へのクラウド移行の際には、ぜひ富士ソフトさんにお願いしようと、その当時から心に決めていたところもあるのです。実際、いま一緒に移行プロジェクトに取り組むなかで、富士ソフトさんがいなかったら、これほどスムーズにプロジェクトが進まなかったと感じています」(小林 氏)。
今後は、クラウド基盤を活用してさらに取り組みを加速させる方針です。土屋 氏はこう展望します。
「今後の取り組みには、3 つの柱があります。1 つは、モダナイゼーションで、古くなった仕組みを近代化していきます。オンプレに残すものも出てくると思いますが、基本的にはすべてのシステムを Azure に移行する計画です。2 つめは、効率化です。ヒト、モノ、カネを効率的にリーンに研ぎ澄ますことで、変化に強い組織を作っていきます。3 つめは、DX と新商品への対応です。クラウド基盤を活用し、これまでジヤトコが取り組んできたチャレンジをさらに推進していきます」(土屋 氏)。
100 年に一度の変革期に新たなチャレンジに挑むジヤトコを、マイクロソフトと富士ソフトはこれからも支え続けていきます。
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