DX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みでは、新サービス提供などの「攻めの DX」だけではなく、業務や組織変革を支えるための社員の働き方の見直しやコンプライアンス順守といった「守りの DX」も重要です。ただ、働き方の見直しやコンプライアンス順守は、ルールやポリシーの運用を強制するだけでは、不十分といえます。「北風と太陽の寓話」でいえば、太陽のアプローチを用いて、社員が自然なかたちでコンプライアンスを徹底していく仕組みを作ることが重要です。そんな太陽アプローチを人事、DX 推進、IT の各部門が三位一体で推進し、目を見張るような成果を挙げたのが日立コンサルティングです。Microsoft Azure を基盤にした Spontena のチャットボット社内導入の取り組みを紹介します。
日立グループのコンサルティングファームとして企業の DX を支援
日立グループのコンサルティングファームとして、日立グループの経営改革の支援などによって得た経験や知識、日立の社会インフラ領域における実績、IT の総合力などを強みにビジネスを展開する日立コンサルティング。デジタル化やクラウド化が進み社会が大きく変化するなか、多様なパートナーとともに社会を一歩進める駆動力となりビジネスエコシステムを創出すること、および領域を超えた協創によって社会イノベーションを実現することをめざし、日々取り組みを強化しています。
日立コンサルティングの事業領域やソリューション領域は、多岐にわたります。1990 年 2 月に日立製作所内にコンサルティング部門を設立して以来、製造、流通、金融、保険、サービス、卸売、官公庁、運輸、電気、ガス、水、建設など、多岐にわたる業界のコンサルティングを通じて、顧客とともに課題解決に取り組んできました。
また、IoT(モノのインターネット)や AI(人工知能)が普及するなかで重要になってきたビジネスや組織をデジタルの世界へ移行させるデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)領域でも、企業や産業、国境などの領域を越えて、既存の産業構造や事業領域の壁を打ち破り、新たな価値やサービスを提供していこうとしています。
DX 領域での取り組みについて、取締役 コーポレート戦略統括本部長 鈴木 崇司 氏はこう話します。
「一口に DX といってもデジタルによる価値創出や事業の創出もあれば、業務効率化をめざすこともあります。また、ビジネストランスフォーメーション(BX)のようにビジネスそのものの在り方にメスを入れるような取り組みもあります。日立コンサルティングでは、日立グループの実績と信頼とネットワーク、日立自身の改革に基づくさまざまな経験、日立グループの実現力(知識・技術・製品)を活用しながら、デジタル領域での DX 戦略の立案や推進を支援しています。またお客さまに価値のあるサービスを届けるために DX に関連したさまざまなツールを社内導入し、知見やノウハウを蓄積することにも力を入れています」(鈴木 氏)。
そうした社内導入の 1 つとして採用し業務改革で大きな成果を挙げたものに Spontena が提供するチャットボットサービスがあります。Spontena のチャットボットは提供基盤として Microsoft Azure(以下、Azure)を活用し、Microsoft Teams(以下、Teams)とシームレスに連携します。これにより日立コンサルティングは、会話型アプリによる勤怠管理システムや経費精算システムの社内運用を行い、働き方の質を大幅に改善したのです。
勤怠管理や経費精算の日々入力、週次入力、入力率の向上が課題に
チャットボットを社内導入する狙いの 1 つは、顧客企業に対して、DX 推進やサービス創出を提供するにあたり、社内での推進や効果の検証を進めることで、より説得力のある提案が可能になることにあります。鈴木 氏はこう説明します。
「日立グループでは社会課題の解決にフォーカスしていますが、その社会課題は、私たち生活者一人ひとりが持つ課題の集合体でもあります。その意味では、チャットボットの導入は、生活者である私たち自身=従業員の行動変容を促す取り組みでもあります。また、To Customer や To Employee といった視点からユーザー体験を創出することは、日頃からお客様に提供している価値そのものです。チャットボットがユーザーに話しかけるタイミングやワーディング、会話のシナリオを Spontena と議論しながら進めることで、体験創出ができ、それが私たちの UX スキルの向上や維持につながると考えています」(鈴木 氏)。
日立グループでは社会課題の解決にフォーカスしていますが、その社会課題は、私たち生活者一人ひとりが持つ課題の集合体でもあります。その意味では、チャットボットの導入は、生活者である私たち自身=従業員の行動変容を促す取り組みでもあります。
―鈴木 崇司 氏:取締役 コーポレート戦略統括本部長
株式会社日立コンサルティング
実際にチャットボット導入にあたって検討したのは、勤怠管理や経費精算を適切に運用するにはどのようなアプローチが適切かという、根本的なところでの問いかけでした。勤怠管理や経費精算の運用は、ほとんどの企業の人事総務部門が頭を悩ませている課題です。全社員が期限内に適切に項目を入力してくれることは難しく、通知、注意、催促を繰り返すことでなんとか運用されているのが実情でしょう。コーポレート運営統括本部 人事総務部 部長 浜 洋行 氏はこう話します。
「勤怠管理、経費精算などの間接業務は、本業のフロントオフィス機能であるコンサルティング部門を推進している従業員からは軽視されがちなところがあります。しかし、好業績や社会への貢献といった華々しい成果は、会社のルールやコンプライアンスが守られた上に成り立っているものです。もし基本的なルールがないがしろにされた状態で好業績を実現したとしても、そこに意味はありません。故に、長時間残業の抑止や働き方改革を推進するための正しい数値の見える化は欠かせません。そこで重要になるのが、勤怠管理や経費精算の日々入力やその入力率の向上です。ところが、当社においても日々それらを入力させることは長年の課題になっていました。『ルールだから実施せよ』という北風と太陽の『北風アプローチ』では限界があったと考えています。そこで、従業員がどのようなモチベーションで間接業務を行うと業務負荷を抑えられるのかという『太陽アプローチ』で検討を進めたところ行きついたのが、今回の Spontena 導入だったのです」(浜 氏)。
人事部門、社内 DX 推進部門、IT 部門が三位一体でプロジェクトを推進
日立コンサルティングが Spontena のチャットボットを導入し、勤怠登録や経費精算で活用しはじめたのは 2018 年です。プロジェクトをリードしたデジタルイノベーションコンサルティング本部 ディレクター スマート勤怠導入プロジェクト 宮本 潤 氏はこう説明します。
「今回のシステムを端的に言い表すと『勤怠登録や経費精算などの間接業務をいつでもどこでもチャットを通じて実施できるようにしたシステム』となります。これまでは、会社支給の PC からイントラネット経由で Web にアクセスしなければ勤怠管理の入力や経費精算の作業は実施できませんでした。チャットボット導入後は、アクセス元が会社支給 PC やイントラネット経由に限定されなくなり、スマートフォンからチャットで入力できるため、いつでもどこでも隙間時間に勤怠登録や経費精算が実施できるようになりました」(宮本 氏)。
プロジェクトは、人事部門、社内 DX 推進部門、IT 部門が目標を擦り合わせながら、三位一体で推進されています。利用ユーザーは、コンサルタントやエンジニアなどほぼすべての従業員約 400 名です。
「プロジェクトポイントは、スマホを活用してユーザーの利便性を大きく向上させたことです。勤怠システムや経費精算システムは既存のシステムをそのまま活用し、システムにチャットボットをアドオンする形で実現しているため、導入コストや管理コストも最低限に抑えることができています。また、ユーザーが入力し忘れた場合は、チャットボットがユーザーに入力しやすいようリマインドするため、登録率も向上させることができます。さらに、Microsoft Power Automate(以下、Power Automate)を使って、登録状況や健康管理時間を集計しており、人事部門やラインのフォロー業務も効率化しています」(宮本 氏)。
Spontena DX推進部 UXデザイナーの田村 俊人 氏は、既存システムとチャットボットの連携の仕組みについてこう説明します。
「チャットボットは Teams 上で提供されており、裏側の BOT ネットワーク群もすべて Azure 上に構築されています。勤怠管理システムのデータとチャットボットで入力したデータは Power Automate などの RPA で連携されていて、利用者からは普段使っている Teams と勤怠管理システムが直接接続されているように見える仕組みです。勤怠管理システムを開いて入力する必要がなく、普段利用しているスマートフォンと Teams アプリで完結するので、煩わしさが一切ないことがポイントです」(田村 氏)。
自然言語で会話改善する No - UI チャットボット
Spontena を採用するにあたっては、従業員の利便性や業務との親和性が最優先事項でした。その点では、既存の勤怠管理システムや Teams とシームレスに連携できることが必須要件となりました。さらに重要だったのが、従業員とのデジタル接点の創出です。宮本 氏はこう解説します。
「既存の勤怠管理システムをパッケージの改修なく連携するために、API 開発を柔軟に実施できることが必要でした。Spontena は、そうした柔軟に外部システムと連携できる点が特徴です。また、ユーザー体験にはあらかじめ決まった正解というものはありません。そのため、柔軟に従業員との接点を改善できる仕組みを備えていることも重要になってきます。Spontena は、ワーディングやアプローチタイミングの変更なども柔軟にできることに大きな魅力があります。いわゆる AI チャットボットと呼ばれるものは作り終わった後に徐々に賢くなっていくものだと思いますが、賢くなるのと導入の目的を達成するのとは異なります。弊社の場合にはスムーズな会話は大切ですが、いかに勤怠入力や経費精算を手間なく、タイムリーに入力できるかというところが目的であるため、Spontena の継続的なユーザー体験改善に魅力を感じています」(宮本 氏)。
田村 氏は、Spontena がどのようにユーザー体験を改善していくのかについてこう説明します。
「ユーザー体験改善のために、会話ログを確認してユーザーがつまずいているところはないか、意図しない会話の流れになっているところはないかということを日々チェックしています。例えば、ユーザーが『おはよう』と言うと、チャットボットは『今日の始業は 9 時 2 分と記録しますか?』と現在時刻で聞き返すのですが、ここで『はい』か『いいえ(修正)』の選択肢(ボタン)しか存在していない場合、ユーザーは『いいえ(修正)』を選んでから『9:00』といった時刻を入力するように、 2 ステップでの入力を行うことになります。ただ会話ログを見ると『はい』でも『いいえ』でもなく『9:00』といきなり入力されていることが多いとわかりますので、このタイミングで時間の入力を聞き取るという改善をするのです」(田村 氏)。
ボタンなどのユーザーインタフェース(以下、UI)に頼っていると「はい」や「いいえ」、「時間を入力できるフォーム」「登録中止」「はじめからやり直す」といったようにボタンや入力フォームを増やし続けていくパターンが増えていきます。Spontena の強みは、こうした積み上げ型の改善ではなく、自然言語で会話改善する「No - UI チャットボット」にあります。
Spontena のサービス提供基盤に Azure を採用した理由については、田村 氏はこう説明します。
「Teams 上でチャットボットを提供することが決まったので、 BOT ネットワークを構築するサーバー環境としても、必然的に Azure 環境を採用することになりました。また、今後、勤怠管理に限らず、従業員のスケジュール確認や会議室予約といった中長期的なサービス拡充を考える上でも、Microsoft 365 のさまざまなサービスと親和性が高い Azure はベストな選択肢でした」(田村 氏)。
日次入力率は 28.9 %から 86.5 %へ、週次入力率も 60.5 %から 92.3%へ劇的に改善
チャットボット導入プロジェクトでは 2018 年から 2021 年まで 3 年間かけて効果を検証しました。浜 氏によると「太陽アプローチ」の効果は絶大だったといいます。
「勤怠管理システムの入力率向上を第一の目標として取り組み、全社での本格的な勤怠チャットボット導入前後で大幅な改善が実現できました。日次入力率は大幅に向上し、勤務実態把握の情報精度が向上しています。具体的には、日次入力率は 28.9 %から 86.5 %になり、週次入力も 60.5 %から 92.3 %へと上昇しました。
もっとも、最初から入力率が向上したわけではありません。前日入力していない社員へのリマインダ機能の追加やそのリマインドを出すタイミングを社員の勤務状況を理解しながらチューニングするといった、小さな改善を積み上げて実現しました」(浜 氏)。
また、マイクロソフト製品をベースにユーザー体験改善のシステムを構築した効果について、宮本 氏はこう解説します。
「業務シーンとの親和性という観点で、Teams や Power Automate の活用は不可欠だったと感じています。普段業務で馴染みのない UI のサービスになってしまうと、このような高い利用率の実現は難しかったのではないかと思っています。日々の業務遂行と間接業務を照らし合わせて、自然なタイミング、自然な動線にこだわることが成功の要因ではないかと分析しています」(宮本 氏)。
システム開発では、技術的な課題に直面することもあったものの、その都度、マイクロソフトのサポートによって解決できたといいます。
「Spontena のエンジニアとマイクロソフトで定例会議を設けており、ドキュメントだけからは読み解けないケースに対して親身なサポートをいただくことができています。以前はドキュメントを探したり、社内だけで迷っていたケースもすぐにマイクロソフトに託すことができるようになり、開発スピードも上がったと感じています」(田村 氏)。
まさに、人事、業務推進、IT が三位一体で取り組みを推進したことが成功の大きな要因になっているのです。
顧客に寄り添い、コンプラアンス順守の観点からの DX 推進を支援していく
プロジェクトの成功を受けて、日立コンサルティングと Spontena は 2020 年 3 月、チャットボットが実現する高品質なユーザー体験と新たなビジネスモデルの創出に向けたパートナーシップを結びました。鈴木 氏は、提携の意図や今後について、こう述べます。
「勤務実態の把握や適切な勤怠情報入力、経費・交通費の都度精算など、コンプライアンス順守という観点では成果を残すことができました。一方で、コンプライアンスに関わる業務は多岐にわたるため、間接業務の DX 化は今後さらに加速する必要があります。これは当社だけではなく、社会的なニーズとして高まると想定しています」(鈴木 氏)。
日立コンサルティングと Spontena の提携は、今後高まる社会的なニーズに対応していく狙いがあります。宮本 氏もこう補足します。
「社内での効果は非常に高く、積極的にお客様に紹介すべき内容だと考えています。特に弊社ではコンプライアンスを重視しているため、登録率の向上やフォロー業務の自動化・省力化に役立っており、そのノウハウはお客様にも役立つはずです。これまで DX 戦略というと、トップラインを伸ばす施策や効率化の手段とするケースが多かったと思います。ただ、DX はそうした攻めの施策だけでなく、守りの施策も重要です。今後は、コンプライアンス観点で DX を進める企業も増えてくると考えています」(宮本 氏)。
DX 推進の社内インフラとしてマイクロソフト製品を活用している企業は少なくありません。日立コンサルティングと Spontena は、業務改善やトップライン延伸の施策に加え、コンプライアンス順守のための DX 施策を推進することで、企業の DX をトータルに支えていきます。また、両社の取り組みをマイクロソフトと Azure が引き続き支援していきます。
『ルールだから実施せよ』という北風と太陽の『北風アプローチ』では限界があったと考えています。そこで、従業員がどのようなモチベーションで間接業務を行うと業務負荷を抑えられるのかという『太陽アプローチ』で検討を進めたところ行きついたのが、今回の Spontena 導入だったのです。
―浜 洋行 氏:コーポレート運営統括本部 人事総務部 部長
株式会社日立コンサルティング
チャットボットは Teams 上で提供されており、裏側の BOT ネットワーク群もすべて Azure 上に構築されています。勤怠管理システムを開いて入力する必要がなく、普段利用しているスマートフォンと Teams アプリで完結するので、煩わしさが一切ないことがポイントです。
―田村 俊人 氏:DX推進部 UXデザイナー
株式会社Spontena
業務シーンとの親和性という観点で、Teams や Power Automate の活用は不可欠だったと感じています。日々の業務遂行と間接業務を照らし合わせて、自然なタイミング、自然な動線にこだわることが成功の要因ではないかと分析しています。
―宮本 潤 氏:デジタルイノベーションコンサルティング本部
ディレクター スマート勤怠導入プロジェクト
株式会社日立コンサルティング
Teams 上でチャットボットを提供することが決まったので、必然的に Azure 環境を採用することになりました。中長期的なサービス拡充を考える上でも、Microsoft 365 のさまざまなサービスと親和性が高い Azure はベストな選択肢でした。
―田村 俊人 氏:DX推進部 UXデザイナー
株式会社Spontena
これまで DX 戦略というと、トップラインを伸ばす施策や効率化の手段とするケースが多かったと思います。ただ、DX はそうした攻めの施策だけでなく、守りの施策も重要です。今後は、コンプライアンス観点で DX を進める企業も増えてくると考えています。
―宮本 潤 氏:デジタルイノベーションコンサルティング本部
ディレクター スマート勤怠導入プロジェクト
株式会社日立コンサルティング
[PR]提供:日本マイクロソフト