NTT グループの一員として、NTT の 研究所が開発した先進技術を活用したソリューションを展開している NTTテクノクロスでは、会計基準が新収益認識基準に変更されることを機に、レガシー化していたレポーティング環境の見直しを検討。基幹システム群のデータや Salesforce の顧客データをデータウェアハウス(DWH)に集約・可視化し、事業部単位で予実管理が行えるシステムの構築に着手します。そこで採用されたのは、エンタープライズデータウェアハウスとビッグデータ分析の機能を統合した Azure Synapse Analytics と、マイクロソフトが提供する Microsoft Azure と Microsoft 365 関連の製品・サービス群でした。

最先端の ICT 技術を扱う NTTテクノクロスが、事業状況の“見える化”に取り組んだ理由

最先端の光技術を活用して豊かな社会を創出する IOWN(アイオン:Innovative Optical and Wireless Network)構想を掲げるNTTグループ。その一員として NTT研究所の最先端技術を利用した ICT ソリューションを社会に提供している NTTテクノクロスは、IOWN 構想においても重要な役割を担っています。そんな同社では、数年前から基幹システムのレガシー化が課題となっており、2019 年から社内情報の見える化を軸としたモダナイズを検討。2021 年 4 月(以降の会計年度)から新収益認識基準が適用され、会計データ周りのシステムに改修が必要となったこともあり、データウェアハウス(DWH)の構築とレポーティング環境の刷新に着手しました。NTTテクノクロス クロステックセンター ICT部門 主幹エンジニアの斉藤 浩一 氏は、プロジェクトが始動した経緯をこう語ります。

  • NTTテクノクロス株式会社 クロステックセンター ICT部門 主幹エンジニア 斉藤 浩一 氏

    NTTテクノクロス株式会社 クロステックセンター ICT部門 主幹エンジニア 斉藤 浩一 氏

「NTTテクノクロスではデジタル・トランスフォーメーション(以下、DX)の一環として、以前より社内情報の見える化に取り組んでおり、それと併行して人的リソースや運用コストの削減を実現するため、社内システムのクラウド移行も検討してきました。そうした状況のなか、会計基準が新収益認識基準に変更されることで会計システムの刷新が必要となったことを機に、各基幹システムの情報を集約する DWH と、データから事業状況を可視化する分析システム構築の検討を開始しました。その際にはコストの最適化も視野に入れ、クラウドベンダーが提供している DWH サービスの利用を前提に、製品の選定を行いました」(斉藤 氏)。

NTTテクノクロス 経営企画部 経営推進部門 部門長の加藤 英弘 氏も本プロジェクトにおける中心メンバーの 1 人です。経営企画の立場からも事業状況を可視化できるシステムが必要だったと振り返ります。

  • NTTテクノクロス株式会社 経営企画部 経営推進部門 部門長 加藤 英弘 氏

    NTTテクノクロス株式会社 経営企画部 経営推進部門 部門長 加藤 英弘 氏

「事業計画を立案し、達成に向けた取り組みを推進していくにあたっては、事業状況の可視化が不可欠です。これまでは、基幹システムに入っているデータを Excel 形式で出力して手作業で可視化を行うという、あまりにもローテクな仕組みで業務を行っていました。これではリアルタイムの状況を確認できず、経営陣からの問い合わせに対しても、都度レポートを作成する必要があり生産的とはいえません。そこで ICT部門と相談しながら、基幹システムの情報を集約してリアルタイムに可視化するシステムの構築プロジェクトを進めていきました」(加藤 氏)。

クラウドの DWH サービスを選定するにあたっては複数のサービスが比較検討され、マイクロソフトのクラウドサービス Microsoft Azure(以下、Azure)上で提供されている Azure Synapse Analytics が採用されることになりました。斉藤 氏は採用の決め手として、スケーリングによるコスト削減効果が大きかったことを挙げます。

「データを集計・分析するようなシステムは、繁忙期とそうでない時期で使い方が変わってきます。全体的なコストを抑えるためには、年度末(繁忙期)にはスケールアウトし、閑散期にはスケールダウンしてコストを削減できることが重要です。Azure Synapse Analytics は他のクラウドベンダーのサービスと比較して、スケールを絞った際のコスト削減効果が大きくコスト面での優位性がありました。この点が、採用にあたっての大きな要因となります」(斉藤 氏)。

また NTTグループとマイクロソフトは、2019 年に新たなデジタルソリューションの実現に向けた戦略的提携に合意するなど密接な関係にあり、NTTテクノクロスでも Microsoft 365や Azure Active Directory(以下、Azure AD)といったマイクロソフト製品を利用しています。これらの製品との親和性が高かったことも Azure Synapse Analytics の大きなメリットだったと斉藤 氏。「弊社では Azure AD で認証を一元管理しており、Azure AD と連携して会計データにアクセスできる権限を容易に制御できることも Azure Synapse Analytics を採用した決め手の 1 つです」と説明します。

基幹システムや Salesforce のデータを Azure Synapse Analytics の DWH に集約

こうしてAzure Synapse Analytics の DWH を中心に、既存システムの会計データや Salesforce の顧客データを集約して分析・可視化するシステムの構築がスタートしました。2020 年 10 月には、次期システムを Azure Synapse Analytics で、という形で稟議の準備を進める一方で、マイクロソフトの支援を受けながら各種検証を実施。同年末にはマイクロソフトが実施したハンズオンに参加し、Azure Synapse Analytics の利用方法を確認していきました。

「テスト用のデータセットを用意した状態で、Azure Synapse Analytics をどう使うのかをハンズオンで確認させていただきました。PaaS 的なデータベースサービスを扱ったプロジェクトメンバーがほとんどいなかったこともあり、非常に助かりました。このハンズオンによって、その後のシステム構築がスムーズに進められたと思っています」(斉藤 氏)。

プロジェクトが始動したあとは、Microsoft Teams を利用してマイクロソフトと頻繁なディスカッションを行い、システム構成を設計していきました。そして実際の構築作業には、2021 年 4 月から着手したと斉藤 氏。「それ以前から、社内の会計データをまとめたデータソースからソリューションごとの売上推移のグラフを Microsoft Power BI で作成するという仕組みの試作を進めていました。そのデータソースを Azure Synapse Analytics に集約する仕組みの構築を 2021 年4 月から開始したという流れです」とシステム構築の経緯を語ります。

オンプレミス環境で稼働している基幹システムからは、オンプレミス上に構築した作業用サーバーを介してAzure 上のデータレイクに暗号化通信でデータをコピーする仕組みを構築し、Salesforce で管理している案件データもデータレイクに集約して Azure Synapse Analytics で集計・分析を実行。分析環境には、Azure Virtual Desktop(以下、AVD)の仮想マシンを使用しています。

  • システム構成図

    システム構成図

「マイクロソフトが公開しているアークテクチャのガイドを参照し、自社の環境に落とし込んでいきました。結果的には標準的なアーキテクチャを採用していると思います。また、システム構成を設計した当初はサーバーを 1 台立てて、そこに共用の分析環境を構築する予定でいたのですが、それではリソースが足りず、利用者に対して DaaS でリソースを割り当てる必要があることに気付きました。そこで急遽 AVD を導入したのですが、マイクロソフトのエンジニアが公開している技術 blog に詳細な情報が載っていたため、スムーズに進められました。費用を抑えるための工夫やノウハウも参照した結果、ランニングコストも抑えることができて助かっています」(斉藤 氏)。

既存システムの中には、直接データを吸い出せる“出入口”が用意されていないケースもあり、Web スクレイピングなどを利用してデータを収集するなどの工夫を施しながら、必要な情報を集約できる仕組みを構築していったといいます。また、データの品質を向上させることにも工夫が必要だったと斉藤 氏は振り返ります。

「収集する情報(数値)を必要とする人や、ビジネスの数値を作る事業部の担当者、さらにその数値を会計的に処理する経理の担当者がプロジェクト内にほとんどいないことが問題でした。この部分を疎かにしたままシステムを構築すると、必要なデータが揃わず根本的な部分で齟齬が生じる可能性があり、必要なデータを絞り込んで品質を上げるという工程にはかなり時間をかけました。当初の予定では 2021 年 6 月に本稼働の予定でしたが、それを 9 月まで伸ばし、品質の向上に努めました」(斉藤 氏)。

収集したデータを活用する側としてプロジェクトに参画している加藤 氏も、「さまざまな部署にいる関係者の力を借りてデータ品質を向上させる必要があり、定期的に関係者を集めた打ち合わせを実施しました」とデータ品質向上のための取り組みを語り、事業計画の立案や推進に活用するには、さらなるデータ品質の向上が必要になると現状の課題を分析しています。

社内におけるデータ活用のノウハウを蓄積し、顧客向けサービスへの適用を推進していく

こうして Azure Synapse Analytics を利用した DWH +分析システムは 2021 年 9 月にカットオーバーを迎えました。細かな不備の修正はあったものの、システム的に大きな問題は発生せず、現在は安定的な稼働を実現しています。斉藤 氏は、データレイクには社内で生成されるすべてのデータを毎日アップロードするバッチを動かしていると、現状のステータスを語ります。加藤 氏をはじめ経営企画部が作成したレポートには 200 弱のユーザーがアクセスしており、さらに定型的なレポートを Excel 形式で提供し、全社員が利用できるようにしています。

加藤 氏は、「これまでは必要なデータを各部署から集めて手作業で集計していましたが、本プロジェクトによって、リアルタイムの状況を関係者全員で共有できる環境を構築することができました。これが最大の成果だと思っています」と、プロジェクトの成果に手応えを感じています。実際、経営層をはじめ社内での評価は高く、特に経営管理におけるスピード感は大幅に改善されているといいます。

「これまで月に一度のペースで定例的に出していたレポートの内容を、毎日リアルタイムで確認できるようになりました。経営陣から『この件はどうなっている?』と聞かれ、慌ててレポートを作成するといった状況に陥る事態はなくなり、あとはデータの品質・精度をさらに向上すれば、できることの幅はさらに広がっていくと考えています」(加藤 氏)。

ICT部門では、今回のプロジェクトを NTTテクノクロスが推進する DX の足がかりであると捉えています。斉藤 氏は今後の展望として、DWH に集約するデータソースを増やし、データ活用の幅を広げていきたいと語ります。

「理想としては、自動処理でデータの収集・分析を行うシステムを目指しています。現在はプログラムが想定どおりに動かず一部のデータが入ってこないというケースもあり、手作業で対応している部分も多い状況ですが、将来的にはその辺りも自動化していきたいと思っています。また、ICT部門では今回のプロジェクトで見える化した会計関連の情報だけでなく、勤怠情報、施設の利用状況、物品情報などのデータソースも DWH に集約して、各部署のニーズに応えていきたいと考えています。今回のプロジェクトは、社内情報の一元管理とセキュアなアクセスを実現して社内の“データ活用”を促進するための足がかりとしても意味があると思います」(斉藤 氏)。

加藤 氏も、今回のプロジェクトで得たデータ活用のノウハウを社内で共有し、さらに将来的には事業部が提供している製品・サービスにも落とし込んでいければと力を込めます。

「データソースを増やすのはあくまでも手段に過ぎず、重要なのはデータをどう活用していくのかということです。現在は社内のデータをどのように活用していくかというステージですが、その先には、この仕組みを使ってお客様の課題を解決していくというステージに進んでいく必要があります。そのためには、まずは社内のデータ活用を推進してノウハウを蓄積して、お客様にサービスを提供する事業部のメンバーと共有していくことが求められてくると考えています」(加藤 氏)。

こうした将来的なビジョンを見据え、NTTテクノクロスではマイクロソフトとの協力体制を強化していきたいと考えています。実際、ICT部門では自社の事業部門とマイクロソフトを橋渡しする役割を担っており、自社の提供する技術とマイクロソフトの製品やサービスを組み合わせて、新たなソリューションを創出するための取り組みを推進しています。斉藤 氏は「Azure のようなプラットフォームをフル活用するソリューションを、マイクロソフトと弊社の事業部門との協業で作り上げていきたいと考えています」と、意気込みを語ります。

NTTテクノクロスとマイクロソフトの連携によって推進される、これからの時代に求められる“データ活用”のビジョンには、今後も注視を続けていく必要がありそうです。

[PR]提供:日本マイクロソフト