ビジネスが生みだす価値を IT の力によって最大化し続けたいと望む企業にとって、レガシーシステムのクラウドシフトは、避けられない課題です。オンプレミスで構築されたレガシーシステムをクラウドへと移行することで、システムの価値をハードウェアのライフサイクルから切り離し、主にハードウェアの運用保守に費やされていたコストを削減できます。合わせて、システムの開発や運用のスタイルを、最新のクラウド技術を活用したものに切り替えることで、IT によって生みだされる価値をさらに高めていくことが可能になります。

「チキンラーメン」「カップヌードル」をはじめとするインスタント食品の多彩なブランドで、1958 年の創業から 60 年以上、世界中の人々に親しまれている食品メーカーである日清食品グループも、IT システムによるビジネス価値の最大化を目指し、レガシーマイグレーション、クラウドシフトを急ピッチで進めています。そして 2019 年 9 月より、同社の基幹業務システムである「SAP ERP 6.0」の基盤をこれまでのオンプレミスから、マイクロソフトのクラウドサービスである Microsoft Azure へと移行し、稼働を開始しました。

「レガシー終了プロジェクト」でメインフレームの撤廃に成功

日清食品ホールディングス株式会社 情報企画部 係長 西村 太輔 氏

日清食品ホールディングス株式会社
情報企画部
係長
西村 太輔 氏

「これまでの事業や業務の移り変わりを背景に、グループ内にはサイロ化された多数の業務システムが林立していました。そして、メインフレームをはじめとして、そのほとんどがオンプレミスで運用されていました。運用保守にかかるサポートコストの負担増に加えて、システムのハード、OS、アプリケーションの EoS(サポート期限切れ)が常にどこかで発生している状況で、情報企画部ではその対応に追われていました」(西村 氏)。

そう話すのは、日清食品グループの持株会社である日清食品ホールディングス株式会社(以下、日清食品HD)で、情報企画部 係長を務める西村 太輔 氏です。この情報企画部では同社に加え、日清食品、日清食品冷凍、日清食品チルド、明星食品をはじめとする国内外の各事業会社のサポートを手がけています。

グループの戦略実現を将来にわたって支え続けられる IT システムのあり方を考えれば、サイロ化されたシステムの棚卸と集約、そして、さらに効率的な IT ライフサイクル管理が行える環境への変革は必要不可欠でした。同社では基幹システム を SAP へ移行するのと並行して、クラウド環境の利用を推進。実は SAP への移行後もメインフレームの業務機能が一部残っていたのですが、2015 年度に「レガシー終了プロジェクト」を開始し、本格的なシステムの統廃合とクラウド移行を進めました。

特に基幹系の業務システムについては、メインフレーム上で個別に作り込まれていたものの大部分を、独 SAP の基幹業務パッケージである「SAP ERP 6.0」にオンプレミスで集約。これにより、2016 年 12 月には、過去 40 年間にわたって使い続けてきたメインフレームの完全撤廃を実現しています。

OS や DB の EoS を視野に「SAP ERP」の Azure 移行を決断

今回、オンプレミスで構築した「SAP ERP 6.0」を Microsoft Azure の IaaS へ移行するという決断が下された背景には、システムの基盤となっていたハードウェア、OS、データベース(DB)、そしてアプリケーションである「SAP ERP 6.0」のサポート期限に関する問題がありました。

基幹システムのメインフレームから SAP ERP への移行は、大規模な工数を伴う難易度の高い作業になり、結果としてオンプレミスでの基盤構築から本格稼働までには 2 年以上の期間が掛かっていました。OS には Windows Server 2008、DB には SQL Server 2008 を採用していましたが、本格稼働から 2 年が経過した 2017 年度の段階で、2~3 年後にサポート切れが迫っていたのです。加えてサーバハードウェアについてはサポートを延長したとしても、同時期に EoS となることが見えていました。

「SAP ERP 6.0 については、当時 2025 年にサポートを終了するとアナウンスされていました(現在は 2027 年まで延長)。このシステムを、アプリケーション側の保守期限が終了するまで使い続けるには、先がけて期限を迎えてしまう OS、DB、ハードといった基盤を更新する必要があったのです。もちろん移行先の基盤については、より低コストで導入できることが条件でした」(西村 氏)。

オンプレミスで稼働していた基幹システムは、さらにいくつかの課題も抱えていました。中でも、ユーザーの業務に最も悪影響を与えていたのは、同社が独自に作り込んでいた「BI システム」にまつわるパフォーマンスの問題です。このシステムは、基幹システムと連携し、分析に必要なデータを抽出、加工して、ユーザーに提供するものでしたが、日中の応答性が悪く、30 分から 1 時間のシステム停止が頻繁に発生していました。

そのほかにも、夜間処理の長時間化による翌朝の業務への影響、データ増による災害復旧(DR)作業の長時間化といった、業務へのインパクトが大きい問題に加え、オンプレミスの運用保守にかかるサポートコストの負担も増していました。同社では基盤のクラウドへの移行にあたり、これらの課題についても解決したいと考えていました。

「オンプレミスの基盤には、Windows Server や SQL Server といったマイクロソフトの製品を使っていました。クラウドに Microsoft Azure を選択することで、既存環境と親和性が高かったことに加え、同じタイミングでユニファイドサポートも契約したため、サポートの受けやすさもあって、スムーズな移行が可能になるのではないかと期待をしました。そして、当社では別途 Microsoft 365 も導入しており、将来的に Microsoft 365 と Microsoft Azure の連携による発展も考えやすくなるのではないかと見込みました」(西村 氏)。

クラウドへの移行と並行してシステムと業務の課題に対処

アビームコンサルティング株式会社 デジタルテクノロジービジネスユニット ITMSセクター シニアマネージャー 山口 昭 氏

アビームコンサルティング株式会社
デジタルテクノロジービジネスユニット
ITMSセクター シニアマネージャー
山口 昭 氏

SAP ERP のオンプレミスから Microsoft Azure(IaaS)への移行プロジェクトは、事前の準備や方針策定などを経て、2018 年 11 月に本格的にスタート。同社では移行に先がけて、マイクロソフトのユニファイドサポートによる「アーキテクチャデザインセッション」を受け、要件に合った構成の作り方、機能の使い方などをイメージしていったといいます。

「このセッションは、私たちが考える機能要件、非機能要件を提示すると、それを Microsoft Azure で実現するためのアーキテクチャデザインや機能の使い方について、マイクロソフトの担当者が回答してくれるというものです。今回はプロジェクトの開始時と、ある程度構築が進んだ時点の 2 回、その場を設けてもらいました。セッションを通じて、Microsoft Azure に関する知見を得られ、どのように移行を進めればいいのかの道筋を明確にイメージすることができました」(西村 氏)。

SAP ERP の基盤を切り替えるにあたっては、ユーザーへの負担や連携している周辺システムへの影響を限りなくゼロに近づけることを目標としていました。2 回にわたるリハーサルを通じて移行プロセスを検討し、2019 年 9 月に、Microsoft Azure 上での本格稼働が開始。オンプレミスから IaaS への移行によって、基盤の維持管理にかかるコストは、年間で 20%近くも削減されたといいます。

合わせて同社では、前出の BI システムのパフォーマンス問題、夜間処理や DR 作業の長時間化といった課題も解決していきました。今回のプロジェクトには、パートナーとしてアビームコンサルティング株式会社(以下、アビーム)が参画しています。

アビームは、今回移行対象となっていた SAP ERP、BI 等の基幹システム群の保守・運用業務を 2015 年から担当し、Real Partner として日清食品HD の業務改善や IT 業務を支援しています。

プロジェクトマネージャを務めたアビームのデジタルテクノロジービジネスユニットITMSセクター シニアマネージャーの山口 昭 氏は「クラウド移行を安全に低影響で行うことを必須のミッションとして、移行のメリットをどれだけ生むことができるかに意識を向けました」と話します。

「SAP ERP の Azure 移行については、日清食品HD の求める要件と Azure の機能がマッチしたことや、上述の『アーキテクチャデザインセッション』で、To Be 像の理解を 3 社で深められたこともあり、終始スムーズに進めることができました。その分、従来からのシステム課題の改善に注力しながら、Azure への移行を進めてきました」(山口 氏)。

従来のシステムで大きな課題となっていた BI システムの可用性について、日清食品HD とアビームの両社で協力して改善に取り組みました。

まず、BI システムが提供するレポートについて、業務要件を再整理しました。そして、利用頻度や類似性に応じて削減や集約を行った結果、レポートの数は 37%にまで減少。そのおかげで、メンテナンス効率が向上しました。さらに、レポートが減少したことで日次更新の対象も減り、定常的な処理のスケジュールも見直すことができました。

これにより処理の負荷が減ったことで、可用性の問題の原因も明らかになりました。その結果、レポートの更新タイミングを変更したり、プログラム改善を行って処理の効率を上げたり、CPU/メモリなどのリソースの割り当てを調整するなど、有効な対策を打つことができました。

そして運用開始後は、クラウドの特性を活かし、処理の繁忙期・閑散期に合わせて柔軟にシステムリソースを増減させることで、パフォーマンスを最適化するといった対応も実施しています。

「繁忙期の一時的なリソース増強だけではなく、適切なサーバサイズを決定するうえでも、Azure は有効でした。サーバリソースをどんなバランスで持つべきなのか、また、発揮されるパフォーマンスがコストに見合うのかについて、本番環境のデータを用いて繰り返しテストを実行し、多くのパターンを試すことができました」(山口 氏)。

従来のシステムで大きな課題となっていた DR 環境についても、Azure 移行によって大きな成果が得られています。

「オンプレミス環境ではハードウェアを二重に持つ必要があったのですが、Microsoft Azure へ移行したことで、その必要はなくなりました。また、従来のシステムでは約 50 時間にまで達していた DR 所要時間を、約 5 時間まで短縮できたほか、DR 実施時の関係者を集約し、手順も簡素化するなど、シンプルな環境に変更することができました」(西村 氏)。

同社とアビームでは、システムに加えて DR の実施体制も東日本と西日本の拠点で二重化を進めており、万が一、どちらかの拠点が大規模な災害で一時的に稼働不能になった場合でも、事業を継続できる環境を構築しています。

「いつでも、どこでも」業務ができる環境づくりに Azure の活用を検討

日清食品HD では、SAP ERP をオンプレミスから Microsoft Azure へと移行したことで「目標としていたサービスレベルの向上と運用管理コストの低減を実現できた」と評価しています。今後については Microsoft Azure の特性を評価しつつ、PaaS、SaaS の活用についても検討していきたいとしています。

「オンプレミスからの脱却と並行して、複数の課題を解決できたことで、既に移行による効果が出ています。今後は SAP ERP のサポート切れを視野に入れた SAP S/4HANA の検討はもちろんのこと、より広い、日清食品グループ全体のシステムロードマップに基づいて、活用範囲の拡大や運用方法の洗練なども進め、クラウドのメリットを最大化していきたいと考えています」(西村 氏)。

同社の情報企画部では、現在「いつでも、どこでも」をスローガンに掲げ、スマートフォンやタブレットを含むモバイル環境で、ユーザーが快適かつ安全に業務を進められる環境づくりを進めています。Web ブラウザやモバイルデバイスを通じて、日本国内だけでなく海外拠点のユーザーであっても、効率的に仕事ができる環境を作っていくという目標の実現にあたり、Microsoft 365 や Microsoft Teams をはじめ、IT トレンドに合わせて迅速に機能が強化されていく Microsoft Azure のサービス群に注目していきたいと、西村 氏は期待を寄せました。

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