少子高齢化に伴う働き手不足が深刻化する中、企業・組織は限られた人的リソースで事業を進めることを迫られている。そのため業務プロセスの見直しによる効率化と生産性の向上は必須の取り組みとなるが、そこで注目されているのが「生成AI」の活用である。
生成AIは既に多くの企業・組織が導入している状況ではあるものの、その活用を前提とした企業文化の醸成に成功したというケースは、実はまだ少ない。部分導入の試用段階から抜け出せず、期待していた効果を得られていない企業は珍しくないのだ。
本稿ではそうした企業に向けて、生成AIの全社展開、すなわち誰もが生成AIを活用できる領域に達するためのアプローチを明らかにしていく。
生成AIを導入した企業は、期待通りの効果を得られているのか
生成AIはビジネスへ一気に浸透し、業種や規模を問わず、さまざまな企業にとって業務に使うのが当たり前の技術と見なされるようになった。日立ソリューションズが2025年1月に行った調査では、78%の企業が生成AIを導入済み、もしくは導入を検討中と回答しており、グローバルと同様に日本国内でもその重要性は認知されている。とはいえ生成AIを導入した企業すべてが、期待通りの効果を得られているわけではない。同調査によると、全社活用を推進し、業務プロセスの改革やサービスの高度化(新たなビジネスの創出)を実現した企業は約3割だという。残りの約7割は部分導入に留まっており、効果的なユースケースや定着化を模索している状況なのだ。
生成AIの技術は爆発的な速度で進化を続けており、日々、新しい技術やツール、言語モデルが生まれている。最新のトレンドに追随していくだけでも大変な労力が求められることから、企業が内製で対応していくのは困難なミッションといえる。社内のAIに対する認識やスキルも人ぞれぞれで、積極的に利用して日常的な業務の効率化を図る社員がいる一方、既存の業務スタイルにこだわり、AI導入に忌避感を抱く社員も少なくない。多くの企業が個々のマインドやスキルに依存した部分的な導入に留まっているのが現状といえる。
日立ソリューションズ スマートワークビジネス戦略部 ビジネス戦略グループ エバンジェリストの小林 大輔氏は、国内企業における生成AIの活用状況について、次のように語る。
「生成AIを導入した、または導入を検討している企業は加速度的に増加しており、現在では、78%の企業が何かしらの取り組みを進めている状況と捉えています。ただし、活用段階は企業によって異なり、昨今のトレンドといえるAIエージェントを活用して、より業務の深いところに生成AIを適用している企業もあれば、"少し賢い検索エンジン"的な使い方しかしていない企業も珍しくありません」(小林氏)
日立ソリューションズでは、生成AIの活用段階を「試用」「全社活用」「業務プロセス変革」「サービスの高度化」の4つのフェーズに分類している。小林氏は、汎用的な生成AI活用環境を一部の組織に部分導入した「試用」フェーズから、全社的に生成AIの活用を押し進める「全社活用」フェーズへと移行できずに悩んでいる企業が多いと、市場を分析している。「プロンプトを使いこなして、自身の業務に役立てているという社員は限られており、全社展開を進めるには、効果的なユースケースと誰でも生成AIを活用できる環境が必要です」と話を続ける。
10年以上、AIソリューションの提供に携わっているビジネスコラボレーション部 第3グループ ユニットリーダの西村 涼氏も、「そもそもどの業務にどのような生成AIツールを適用すればよいのか分からないという企業から、一部では活用できているが全社展開にあたって社内の理解が得られる有用なユースケースが見つからないという企業まで、課題感はさまざまです」と、段階ごとの課題があると捉えている。業務に特化した生成AIの開発・導入が求められる「サービスの高度化」フェーズに至るまでには、課題が山積しているというのだ。
「Alli LLM App Market」を用いて、生成AIの全社展開を自ら実践
こうした生成AI市場の動向を踏まえ、日立ソリューションズは生成AIの全社展開を支援するコンサルティングを行っている。そのベースとなったのは、同社が協業しているAllganize社の生成AI・LLM(大規模言語モデル)プラットフォーム「Alli LLM App Market」を用いた自社導入の取り組みだ。
日立ソリューションズが生成AIの全社展開を進めた背景について、「Alli LLM App Market」の販売を担当し、本プロジェクトにおいてもアプリケーション(以降、アプリ)作成や問い合わせ支援など技術サポートの取りまとめを担った、ビジネスコラボレーション部 第1グループ 技師の辻 博人氏はこう話す。
「生成AIの全社活用を実現するには、誰もが簡単かつ効果的に生成AIを使えるような仕組みが必要になります。当社では、以前よりビジネスに生成AIがもたらすメリットの大きさを認識しており、自社業務の効率化と、AIソリューション事業の展開という2つを目的として、自社導入プロジェクトを始動しました。2024年には専門部署を立ち上げ、全社的な生成AI活用の取り組みを推進しています」(辻氏)
既に一部の部署では生成AIの活用が進んでいた日立ソリューションズでは、全社展開にあたり間接部門が抱える業務課題に着目したという。工数がかかっていた社内の問い合わせ対応に、生成AIのチャットボットを適用するところから取り組みを開始した。
辻氏は、本プロジェクトで「Alli LLM App Market」が採用された理由について言及する。
「高精度なRAGを搭載したLLMアプリをパッケージングし、さらにオリジナルのアプリもノーコードで作成できる手軽さが採用を決めた要因の一つです。『Alli LLM App Market』を導入することにより、社員それぞれで異なるAIに対する理解度の差を吸収し、生成AIを普段から利用している人、使い慣れていない人のどちらも効果的な活用ができる仕組みを提供できると考えたのです」(辻氏)
もともとチャットボットをアプリの1つとして実装していた「Alli LLM App Market」は、間接部門の問い合わせ対応への適用が容易だったと辻氏は語る。「社内にあるマニュアルやFAQのデータを簡単に取り入れて、回答精度の向上を図れることも見逃せないポイントでした」と、社内のナレッジを活用しやすい「Alli LLM App Market」のメリットを説明する。
導入決定から約3カ月という短期間で、約5,000人に及ぶ全社員が生成AIを活用できる環境が構築され、問い合わせ対応業務の効率化を皮切りに、事業部門を含めさまざまな業務で生成AIの活用が促進された。社内の生成AI利用率は約30%から約50%へと増加したと辻氏は語り、「現在の利用率はさらに高くなっていると思います」と手応えを口にする。
間接部門の問い合わせ対応業務に関しては、チャットボットの導入により、人手による対応件数が約30%削減した。利用者からも評価する声が高まっており、自部署の業務への導入を検討する動きも出てきており、 “誰もが生成AIを活用できる”環境が実現された。
日立ソリューションズが全社展開を成功させた"運用の工夫"とは
日立ソリューションズが生成AIの全社展開を実現できたのは、「Alli LLM App Market」を導入したからだけではない。社内での運用において独自の工夫を重ねたことも、全社適用の成功を後押しした。
その工夫は、大きく3つに整理できる。
1. 全社展開のための課題整理と推進方針の策定
生成AIの活用を一部の部署にとどめず、全社に広げるためには、利用のハードルを下げる環境づくりが不可欠だった。日立ソリューションズでは、定着化までを見据えた推進方針を策定し、誰でも手軽に使える仕組みを整備した。
2. 生成AIを活用する文化の醸成に向けた情報発信
社員の苦手意識を払拭するため、基本的な使い方やおすすめアプリを紹介する動画を作成。生成AIが「特別な人だけのツール」ではなく、「誰でも使える便利な道具」であるという認識を社内に広めた。
3. 運用体制の構築と社内コミュニティの形成
生成AIの活用をナビゲートする運用チームを構成し、利用促進と定着化を支援。アプリの追加要望を受け付ける社内コミュニティを立ち上げ、現場の声を反映しながら全社展開を推進した。
辻氏は「生成AIを全社で活用するには、"すぐに使える" "すぐに効果が出る"という体験を提供することが重要です。プロンプトの知識がなくても、簡単な操作で成果が得られる環境を整えることで、社員の活用意欲が高まりました」と運用のポイントを語る。
さまざまなフェーズの課題を解決する「生成AI適用コンサルティング」
こうした自社での成功体験と運用ノウハウをもとに、日立ソリューションズは企業の生成AI活用を支援する「生成AI適用コンサルティング」を行っている。西村氏は「3つのメニューでさまざまなフェーズの課題に応えています」と、本コンサルティングの特長を説明する。
「とにかく使い始めたいという企業から、全社で活用したいという企業、さらに特定業務を生成AIで改善したいという企業まで、さまざまなニーズに応えるためのコンサルティングを行っています。自社導入を含めた豊富なAIシステムの導入実績と、2017年からAIビジネスに取り組んできた知見・技術を惜しみなく投入しました。SIerとしての経験を生かし、企業のニーズに合わせた環境の構築と運用、既存システムとの連携までを幅広くサポートします」(西村氏)
用意しているメニューは「適用業務検討コンサルティング」「全社展開支援コンサルティング」「特定業務高度化コンサルティング」の3つで、フェーズに応じて選択したり、段階的にすべてのメニューを利用したりできるなど、柔軟な対応が可能だ。
「①適用業務検討コンサルティング」では業務課題の洗い出しから適用業務の選定、プロトタイプによる効果の測定を行う。「②全社展開支援コンサルティング」は先述の日立ソリューションズにおける運用の成功事例をもとにしており、全社的な展開や生成AIの利用を当たり前とする企業文化の醸成を図る。さらに「③特定業務高度化コンサルティング」で特定業務に対する生成AIのインプロセス化(業務プロセスの中で生成AIを活用できるようにすること)を推進し、業務プロセス改革とサービスの高度化を実現するといったアプローチで、生成AIの活用を進められる。
もちろん状況に応じて個別に導入することも可能で、実際、設備操作に関する問い合わせ対応業務に課題を抱えていた電機メーカーが、「特定業務高度化コンサルティング」を利用してAIチャットボットによるデジタル化を実現したという成功事例も生まれているとのことだ。
生成AI適用コンサルティングの企画段階から携わっている小林氏は、「生成AI活用の定着化に悩んでいる企業に好適な『全社展開支援コンサルティング』を中心に、それ以前の段階にいる企業向け、及びRAGやAIエージェントなどの新しい技術を活用して業務の高度化を図りたい企業向けのメニューを用意しています」とメニュー構成を説明する。プラットフォームとして採用している「Alli LLM App Market」についても「最新の生成AIやLLM、関連する新しい技術をスピーディーに活用したいという企業のニーズに応えられます」と、そのメリットについて言及する。
日立ソリューションズでは、用意したメニュー構成にこだわらず、企業のニーズに合わせて柔軟に対応し、ソリューションを提供していくという。小林氏は、生成AIの活用に課題を抱える企業に向けてメッセージを送る。
「もはや生成AIの活用は、パソコンが使える、メールが使えるといったレベルで、企業・組織全体にとって必須の取り組みといえます。全社展開の道筋がつけられずに悩んでいる企業はもちろん、生成AIの活用で困りごとを抱えているのならば、ぜひ気軽にご相談いただければと思っています」(小林氏)
[PR]提供:日立ソリューションズ