空前の生成AIブームを経て、ビジネスにおけるAI活用は新たなステージに足を踏み入れている。AI有りきの業務変革に取り組む企業・組織は増加傾向にあり、パフォーマンスはもちろん、コスト・可用性・セキュリティといった要素を加味してAI開発基盤の最適化を図る動きは加速している。
「オープンなハイブリッドクラウド」「ビジネスのためのAI」という戦略を掲げ、企業のAI活用を支援するソリューションを提供し続けるIBMでは、2025年3月31日~4月1日に開催したイベント「Intel Vision 2025」において、同社が運営するクラウドサービス「IBM Cloud」上で「インテル Gaudi 3 AI アクセラレーター」の利用が可能になったことを発表。GPUを前提としたAI開発基盤に新たな選択肢を提供し、インテルとの協業により多様化するエンタープライズAIのニーズに応えるソリューションの拡充を図っている。
本稿では、日本アイ・ビー・エム株式会社 テクノロジー事業本部 クラウドプラットフォーム事業部の森 大輔氏と青野 めい氏、インテル株式会社 マーケティング本部 の近藤 太郎氏に話を伺い、IBM Cloud上でインテル Gaudi 3 AI アクセラレーターの提供を開始した経緯と目的、導入のメリットについて紐解いていく。
ビジネスにおけるAI活用は新たなステージへ進み、AI開発環境への要望も変化
パフォーマンスと信頼性、セキュリティーを担保し、ミッションクリティカルな基幹業務システムの運用にも対応するクラウドサービス「IBM Cloud」を中心に、ビジネスのためのAIプラットフォーム「IBM watsonx」や「Red Hat OpenShift AI」などAI開発に必要なソリューションを展開するIBM。日本国内においても業界資格を有するコンサルタントが5,000人を超え、高度なAIスキルを有するスペシャリストは約700人を擁するなど、AIを用いた企業の業務変革を全方位で支援している。主にアーキテクトとして、既存環境を踏まえつつ最新のクラウド/AI技術を取り入れたシステムのデザイン・提案を行ってきたテクノロジー事業本部 クラウドプラットフォーム事業部の森氏は、同社の強みについて次のように語る。
「IBMは“世界をより良く変えていく「カタリスト(触媒)」になる”というミッションを掲げ、オンプレミス環境との親和性も考慮したオープンなハイブリッドクラウドや、単にAIを業務に適用するのではなく、AIを前提として業務を再構築する“AIファースト”のアプローチで企業を支援しています。上流のコンサルティングからアプリケーション、プラットフォーム、インフラストラクチャーまでをワンストップで提供できることが、他のベンダーにはない強みと捉えています。」(森氏)
オープンなハイブリッドクラウドを戦略に掲げる同社では、特定のベンダーにロックインしない環境の提供を目指している。「お客様が運用しているオンプレミスの業務システムを、シームレスに最適な形でクラウド上に配置できるソリューションを展開しています」と森氏は語り、ベンダーロックインされない形でモダナイゼーションやイノベーションの実現を支援していると説明する。
こうしたIBMのアプローチは、近年のAI開発基盤に対するニーズにマッチしている。IaaSやAIの分野で同社の最新技術動向やIBM Cloudの新機能といった情報発信に取り組んでいるクラウドプラットフォーム テクニカルセールスの青野氏は、AIのビジネス活用におけるトレンド・最新動向について話を展開する。
「生成AIがビジネストレンドとなってしばらく経ちますが、とにかく取り入れて何ができるのか模索する、いわゆるPoCのフェーズは終わりを告げました。現在は、たとえばチャットボットに画像を読み込ませて回答精度を上げるといった、具体的な活用を推進するフェーズに入っていると考えています。このため、AIモデル開発のライフサイクルでみると、新しいモデルを作る学習だけでなく、推論を行う部分の需要も高まっています。また当社でも取り組んでいますが、特定の業界や業務に特化した専用のAIモデルを作るという流れが加速しており、特化型モデルを作るためのファインチューニングに関してもニーズが増えていると感じています。」(青野氏)
こうした状況を踏まえ、インフラ面でのニーズにも変化が見られると青野氏。「これまではGPU中心に、学習から推論までを行うのが一般的でしたが、推論の需要が高まるにつれて、コストパフォーマンスを考えてGPU以外の選択肢を求める企業も増えてきました」と現状を分析する。森氏も「トランザクションに応じて課金されることを考えると、AIアプリケーションの利用拡大に伴い、コストの最適化が求められてくるのは必然的です。」とAI活用における課題に言及する。
コストパフォーマンスに優れたGaudi 3は、需要が高まる推論・ファインチューニングの領域に最適
こうした課題が顕在化するなか、IBMとインテルは、IBM Cloud上でインテル Gaudi 3 AIアクセラレーター(以下Gaudi 3)の提供を開始したことを発表した。Gaudi 3は、Tensorプロセッサー・コア(TPC)と行列乗算エンジン(MME)を実装し、ディープ・ニューラル・ネットワーク(DNN)の演算処理を加速させる。このAIアクセラレーターは、大規模生成AI向けに最適化されており、コストを抑えながら高性能GPUと同等の推論処理を実行できる。インテルの近藤氏はGaudi 3を「エンタープライズAI向けの優れた選択肢」と説明する。
「青野さんが話されたように、現在のAIインフラはGPU有りきのイメージがありますが、GPUは価格の高騰をはじめ、入手性の問題、消費電力・発熱の問題と課題は山積です。Gaudi 3は、こうしたGPUの課題を解決する特徴を備えています。コストパフォーマンスに優れているのはもちろん、消費電力の面でもGPUと比べてアドバンテージがあります。先ほどから話が出ているように、昨今需要が高まっている推論処理やチューニングといった領域では十分なパフォーマンスを発揮でき、学習はGPU、推論処理はGaudi 3といった使い分けも有効と考えています。」(近藤氏)
IBMも、こうしたGaudi 3の特徴を高く評価しており、企業それぞれのニーズに応えるエンタープライズAIの選択肢として採用。IBM Cloud VPC(仮想プライベートクラウド)環境においてGaudi 3を活用したスタンドアロン・サーバーの提供を開始した。
「Gaudi 3が非常にコストパフォーマンスに優れた計算資源であることは理解しており、お客様により多くの選択肢を提供したいという目的で採用を決定しました。私たちはグローバルのクラウドベンダーでGaudi 3を採用した最初のベンダーとなります。VPCの仮想サーバーでGaudi 3が選択可能になったことを皮切りに、マネージド型コンテナ基盤を活用したいお客様向けにはRed Hat OpenShift AIクラスターで提供、ビジネスのためのAIプラットフォームのwatsonxはソフトウェア版ではすでに対応し、IBM Cloud上のSaaS版も近日対応する予定です。」(青野氏)
現状はワシントンD.C、フランクフルト、ダラスの3リージョンでの提供となっており、グローバルではすでに導入し、確かな効果を得られたという企業の事例も出てきている。森氏は、IBM Cloud上でGaudi 3を導入するメリットについて、実際のベンチマーク結果を踏まえて説明する。
「前述したように、AI開発のライフサイクルにおいて、今後は推論やチューニングの需要が増えていくと考えており、大規模な言語モデルを作るハイスペックな環境と、コストを抑えながら数多くの推論処理を行える環境を適材適所で使い分けることが重要と捉えています。Gaudi 3は後者の選択肢として非常に魅力的です。IBM Cloud上で提供され、as a Serviceの形で利用できることを評価する企業も多く、すでにグローバルにビジネスを展開されている保険会社様が株式や債券などクロスアセット投資のトレンド分析をAIで行うため、IBM Cloud×Gaudi 3を導入。8並列のGPUと同等のパフォーマンスを半分のコストで実現できたというベンチマーク結果も出ています。もちろん、大規模言語モデルの学習などではGPUが優位なケースも多いですが、推論処理ではGPUと比べて約2倍のコストパフォーマンスが期待できます。また、当社が提供する基盤モデル「Granite-8b」でベンチマークを取ったところ、シングルカードで1秒間に5,000トークンの処理が実行できるという結果が得られており、100名のユーザーが同時に使っても十分なAI推論処理能力があることが確認できています。」(森氏)
また、IBM Cloudで採用しているインテル Xeonプロセッサとの親和性も見逃せないメリットと森氏。IBM Cloud×Gaudi 3の有用性は高いと手応えを口にする。
AI技術の業務利用に必要な要素を網羅した「IBM Cloud×Gaudi 3」がAI市場を牽引する
IBMとインテルでは、今後も協業しながらIBM Cloud×Gaudi 3の組み合わせで企業のニーズに応えていくという。Red Hat OpenShift AIクラスター、及びwatsonx SaaS版での提供は2025年第2四半期より開始する予定だ。
「現在、国内リージョンでの提供も前向きに検討しています。今後もIBM Cloud並びにGaudi 3の最新情報をさまざまな形で発信して行きたいと思います。」と青野氏は今後の展望を語る。
森氏も「AIに関しては、本当にさまざまなお客様からお声がけいただいており、2024年の実績では400以上のお客様との実証プロジェクトがあり、そのプロジェクト数は増加傾向にあります」と、国内のAI活用における機運の高まりを語り、インテルとのパートナーシップを強化し、IBM CloudとGaudi 3の組み合わせで多様なニーズに応えて行きたいと力を込める。
「AI活用は持ったなしの状況で、活用シーンは加速度的に増えていくと思います。AI活用が本格化すると、データの機密性やシステムの信頼性も重要になり、今後はコスト・可用性・セキュリティーを意識して取り組んでいく必要があると考えています。その意味でも、IBM CloudとGaudi 3の組み合わせは非常に魅力的な選択肢になると思います。」(森氏)
コンサルティングからインフラ、プラットフォームまで、AI開発環境の構築・運用をワンストップで支援するIBMと、コストパフォーマンスに優れながら高性能なAIアクセラレーターであるGaudi 3を提供するインテル。両社の協業により生まれる先進的なソリューションには、今後も注視していく必要があるだろう。
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