2024年12月11日、12日の2日間にかけて、オンラインイベント「TECH+フォーラム 製造業DX 2024 Dec. ありたい姿に向かうための次なる一手」が開催された。その2日目、ローコード開発プラットフォーム「Mendix」を提供するシーメンスのMendixシニアマーケティングマネージャー 東田 巌秀氏が「製造DXを加速するローコードの力:現場ですぐに活かせる実践アプローチ」のタイトルでセッションを行った。セッションにはシーメンスのパートナー企業であるマクニカ及びアルネッツの担当者も登場し、ローコード開発で期待できる製造DXへの効果、実践方法と導入事例、開発・内製化支援に関する説明が行われた。
製造DXの課題解決にローコード開発がもたらす価値とは
東田氏は、まず製造DXに向けた課題から解説を始めた。主要先進7カ国における製造業の労働生産性に関する推移のグラフ(2000〜2021年、日本生産性本部推計)を提示し、「日本は年率平均でドイツやフランスと同程度の1.5%の成長を遂げており、“失われた20年、30年”にあっても、こと製造業では生産性の伸びは負けていません。日本の製造業もまだまだDXの余地があります」と語った。
続いて東田氏は、製造DXとはなにかについて、ChatGPTに「日本における製造業DXの定義、目的、課題を教えてください」と尋ねた回答を引用し、製造DXはデジタル技術を活用して生産性・効率性を高め、新たな価値を提供する製品・サービスを生み出すことだと定義。
そのうえで、品質向上とコスト削減の両立や顧客ニーズに応じた製品の迅速提供による競争力強化、現場の自動化・最適化や設備稼働率向上による生産性向上、新規ビジネスモデル創出、環境負荷低減やESG対応といった製造DXの目的こそ、Mendixが得意とする領域であると話した。
さらに製造DXの課題として、DX推進人材や教育体制の不足、ROIの不確実性、レガシーシステムとの連携やサイロ化したデータの統合、セキュリティリスク、組織文化変革などを挙げ、「こうした課題にMendixによるローコード開発で立ち向かう、それがDXへのアクションです」と力を込めた。
注目のプラットフォーム Mendix導入で成果を上げた事例
企業ではERP、オフィス製品、CRMをはじめさまざまなコアシステムが個別に使われている。全社レベルのDXを実践する場合においては各システムの相互連携とデータインプット・アウトプットが必要になるとして、「その際は各システムの拡張機能を用いるパターンが多いものの、それぞれに異なる機能を使って接続するのは現実的ではありません」と東田氏は指摘する。
これに対し、Mendixの1つのレイヤーを通じて各システムがコミュニケーションを行う、つまりMendixでエンドユーザーが使いやすいUI/UXを持ったアプリケーションを作り、データ統合を実現することを提案した。
東田氏は各コアシステムの中で、PLM(製品ライフサイクル管理)市場のリーダーとして知られるシーメンスの「Teamcenter」とMendixを組み合わせた場合のメリットに言及し、2つの事例を紹介した。
1つ目は輸送機器等のメーカーであるCNHインダストリアル(CNHI)の事例だ。東田氏はMendix導入前・後の画面を示し、次のように説明した。
「Mendixの利用前は、ある部品の詳細情報を得ようとした場合、BOM、図面管理、Teamcenterの3つのシステムを使う必要がありました。Mendix導入後は、1つの画面でそれらの情報を統合して見られるようになり、システムクリック数が85%減、従業員の作業時間も半減しました。何よりもユーザーにとって見やすいアプリになったことで、多くの支持を得たと聞いています」(東田氏)
2つ目の事例は、米国のレーシングチーム、チーム・ペンスキー。同チームは年間36回のレースに参加し、車両に関連する多くの情報を構築・更新していた。以前はそれらのデータ管理をすべてExcelで行っており、膨大な作業が発生していた。これがMendix導入により、パーツの在庫情報などへ迅速にアクセスできるようになったという。しかもデプロイまではわずか2カ月で、調整や修正にエンジニアが関わることなく実現したという。
Mendixの魅力とデータ統合でのアドバンテージ
後半はシーメンスのパートナー企業であるマクニカの芳賀 妙孝氏、アルネッツの国吉 健一氏が登場し、「Mendixで実現する製造DXの加速化」をテーマに語られた。
最初に国吉氏がMendixについて、コードを書かずビジュアルに、ドラッグ&ドロップでアプリを開発できるクラウドベースのプラットフォームであると説明。
次に芳賀氏によって、とある顧客の事例が紹介された。新商品開発における企画から出荷までの進捗管理や製造工程の指示書発行など、それまでExcelや手作業で行っていた業務をMendixで効率化し、業務スピードアップや品質向上を図っているという。「Excelの作業をアプリ化できるだけでなく、さまざまなシステムにつなげることも得意なため、製造現場で使われる多種多様なシステムをつなげての業務効率化にも役立てられます」とMendixの強みを解説した。
さらに芳賀氏は、Mendixを用いた内製化についても自社の事例を紹介した。
「以前は営業担当にお客さまから納期確認の連絡がくると、営業はERPへのアクセス権限を持っていないため、権限のある製品担当に問い合わせていました。そのためスムーズにいっても15分程度の時間を要し、情報を得てからもExcelで情報を加工しなければならないので、回答までにかなりの時間がかかっていました。それがMendixで納期回答用アプリを開発することで、営業担当がアプリにアクセスし、ワンクリックで納期情報を得られるようになりました」(芳賀氏)
芳賀氏によると、製造業の最近のトレンドとしてデータ連携が注目され、PLMなどのパッケージを導入する企業が増えているという。しかしPLMは複雑であるため、MendixのアプリでBOMの定義や管理を行ったり、営業部門が開発スケジュールや生産管理情報を見たり、あるいは品質検査やカスタマーポータル制作などを行うケースも多いとのことだ。
「必要なアプリの制作をIT部門に依頼しても、ほかの業務で手一杯で対応が難しいこともあるため、現場でアプリ開発ができるようになればDXの推進にもつながるでしょう」と芳賀氏は語る。
内製化を成功に導く学習・教育とパートナーのサポート
もちろんこうした開発の内製化には、スキルやノウハウを持つプロによる支援や教育が必要となるケースが多いだろう。この点について国吉氏は次のように言及する。
「Mendixで基幹システム周辺のアプリを作るには、どのデータが必要で、どこにどういった形で関係づけていけばいいのか、業務に精通した現場担当者自身でイメージするのがいいと思っています。そこで当社は、Mendixでのアプリ開発に関する学習支援や技術的サポートを提供しています」(国吉氏)
製造業の企業が社内でMendixによる内製化を推進するには、まず学習することから始め、その学習が一定程度進んだところでアルネッツのチームと協働で開発に取り組み、小さなサンプルアプリを開発。そこから徐々に開発の範囲を広げ、最終的に内製化を実現するプロセスを国吉氏は推奨する。
「学習を進めるにあたり、当社が提供しているのが『DX Academy』です」と国吉氏。DX AcademyにはMendixの基礎の基礎から、Mendixによる開発のスペシャリストも活用できるプロ向けまで、さまざまなコースを用意。基本的にはオンラインでの学習になるが、状況に応じてハンズオン形式での学習も提供するという。 実際にマクニカの顧客でも、まずDX Academyで基礎を学習し、そこからハンズオンへ進み、その担当者が現場に戻って内製化のリーダー役となり、OJTを実践するケースが多いと芳賀氏。これに対して国吉氏も「その進め方が成功パターンだと思います」と応じた。
どのようなアプリを開発すればいいのか、その入り口については、まずはざっくばらんにマクニカやアルネッツに相談し、一緒になってアイデアを出しながら検討を進めていく方法を両氏とも推奨。そのうえで、芳賀氏は「Mendixはシステム連携が得意で、業務アプリとしての信頼性も高いので、先々の拡張性を考えてもおすすめしたい製品です」と語り、国吉氏は「ノーコードツールと比較されることも多いのですが、現場の要望を実現しようとするとローコードツールでなければ難しいケースも多いので、状況により使い分けることをおすすめします」と話した。
最後に東田氏が再度登場し、Mendixはデータ統合や人材開発以外にもさまざまな活用が可能であることを強調して、セッションを締めた。
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