2024年7月17日から19日にかけて開催された「人とくるまのテクノロジー展 2024 NAGOYA」にて、米国の電源モジュールメーカーのVicorは次世代EV向け製品を展示。出展社セミナーでは、同社のプリンシパルアプリケーションエンジニアの羽岡哲郎氏が登壇し、次世代EVの課題やそれに対応するVicorの電源ソリューションが紹介され、多くの来場者の関心を集めた。本記事ではセミナーの模様をお届けする。

  • 出展社セミナーの様子

次世代EV開発の3つの課題

近年普及が進んでいるEV(電気自動車)だが、市場拡大とともに機能が進化され、なかでも次世代EVとしてSDV(Software Defined Vehicle)が注目を集めている。SDVとは、ソフトウェアを更新することで自動車の機能や性能を継続的に高める自動車で、ソフトウェアが車を定義することになる。すでにテスラがSDVを実用化するなど、SDVは今後のEVの潮流になりつつあり、電源コンポーネントもSDVへの対応が求められている。次世代EVにおける電源の課題について、羽岡氏は次のように指摘する。

「課題は大きく3つあります。1つめは、800Vバッテリーを搭載したEVの400V充電器への対応。2つめは400Vや800Vの高電圧バッテリーから48V電源の供給。3つめは48V電源から12V電源の供給です」(羽岡氏)

  • オートモーティブグループ
    プリンシパルアプリケーションエンジニア
    羽岡哲郎氏

課題1. 800Vバッテリーを搭載したEVの400V充電器への対応

昨今は出力の増強や充電時間短縮のために800Vバッテリーを搭載したEVが増えており、ポルシェ、ヒョンデ、GM、アウディなどが市販車を市場投入している。一方で、既存の急速充電インフラは400Vが主流である。また、日本では法規制があり、750Vを超える充電器の設置は現実的ではない。このため、800V EVも400V充電器に対応する必要がある。

課題2. 400Vや800Vの高電圧バッテリーから48V電源の供給

次世代EVがSDVへの進化を進めいていることを背景に、電子制御システムは中央集権型となっている。中央集権型とは高性能のビークルコンピュータ上で走るソフトウェアが車体の状況を把握して制御指令を出す仕組みだ。このため、車内のシステムはゾーンアーキテクチャという階層構造へ移行する。ゾーンアーキテクチャでは、ゾーンECUが各ゾーンのセンサーやアクチュエータを束ねて、そこから得られる車両の状態をビークルコンピュータへ送り、ビークルコンピュータからの指令でアクチュエータを動かすことになる。このゾーンアーキテクチャは大出力のアクチュエータを動かすため、電源は既存の12Vではなく48Vが標準の電圧となる。このため、800Vや400Vの駆動用バッテリーから48V電源の供給が必要となる。

課題3. 48V電源から12V電源の供給

48Vの電源が標準になるが、これまでの12Vの機器が全て48Vになるわけではなく、多くの12V機器が残る。このため48Vから12V電源を供給する必要がある。

このような3つの課題に応える製品をVicorは揃えているという。

電源モジュールの高電力密度化に強みを持つVicor

Vicorは1981年に設立され、現在は電源に関する170以上の特許を有している。

製品の特長としては大きく分けて3つあり、電力密度、フレキシビリティとスケーラビリティ、再利用性がある。

1.電力密度

Vicorのモジュールは小さいスペースで大電力を出力可能で、電力密度の高さが第一のアドバンテージとなっている。高電力密度化の技術としては、まずFPA(Factorized Power Architecture)がある。通常は電圧を下げる機能と電圧を安定化させる機能をワンチップ化することが多いが、FPAはそれぞれの機能を分けて2つのチップで行うことで、個々の効率を高めて最適化している。またスイッチング時の損失を限りなくゼロにする技術として、ZVC(Zero Voltage Switching)やZCS(Zero Current Switching)がある。さらに独自のパッケージング技術として「ChiP(Converter housed in Package)パッケージ」があり、両面で放熱することで放熱効率を上げている。これらの技術により、Vicorの電源モジュールの電力密度は会社設立後40年の間に500倍向上し、10kW/in3まで進化している。

2.フレキシビリティとスケーラビリティ

モジュールを追加して並列接続することで出力を増やすことが容易になっている。必要な電力に応じて、出力を増やしたり減らしたりできる。また、一般的なスイッチング電源の回路は基板レイアウト上の制約が多くあるが、Vicorのモジュールは機能がすべて内蔵されているため、レイアウト上の制約がほとんどない。

3.再利用性

フレキシビリティとスケーラビリティを実現したことで、電源要件が似たアプリケーションであれば、最小限の変更で設計を再利用できる。これにより部品認定のコスト削減や設計時間の短縮が実現する。

こうした特長から、Vicorの電源モジュールは数百Wから数千Wの電力で小型化が必要なアプリケーションに幅広く採用されている。データセンターや産業機器向けの実績を受けて、このたび車載向けにも展開する。

  • 展示ブースでは、次世代EV向けの製品が展示されていた。

電源効率を向上させ、次世代EVの課題に対応

先に挙げた次世代EVの3つの課題に対して、Vicorは主に4つの製品で解決に導く。

課題1.800V EVの400V充電対応→「NBM9280」

400V/800V 双方向DC/DCコンバータ「NBM9280」の入力電圧範囲は200V~460V、出力電圧範囲は400V~920Vとなっている。充電器から供給される400Vの電圧をEV内でNBM9280が800Vに引き上げて充電する。

定格出力は37.5kWで、4個のNBM9280を並列接続することで、150kWの急速充電に対応する。効率は最大で99%。400V充電器による800V EVの充電の他、800Vバッテリーからエアコンなどへ400Vの電源を供給する用途に対応できる。モジュールはシャーシーマウント型の「CM-ChiPパッケージ」で、サイズは92×80×7.4mmとなっている。

課題2. 高電圧バッテリーから48V電源供給→「BCM6135」「PRM3735」

電圧を下げる機能と電圧を安定化する機能を分けている。BCM6135で800Vの電圧を48V近傍まで落とし、PRM3735で48Vに安定化させる。

BCM6135は絶縁型中間バスコンバータで、800V入力と400V入力の2種類があり、電圧をそれぞれ800Vから48V、400Vから48Vに変換する。800V入力品は、入力電圧範囲は520V~920V。出力電圧は32.5V~57.5Vで、定格出力は2.5kW。ピーク効率は98%となっている。モジュールは、CM-ChiPパッケージで、61×35×7.4mmで、ピン端子となっている。

400V入力品は、400VバッテリーEV向けを想定しており、入力電圧範囲は260V~410V。出力電圧は32.5V~51.3Vで、定格出力は2.5kW。ピーク効率は98.6%となっている。モジュールは、CM-ChiPパッケージで、61×35×7.4mmで、ネジ穴端子となっている。

どちらも出力電圧は48Vちょうどではなく、800V入力品で32.5V~57.5V、400V入力品で32.5V~51.3Vの範囲になるため、PRM3735で48Vに安定化する。

PRM3735は48V入力、48V出力のバックブーストコンバータで、入力電圧範囲は31V~58Vで、出力電圧のトリム範囲は36V~54Vとなっている。定格出力は2.5kW。BCM6135からの出力電圧の安定化の他にも、例えば、48Vバッテリーの電圧を安定化する用途にも対応する。モジュールの形状は36.6×35.4×7.4mmで、表面実装用の「SM-ChiPパッケージ」を採用している。

なおBCM6135とPRM3735もNBM9280と同様に並列接続により大出力に対応可能。BCM6135とPRM3735をそれぞれ4台並列に接続すると、最大で10kWの48V供給ができる。

課題3. 48V電源から12V電源の供給→DCM3735

DC-DCコンバータ「DCM3735」の入力電圧範囲は35V~58V、出力電圧のトリム範囲は8V~16V、定格出力は2kWだ。モジュールは36.6×35.4×5.2mmのSM-ChiPパッケージとなっている。DCM3735はゾーンECUに配置され、12Vのセンサーやアクチュエータへ電力を供給する。DCM3735が1個で最大2kW、2個を並列接続すれば最大4kWの電力を供給できる。

なお、デモ用の車載ユニット試作機の実物が、セミナーで紹介された。

「400Vバッテリーから12V電源を供給するDC/DCコンバータのユニットで、BCM6135とDCM3735を2個ずつ搭載しています。400Vを48Vに変換し、さらに48Vを12Vに変換して出力します。DCM3735を2個設置することで、2kWの12V出力を2つ設け、400V入力側にはEMIフィルター回路も装備しています」(羽岡氏)

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今回のVicorの出展社セミナーはほぼ満席となり、ブースにも多くの人が足を運んだことから、その注目度の高さがうかがえた。世界中でEVの開発が進められるなか、今後のさらなる普及や機能進化に向けて、Vicor の電源ソリューションは欠かせない存在となるだろう。

Vicor Corporationについて

Vicorは、高性能なモジュール型電源コンポーネントの設計、製造、販売を行う米国(本社:マサチューセッツ州アンドーバー)の電源専業メーカーです。HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)、オートモーティブ、通信ネットワーク、産業機器、ロボティクス、鉄道、航空防衛アプリケーションなどへ向けて、広く事業を展開しています。

日本法人のVicor株式会社(Vicor KK)は2017年に設立され、電源コンポーネントの販売・技術サポートを行っています。詳しくは、www.vicorpower.com/ja-jpをご参照ください。

Vicor、BCM®は、Vicor Corporationの登録商標です。
DCM™ は、Vicor Corporationの商標です。

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