STEAM教育への関心が高まるなか、とりわけ直近で追加された「A」の「Arts(芸術・教養)」分野はどのようにカリキュラムに取り入れるか頭を悩ませる教育関係者も多いという。

2024年5月8から10日にかけて開催された教育分野の総合展「EDIX」では、デジタルファブリケーション協会とローランド ディー.ジー.(以下ローランドDG)が共同出展し、Arts(芸術・教養)を実現する機器が紹介されていた。ブースではローランドDGが提供する「VersaSTUDIO BD-8」の実演や、STEAM教育を進める広島工業大学高等学校の取り組みや作品紹介など様々な講演が行なわれた。今回はその模様をレポートする。

関心の高まりを見せるSTEAM教育

生成AIやIoT、メタバースなど急速な技術の発展により、社会が大きく変革していくなか、文部科学省は「文系・理系といった枠にとらわれず、各教科等の学びを基盤としつつ、様々な情報を活用しながらそれを統合し、課題の発見・解決や社会的な価値の創造に結び付けていく資質・能力の育成」を目指し、教育現場では横断的な学習が推進されている。

そうした動きのなか、4つの教育分野「Science(科学)」、「Technology(技術)」、「Engineering(工学)」、「Mathematics(数学)」を統合的に学ぶSTEM教育に、「Arts(芸術・教養)」の“A”を加えたSTEAM教育の関心が高まっている。これまでの理系中心の教育とは異なる「Arts(芸術・教養)」という分野が追加されたことで、どのように取り入れるべきか頭を悩ませている教育機関は多いという。

STEAM教育と親和性が高いデジタルファブリケーション

デジタルファブリケーションとはデジタルデータをもとに創作物を制作する技術だ。具体的には3Dスキャナーや3D CADなどの機器を用いてアイデアやアナログデータをデジタルデータ化し、それを3DプリンターやUVプリンター、レーザーカッターなどの機器で造形する一連の流れを指しており、STEAM教育とも親和性が高い。

講演を行ったデジタルファブリケーション協会はSTEAM教育向け事業を手掛けており、機器販売や施設設計、プログラムの企画開発や、制作サポートなどトータルに支援し、STEAM教育に必要とされる環境実現のため伴走してくれるという。

企業や教育機関内への展開も進められており、代表的な施設としてソニー本社の「Creative Lounge」や神奈川大学みなとみらいキャンパスの「ファブラボみなとみらい」などがある。各施設にはデジタルファブリケーション協会のスタッフが常駐し、制作の補助や機器のメンテナンスを担当する。

UVプリンターでArts(芸術・教養)のカリキュラムを、優れた印刷品質はそのままに小型化した「VersaSTUDIO BD-8」

展示ブースには、デジタルファブリケーション協会が推奨する機器が展示されていたが、そのなかでも一際目をひいたのが、ローランドDGが提供するデスクトップ型フラットベッドUVプリンターの新製品「VersaSTUDIO BD-8」だ。

電子楽器メーカーとして知られるローランドの関連会社(※現在は資本関係なし)として設立されたローランドDGは、業務用インクジェットプリンターを中心としたデジタルプリンティング事業や3Dデジタルツールの開発・販売メーカーだ。とくに広告・看板用インクジェットプリンターにおいては世界でも屈指の技術力を誇る。

同社は「想像を超える創造」というキーワードのもと、オフィスや制作現場、医療機関、教育機関などに、“イメージ(想像)の広がりを、デジタル機器の力でカタチ(創造)にする”製品を展開している。

ローランドDGの田中氏は「STEAM教育におけるArts(芸術・教養)を当社としてどのように対応していくのかは大きな課題でした。そうしたなかで、広島工業大学高等学校に出会い、すでにデザインのカリキュラムを実践していることを知りました。実際に授業を見て当社のUVプリンターがArts(芸術・教養)の分野で役立つのではないかという気付きを得たのです」と経緯について語る。

  • ローランド ディー. ジー株式会社 グローバルセールス&マーケティング本部
    日本セールス部 国内マーケティングユニット
    田中 裕之 氏

UVプリンターとは、紫外線(UV)を照射することで紫外線(UV)硬化インクを硬化させ、素材に定着させる印刷機器だ。紙はもちろんのこと、ABS*、PVC(ポリ塩化ビニル)、ポリカーボネート、皮革、キャンパス、木材、ガラス、金属などに対して直接印刷可能だ。

*ABS:ポリスチレンにアクリロニトリル、ブタジエンを化学的に結合することで、耐衝撃性を改良した素材

教育現場(STEAM教育)を視野に入れて誕生した「VersaSTUDIO BD-8」は、さまざまな形状や材質の素材に対しダイレクト印刷ができるデスクトップ型フラットベッドUVプリンター。最大の特長は、従来のUVプリンターよりも大幅に小型化されたことだろう。最大A5サイズ、高さ102 mmまでの素材に対応しながらも、幅768mm×奥行き586mmのコンパクトサイズを実現しており、専用スタンドは不要。

従来のUVプリンターはサイズが大きく、限られた空間のなかに設置できる台数はそれほど多くない。数が少ないと生徒の利用に待ち時間が発生してしまい、自由な発想の妨げになりかねない。

これまでのUVプリンターを極限まで小型化し、かつ価格を下げた「VersaSTUDIO BD-8」は、教育現場の課題を克服(解消)するうってつけの製品ともいえる。標準価格は138万円(税抜)と、上位モデルの半額以下。「VersaSTUDIO BD-8」ならば、従来UVプリンターを1台しかおけなかったスペースに、これまでの予算で2台設置できる。

それでいて上位機種に搭載されているプリントヘッドやインク、UV-LEDランプを採用し、優れた印刷品質を維持している。

安全性に考慮した構造も特長のひとつ。UV光を漏らさないフルカバー設計を採用しており、また脱臭フィルターを本体内部に搭載することで快適な作業環境を実現できる。高い安全性が求められる教育現場にピッタリのUVプリンターと言える。

また、高機能デザインソフトウェアとユーティリティソフト、より詳細な出力設定ができるRIPソフトウェア「VersaWorks6」が標準で付属するため、新たにグラフィックス用ソフトウェアなどを用意する必要もなく、初心者にもPCの操作パネルを用いて使いやすい仕様になっている。

ブースでは、印刷の実演も行われた。高速モードで印刷したにもかかわらず、小さな文字でもしっかり判別できる解像度の高さ、こすっても落ちない印字品質を実現しており、来場者からは感嘆の声が聞こえた。

  • 通常のCMYKに加え、ホワイトとプライマーが搭載されていることも強みだという
    ※プライマーはガラスや金属などへの密着性を高めます。

ブースに用意された、多彩な印刷サンプルも来場者の目を引いていた。商品化できるほどの高品位な印刷で、学生でもクオリティの高い制作物を作り上げられるとのこと。

STEAM教育の最前線、広島工業大学高等学校の学び

広島工業大学高等学校では、デジタルファブリケーション協会の支援のもとSTEAM教育環境として「クリエイティブラーニングラボ(CLL)」という施設を2022年4月にスタートさせている。ローランドDGが提供するUVプリンター「VersaUV LEF2-200」をはじめとしたさまざまな機器を活用してモノづくりを実践している。

同校でのSTEAM教育の様子や、CLLで1年次に行った授業「家庭内のちょっとした不便を解消しよう」において、「PCのうえに設置するタイプのスマホスタンド」を制作した過程を広島工業大学高等学校の生徒が講演。

1年次にさまざまな機器に関する知識と基本操作の習得を中心に学び(利用)、2年次は1年次に学んだ内容を活かして、使用の幅を広げることを目指す(活用)。そして3年次にはテーマを生徒みずから考え、想像したことを形にしていくという(発展)。

また「クリエイティブラーニングラボ」を最大限活用するカリキュラムが組まれており、機器は放課後に生徒が自由に利用可能。UVプリンターを用いて生徒が作った自由作品も紹介された。

広島工業大学高等学校 K-STEAM類型部長の平原豪人氏は「生徒に身につけてほしい力として、デザイン思考があります。課題に対してのアプローチを考え、プロトタイピング、試作、検証を何度も繰り返すなかで、いろいろな知識や工夫が必要になってきます。こうした授業ができればより深い学びにつながると実感しているところです」と、同校の学びについて語る。

  • 広島工業大学高等学校 K-STEAM類型部長
    平原 豪人 氏

STEM教育からSTEAM教育へ

デジタルファブリケーション協会とローランドDGの共同ブースに小学校や中学校、高等学校など、様々な教育機関の関係者が足を運び、賑いを見せた。田中氏は、今回のEDIX出展について、次のように振り返る。

「以前は大学など高等教育機関の来場者が多かったのですが、今年は初等教育、中等教育の方も多く、STEAM教育への関心の高まりを実感しました」(ローランドDG 田中氏)

近年は、「学際的な学び」「探究学習」「STEAM教育」など、文理の垣根を超えて複数の分野を総合的に学ぶ教育に注目が集まっています。デジタルファブリケーション機器を導入する学校も増えており,広島工業大学高等学校はまさにそのパイオニアと言える。

「文化・文学系の方にとって切削加工機やUVプリンターは少しハードルを高く感じてしまうかもしれません。『VersaSTUDIO BD-8』は初心者でも使いやすい仕様になっているのでまずは触れてみてもらいたい、STEAM教育を実現する当社製品の魅力をお伝えしたいという思いから、今回のEDIXに出展させていただいたのです」(ローランドDG 田中氏)

Arts(芸術・教養)のカリキュラムをどのように展開するかは、STEM教育からSTEAM教育へのステップアップにおいて重要なポイントだ。理工系の生徒でなくとも取り扱いやすく、アイデアをダイレクトに印刷できる「VersaSTUDIO BD-8」は、そんなSTEAM教育を実践するための一助になるのではないだろうか。生徒の思考力や発想力を伸ばしたいと考える教育関係者は、ぜひチェックしてみてほしい。

VersaSTUDIO BD-8
ローランド ディー.ジー.株式会社

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