生成AIの活用がビジネストレンドとして注目を集めている現在、AI開発環境の整備は優先度の高いミッションといえる。学習や推論に膨大なCPU/GPUリソースを必要とするAI開発には、データセンターに構築した高性能サーバーや、クラウドサービスが提供するコンピューティングリソースを用いることが多いが、近年では開発者に近い場所に環境を用意したいというニーズが増大。ローカル環境でのAI活用に有効的なワークステーションへの注目が高まっている。さらにセキュティソフトやコラボレーションツールなど、汎用的なアプリケーションのバックグラウンドでも当たり前のようにAI技術が使われるようになったことで、幅広い業務シーンを視野に入れたモバイルワークステーションの需要も拡大している状況だ。

本稿では、今後のビジネスにおいて主流になっていくであろう「AIワークステーション」に着目。AI専用エンジン搭載の最新プロセッサー「インテル® Core™ Ultra プロセッサー」を展開し、モバイル向けAIワークステーションの市場拡大を図るインテルの岡本 航児 氏、佐近 清志 氏と、インテル® Core™ Ultra プロセッサーを採用したワークステーション最新モデルを発表した日本HPの大橋 秀樹 氏に、AI活用におけるモバイルワークステーション(及びデスクトップワークステーション)の役割と重要性について語ってもらった。

対談者

インテル株式会社
営業本部 岡本 航児 氏

インテル株式会社
セールス&マーケティンググループ
ビジネスクライアント・テクニカル・セールススペシャリスト
佐近 清志 氏

株式会社 日本HP
エンタープライズ営業統括 ソリューション営業本部 本部長
大橋 秀樹 氏

AI専用エンジン「NPU」を搭載したインテル® Core™ Ultra プロセッサーが、モバイル領域でのAI活用を促進

インテル株式会社 営業本部 岡本 航児 氏

インテル株式会社 営業本部 岡本 航児 氏

岡本氏:インテルでは日本HPさんのワークステーション向けのプロセッサーとしてインテル® Xeon® W-3400シリーズ、W-2400シリーズなどを提供していますが、今回、新たにモバイルワークステーション向けとして「インテル® Core™ Ultra プロセッサー」(以下Core Ultra)の提供を開始しました。AI専用エンジンとなる「NPU(ニューラル・プロセッシング・ユニット)」を搭載しており、インテル史上最高水準の電力効率を実現しており、さらにインテル® Arc™ グラフィックスを採用したことで、従来のインテル® Iris® xe グラフィックスと比較してGPUのパフォーマンスは約2倍に向上しています。これにより、スリムでパワフルなAIモバイルワークステーションを実現できるようになりました。

大橋氏:日本HPでもモバイルワークステーションの「HP ZBook」シリーズ全ラインナップにCore Ultraを搭載した「HP ZBook G11」シリーズを発表しました。薄型軽量とパフォーマンスを両立した「ZBook Firefly」、BIMや3D CAD向けメインストリーム「ZBook Power」、クリエイター向けの「ZBook Studio」そして高性能・拡張性を追及した「ZBook Fury」全製品がAIワークステーションとして生まれ変わりました。

岡本氏:実はCore Ultraではアーキテクチャを根本的に見直しており、インテルでは40年に一度の大変革と謳っています。というのも、従来のPコア、Eコアが搭載されたコンピューティング・タイルやGPUタイル、IOタイルに加えてSoCタイルを実装しました。ここには、より低消費電力のEコアとNPUが搭載されており、バッテリーライフの改善に貢献しています。たとえば、Web会議ツールを動かした際の消費電力は、第13世 インテル® Core™ プロセッサーと比較して最大36%削減されるという調査結果も出ています。

佐近氏:現在のPCは、何も作業していないときでも多くのタスクがバックグラウンドで実行されています。その際にコンピューティング・タイルを動かしてしまうと、アイドリング時のバッテリー消費が大きくなってしまう。

そのためCore Ultraでは、SoCタイルに載ったEコアがまず動作し、処理し切れない場合にコンピューティング・タイルのEコアが立ち上がり、さらにPコア、GPUが立ち上がるという設計になっており、全体的なバッテリー消費の最適化を図っています。

岡本氏:もちろん、AI処理においてもNPUを用いることで省電力化が図られています。とはいえ、AI処理はNPUだけで行うわけではなく、負荷の高い処理はGPU、データの準備や分析にはCPU、バックグラウンドで走っている処理はNPUでというように、得意な領域に応じて使い分けられているのが特徴です。これまでCPUやGPUで行っていた処理を低消費電力のNPUで肩代わりすれば、バッテリー消費を改善できるだけでなく、CPU、GPUリソースを他の処理に割り当てられるというメリットが生まれます。

大橋氏:実際、生成AIなどの利用についても、NPUは大きく影響を与えると思います。日本HPでは、“Stable Diffusion”、“Premiere Pro”、“Audacity”の3つの生成AI機能を持つソフトを実機で検証を行いました。そして、そのすべてのソフトにおいて目に見えて処理速度などに変化があり、たとえばStable Diffusionを使った検証では、NPUを用いるとCPUの負荷が軽減され、処理時間は約3.5倍早くなるという結果も得られました。NPUの効果が省電力化だけではないことが見て取れます。

実際の検証動画

・Stable Diffusion

・Premiere Pro

・Audacity

インテル® OpenVINO™ ツールキットで、開発者に対しNPU対応アプリへの変換を支援

大橋氏:AIの単純なマトリクス計算やパターン認識、過去データの検索など、NPUの得意とする領域に対するニーズは高まっている印象を受けます。

佐近氏:そうですね。やはりレンダリングなど高い処理性能を求める領域はGPUに任せるのが効率的ですが、テキスト変換などNPUが得意な処理は増えてきていると思います。

岡本氏:コラボレーションツールのスマートフレーミングやアイ・トラッキング、背景ぼかし、音声ノイズ除去をはじめ、生産性を上げるツールやセキュリティ対策ソフト、コンテンツ制作など、NPUが効果を発揮するAI活用は確かに増えています。もちろんアプリがNPUに対応していることが前提なので、現状ではまだ限られた範囲での利用となりますが、これからNPUに対応したアプリは爆発的に増えていくでしょう。その意味でも、今はまさに「AI元年」といえるのではないでしょうか。

佐近氏:現在、既存のAIワークロードというのはNPUに対応できていないため、ISVのエンジニアはNPUに対応するためアプリを書き換える必要があります。それを支援するコンソーシアムとして、インテルでは「AI PC アクセラレーション・プログラム」を展開しました。現在、100以上のISVパートナーが参画し、年内に300以上のAIを用いた新機能がリリースされる予定です。現在では、業務アプリを含め、アプリ全体の7割程度がAI技術を利用しているとまで言われており、モバイル用途でのAI活用も当たり前になってきました。しかし、このままでは従来のノートPC、モバイルワークステーションではバッテリー問題が深刻化することは間違いなく、そこで超省電力設計のNPUが活きてきます。

インテルではAIモデルをNPUを含むインテルプロセッサー対応に変換できるツールとして「インテル® OpenVINO™ ツールキット」(以下、OpenVINO)を無償提供しています。このOpenVINOを使えば、開発者はCPUやNPUなどのプロセッサの違いを意識する必要がなくなるため、Core UltraのNPUの活用も簡単に行えるようになります。同じコードがNPUを搭載しないシステムでも実行できるため、コード管理の複雑さを解消することも可能です。

大橋氏:OpenVINOを用いることで、アプリケーションベンダーは次のバージョン、次のアップデートからアプリのAI処理をNPUにオフロードしていけるわけですね。

佐近氏:そうですね。AI PC アクセラレーション・プログラムのコミュニティでは開発者をサポートしており、NPUに対応したAI機能の実装ハードルは下がっていると思います。我々としても、「AI Everywhere」というコンセプトの実現はもちろん、インテルのCPUアーキテクチャと命令セットに最適化する形でプログラムを書き換えていただけるというメリットがあります。

インテル® Arc™ グラフィックスでISV認証を取得し、モバイルワークステーションのラインナップを拡充

岡本氏:NPUに関してはセキュリティソフトで大きな効果が期待されています。サイバー攻撃の巧妙化・複雑化に伴い、セキュリティソフトのCPU使用率は増大しており、バックグラウンドのAI処理を含めて10%~20%のリソースが使われることもめずらしくありません。こうした処理をNPUに肩代わりすることで、CPU使用率が1%程度に下がったという検証結果も出ています。

佐近氏:セキュリティやコラボレーション関係を中心に、バックグラウンドでAI処理を走らせるケースは今後ますます増えていくはずです。そこに複数の業務アプリケーションを立ち上げると、全体的にPCの動作は重くなってしまい、モバイル用途ではバッテリーの持ちも気になってくるでしょう。そこで、 Core Ultra搭載のモバイルPC、モバイルワークステーションを選択することの価値が生まれます。

株式会社 日本HP エンタープライズ営業統括 ソリューション営業本部 本部長 大橋 秀樹 氏

株式会社 日本HP
エンタープライズ営業統括
ソリューション営業本部 本部長
大橋 秀樹 氏

大橋氏:ハードウェアの進化に伴い、モバイルワークステーションのポートフォリオは広がっています。かつてモバイルワークステーションといえばパフォーマンスや拡張性のみが重視され、サイズや重量は二の次でしたが、数年前から14インチや16インチサイズでもビジネスノートPCと変わらない薄型軽量のモデルもリリースしています。今回さらにNPUを搭載したCore Ultraを採用したことで全体的なパフォーマンスも底上げされており、いわゆるデザイナーやクリエイターだけでなく、ビジネスユーザーにとっても有効な選択肢のひとつとなりました。

岡本さん、佐近さんが話されたように、AI機能を搭載するツール・サービスは増え続けており、ビジネスユーザーに快適な業務環境を提供するという意味でも、今後モバイルワークステーションを選ぶ価値はあると思います。

もちろん、建設業界など既存のモバイルワークステーションを利用してきたユーザーにとっても、 Core Ultra搭載モデルには、単にCPUの世代が変わったことに留まらないインパクトがあるはずです。デスクトップモデルの代替ではなく、低消費電力+高い処理性能で“モバイル”としての強みが活かせることは、乗り換えを決断する大きな要因となるのではないでしょうか。

佐近氏:NPUはAI処理に特化したハードウェアですが、Core Ultraではグラフィックス性能も向上しており、GPUを使う処理が短時間で終わるようになります。このためAI機能を使わないアプリにおいても、省電力効果が期待できます。

大橋氏:今回のArcグラフィックスでは、多くのアプリケーションでISV Certifications(ISV認証)を取られており、ここも最新モバイルワークステーションを選択するうえでのポイントと捉えています。当然ながらワークステーションではソフトウェアとの相性が重要で、ISV認証は必須といえるでしょう。これまではディスクリートGPU在りきだったものが、内蔵GPUモデルでも認証を取れるようになったことは、コスト面での導入ハードルを下げる効果があると思います。もちろん日本HPでも、ディスクリートGPUなしのモデルをラインナップに加えています。

佐近氏:可搬性が高く、さまざまなシーンで効果的に利用できる新時代のモバイルワークステーションが登場したことで、ハイスペックを突き詰めた製品ではなく、コストと性能のバランスに優れたオールラウンダーな製品がほしいというユーザーのニーズに、ようやく応えられるようになったと、私は実感しています。

ローカル環境でAIを活用したいというニーズに応える、真のAIワークステーションという選択肢に注目

インテル株式会社 セールス&マーケティンググループ ビジネスクライアント・テクニカル・セールススペシャリスト 佐近 清志 氏

インテル株式会社
セールス&マーケティンググループ
ビジネスクライアント・テクニカル・セールススペシャリスト
佐近 清志 氏

佐近氏:AI専用エンジンを搭載したPCを採用するメリットのひとつとして、ローカル環境でAIワークロードを実行できることも挙げられます。クラウド上でデータを置くことに不安感を抱く企業は多く、ローカルでAI処理を行うことはセキュリティ、プライバシー保護の強化という面においても大きなメリットになるでしょう。AIモバイルワークステーションならば、クラウドと比べて応答性にも優れており、電力効率の面でも優位性があります。

先日、あるイベントで、大規模言語モデル(LLM)を用いたチャットボットをローカル環境で動かすデモがあったのですが、そこでは25GBの言語モデルを、OpenVINO modelへのコンバートと量子化を行って約5GBにまで圧縮しており、非常にレスポンスが早く、快適にやり取りすることができていました。飛行機や電車での移動中など、安定したインタ-ネット接続が行えない状況のなか、ローカル環境でAI処理を行いたいというニーズは増えてくると予想しています。

そのなかでCore Ultraを搭載したモバイルワークステーションならば、ローカル環境でAIを活用するメリットを最大化できると考えており、インテルでもこうした世界の実現を目指して活動を続けています。

大橋氏:確かにクラウドの利用がAI導入の障壁となっている企業はまだまだ多いと感じます。その意味では、NPUを搭載するモバイルワークステーションは、現状を打破してAI活用を促進するための鍵になると思います。

オンプレミスでクラウドライクなAI活用を行いたいというニーズに対しては、ハイエンドのデスクトップワークステーションをバックエンドに配置して言語モデルを学習・蓄積し、そこに対してNPUを搭載したモバイルワークステーションからアクセスするといった使い方も有効ではないでしょうか。

これにより、データの秘匿性や利用コストの増大といったクラウドの課題を解決し、より効率的なAI活用が可能です。実際、クラウドが提供するGPUリソースにも限りがあるため、AI開発環境をスピーディに構築できないケースも増えてきており、こうした事情を鑑みれば、デスクトップワークステーション+モバイルワークステーションという組み合わせは、アリなのではないかと考えます。

佐近氏:確かに、ローカル環境でのAI活用を“コストカット”と捉えるパートナーも増えてきています。特に新興ISVでは、クラウドのGPUリソースをふんだんに利用するサービスで利益を出すのは難しく、すでにクラウドAIとローカルAIの棲み分けが始まっていると感じています。

先に話が出たとおり、今はまさにAI元年であり、今年から来年にかけて膨大な数のAI機能が世の中に出てくると思います。その意味では、“Future Ready”、未来を見据えた準備として、NPU搭載のモバイルワークステーションへの切り替えを検討する時期が来たと捉えることができます。

岡本氏:インテルが、Wi-Fiモジュールを組み込んだモバイルPC向けプラットフォーム「Centrino(セントリーノ)」を世に出したときには、Wi-Fiの必要性が認知されていませんでしたが、いまでは誰もが毎日、あたりまえに利用しています。AIの世界も同様で、NPUへの最適化は急速に進んでいくでしょう。現状ではNPU非対応のAI機能しか利用していない企業であっても、Core Ultraを搭載した“真のAIモバイルワークステーション”は、導入に値する価値を提供してくれるはずです。

大橋氏:日本HPでは、今後もインテル様と協業し、デスクトップ・モバイルの両軸でAIワークステーションを展開していきたいと考えています。本日はありがとうございました。

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