2024年2月15日、TECH+フォーラム 製造業 - 脱炭素 Day 2024 Feb.「持続可能な社会にする『GX経営』」が開催された。温室効果ガス(GHG)の排出量削減と、その先のカーボンニュートラル達成が世界的課題となっている。本稿では、日本の製造業が取り組むべき製品別カーボンフットプリント(CFP)算出の施策をテーマにした、NTTデータ 法人コンサルティング&マーケティング事業部 ビジネスレジリエンス統括部 課長の山崎研二氏による講演「先進事例から学ぶ! 失敗しない製品別カーボンフットプリント算出プラットフォーム導入」の模様をお届けする。

  • 株式会社NTTデータ 法人コンサルティング&マーケティング事業部
    ビジネスレジリエンス統括部 課長 山崎 研二 氏

CFP可視化をめぐる国内外のトレンド

山崎氏は、製品別CFPを取り巻く環境から話し始めた。いま世界中の企業でESG(環境・社会・ガバナンス)が重視されている。とりわけGHG削減に向けた取り組みは、各国がコミットして進めている状況だ。その中、NTTデータでは製品別のCFP可視化を支援するプロジェクトが急速に増えているとして、同社が携わった旭化成などとの取り組みを紹介した。

GHG排出量管理に関する考え方には、自社の排出量を市場に開示する「企業全体の排出量可視化」、自社製品の排出量を取引先に開示する「製品・サービス別の排出量可視化」の2種類があると山崎氏は説明。それぞれで目的や算定方法、対象範囲などが異なるとし、「製品・サービス別の排出量可視化のほうが、業務ルール整備やシステム対応が一般的に難しく、多くの企業も悩んでいます」と話した。

続いて、CFP可視化をめぐる3つのトレンドを解説した。1つ目は、自動車メーカーに代表される最終消費者に近いメーカーが、サプライヤーに対してCO2排出量の可視化・削減を要請していることだ。「サプライヤーは従来のように手作業の算定ではなく、システム化を急ぐ必要があります」と指摘した。

2つ目は、可視化した結果を社会に発信する動きの高まりだ。これについては自社のブランディングや競争力強化へ繋げたいと考えている企業が多いと山崎氏。自動車や化学など製造業を中心に業界全体での動きも加速しており、その波に乗り遅れないよう可視化に取り組む企業が増えていると分析する。

そして3つ目は、欧州を中心とした法規制の加速である。日本でもグリーントランスフォーメーション(GX)推進の動きが政府主導で進み始めたが、欧州はさらに先を行く。今後日本企業が欧州でビジネスを展開する場合「Gaia-X」「Catena-X」といった企業間連携プラットフォームを用いたデータ交換が求められる可能性が高い。また、今後本格運用が始まる国境炭素調整措置(CBAM)や欧州電池規則についても、対応が求められてくると山崎氏。

国内でも経済産業省を中心にウラノスエコシステムといったプラットフォーム構築を進めており、経済安全保障を背景とした圧力が今後も強まると見られることから、「CFP可視化が市場での競争力を左右する要素と捉えられ、敏感な企業は対応に向けて動き出しています。ここ1、2年で、いかに迅速にCFP可視化の仕組みを整えるかが重要になってくるでしょう」と語った。

日本企業におけるCFP可視化の先進的取り組み

山崎氏は続いて、注目される先進的事例を紹介した。CFP可視化の取り組みは、手作業による可視化→算定デジタル化PoC→算定デジタル化→CFPを含む経営情報統合→法規制対応のデジタル化→ルールメイキング・デファクト化の順で難易度が高まっていくと分析。

国内では手作業やPoC段階の企業がまだ多いとしたうえで、GHG排出量が多い化学・素材業界を中心に算定デジタル化以降の本格導入に進んでいる企業が多い現状を明らかにした。前出の旭化成などはすでに経営情報統合の段階に取り組んでいるという。

欧州企業の多くはこの経営情報統合以降に進み、先進企業はルールメイキング・デファクト化の段階に達していると山崎氏。その狙いとして「ルール・技術仕様のデファクト化」「ソリューションのデファクト化」の2点を挙げた。

前者については、CFP算定ルール策定やイニシアティブ立ち上げの動きが進み、先行してルールを整備することで自社と自社サプライヤーの優位性を築こうとしているという。また後者は、自動車産業のサプライチェーン間でのデータ交換・共有プラットフォームであるCatena-Xを中心とした、欧州データスペース構想だ。こうした仕組みの整備を欧州が率先することで、先行者利益による新たな収益源確保に動いていると山崎氏は見る。

この状況で、日本企業はどういった基盤を構築していけばいいのか。山崎氏は、サステナビリティを管理する一過性のシステムを導入するのではなく、これを機に企業の意思決定のための基盤として位置づけていくべきだと話す。

企業経営に紐づく経営データとして、モノの動き、カネの動きに加えてGHG排出量の動きを取り入れ、そのうえで「サプライチェーン」「財務」「サステナビリティ」の3つの領域で施策を検討していくことが必要になると指摘。さらに、各領域が重なる部分の取り組み、例えばサステナビリティと財務が重なるカーボンクレジット、インターナルカーボンプライシングや、サステナビリティとサプライチェーンが重なるサステナビリティ購買、グリーン製造、脱炭素輸送といった要素に関して、経営意思決定のもとでどう推進していくかが重要になるとの見解を示した。

とはいえ、これら3つの領域を統合したサステナビリティ経営基盤は一朝一夕に準備できるものではなく、いくつかのプロセスに分解して進めていくべきだという。最初のプロセスは、ここまで見てきた直近の開示対応や法規制に対応したCFP算定。その後、2つ目のプロセスで自社の既存システムや実施中の施策を棚卸しし、将来の経営意思決定に必要なデータやシステムの機能配置を整理していく。そして最後のプロセスで、各領域が重なる部分の意思決定が可能な基盤を整備していく、という流れだ。

山崎氏は、こうしたプロセスを実際に踏みながら実践している企業の事例として、旭化成の機能材料事業におけるCFP可視化プロジェクトを紹介した。同社では、サステナビリティ領域のCFP開示、財務領域の財務管理、そして両領域の交点でインターナルカーボンプライシングに取り組んでいる。まずは製品別のCFP可視化を実現。CFP情報を財務と掛け合わせ、意思決定可能な基盤も構築した。その結果、製品の利益と排出量に照らした意思決定が可能になり、サステナビリティと収益性の両輪経営を実現しているという。

そのほか、エネルギー業界の製造業が組織別GHG算定とCFP可視化を同一基盤で実現し、予実管理を高度化した事例や、鉄鋼/非鉄業界の製造業のCBAM対応を見据えた取り組みについても解説した。

「これらの事例を踏まえ、日系企業が目指すべきサステナビリティ経営基盤のイメージは、財務やサプライチェーン情報に加えてサステナビリティ情報を管理する基盤を構築し、社内外のシステムと連携しながら、最終的には意思決定に必要なアウトプットを出していくものになります。どこから取り組むか、どこまで取り組むかは各企業の状況や課題感によって変わりますが、持続的成長を見据え、事業プロセスを分解・定義して段階的に進めることが重要です」(山崎氏)

加えて、基盤の実現手段としてのテクノロジー活用も重要なポイントで、近年はアジャイルに拡張しながら進められるようになったとし、高い汎用性・拡張性を持ったツールとして「C-Turtle ForeSus」「Anaplan」「Tableau」など、グローバルのリーダー製品とされるクラウドソリューションの採用を推奨していると語った。

プロジェクト成功に向けNTTデータが示すポイントとは

最後に山崎氏は「プロジェクトで躓くポイントとNTTデータの処方箋」というテーマで、企業がCFP可視化に取り組む際のポイントを解説した。

まず1つ目はCFP自体の理解だ。社内にCFPやGHG、国内・欧州の法制度に関する知識を持った人材が少なく、対応すべき具体的内容や業界のトレンドを把握できていない課題をよく聞くという。2つ目は、可視化ポリシーと運用方法だ。手作業で時間と手間をかけ取り組む企業が日本では多い現状だが、計算方法・品質を十分に把握できておらず、グローバルや業界標準のルールを他社事例と比較しながら見極めたいとの声を聞くと話す。3つ目がシステム導入だ。CFP可視化ソリューションが乱立していることから製品選定そのものに悩んでいる、あるいは社内でのシステムの機能配置に悩んでいるといったケースが多いという。そして4つ目は業務拡張への対応。特に最近は欧州関連の規制対応、収益性やサプライチェーンを含めた設備投資等の経営判断などに企業は課題を感じているとのことだ。

NTTデータはこれらの課題に対応するため、プロジェクト立ち上げ、システム構想策定、ソリューション導入の3つのフェーズで取り組むことを推奨しており、「プロジェクト立ち上げは1カ月程度で、プロジェクトの目的やマイルストーンの整理、関係者との合意形成などを進めます。続くフェーズでは、3カ月ほどかけてサステナビリティ基盤に求められる機能・アーキテクチャ、具体的ソリューションの選定を行い、最後に3カ月から場合によっては数年かけてソリューション導入を進めていきます」と説明した。

こうしたステップに関して、NTTデータは伴走型で支援するサービスを展開しているとし、4つのサービスを紹介した。サステナビリティ全体の構想を考えていく「サステナビリティグランドデザインコンサルティング」、CFP計算ポリシーやRFP策定を検討する顧客を支援する「CFP可視化コンサルティング」、実際のシステム導入と定着までを支援する「CFP可視化プラットフォーム導入」、デジタルグリーンに精通したプロ人材が顧客と一緒になり、CFP可視化業務や課題洗い出し、運用定着などを支援する「グリーンデジタルディレクター」だ。

最後に山崎氏は「サステナビリティはもはや一過性のトレンドではありません。規制なども絡んだ経営課題になっています。ここで対症療法的にCFP可視化のみを進め、外部環境の変化に対応できない硬直的な企業になるのか、本質的な経営課題に取り組んで対応を図り、サステナビリティの高い企業を目指していくのか、その分岐点がきています」と語り、NTTデータとして支援していく姿勢を示した。

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