社会や人々の生活にとって必要不可欠な介護職の仕事。深刻化する人手不足によって現場は大きな負荷を抱えており、介護事業者による経営改善はもはや待ったなしの状況といえます。そこで注目されているのが、介護現場のDXです。

今回は、介護業界におけるICT活用の促進・支援を行う株式会社ビーブリッド 代表取締役 竹下康平氏に、介護業界が抱える課題とそれを解決するための介護DXの必要性についてお聞きしました。

  • 株式会社ビーブリッド 代表取締役 竹下康平氏

    株式会社ビーブリッド 代表取締役 竹下康平氏

深刻化する介護業界の人手不足に、DXは避けては通れない状況

――ビーブリッドの事業内容を教えてください。

弊社は介護・福祉事業者専門でサービスを行っています。具体的には管理者向けのDX伴走支援コンサルティング、現場職員向けのICT総合ヘルプデスク、低価格でのWebサイト制作・管理や印刷物制作などを行うクリエイティブ事業を営んでおります。

また、DX関連の教育・研修事業も展開しています。介護DXの成功を勝ち得るためには、地域の生産年齢人口※1の減少や超高齢化の状況などといった背景の理解と多大な努力が必要です。それを怠ると労力をかけても効果が出ない場合もあります。DX推進の成果を出すために、なぜ介護現場にDXが必要なのか、セミナーや講演などを通じて伝え続けています。

※1 15歳以上65歳未満の労働に従事できる、国内の生産活動を中心となり支える人口のこと

――介護業界が抱える課題とその背景についてお聞かせいただけますか。

統計データ上、日本全体で高齢者人口は増加・維持の傾向が続き、2042年頃までそのピークが続くといわれています。その内訳を見ると年々75歳以上の人口の割合も増えていきます。つまり、それは介護を必要とする方々が年々増え続けていくということを意味します。また、2042年以降すなわち2043年になればすべての問題が一気に解消するというわけでもなく、この傾向は緩やかに続き、その後も介護サービスは非常に重要なサービスであり続けます。

こうして介護サービスの重要性が増していくなかで、生産年齢人口が減ると、より一層高齢者を支えるのに十分な人材を確保することが難しくなっていきます。この問題は放置すると、介護・福祉サービスの提供自体が困難となり、地域福祉が破綻するおそれがあります。

地域で介護サービスが提供できなくなってしまうと、身内などの別の手段で介護する必要が生じますし、老老介護やヤングケアラーなどの問題はより深刻化します。それは経済活動の低下にもつながります。生産年齢人口の方々が安心して暮らし働くためには、インフラとして介護・福祉のサービスが確立していることが大前提です。このような意味でも介護はこの先の日本を支える礎になる産業といえます。

――そうした介護業界の課題を解決する手段の1つとして、DXの必要性が叫ばれています。

国全体として人口減少社会になるなか、全産業において人手不足が課題となっています。この先20年間で働き手が大きく減少していく産業はごまんとあり、介護業界も例外ではありません。現在はなんとか耐え凌いでいる状況ですが、無策でこれ以上の人員削減は不可能です。

DXは、業務の生産性向上によって人手を減らすことが目的と思われがちですが、そうではなく、働き手が減る一方で利用者の需要が増え続ける状況に対する不可欠な工夫であるといえます。DXのほか、外国人人材の採用も解決策の1つであり、多くの介護事業者がトライしていますが、円安がこれ以上進むと働く場所として日本が選ばれなくなっていく可能性も高まります。介護は、今までの方法を見直し、新しいあり方を見つけ出さなければならない時期に来ているといえます。こうした観点では、DXはもはや待ったなしの状況です。

介護現場にテクノロジーを導入するうえで重要なのは、盤石なネットワーク環境

――介護現場におけるDXの事例として、具体的にどのような取り組みが行われていますか。

介護施設においては、介護記録システム、見守りセンサー、インカム、チャットツールといった4つのテクノロジーとそれらを円滑に活用するためのタブレットやスマートフォンを導入するケースが主流です。

介護記録システムでは、介護報酬の請求業務を行うほか、利用者の生活や身体、ケアの状況などをデータとして記録していきます。介護記録システムを用い、定量的なデータに基づいて利用者の健康状態などを管理し、質の高い介護サービスを提供していくことは「科学的介護」を進める意味でも重要となります。

データをきめ細かく入力するには、従来のように事務室のPCでひたすらデータを入力する方法だと職員の負担が増大するので、スマートフォンなどの活用を進め、音声入力を活用したり、施設のどこにいても入力できるようにしたりするなど、簡単にデータを更新できる仕組みをつくることが重要です。

現場で最も普及が進んでいるテクノロジーの1つは、見守りセンサーです。昨年発表された厚生労働省の調査によると、施設系の約30%の事業者が見守り機器を導入しています。

見守りセンサーは、特に夜勤でのメリットが大きいといえます。夜間は、日勤と比較すると施設内のスタッフが手薄な状態で利用者を見守ることになります。異変が発生した場合、昔ながらの介護施設ではナースコールで知らせる手段がメインになりますが、ナースコールは利用者が主体的にボタンを押さなければなりませんし、ボタンが押されたとしてもスタッフからすると状況がわからないまま利用者のもとに駆けつけなければなりません。

同時多発的にコールが発生すれば、スタッフの経験と勘で緊急度の優先順位を付ける必要があります。このような状況下でスタッフは極度の緊張感を常に持ちながら仕事をしています。それは決して簡単な仕事ではなく、スタッフからすると非常にストレスフルです。

見守りセンサーのメリットは、映像やバイタルの情報などから利用者の状況が瞬時に手元で把握できる点にあります。スマートフォンで心拍や呼吸、体動のデータを確認できるものもありますし、手元で利用者の様子が確認できる製品もあるので、何かあったときに状況を事前に把握したうえで駆けつけることができます。それは利用者にとってより安心・安全な見守りとなりますし、職員の負担軽減やメンタル面でも非常に有益です。

インカムは少数でオペレーションをまわさなければいけない夜間などに、スタッフ同士で連携をとりやすくなることで効果を発揮しています。さらに、最近のインカムはナースコールと連動しているものもあり、歩行介助などでスタッフが手を離せない状況にあるときも、音が鳴って「401 〇〇さん ナースコール」というように直接耳にメッセージを送ってくれるので、ヒアラブル※2のツールとしても有効です。

チャットツールも、職員間のコミュニケーションに欠かせないものとなっています。介護記録として留める必要はないけれど、共有はしておきたいといった内容を残しておき、写真なども活用しながら、正確にすばやく特定の人たちに情報を伝える手段として便利です。さらには、災害時の安否確認などBCPの観点でも有効です。

※2 耳に身につけることでソフトウェアなどからの通知を受け付けたり、直接ソフトウェアなどを操作したりすること

――こうしたテクノロジーが普及するうえで課題となっている点はどこにありますか。

こうした仕組みを活用するには、多くのスマートフォンやセンサーが施設のなかで同時に安定して稼働する必要があるため、盤石なネットワーク環境が求められます。ネットワーク環境が脆弱で利用ができなければ、インカムは使いものになりませんし、見守りセンサーが危険を感知しても職員まで伝わりません。アクセスポイントが混雑していて通知を受信できなかったとしたら、大きな事故につながりかねません。

最近では見守りセンサーなどの導入後にネットワーク環境が十分なものでなかったことがしばらく経ってから発覚し、せっかく導入した機器が効果を発揮せずお蔵入りになってしまったり、ネットワークの追加工事とそのための追加予算が必要になってしまったりするケースも多く見られます。こうしたトラブルが頻発すると、職員の方々のシステムへの信頼度が低下し、せっかく導入した製品が無駄になったり、その後に続くICT活用への期待値低下にも繋がったりします。

特に、見守りセンサーやインカムに繰り返し失報や切断があると、職員は間違いなく不信感を抱きます。システムを信頼している前提でのオペレーションをすることができなくなってしまい、結果としてDXがまったく進まなくなるおそれがあります。もちろん製品そのものに問題が起きている場合もありますが、ネットワークに起因するトラブルは非常に多いです。

プロの力を利用して、DXで生産性を向上したという成功体験を積んでいく

  • 株式会社ビーブリッド 代表取締役 竹下康平氏2

――介護の現場でDXを推し進めていくために必要なことは何でしょうか。

きちんとしたICT活用に関する教育を行うこと、小さくてもよいので一歩を踏み出しICT活用による成功体験を得ること、そして、ネットワークを含めた万全なICT環境の構築と維持です。

まず教育面ですが、介護業界に特化したICT活用やDX推進のためのプログラムや資格がありますので、これらを利用して現場のリテラシーを高めることが重要です。

また、ネットワーク環境面については、「インカムがつながらなかったせいで、応援を呼びたかったけど誰も来てくれなかった」「センサーは感知したようだがスマートフォンに通知が来なかった」となると、スタッフはITを信用できなくなってしまいます。こういったことが起こらないように、ICTによる成功体験をしっかりと得ることができる環境を整備し、ICTを信頼してもらうことが大切です。

そのうえで今後のネットワーク環境構築は、安定性(故障率の低さ)とアクセスポイントの多台数接続が可能なことがポイントとなります。機器の故障が頻発すると、その分コストがかかるのはもちろん、入居者が暮らすなかで故障のたびに工事を行うことになり、快適な生活を妨げることにつながってしまいます。そのため、将来的にも工事の回数が最小限で済むよう機器の耐用年数や保守体制が重要となります。加えて、ネットワーク機器の選定と工事は、無線通信の品質を熟知した業者に依頼するほうがよいでしょう。

今やネットワークは利用者の命をあずかる生命線です。施設に適した機器選定を行うには、専門家に任せることをおすすめします。

――竹下さんが思い描く介護DXのビジョンを教えてください。

私のビジョンは、人口減少社会を起因とする介護職員の減少が進んでも、今までどおり働くことができ、報酬が増えていくという世界観です。それを実現するためには、やはりテクノロジーという支えが必要だと考えています。

2023年10月には、介護従事者が前年より1.6%減少したとの報道も出ています。アフターコロナで息を吹き返す産業もあるなかで、産業領域を超えて人材の奪い合いがすでに始まっています。

介護の現場は一刻も早く、これまで100人でやってきたことを95人、90人でもできるような体制を整え、生産性が向上した、利用者に資するケアが実践できたという成功体験を積んでいく必要があると考えています。

2024年3月開催の「CareTEX東京」に出展予定

――2024年3月に開催される介護業界向けの展示会「CareTEX東京’24」において、業務用無線機器メーカーであるフルノシステムズと共同で出展されるとのことですが、どのような内容を展示される予定ですか。

フルノシステムズのほか、介護・福祉施設でのネットワーク施工のプロを含め4社での共同出展という、初めての試みです。介護DXというと、現状では目に見えやすい見守りセンサーやインカムなどの製品自体が注目されがちですが、それらの縁の下の力持ちとして今後ますます重要となるのは、間違いなくネットワークに関する事業者です。そこで、その重要性や構築に関するポイントをその道の専門家の目線で、4社から事業者の皆さまへしっかりと伝えていこうと考えております。

――介護業界で働く方や介護DXに取り組む方へのメッセージをお願いします。

令和6年度の介護保険法改正によって、DXはこれまで以上に避けては通れない状況になっていきます。この流れについていけるか不安な事業者も多いと思います。

DXの成功は、多大な努力をしてやっとたどり着けるもので、私の著書『今すぐできる!仕事が変わる!!ICT導入から始める介護施設のDX入門ガイド ―準備から運用まで徹底解説―』では、「険しい山を登るが如し」と表現しています。道のりは大変ですが、山頂までたどり着ければ、新しい世界が広がっています。

そこに向けてビーブリッドやフルノシステムズをはじめとするテクノロジーベンダーは、しっかりと現場目線でサポートしていきますし、使いこなすための支援をしていきます。ぜひ一緒にがんばりましょう。

――最後に、TECH+の読者にメッセージをお聞かせください。

私はビーブリッドの創業前はシステムエンジニアやプログラマーとして経験を積んできたのですが、日々の仕事のなかで、技術者として社会の役に立っているという実感がなかなか持てない瞬間が多々ありました。読者のみなさまもひょっとしたら同じような気持ちになったことがあるかもしれません。

そのようなお悩みを持っている技術者の方に、ぜひ介護×テクノロジーに注目していただきたいです。介護×テクノロジーは、間違いなく国民の役に立つエンジニアリングが可能な領域で、人の役に立っていることを仕事で感じることができます。さらに、今まさに技術者が強く求められています。あなたの技術を、ぜひこの業界で振るってみてはいかがでしょうか。

  • 株式会社ビーブリッド 代表取締役 竹下康平氏3

関連リンク

CareTEX東京’24の公式ページはこちら
https://caretex.jp/

株式会社ビーブリッドのホームページはこちら
https://www.bibrid.co.jp/

竹下氏の著書
『今すぐできる!仕事が変わる!!ICT導入から始める介護施設のDX入門ガイド ―準備から運用まで徹底解説―』はこちら

https://www.daiichihoki.co.jp/store/products/detail/104693.html

フルノシステムズの無線LANアクセスポイントの情報はこちら
https://www.furunosystems.co.jp/products/musenlan/acera_330/

[CareTEX東京 出展者情報]
https://www.furunosystems.co.jp/special/caretex2024

[PR]提供:フルノシステムズ