デジタルテクノロジーが急速に進化し、さまざまなシーンでの活用が想定できるようになったことで、IoTをはじめとした組み込み機器にも高い処理能力が求められるようになった。こうした状況のなか、プログラマブルな集積回路であるFPGA(Field Programmable Gate Array)への注目が高まっている。汎用性の高いICとして、以前より多様な製品に使われてきたFPGAであるが、高速演算、低レイテンシーといった特長がAI/ディープラーニングをはじめ、高度な処理を必要とする技術に有効なため、採用機器が大幅に増加。IoTや自動運転、遠隔操作、スマートファクトリーなどの分野において活用が加速している。
本稿では、IPコアをキーテクノロジーとしてビジネスを展開しているアイベックステクノロジー株式会社がリリースしている、4K対応のHEVC/H.265コーデック製品「HLD-5000」シリーズに注目。本製品はデコーダ(HLD-5000D)にインテル® Arria® 10 FPGA及びSoC FPGAを採用することで、超低遅延デコードコアを実現。エンコーダ(HLD-5000E)との対向で、コーデック時間 20msec、固定ビットレートでの安定した映像伝送など、他の製品で実現していないレベルの性能を発揮する。そこで映像業界をはじめ、自動運転や遠隔医療など、注目度の高い領域で採用されている本製品と、使われているFPGAの有効性について、アイベックステクノロジー 営業部の榎本美咲氏、システム技術部 部長の久保和則氏に話を伺った。
インテル® Arria® 10 FPGAの採用理由のひとつは、アイベックステクノロジーとインテルの密接な関係と高い信頼感
1985年に、インテルに在籍していたエンジニアがスピンアウトして設立されたアイベックステクノロジー株式会社(設立時の社名は株式会社LSIシステムズ)では、インテルで培われたトップダウン設計技術をベースに、ファブレスのLSIベンダーとして事業を開始。その後はデザインハウス(設計作業のみを請け負う企業)へと段階的に移行し、現在は自社開発のIPコア(FPGA、IC、LSIなどの回路コンポーネント設計情報)を軸に、豊富なノウハウを活かしてビジネスを展開している。
アイベックステクノロジー 営業部の榎本氏は、同社の事業内容について次のように説明してくれた。
「以前より、FPGAのコーデックIPに注力しており、フルラインナップを確立し、放送機器市場をメインターゲットとして事業を推進してきました。IPのライセンス販売だけでなく、組み込みボードに実装して販売するなど、放送業界と連携してさまざまな形態の製品を展開しています。2014年ごろからは、ターゲットを放送業界から社会インフラにまで拡大し、建機の遠隔操縦や、遠隔監視、遠隔医療、クラウド連携などの事業も手がけています。さらに2020年からは、新規事業開拓を担うCRO技術部を立ち上げ、映像伝送分野におけるAI技術の事業化も推進しています」(榎本氏)
FPGAのIPコアを中心に、放送市場向けのソリューションを提供してきた同社は、4K映像を扱いたいという放送業界のニーズに対応すべく、HEVC/H.265コーデックコアの開発をスタートした。4Kテレビ放送が開始されるより前の2013年から始まった開発は、2015年にはFPGAへの実装に着手(デコーダコア)。そこで当時、HEVC/H.265のデコーダコアを搭載できる唯一のFPGAであったインテルの「インテル® Arria® 10 FPGA」の採用を決定した。長年にわたり密接な関係性を築いてきたインテルの製品に高い信頼感を抱いていたことはもちろん、低消費電力であること、コストパフォーマンスが高いこと、内部RAMの容量が多いことなどが採用の決め手になったという。
ローカル5Gとの連携により、さまざまなシーンで超低遅延コーデック装置の活用が進む
このような経緯で開発された、HEVC/H.265コーデック装置である「HLD-5000」シリーズは2018年にリリースされている。デコーダ装置 HLD-5000Dにインテル® Arria® 10 FPGA及びSoC FPGAを採用したことで、エンコーダ装置 HLD-5000Eとの対向で、わずか20msecの超低遅延コーデックを実現。
放送業界からの要望で開発したこともあり、まずはテレビ放送などメディア関連への導入が進み、そこから、さまざまな分野で注目されるようになったと榎本氏は語る。
「わかりやすいところでは、日本を代表する歌番組などでも弊社の装置が使われています。また近年ではローカル5Gと組み合わせたソリューションとしても導入が進んでおり、ロボットや重機の遠隔操作などでも活用されています」(榎本氏)
また、技術部の久保氏も、超低遅延かつ、伝送レートが固定されることで、遅延の変動、揺らぎが問題となるような用途での活用が進んでいることを明かし、自動運転、遠隔手術、建機の遠隔操作、スマートファクトリーなどで実装実験が進められていることを話してくれた。
「自動運転ソリューションでの採用が検討されているほか、遠隔手術の実証実験等でも活用されています。また建機関係でも注目されており、ローカル5Gと組み合わせた自動走行、遠隔操作においてもHLD-5000シリーズの採用例があります。さらにスマートファクトリーでの実証実績も進んでいます。最新の導入事例としては、香川大学が取り組む光無線双方向通信における4K映像伝送の実証実験においても、HLD-5000シリーズを用いて4K映像伝送システムを構築しています」(久保氏)
最新FPGAの活用も視野に入れ、社会のニーズに応えたイノベーションを創出する
ここまで紹介してきた導入事例からもわかるように、アイベックステクノロジーが開発した超低遅延のHEVC/H.265デコーダコアを、低消費電力かつ高性能なインテル® Arria® 10 FPGAに実装したことで、活用の幅は大きく広がっている。たとえば4K撮影用ドローンに組み込むことでその省電力性により撮影可能時間が伸び、臨場感のある映像をリアルタイムで提供できるなど、さまざまなシーンで大きな効果が期待できる。実際に特殊撮影を行うドローンにHLD-5000を搭載した実績もあり、またコアの提供自体も手掛けているため、今後ドローン自体への組込みも可能になるそうだ。
「今後は、単なる映像伝送だけではなく、「伝送したデータをどう活用するのか」といった、利用シーンを見据えた事業を展開していきたいと考えています」と榎本氏。コーデック視点から映像伝送の状況を可視化するツール「HLD Watcher」を開発するなど、新たな取り組みも進めていると話す。
また同社では、自社の技術をより広い分野で活用してもらうため、インテルのFPGAにさらなる低消費電力化とハイバンドメモリ対応を期待しているそうだ。これにより、エンコーダコアの実装や、単一コア化なども実現可能となる。
久保氏は、将来を見据えたアプローチとして、インテルのアーリーアクセスプログラムに参加していると最新の取り組みに言及。「最新の「インテル® Agilex™ 7 FPGA」シリーズを使い、パートナーと共同でFPGAボードの開発を進めており、この経験が今後に活きることを期待しています」と力を込めて話してくれた。
アイベックステクノロジーの独自技術とインテルFPGAの組み合わせで生まれるイノベーションは、放送業界をはじめ、今後あらゆる領域を活性化してくれるはずだ。
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