2023年10月13日に開催されたセミナー「改めて考えるDXシステム開発 / 製造業DX World Conference 2023 秋」において、ヴイエムウェア株式会社 Tanzu Labs Senior Account Executive 上松由季氏が登壇。「DXチームの内製化を通じて変革するプロセスと組織文化 ~短期間で自走できる成果を生み出す秘訣」と題して、内製化による組織と文化の変革のポイントを解説した。

  • ヴイエムウェア株式会社 Tanzu Labs Senior Account Executive 上松 由季氏

    ヴイエムウェア株式会社
    Tanzu Labs Senior Account Executive
    上松 由季氏

開発プロセス、チーム、組織文化の変革がもたらすDXチームの内製化推進

DXで目指すのはデジタル技術を活用したビジネス変革だ。新しいビジネスを創造することや、付加価値を向上させるような施策を生み出すためには、単なるテクノロジー導入だけでなく、組織や文化を変革させていくことが重要になる。そのためDXは、内製化の取り組みやアジャイル・スクラムなどの開発手法とセットで議論されることが多い。

もっとも、単なる技術の導入に比べて、組織や文化の改革は手法やアプローチもはっきりしないことが多く、具体的な成果も見えにくい。そうしたなか、アジャイル開発などの手法を用いた内製化支援に力を入れているのがVMwareだ。1998年に米国で創業したVMwareは、サーバ仮想化を中心にデスクトップやネットワーク、ストレージの仮想化ベンダーとして知られる。従業員は3万9000人で、2003年には日本本社も設立され、国内でも馴染みのある企業だ。

注目すべきは、2020年以降、モダンアプリと呼ばれるアプリケーション開発の支援に力を入れており、Tanzu Labsと呼ばれる内製化支援サービスも提供していることだ。このサービスは、1989年にシリコンバレーで創業したPivotal Labsのサービスを拡張したものであり、アジャイル開発のコンサルティングサービスとして30年以上にわたって提供されている。上松氏は、内製化が求められる背景や理由について、こう話す。

「お客様によくあるお困りごととして、アプリケーションの少しの変更でも時間がかかりユーザーを待たせてしまう、ユーザーのニーズを捉えておらずリリースしたのに使われなかった、市場や競合の変化が激しいがゆえの変化に迅速に対応できていないなどといったことがあると思います。システムの面でも、外部に委託しているため開発の工程が見えない、内部に開発人材を持ちたいが採用に苦労しているという課題があります」(上松氏)

こうした課題は、開発プロセスを変えること、チームや組織を変えることで解決できる。そのための選択肢の1つになるのがDXチームの内製化だ。

「内製チームをどう作っていくのか。Tanzu Labsでは、開発プロセス、チーム、組織文化を変革することでこういったお悩みを解決するアプローチを提案しています」(上松氏)

Tanzu Labsの活用で、開発手法を学習しながらビジネスを支えるITプラットフォームやモバイルアプリを開発

ではどのように変革していくのか。上松氏は、Tanzu Labsが顧客と取り組んできた事例をもとにポイントを解説した。Tanzu Labsではアジャイル開発のコンサルティングサービスを提供するが、その特徴は「顧客と伴走しながら一緒に本番のプロダクトを作る」というアプローチにある。

「お客様にアジャイル開発の手法を習得いただき、チームの作り方や組織の考え方を身につけ、持ち帰っていただきます。実際、Tanzu Labsで一緒に取り組んだお客様も、開発プロセスや内製化チームの育成、組織の変革などに課題を持たれていました。この課題に対して、短期間で自走できるような内製化チームを作るために変革を起こすお手伝いをしました」(上松氏)

ある金融サービスの顧客は、新しい市場に新しいサービスを作ることを目指し、金融取引プラットフォームを開発した。その顧客は、使いやすい金融取引プラットフォームを作ること、従来型の開発手法で発生する膨大なコストと長い開発期間、アジャイル志向の新しい手法による顧客ニーズを捉えた開発をすることに課題を抱えていたという。

「私たちと一緒に最初の数ヶ月でMVP を作りその後自社で継続開発されました。今は月2000億円を超える金融取引プラットフォームに成長しています。効果として仰っていたのは、リーンスタートアップをベースとした新しい開発手法を学習しながら開発できたこと、さらにはクラウドと既存取引システムとの接続などチャレンジの多い金融プラットフォームを1年でローンチできたこと、ほかのシステム開発にもTanzu Labsのノウハウを活用できたことです」(上松氏)

  • 事例:金融サービス 金融取引プラットフォーム

また、ある運輸業の顧客は、モバイルアプリの開発でTanzu Labsを活用した。課題だったのは、以前開発した既存モバイルアプリが機能は充実しているにもかかわらず使いにくいものになっていたこと、Mobility as a Service(MaaS)の実現を見据えユーザー視点のサービスに転換を図っていたこと、内製化に必要な人材・社内知見が不足していたことだった。

「このお客様は、リーンXPを習得しスピーディーかつ継続的なアプリ改善体制を構築しました。ユーザーセントリックな視点で開発を推進できるように、チーム全体のスキルとモチベーションを向上することができました」(上松氏)

  • 事例:運輸業 モバイルアプリ

ペアプログラミングやテスト駆動型開発、ユーザーインタビューでアプローチするリーンXP

Tanzu Labsは、1989年にPivotal Labsとして米国シリコンバレーで創業し、30年以上にわたって、組織と開発プロセス変革、内製開発チーム育成と組織文化の変革を支援してきた実績がある。Pivotal Labsの日本オフィスは2015年に開設され、VMwareによる買収後もこれまで同様のサービスを提供している。

「Tanzu Labsでは、お客様とチームを組んで実践を通して、本番のプロダクトを作っていきます。本番プロダクトを作ってさらに人材を育成し『開発プロセス』『チーム』『組織』を変革していくというアプローチを採用しています」(上松氏)

  • Tanzu Labsのアプローチ

1つめの「開発プロセス」におけるポイントは、素早く仮説検証を繰り返しプロダクトが失敗するリスクを抑えること、ユーザーに本当に必要とされるものをつくること、クオリティとペースを維持しながらユーザーに価値を提供し続けることだという。具体的な開発プロセスの手法としては「リーンスタートアップ」「ユーザー中心設計」「エクストリームプログラミング(XP)」という3つの手法を組み合わせた「リーンXP」を用いる。

「リーンスタートアップでは、変化に対応するため、構築(Build)、計測(Measure)、学習(Learn)のサイクルを素早く行い、学びのサイクルにかかる時間を減らします。素早い学習サイクルでリスクを低減しながら開発するため、まずは小さく作ったものをユーザーに提供して計測してもらうことで、そこから学んだことを取り入れてまた作っていき、ユーザーのニーズをいかして開発を進めることができます。ユーザー中心設計では、実在するユーザーの、実在する課題を使いやすい形で解決します。そのために、ユーザーインタビューや分析を行い、ユーザーが利用できるかどうか、利用したいと思うかどうか、利用する必要があるかどうかに重きを置いて開発を進めます。XPは要件が変わるなかでも常に動くソフトウェアを一定のクオリティとペースを保持しながら実装を進めます。そのために、ペアプログラミングやテスト駆動型開発(TDD)を活用します」(上松氏)

  • リーンXPの開発はどのように進めるのか

DXチーム内製化の秘訣は組織をまたいだ1つのチームで小さな価値の積み重ね、学びや価値観のチーム内共有

2つめの「チーム」におけるポイントは、リーンXPによるプロダクト開発のプロセスをどのようなチームで進めるかがポイントとなる。これまでの開発では、ビジネス担当、デザイン担当、開発担当など、役割が分かれ、組織を横断した開発体制になることが多かった。こうした体制にはリスクがあるという。

「組織/会社間のコミュニケーションリスクや、開発部門/会社に無駄なものを作らせてしまうリスク、変化に柔軟に対応できないリスクなどがあります。そのため、プロダクト開発に適したチームを作るためには、開発担当、デザイン担当、ビジネス担当を1つのチームにまとめてコミュニケーションを容易にし、今後開発するにあたってのリスクを低減することが重要です。具体的には、ユーザー中心設計を担うプロダクトデザイナー、リーンスタートアップを担うプロダクトマネージャー、XPを担うエンジニアという3つの異なるロールが密にコラボレーションしながら、アプリの成功に全員で責任を持つバランスチームを作ります」(上松氏)

  • Tanzu Labsの様子

Tanzu Labsでは、実際に同じオフィスにそれぞれの役割をもったチームが集い、ストーリーカードを使ったディスカッションやペアプログラミング、全員が見ることができるモニターでのシステム環境の状況把握などを通じて一緒に作業をこなしていく。1週間の計画に沿って日々の作業のサイクルを回すことで、自分たち自身で開発プロセスを実践できるようになり、チームや組織の働き方も変わっていくという。

3つめの「組織」については、Tanzu Labsで学んだことを自社に持ち帰り、社内で拡大していくフェーズだ。Tanzu Labsでもコンサルティングなどの支援を行う。

「成功の秘訣としては、小さな価値を積み重ねて開発を継続すること、学びや価値観をチームで共有すること、さらには内製チームのマインドや価値観を保つこと、開発方法に応じた柔軟なルールの変更、上層部の理解などがあります。実際に、外部委託率100%から、5年間で内製人材500人の組織に成長したお客様や、内製化比率を15%から90%に変えたお客様がいらっしゃいます」(上松氏)

最後に上松氏は「短期間で自走できるチームづくりは、何かを変革しなければなりません。開発プロセス、チーム、組織、この3つの変革をしていくこと、そのきっかけとなるスタートダッシュをお手伝いすることで、チーム作りや内製化チームの拡大をご支援します」と話し、講演を締めくくった。

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