「中小企業の経営者のほうが、DXへの勘が冴えている」。『DXレポート』の生みの親の一人である経済産業省の和泉 憲明氏はそう語る。通信の高速大容量・超低遅延・多数同時接続が当たり前になっていく大きな流れの中で、今、どのようにビジネスを転換していくべきなのだろうか。和泉氏と、株式会社バッファロー 法人マーケティング部 部長 富山 強氏の対談を通して、DX化に向けた取り組みにどのように踏み出していくべきかを紐解いていく。

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    (左)経済産業省 商務情報政策局・情報経済課 アーキテクチャ戦略企画室長 和泉 憲明氏、(右)株式会社バッファロー 法人マーケティング部 部長 富山 強氏

DXを活性化させるインフラとは

富山氏:我々バッファローは家庭用製品のイメージを持たれることが多いのですが、実は法人向けのネットワーク製品にも力を入れています。DXに必要なインフラとして、社内のWi-Fiネットワークは、まさに基礎中の基礎部分です。その意味では、我々は「土管」を担当しているのだと社内でよく言っています。水漏れすることなく、安定して流れるしっかりした製品をお届けすることは当然として、販売店ふくめたサポート体制の構築を意識して進めております。

和泉氏:ある意味で、政府の立場に近いかもしれません。我々は『DXレポート』などを書いていますが、結局、経営者の意識が変わらなければ、何も変わりません。私自身はドイツの「アウトバーン」政策が参考になると思っています。

法定最高速度の無い自動車専用道路を全国に敷設したところ、大きな事故が多発して、保険会社が悲鳴を上げるようになりました。それでどうしたかというと、速度制限で抑え付けるのではなく、「時速160km以上で事故を起こした場合、保険金は支払わない」と、ソフト・ローを変えたんです。結果としてドイツでは、スピードを上げても安全性の高い、高価格帯の自動車産業が繁栄しました。

高速通信というベースの仕組みは用意する。その”土管"の上で頑張る企業、元気な企業が、グローバルでも勝ち残っていくと期待しています。

富山氏:政府のお考えと似ていると言われると、スケールの違いに恐縮してしまいますが、ご指摘の通り、我々が提供しているのは次世代の業務に欠かせないインフラです。ここをしっかりと築いた上で、色々なものが活性化していって欲しいと、バッファローとして考えています。

和泉氏:「次世代の業務」というのは非常に重要なポイントですね。ある自治体の首長から、「役所全体をフリーアドレスにしたい」という相談を受けたとき、「止めた方が良いです」と答えたことがあります。パソコンや電話は有線のままで、席だけ変えたいという話だったからです。

必要なのは固定席を設ける・設けないという議論ではなく、どんな働き方に刷新するか、という思想のはずですよね。DXを語る際、「理想」「あるべき姿」といった言葉がよく使われますが、これは決して現在の延長線ではなく、既存の改良品でもないはずです。

高速大容量・超低遅延・多数同時接続の通信が当たり前になっていく今、真に目指すべきワークスタイルはどんなものか。そのための通過点として整えるべき環境は何か。そういった発想が不可欠だと考えています。

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    経済産業省 商務情報政策局・情報経済課 アーキテクチャ戦略企画室長 和泉 憲明氏

潮流を読む中小企業

富山氏:ICTの進化が著しい昨今、一部の先進的な大手企業ではなくとも、高度な通信を実現できるようになってきています。中小企業で優れたDXを果たされた例を教えていただけますか?

和泉氏:ぱっと思いつくのは、とある金属加工企業です。もともとアルミ切削の町工場だったのが、加工作業を機械任せにすることで、まったく別の価値を提供できるようになった企業です。職人は加工技術のデータ収集に専念し、若い人が加工プログラムを組むことによって、「超短納期でどんなカタチでもつくるメーカー」となりました。こうなると値引き勝負の世界にはおらず、利益率は20%超を誇るといいます。NASAからも発注が来るようになり、今ではアメリカに工場を進出させ、日本の設計データを元に現地で加工して届けているそうです。

某IoT機器メーカーの事例も参考になります。中国の工場で作った製品を船便や航空便で発送していたのですが、生産段階から引当できるようにした結果、航空便が不要となりました。「X日にお届けします」とあらかじめ言えば、みんな待ってくれることに気づいたんです。利益率を大いに向上させ、今はオランダに倉庫を借りて、欧州にも正確に製品を届けています。

日本のマーケットが縮小する中、どちらの企業もデジタルで工夫して、自分たちのポテンシャルをグローバルにまで最大限発揮できるようになった事例でしょう。

富山氏:中小企業のDX事例としての話を超えて、我々としても非常に勉強になる事例です。

和泉氏:デジタルの波は、大企業も中小企業も、中央も地方も区別しません。むしろ中小企業の経営者のほうが、大きな流れを見極める力も、カルチャーをさっと着替えられる機敏さも備わっていると感じます。

富山氏:我々のお客様の事例で言うと、農場へのWi-Fi導入があります。SNSなどを利用して国際通話をできるようにして外国人従業員の満足度を高めたり、あるいは牛舎にWebカメラを設置して、牛の出産をモニタリングできるようにしたりする、といった事例があります。経営者のアイデアひとつで物事が変わり、それが雛形になって周りの同業者に広がるケースを見てきました。

和泉氏:さきほどお話した某金属加工企業の経営者は、時代の変化に対応できないような職人こそ「にわか」だと言っています。牛の顔色を見て「そろそろ産みそうだから今晩は寝ずの番をしよう」というのも、同様でしょうね。今は家族や牛がどこにいようと関係ない通信インフラがある世界です。

そして、太いネットワーク帯域があれば、テレビ会議に遅延が生じることも無くなります。先日、東京とつくばでネットワーク環境の実証を体験したところ、遅延がまったくなく、ジャンケンが普通にできるようなスムーズさでした。このように通信の制約が振り切れたときの働き方を、多くの優秀な経営者の方々が見定めていることになるでしょう。

インフラ・アプリケーション・ワークスタイルを統合的に見ること

富山氏:しかし現状は、Wi-Fiを導入したものの、機器が古いままであったりして、通信環境が業務の足かせになっている企業も少なくありません。

  • (図版)中小企業のWi-Fi導入状況
  • (図版)Wi-Fiの導入期限
  • (図版)中小企業におけるWi-Fiのお困りごと

    中小企業のWi-Fi導入状況に関する調査結果(株式会社バッファロー 2023年7月26日発表)

これは本年6月に積水化学工業株式会社・株式会社さわやか倶楽部と共同発表した事例なのですが、介護施設内のWi-Fi環境を安定化させ、すべてのベッドにセンサーを設置することによって、職員の夜間見回り回数を8割減らすなど、画期的な働き方改革を実現することができました。

弊社ではベッドセンサーとWi-Fiアクセスポイントの動作検証などの情報提供を推進していますが、これは「センサーを設置したものの、Wi-Fiが上手く繋がらない」というご相談を受けたことがきっかけです。最終的なソリューションは凄く良いのに、最初の一歩の環境構築でつまずいてしまうのは実にもったいないと感じました。

和泉氏:重要なのは「全体感」ですね。逆にWi-Fiだけきちんと整備しても、従業員が端末を何台も持って四苦八苦していたら意味がありません。インフラとアプリケーションとワークスタイル、これらを統合的に見ていく必要があります。

富山氏:統合的に見ることは、ユーザー企業だけでは難しいのかもしれません。バッファローは、ネットワーク機器のリモート管理サービス「キキNavi」をクラウドで無償提供しているのですが、嬉しいことに、地域の販売店やSIerがこのプラットフォームをベースに、保守サポートや予知保全などのソリューションを付加して提供されているケースもございます。リモート監視によってユーザーやベンダーのIT人材不足にも貢献できている実感があり、メーカーとベンダーとユーザーが一体となって取り組めているいい事例かと思います。

和泉氏:予知保全の方向性は、どのビジネスにとっても、今後、重要なピースになると思います。これからは、勘ではなくデータから予測構造を立てていくこと、モノの世界からデータの世界になっていくことが当たり前になっていくことでしょう。その際、モノにばかり着目していると、デジタルという大きな変化の本質に目が向かない、という可能性が生じます。モノへの投資は、そういった見通しを踏まえて考える必要があると思っています。

“本質の掴み方”とは

和泉氏:デジタルの潮流がこの先どうなるのか。不透明なところはありますが、通信の高速大容量化やマルチデバイスが当たり前になっていくというのは、間違いないと言って良いでしょう。そこから「逆算」して、既存のインフラをどう刷新すべきなのか検討して欲しいと思います。今を起点にすると、「本当の本質」を掴みきれないかもしれません。

富山氏:本日は、大変勉強になるお話を聞かせていただきました。盤石なインフラを整備するための長期安定稼働する製品の開発・販売はもちろんですが、それだけではなく、なんのための機器導入なのか?をもう一度問い直し、その先にある目的の実現を、パートナーと協力しながら進めていきます。

  • (写真)富山様

    株式会社バッファロー 法人マーケティング部 部長 富山 強氏

アフタートーク ~対談を終えて~

和泉氏:なぜ10年以上、皆さんはずっとトップカンパニーであり続けられているのでしょうか。ISDNの時代から今まで走り続けてこられるのは、並大抵のことではありません。

富山氏:バッファローは日本の会社であり、自社でエンジニアを抱えていて、開発の際は自社エンジニアが直接お客様の声を聴き、必要十分なソリューションに焦点を当てて機能の取捨選択をする「引き算の開発」を行っています。長期安定稼働を実現する製品開発に徹底的にこだわりながらも、必要以上のコストが掛からないようにすることでお客様の導入負荷の軽減に努めています。

たとえば、無料で使えるネットワーク機器のリモート管理サービス「キキNavi」は、なかなかネットワーク管理にコストを割きづらい中小企業に向けて開発したものですし、新製品のWi-Fiアクセスポイント「WAPS-AX4」も、省スペース化を実現しつつもWi-Fi6に対応し、SOHO・小規模ユーザーであっても導入がしやすい製品となっています。

また日本の企業は、SIerなど社外リソースへの依存率が高いですよね。ですからユーザー企業だけでなくSIerなどのベンダーに対する支援も重要視しています。

このように柔軟にアジャストし続けられる、ということが我々自身の強みになっているのではないかと考えています。

和泉氏:テレビ出演している芸人さんでたとえると、皆さんは一発屋ではなく、長く活躍し続ける司会者のような存在に近いのかなと感じました。何がどうすごいのかは説明しにくいけれど、時代が変わってもずっと番組に出演し続けている。変化になぜ対応できるのか、そしてこれからどう価値を提供していくのか、ということをもっと積極的にアピールされたほうが良いと思いました。

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