日本におけるクラウドのビジネス活用に先鞭をつけた「Salesforce」は、今や企業のITポートフォリオを構成する主要コンポーネントのひとつだ。このSalesforceを基盤として、単なる業務の「デジタル化」を、さらに大きな価値を生む「DX」へつなげていくうえで、重要なカギとなるのが、「DevOps」だ。「DevOps」とは、開発と運用を一連のサイクルとして捉え、迅速なリリースと改善を実現する取り組みである。
今回、セールスフォース・ジャパンと、Salesforce向けのリリース管理ツールを提供する米Flosum社、Flosumの国内販売パートナーであるテラスカイの3社が、Salesforceが提供するプラットフォームの価値を最大限に高めるための「DevOps」の現状と将来像について、意見交換を行った。
【出席者】
株式会社セールスフォース・ジャパン
カスタマーサクセス統括本部 クライアントエンゲージメント本部
製造・自動車・通信・メディア担当 執行役員
森岡 義貴 氏
Flosum Corporation.
CEO & Founder
Girish Jashnani 氏
株式会社テラスカイ
クラウドインテグレーション統括本部 カスタマーサクセス部 部長
吉清 隆之 氏
「ITの主導権を取り戻す」ことが多くの日本企業における課題に
―最初のテーマとして、今注目されている「DX」や「DevOps」への取り組みの状況について、米国企業と日本企業の違いといった視点を交えながらお話をいただければと思います。
Jashnani氏:現在、あらゆる業種、業界において「ソフトウェア」の重要性が増しており、すべての企業が「ソフトウェア企業」であると言ってよい状況です。さまざまな要因で、ビジネス環境は急速に変化します。その中で、企業が競争力を高め、生き残っていくためには「イノベーション」を生み出すことが必要で、それがDXの要諦になります。イノベーションを素早く進めていくためにはテクノロジーの力が不可欠です。テクノロジーの力によって、規模の点でも、革新の効率という点でも、エッジを利かせることができます。
ただ、「すべての企業がソフトウェア企業になっている」と言っても、企業のすべてが、いわゆるネットサービス企業やソフトウェア開発専業の企業のように、テクノロジーの専門知識を持っているわけではありません。最終的には、自社でそうした知識を獲得したいと考え、そのための取り組みを行っているケースもありますが、短期間に実現するのは容易ではありません。
企業がDXを推進していくうえで、やらなければならないことや獲得しなければならない知識は、非常に多くあります。ソフトウェアの継続的かつ迅速なリリースを実現するための「DevOps」は、その重要な一要素となります。DevOpsの導入と効率化は、DXを迅速に進めるうえで効果的な方法だと考えます。
吉清氏:Jashnaniさんの印象として、IT企業ではない、一般的な企業のIT部門について、日米での違いを感じることはありますか。
Jashnani氏:従来の一般的な日本企業の場合、ITプロジェクトはSIベンダーに全体を発注することが多いですよね。米国の、いわゆる大手エンタープライズ企業では、彼ら自身が責任を取ってITプロジェクトをリードします。その際に、もしリソースが足りなければ、SIベンダーに依頼してその補完をするといった感じです。企業自身が、IT戦略とそれを推進するカルチャーに責任を持つという意味で、オーナーシップは米国のほうがより強いように感じます。
森岡氏:日本でも現在、米国式にIT戦略のオーナーシップを発揮したいと考える企業が増えてきており、その一環として自社でITプロジェクトの企画、開発、運用を手がける「IT内製化」の取り組みが注目されています。Salesforceのお客様にも、そうした企業が増えていますね。
内製化をすると、自社の業務やカルチャーをよく理解している方たちが直接システムを手がけるわけですから、何か実現したいことがあれば、すぐに実現へ向けて着手できます。とはいえ日本は、主に過去の経緯から、ユーザー企業ではなく、SIベンダーにIT人材が偏っている現実がありますので、内製化ができている企業は、ごく一部であるというのも事実です。IT人材の不足が深刻な企業では、開発だけでなく、場合によっては運用も含めて外部に委託せざるを得ないこともあり、どうしても「スピード感」は落ちてしまいますね。
吉清氏:先ほど、Jashnaniさんが「あらゆる企業がソフトウェア企業になる」という話をされていましたが、日本企業の上層部にもそうした意識を持っている人は増えていますね。組織としても「内製化」を進めなければという思いは非常に強くなっているのですが、森岡さんがおっしゃったように、日本の技術者は多くがSIベンダーに所属していて、ユーザー企業にはあまりおりません。その点では各企業が非常に苦労されているようです。
テラスカイでは「内製化」の支援も行っていますが、Salesforceは、まさにそのための有用な基盤になっています。Salesforceのメリットは、SaaSであることに加えて、開発言語によるプログラミング、いわゆる「プロコード」のスキルがなくても、ビジュアルなノーコード環境でシステムを作れる点です。IT人材が不足している企業であれば、まずは社内の人材をノーコードが扱える人材へと転換していく、といった内製化支援をテラスカイでは提供しています。
Jashnani氏:内製化をうまく進められている企業というのは、日本で増えてきているのでしょうか。
吉清氏:一部の先進的な企業は、そうした取り組みに成功しています。採用の枠組みを変えてIT人材を自社で確保し、さらにDevOpsの仕組みを取り入れることで、以前には考えられなかったようなスピードでソフトウェアのリリースサイクルを回せるようになった企業は実際にあります。しかしIT人材不足に悩んでいる企業のほうがまだ圧倒的に多いと思います。
リスキリングなどを通じて、社内の人材をノーコード、ローコードの開発者に転換できたとしても、まだDevOps環境の導入までは手を付けられていないという企業は多く、その点でかなり格差が生まれてきています。そうした格差は、結果として企業全体の収益にも影響を与えています。
国内外のDX先進企業が活用する「Flosum」とは
―ここで「Flosum」というツールについて、具体的な機能や導入事例を教えてください。Jashnaniさんは、以前、セールスフォースでカスタマーサクセスを担当されていたとのことですが、Flosumという企業を立ち上げるきっかけはどのようなものだったのですか。
Jashnani氏:私がSalesforceに在籍していた当時から、Salesforceのエコシステムに「DevOps」のためのパッケージソリューションはありました。しかし、それらはたとえばC#やJavaなどを用いた、従来のソフトウェア開発向けのツールや方法論を、Salesforceにも適用するようなものでした。
Salesforceは大変ユニークなプラットフォームです。Apexのような言語を用いてプロコード開発ができるだけでなく、完全にビジュアルな環境で、ノーコードによるアプリケーション開発、変更が行えます。このノーコード環境は、専任の開発者だけでなく、ビジネスユーザーも扱うことが可能です。そうしたSalesforceならではのユニークな特性に対応できるようなソリューションが必要だと考え、Flosumを設立しました。Flosumの主要機能は、Salesforceに最適化されたリリース管理機能です。エンタープライズに求められるセキュリティやコンプライアンスといったガバナンス要件を確保できるものになっています。
Flosumは、システムの内製化にあたって、開発と実行の間にあるギャップを埋めるものだと考えています。先ほども申し上げましたが、DevOpsのスキル獲得や仕組み作りというのは簡単にできるものではありません。組織に合ったDevOps体制の構築には、多くの技術を使いこなす必要があり、加えてセキュリティやテストといった周辺知識も必要になります。そこで「Flosum」が役立ちます。Salesforceの知識があれば、簡単にFlosumの使い方を理解することができます。リリース管理は、あくまでもDevOpsを構成する要素の一部ですが、Flosumを利用することで、その領域の学習コストを下げつつ、DevOpsの恩恵を享受しやすくなります。
―グローバルでは、どのような企業がFlosumを導入していますか。
Jashnani氏:Flosumがフォーカスしているのは、主にエンタープライズのSalesforceユーザーです。一般的には開発者が20名以上いるような組織がターゲットになります。業種、業界は関係なく使われていますが、特に規制の厳しい金融サービスや政府機関、医療やライフサイエンスといった企業での採用が多いですね。
吉清氏:テラスカイでは、2019年から日本の代理店としてFlosumのライセンス販売を行っています。我々が内製化をご支援させていただいた中で、先進的な成功事例として挙げられるのは、ホームセンターチェーンを展開するカインズ様です。
カインズ様ではSalesforceを活用した内製化を積極的に進めておられ、その際に重要となるリリース作業の効率化を目的として、Flosumを導入されました。同社ではもともとSalesforce標準の「変更セット」を使ってリリース作業を行っていたのですが、リリース前のチェックなどに時間がかかっていて、1回の作業に3時間ほどを要する状況でした。これが、Flosumを導入したことで約30分に短縮されています。
テラスカイではカインズ様に、Flosumのサポートと合わせて、Salesforce CoEの設置もご提案しました。Salesforceは、アプリケーションが非常に作りやすいプラットフォームである半面、さまざまな立場の人が手を加えることができるため、大規模に使っていく際には、ガバナンスの確保が不可欠になります。そうしないと、複数のアプリケーションでリソースの競合を起こしたり、本来であれば本番環境に上げてはいけないものをリリースしてしまったりというようなミスも起こりがちになるからです。
カインズ様では、もともとCoEを設けていなかったのですが、より効果的に多くのチームでアジャイル開発が継続できる体制を作っていくには、CoEが必要だということをお伝えして、CoEに準じた組織として、各開発チームの代表者から成るSalesforce横断管理チームを設置しました。設置後、横断管理チームを中心にリリースサイクルの見直しや、社内での開発支援などの取り組みを進め、一気に開発スピードが上がりました。作業時間の大幅な削減と、横断管理チームによるガバナンスが効果的に行われたことで、リリース回数を増やすことができ、現在では、週単位や日単位での迅速なリリースサイクルを実現しています。この成功を受けて、DevOps体制の本格的な拡大と、並行開発の促進に道筋をつけました。
―テラスカイとFlosumは、2023年6月に国内独占販売契約を締結しました。改めてパートナーシップを強化するに至った背景を教えてください。
吉清氏:テラスカイとしては、Flosumの有用性を高く評価しており、より多くの国内企業で活用してほしいと考えています。しかし、テラスカイ1社だけでの取り組みには限界があります。そこで、まず当社が一次代理店として広く販売パートナーを募り、パートナー企業に対しても、我々が支援を行いながら、導入規模を拡大していきたいと考えました。
既存のお客様からはFlosumの日本語化に対するニーズが高いので、その対応を行いつつ、これまでの導入支援を通じて蓄積したノウハウやナレッジについても、パートナーのみなさんに共有していきたいと考えています。
Jashnani氏:テラスカイと一緒に、日本でのビジネスを今まで以上に積極的に展開できることを、とても喜ばしく思っています。過去に3年ほど一緒に仕事をさせていただく中で、両社には素晴らしい信頼関係が構築できていると感じています。日本のユーザーに対して、より質の高いトレーニングやサポートを提供していきたいと望む中で、両社の関係性をさらに拡大したいという思いから、今回の契約に至っています。
いま「DevOps」にチャレンジすべき理由とその重要性
―DXを視野に内製化の体制を作っていくうえで、「ビジネス部門」と「IT部門」の間に深い溝があるというのは、日本企業が喫緊に解消していくべき課題だと思います。SalesforceというプラットフォームとFlosumというツールの組み合わせは、その課題解決にどう役立つのでしょうか。
Jashnani氏:ユーザー部門で小規模なアプリケーションの開発や改善を行える人材を「シチズンデベロッパー」と呼びます。Flosumを使うことで、シチズンデベロッパーの方々がSalesforce上で確実に、適切な変更を加えられるような環境作りのお手伝いができます。シチズンデベロッパーとIT部門間のコラボレーションは活性化したいけれども、十分なガバナンスも確保したいという悩みを解消できます。Flosumでは、本番環境のアプリケーションに変更点が反映される前に、自動的にテストやチェックを行えるような仕組みを提供しています。これによって、IT部門の負荷を上げることなく、開発生産性の向上とガバナンスの確保が可能になります。
森岡氏:私どものプロフェッショナルサービスが入っているお客様でも、DevOps体制の構築を進めています。そうしたお客様は、導入したSalesforceから最大限の価値を引き出すために、DevOpsのコンセプトが極めて重要であることを理解しておられますね。
これは「リリースサイクルを短縮する」という視点もありますが、組織として「Salesforceの活用度を高める」という観点で、より意義のある取り組みです。CRMは基幹系のように「絶対に使わなければ仕事が回らない」システムとは少し役割が異なるため、導入後に組織へいかに定着させるかが重要なのです。そのため、ユーザーの活用状況や課題をモニタリングし、改善策をすぐに次の開発サイクルにフィードバックして、迅速にリリースしていくというサイクルが大切になります。
このサイクルがうまく回るようになると、導入したシステムが常に進化し続けるようになります。ユーザーに使われずに塩漬けになってしまうようなことがなく、常に使われ続ける仕組みとなることで、結果的にお客様のビジネスに対し、CRMが提供できる価値も増えていきます。
DevOpsの実践は、CRMアプリケーションに対するユーザーの要望を迅速に反映し、システムの活用度を高めることにつながります。そして、CRMへ常に追加される鮮度の高いデータを、意思決定やAI活用などに生かすことができるわけです。
こうしたことは、作ったものに対するフィードバックを受け、それを活用して次のアクションへ迅速に生かせる運用の仕組みがあってこそ可能であり、それが「DevOps」の根底にある考え方です。ユーザーのみなさんが、導入したSalesforceを末永く活用し、成果を最大限に引き出すうえで、DevOpsの重要性は、今後さらに増していくと思います。
3社が示す日本企業のDXを加速させる「Salesforce+DevOps」への道標
―最後にそれぞれ、今後の日本のSalesforceユーザーや企業に対して伝えたいことをお話しください。
森岡氏:セールスフォースからは、大きく2つあります。ひとつは、Salesforceユーザーにおいて、Salesforce製品だけでカバーできない要望や課題がある場合、まずは「Salesforce AppExchange」の活用を考えていただきたいということです。
「AppExchange」では、多くのサードパーティが、Salesforceの機能を補完する、さまざまなソリューションを提供しています。お客様によるSalesforce活用事例共有の場でもAppExchangeの活用について言及されることが増えてきました。Salesforceだけでは解決できないニーズが生じたときに、まずはAppExchangeを探してみていただくと、やりたいことを実現できるまでの時間を、大幅に削減できるケースが多いと思います。
もうひとつは、Salesforceを活用した「DevOps」に、ぜひチャレンジしていただきたいということですね。「内製化」の体制をすぐに作ることは難しくても、少なくとも開発運用の仕組みを、すべてSIベンダーに任せるのではなく、ユーザー企業が主導権を持って進め、そこにSIベンダーがサポートに入るという形を作っていくことは可能ではないでしょうか。その中で、自分たちができる範囲を増やしていくことが、必然的に「内製化」の促進につながるように思います。
Jashnani氏:私からは、「イノベーションのスピードを上げる」ために必要な仕組みづくりを考え、即座に着手することをお勧めしたいと思います。そのためには、優れたソフトウェア開発のプラクティスが必要だと思いますし、テクノロジーを最大限に活用することが必要です。近年であれば「AI」の活用もひとつの選択肢ですし、今後の企業にとって、AIの活用は、ほぼ必須になると思われます。
ただ、AIから価値を引き出すためには、まずデータを十分に蓄積することが必要で、そのためには、アプリケーションの活用度を高める施策としての「DevOps」体制の構築が効果的です。いきなり「AI活用」から始めようとするよりも、その下地としてのDevOpsに取り組むほうが、よりハードルは低いと思います。その構成要素としてのFlosumは、既に実績のあるテクノロジーに基づいていますし、導入企業でのROIも実証済みです。まずは、DevOpsから始めて、そこからより多くの派生するテクノロジーへと取り組みを拡大していくという方法も良いのではないでしょうか。
吉清氏:テラスカイとしては、今日、我々がここで話したような「Salesforce+DevOps」の考え方を、より幅広いお客様に広めていきたいと思っています。多くの日本企業は、開発にしても、運用にしても、これまで大手SI企業が勧めてきたやり方を、そのまま受け入れるというパターンが多かったと思います。これからはそうではなく、自分たちにとって最適な「DevOps」のあり方を考え、現場でしっかり回し、定着させていくことが大事になると思っています。その際、必要に応じて、Flosumのような生産性や効率を高められるツールを合わせてご提案していきたいと考えています。
―ありがとうございました。
関連リンク
- Flosum Corporation. https://www.flosum.com/
- 株式会社セールスフォース・ジャパン https://www.salesforce.com/jp/
- 株式会社テラスカイ https://www.terrasky.co.jp/flosum/
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