デジタル化の波が押し寄せる昨今、情報システム部門においても、従来の業務と新しい挑戦とのバランスや組織のありかたについて、見直しを迫られたり課題に感じたりしている方も多いのではないでしょうか。

2023年3月23日に開催したインターネットイニシアティブ(IIJ)主催のセミナーでは、こうした課題に対する一つの解として、株式会社クレディセゾンのシステム戦略の考え方や内製開発を組織に浸透させた成果と、それらを実現するための人材確保に向けた取り組みの具体例が紹介されました。本記事では、前半の講演セッションと、後半の視聴者から寄せられた質問に回答するQ&Aトークセッションの2部構成で展開された本セミナーの模様をお届けします。

1部:クレディセゾン流!DX時代のシステム戦略と組織づくりの勘どころ

株式会社クレディセゾン  取締役(兼)専務執行役員 CDO(兼)CTO 小野 和俊 氏

株式会社クレディセゾン 取締役(兼)専務執行役員 CDO(兼)CTO 小野 和俊 氏

株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ)では、企業の情報システム部門で働く方に向けた情報発信を行う「IIJ 情シスBoost-up Project」を推進している。この活動の1つであるIIJ Motivate Seminarの第2回では、株式会社クレディセゾン 取締役(兼)専務執行役員 CDO(兼)CTOの小野 和俊 氏が登壇。「CIOに聞くシステム部門に求められる変革とその判断 ~クレディセゾン流! DX時代のシステム戦略と組織作りの勘どころ~」と題した講演を行った(小野氏は2023年3月まで同社のCIOを務めていた )。

小野氏は1999年にサン・マイクロシステムズに入社し、シリコンバレーの本社でプロジェクトに携わった後、2000年にITベンチャー、アプレッソを起業。2013年にアプレッソは資本業務提携によりセゾン情報システムズにグループ入りし、2019年にはセゾン情報システムズの大株主であるクレディセゾンに異動。CIOとしてデジタルを活用した事業から組織の在り方まで、幅広い領域の
経営改革に携わってきたという。

「クレディセゾンと聞くとクレジットカードをイメージする方が多いと思いますが、現在は住宅ローンや家賃保証など不動産を中心としたファイナンス事業も展開、グローバルなビジネスも急速に拡大し、総合的な金融会社となっています。クレジットカード事業はリアルの店舗を持つ企業と提携するなかで成長してきましが、世の中にデジタル化の波が押し寄せてきて、ECサイトやモバイル決済といったデジタルシフトが求められるようになり、事業の構造自体を変革しなければ成長が見込めないという経営課題に直面しました」(小野氏)

当時、クレディセゾンのIT部門は基幹システムの更改と開発・設計を含めITに関わるすべてを外部ベンダーに依存していたため、ITコストが増大していたという。

バイモーダルのモード1、モード2をシームレスに運用するグラデーション組織を目指す

こうした状況のなか、CIOとしてシステム戦略や組織づくりも含めたクレディセゾンのDX、経営改革に取り組むことになった小野氏は、会社の置かれている現状や企業風土、システム周りを綿密に確認し、やるべきことを整理。フェーズ1としてデジタル組織の立ち上げに着手し、その前提として社内のシステムを3つのカテゴリに分類していく。

 分類1   基幹システム    顧客管理、オーソリ、入出金、残高 
 分類2   コア業務アプリ   入会審査、与信管理、不正検知、回収 
 分類3   デジタルサービス   DMP、MA、ポイント、スマホ、スコアリング 

「クレディセゾンでは100を超えるシステムが業務で使われていました。まずはシステムを「基幹システム」「コア業務システム」「デジタルサービス」の3つに分類しました。その結果見えてきたのは、全社のシステムアーキテクチャーを木に例えると、幹の部分(基幹システム)は太く、栄養が行き届いている反面、枝葉(コア業務システムやデジタルサービス)に栄養が行き届いていないこと。そこでシステム周りの課題を3つに整理し、最終的に目指すべき全社アーキテクチャーをイメージするところから始めました」(小野氏)

  • 全社システムアーキテクチャー2019年時点(左図)と目標イメージ(右図)

    全社システムアーキテクチャー2019年時点(左図)と目標イメージ(右図)

小野氏は、システムアーキテクチャーの課題として「基幹システムの存在が大きすぎること」「システム間連携が不十分なこと」「デジタルサービス開発のスピードが不足していること」の3つを挙げる。基幹システムに関しては不変的機能に絞り込み、安定化・固定化を図り、システム間連携では連携基盤(Internal API)の内製開発に着手。最初のステップとしてデジタル組織の立ち上げに尽力したと話を展開する。

「外部ベンダーへの依存から脱却するには、IT人材が社内にいる必要があります。もちろんIT部門はありましたが、ユーザー(業務)部門とITベンダー間の“翻訳”が主な業務になっていて、業務としてソースコードを書いたり、実際のインフラ構築に携わったりする人はほとんどいない状況でした。そこでデジタル部門を新設し、プログラマー、サイバーセキュリティスペシャリストなどを中途採用してチームを構成し、できることから始めるという形でDXを進めていきました」(小野氏)

時には対立しながら、新設したデジタル部門と従来のIT部門は組織間連携を強め、最終的には従来の安定性・堅牢性を重視する部分と、アジャイルや内製化、クラウド活用などスタートアップ的な強みが必要な部分に組織全体で対応するグラデーション組織の実現を目指したと語る。

謙虚さ、尊敬、信頼の3つの価値観を重視する「HRTの原則」を根底に置いてCX/EXを推進

株式会社クレディセゾン 取締役(兼)専務執行役員 CDO(兼)CTO 小野 和俊 氏

セッションの後半では、クレディセゾンが掲げるDX戦略である“CSDX”の詳細が解説された。CSDXを策定するうえで注意したのは“DXを前面に出して技術だけが主語になるような進め方はしない”こと。小野氏は「デジタル技術の利活用は“手段”であり、重要なのは、その結果としてお客様の体験がどう変わったか(Customer Experience:CX)、または社員の仕事の体験がどう変わったか(Employee Experience:EX)です」と語る。

CX/EXを実現していくうえで、同社が重視したのは「内製化」と「バイモーダル戦略の推進」の2つだ。クレディセゾンのDXに関する方針は、金融機関に求められる安定性重視の「モード1」のカルチャーと、スピードと柔軟性とが求められる「モード2」のカルチャーを共存させるバイモーダル戦略を基礎としているという。「すべてを内製化するのではなく、内製化やアジャイルなどスタートアップ的な考え方を、モード1オンリーだった環境に対してどうインストールして
いくかを考えました」(小野氏)

既存のIT部門とデジタル部門では価値観が違うのでお互いを認められず、対立が起こる。このコンクリフトをどう解消するかが、バイモーダルの勘どころであり、解決の鍵を握る概念として「HRTの原則」を挙げる。

「Googleのエンジニアも実践している「HRTの原則」は、謙虚さ、尊敬、信頼の3つの価値観を大切にするという考え方です。価値観の異なる人同士のコンクリフトも、この3つを念頭に置いてコミュニケーションを図れば解消することができます」

こうしてHRTの原則でお互いを尊重しながら、モード1とモード2が混じり合うグラデーション組織の実現を目指した小野氏は、デジタル人材を「レイヤー1:コアデジタル人材」「レイヤー2:ビジネスデジタル人材」「レイヤー3:デジタルIT人材」の3つのレイヤーに分類。

  • HRTの原則を尊重したデジタル人材のレイヤー分類

    HRTの原則を尊重したデジタル人材のレイヤー分類

レイヤー1はデジタル部門中心、レイヤー3は従来のIT部門中心となり、その中間に位置する“ビジネスデジタル人材”について、小野氏は「ビジネス(ユーザー)部門から社員を募集し、デジタル化を推進する人材に育てるという取り組みで、この部分がCSDXにおいては極めて重要な役割を担いました」と説明する。このデジタル人材の創出は継続的に取り組まれており、2021年度には150人だったデジタル人材を、2024年度には1,000人規模に拡充する予定だという。

さらに、クレディセゾンがデジタル人材の創出と併行して取り組んだのが「伴走型内製開発」の推進。内製チームを立ち上げ、デジタル部門とビジネス部門が一体となって柔軟なシステム開発を実現する伴走型内製開発を加速させたことで、開発に柔軟性を持たせるだけでなく、開発コストの削減にもつながったと話す。

「冒頭で話したシステム連携基盤(Internal API)は、内製チームによりフルクラウド型として開発されました。これは非常に大きな成果で、10年をかけて更改されたモード1を司る基幹システムの安定性を担保したうえで、このAPI基盤によってモード2の強みを付加できるようになりました。こうした成果を踏まえ、2024年度までに主要システムのクラウド活用率を8割にまで引き上げていきたいと考えています」

経営層も含めたCSDX推進会議を定期開催し、全社横断型でTo-Beモデルのデジタル変革を進めていく

小野氏を中心にクレディセゾンが取り組んできたデジタル化の取り組みは、すでに多くの効果が現れている。「たとえば内製開発案件の開発コストが61.8%削減できたり、セゾンカードの不正利用防止率を3年間で81.4%から92.5%に引き上げたりと、CX/EXを実感できる成果が出てきています」と小野氏は語る。

また同社では、目まぐるしく移り変わる社会や市場の変化に対応するため、2021年より社長以下、役員全員が参加するCSDX推進会議を月一で開催。会議の半分をフリーディスカッションとすることで、推進状況の共有と横断的な検討ができる体制を構築しているという。

「CSDX推進会議でも頻繁に話題にあがりますが、デジタルを活用したビジネスモデルを構築するうえでは、現在位置を確認して改善の積み上げを行うフォアキャスティング型ではなく、未来のあるべき姿を考え、そこから逆算して何をすべきかを考えるバックキャスティング型で進めることが重要です。これからもTo-Beを意識しながら抜本的な変革を進めていきたいと思います」と小野氏は語り、前半の講演セッションを締めくくった。

2部:Q&A・トークセッション

セミナーの後半は視聴者参加型のQ&A・トークセッションとなり、小野氏と株式会社インターネットイニシアティブ サービスプロダクト推進本部 ビジネスデザイン室 シニアプログラムマネジャー 向平 友治 氏の掛け合いによりセッションが進行した。

  • IIJ 向平氏(左)と株式会社クレディセゾン 小野 氏(右)

    IIJ 向平氏(左)と株式会社クレディセゾン 小野 氏(右)

※青文字…視聴者からの質問

Q: 情報システム部門が実施すべきことや目標は、経営との目線合わせが必要だと思いますが、クレディセゾンでは、どのようにやるべきことや目標を定めているのでしょうか。たとえば経営側から具体的な指示が来るような形でしたら、それをどうかみ砕いてアクションに落としているのでしょうか。

向平氏:
まずは「すべきことを定めるプロセス」というテーマの質問から始めたいと思います。小野さんが入られる以前に、クレディセゾンが抱えていた課題意識とはどのようなものだったのでしょうか。

小野氏:
もともとセゾンカードは、実店舗をお持ちの企業との提携で成長してきたという経緯があり、デジタルシフトの流れそのものが経営課題となることは、私がジョインした2019年当時から認識されていました。ただし、その課題に対してどうすればよいのかという“答え”はなく、DXに関してもやるべきということは決まっていたものの、何をすればよいのかわからない状況でした。そのため、経営層からの具体的な指示やプランというものは明確になっていませんでした。

向平氏:
トレンドの変化や、自分たちが置かれている状況に対する危機感はあって、それに対して何をすべきかクリアに定まっていない状況で小野さんが入られて、前半のセッションで話されたDXの取り組みを進められたということですね。DXを推進するプロセスとしては、小野さんと経営層の間ですり合わせたうえで進められたのか、または現場(事業部門)の課題やIT部門への要望を吸収していくところから始められたのか、どのようなアプローチで始められたのでしょうか。

小野氏:
「経営優先レーン」と「社員実体験レーン」という2つのレーンを用意し、併行して進めていきました。経営優先レーンに関しては、数年後を見据えた中長期計画をもとに、私が最優先と考えた経営課題や改善余地といったものを適宜経営層と話し合いしながら提示し、経営優先度の高そうなものをセレクトしました。ただし、これだけをやっていたのでは現場の社員のモチベーションが下がります。

「DXは自分たちに関係ないもの」と感じてしまうため、もう1つの社員実体験レーンを用意し、多くの社員の業務が明確に変わるような取り組みを進めました。デジタル組織の取り組みにより、「明らかに自分たちの仕事がやりやすくなった」「お客様から喜びの声が増えた」といったDXの効果を実体験してもらうことで、CX/EXを推進しています。

Q:DXに対して現場からの抵抗があるのではと感じています。DX推進時に現場からの抵抗として想定されることと、その対処法をどうお考えでしょうか。

小野氏:
この文脈での“現場”には、事業部門の現場とIT部門の現場という2つの意味があると思います。前者は、先ほど話した社員実体験レーンを設けることで、机上の空論ではないことを理解してもらっています。後者のIT部門に関しては、確かに「DXこそが正解で全員トランスフォーメーション必須で、今までのやり方を根本から変えてください」としてしまうと、今まで先輩から教わってきた仕事の仕方を全否定されたと抵抗を感じてしまうケースが少なくありません。

そこで活かせるのがバイモーダルの考え方です。実際、確実・正確に全件チェック、といったモード1の仕事をしてきた人に、いきなり「アジャイル」と言っても対応は難しい。そこで、モード1の仕事に対する価値が色あせるわけではないことをしっかりと説明し、これからもお願いしますとリスペクトしていくことが大切です。今までのやり方はダメ、転換できない人は不要! としてしまうと、現場からの反発・抵抗は避けられません。

Q:DXを推進するにあたっては、「人材の育成」以前に、「人材の確保や獲得」ができないという悩みをよく聞きます。クレディセゾンでは人材不足に対してどのように対処しているのでしょうか。

向平氏:
クレディセゾンのデジタル組織は、外部からモード2を担う人材を採用されていますが、人材を確保するために工夫された点などはありますか。

小野氏:
人材の採用にあたって考慮したのはリテンションについてです。多くのエンジニアを採用しても、同じくらい辞めてしまうのではプラスマイナスゼロです。そのため、リテンションをセットで考えることを前提に、採用についてはいろいろと工夫しています。まず、最初の2年間は私の個人ブログからのみの採用としました。基本的に人材採用の主管部門は人事部だと思いますが、採用部門が求人票という言葉に落として、それをもとに人事がエージントと話して……と進めていくと、それぞれのレイヤーで伝聞の誤解というか、ズレが生じてくる。こうした流れで採用すると、採用した人材が考えていた仕事と実際の仕事の内容に齟齬が生じて、辞めてしまうケースも出てきます。そこで、翻訳の入らない私自身の言葉で伝えられる個人ブログから人材を募りました。これは個人ブログに限らず、たとえば企業の採用特設ページなどで伝えられると思います。

向平氏:
確かに人事部門に投げてあとはお任せというケースは多いと思います。DXを推進する組織の思いをダイレクトに伝えるチャネルを持つことが重要ということでしょうか。

小野氏:
そうですね。もちろん、勝手に進めるのではなく、人事にも経営層にも確認を取ったうえで、自分の個人ブログから求人をかけています。結果として、個人ブログからの採用だけでデジタル組織のチームを作ることができました。

Q:アウトソーシングの強みのひとつに保守があると思います。業務の内製化を進めるにあたって、障害対応・保守業務、サポートすべてを内製化していかれる予定でしょうか。

小野氏:
バイモーダルの考え方で開発を進める際には、どの案件に最優先で対応すべきなのかを模索しながら進めることが重要なため、内製化が必須です。とはいえ、システムが完成したあとの保守・運用や障害対応までを内製チームで担うのがベストなのかは難しい問題です。前半のセッションで話したシステム連携基盤(Internal API)に関しては、運用・保守も内製で行っています。これには重要な勘どころがあって、運用・保守の仕組みをモダン化していく必要があります。クレディセゾンでも、何かあれば自動的に担当者に連絡がいくような仕組みを構築し、期間となるシステムに関しては内製チームで運用・保守が行えるようにしています。

「システム部門に求められる変革とその判断」をテーマに展開された本セミナーでは、「グラデーション組織」「内製化」「バイモーダル戦略」「HRTの原則」など、情報システム部門の変革において重要となるキーワードを確認することができた。

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  • インターネットイニシアティブ モチベートセミナー第2弾

インターネットイニシアティブ(IIJ)では、情報システム関連部門で働く方に向け、日々の活動や組織運営のヒントとなる情報を「IIJ 情シスBoost-up Project」を通してお届けしています。その活動の1つである「IIJ Motivate Seminar」では、企業ITの最前線で活躍するキーマンを招き、情シス担当者の視座やモチベーションを高める講演を展開。このほかイベントやIIJ独自の調査レポート、オンラインコンテンツなど最新の情報は、以下よりご覧ください。
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