高岡市・庄川沿いの調整池、枯葉が詰まって機能不全になる恐れ

富山県高岡市は、県北西部に広がる県内第2の都市である。古く前田利長の高岡城下町として栄え、廃城後は商工業都市として発展した。県西部の中核都市として位置づけられ、日本海側有数の工業集積を有する「ものづくりのまち」として、同市は積極的な取り組みを続けている。

高岡ケーブルネットワークは、約17万人の高岡市民へのテレビ放送サービスやインターネット接続サービス、固定電話・IP電話サービスやモバイル回線(MVNO)サービスを提供するケーブルテレビ局である。同社はこれまで、上述するようなコンシューマー向けサービスを中心に事業を展開してきたが、最近では市内企業・自治体向けのサービス拡充に取り組んでいる。

高岡市は、日本国政府が2021年に発表した「自治体DX推進手順書」に則って「高岡市DX推進方針」を策定し、同年から推進プロジェクトを立ち上げている。さまざまな計画が打ち立てられる中の1つとして「IoTセンサーを活用した取り組み」も進められている。そこに手を挙げたのが、高岡ケーブルネットワークだったという。

以前から高岡市では、“ものづくりのまち”として企業団地・企業用地の建設・拡大を図ってきた。その1つとして、市内南部・北陸自動車道高岡砺波スマートインターチェンジ近く、庄川に隣接する「ICパーク高岡」がある。すでに製造業や物流業など複数の企業が拠点を設置し、運営が始まっている。

  • (写真)ICパーク高岡内にある調整池

    ICパーク高岡内にある調整池

このICパーク高岡の一部に、掘り込み式の雨水調整池が設けられている。調整池とは、集中豪雨などで急激に出水が増大したときに河川が氾濫しないように、一時的に洪水を溜めておいて流水量を調整する治水施設である。富山県の気候は穏やかであるが豪雪地帯として知られ、雨量も全国平均を大きく上回る。北陸地方は水害も多く、全国的にも台風などの被害が増えている。ICパーク高岡の調整池も、万一の豪雨のときに庄川への流水を調整する役目を果たすものだ。

(写真)高岡ケーブルネットワーク株式会社 山口悟史氏

高岡ケーブルネットワーク株式会社
事業統括本部 技術部技術課
マネージャー 山口悟史氏

この調整池の端に雨水の流水口があり、ゴミや枯葉をキャッチする網が設けられているが、大雨のあとにゴミや枯葉が網に貯まり、水をせき止めてしまうことがあるという。そのまま放っておくと出水を調整できず、ある大雨では調整池が溢れてしまったこともあったそうだ。

「大雨のあとに市庁舎の担当職員が現地に赴いてゴミや枯葉の溜まり具合をチェックし、詰まっているときには取り除くという作業を行っていました。ところが、ゴミがまったく溜まっておらず、車で片道20~30分ほどの出張が空振りに終わることもあったといいます」と、高岡ケーブルネットワークの山口悟史氏は振り返る。

そこで高岡ケーブルネットワークは、カメラと映像解析AIを活用した水位計を設置し、リモートで調整池の状況を監視できる仕組みを提案したのだ。

エッジAIで水位を判定。リアルタイムな映像で現地の状況確認も

もともと高岡ケーブルネットワークは、地域創生の一環として市内商店街の賑わい創出を支援しており、その中でカメラと映像解析AI技術を応用した企画も立案していた。この案は採択されなかったが、山口氏らはこのころから映像解析AIに注目しており、ICパーク高岡の課題解決に活用できるのではないかと考えた。

(写真)株式会社三技協 大島智宏氏

株式会社三技協
ネットワークソリューション事業本部
キャリアネットワーク事業部
担当部長 大島智宏氏
(プロジェクト当時の所属部署)

共同で高岡市の地域創生に取り組んだ三技協へ相談を持ちかけたところ、当時同社が提案したのは「EDGEMATRIX」だった。実は三技協では、映像エッジAIプラットフォームをEDGEMATRIXと共同で河川やため池などの水位監視ソリューションの開発に取り組んでおり、基礎はおおむね作り上げられていた。この製品を応用すればICパーク高岡の課題を解決できると判断し、3社は共同でソリューション開発に取り組むこととなる。

「EDGEMATRIXと協力しながら、調整池の水位を判定する新しいAIを開発しました。2次元バーコードのようなマーカーを7つ連ねたシールを出水口に貼り付け、それをカメラで撮影します。水が貯まるとマーカーが歪んで判定できなくなるため、その画像を解析して水位を推定するというものです。EDGEMATRIXの技術でリアルタイム映像もリモートで配信できますから、水位や枯葉の詰まり具合をAIと目視で二重に監視できるというわけです」と、三技協の大島智宏氏は説明する。

具体的に構築された“調整池システム”は次のようなものだ。

  • (写真)流水口を監視するカメラ

カメラは防水ボックス内のEdge AI Boxに接続され、モバイル回線を通じてインターネットに接続している。Edge AI Boxの映像解析結果を基に、水位が危険領域にある場合はLINEを通じて担当者へ警告が発報される。また撮影されている映像はYouTubeのライブ配信機能で公開され、過去の映像もアーカイブ視聴できるようになっている。Edge AI Boxで推定された水位情報は専用のクラウドアプリ上に記録され、推定水位情報としてグラフ化しており、いつでも過去の状態を閲覧できる。

  • (図)調整池システム構成図

    調整池システム構成

高岡ケーブルネットワークの表野篤雄氏は映像エッジAIの導入効果について次のように述べる。
高岡ケーブルネットワーク株式会社 表野篤雄氏

高岡ケーブルネットワーク株式会社
事業統括本部 技術部技術課
エンジニア 表野篤雄氏

「過去のデータを可視化したいというニーズは高く、降水量と調整池の水位の相関をまとめた情報として防災に役立つと考えています。設置後すぐに大雨があり、LINEで警報されるほど水位が上がりましたが、リモート映像で確認してゴミの排除などは必要ないと判断できました。今回は実証実験として1か所に設置しましたが、高岡市は『ICパーク高岡内にあるもう1つの調整池にも設置したい』と高く評価しています。三技協とEDGEMATRIXは、カメラの画角調整など現場でも細かに対応してくれて、スムーズに検証を開始できました。高岡市や私たちの構想をしっかりと理解し、現実的な解決策として実装してくれたと感じています」(表野氏)

低コストで管理も容易な映像エッジAIを市民の暮らしに役立てたい

高岡市と高岡ケーブルネットワークの映像解析AIは、まだ実証実験段階であるが、本格的な導入に向けて取り組んでいく計画だ。河川や貯水池、用水路などに用いられる水位計はこれまでも存在していたが、たいていは技術的に高度かつ高価になりがちで、導入に二の足を踏んでしまうケースも少なくない。三技協とEDGEMATRIXの新しい水位推定プラットフォームは、低コストで導入しやすく、管理も容易で、さまざまなシーンでの活躍が期待できる。

「このほかにもEDGEMATRIXを活用したソリューションや事業を企画し、高岡市民の暮らしを支えていきたいですね。私たちのサービスや営業活動の強化にも活用できそうです。高岡市と高岡ケーブルネットワークから、新しいAIを日本中に広められるとよいと考えています」と山口氏は今後の展望を語ってくれた。

映像解析に使用したEdge AI Box

  • (製品写真)Edge AI Box

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