臨床検査機器・試薬メーカーのシスメックスが、1年をかけてCRMシステムをSalesforceに刷新した。セールス部門、フィールドサービス部門、コールセンター部門3つのシステムを1つのプラットフォームに統合する非常に難易度の高いプロジェクトであり、システム設計、各ベンダーとの調整などが難航し、スタートから半年、進行が遅れていた。そこで同社はPMO(プロジェクトマネジメントオフィス)を強化、新ベンダーとともにデータ移行、システム実装に至るまでの基盤構築を進め、統合した新CRMシステムを実現した。
DX戦略推進本部が掲げる顧客接点の改革が難航
「ヘルスケアの進化をデザインする。」をミッションに掲げ、臨床検査機器、試薬、ソフトウェアを提供するシスメックス。1968年に創立し、血液や尿などを採取して調べる検体検査に必要な機器や試薬、ソフトウェアの研究開発から製造、販売、サービス&サポートを一貫して行うヘルスケア企業として、世界190以上の国や地域に製品・サービスを提供している。
現在、同社では個別化医療の実現に向けた取り組みに力を入れている。近年の遺伝子解析技術の発展で、一人ひとりの疾患特定精度の向上や、再発リスク・予後予測が可能になってきた。治療においても効果や副作用を予測して投薬を選択し、一人ひとりに最適な治療法の選択ができるようになる可能性が高まっている。シスメックスでは、医薬品の投与に関わるコンパニオン診断薬の開発や、血液からより多くの情報を得るための技術の研究開発を続け、個別化医療への貢献を目指している。
シスメックスがこうしたチャレンジングな取り組みを継続するうえで、そのビジネス基盤を支えているのがDX戦略推進本部である。同社は2018年からデジタル化によるビジネスプロセス改革を推進しており、コーポレートマネージメントから、R&D、調達、物流、生産、販売、サービスに至るまでのバリューチェーン全体におけるデジタル刷新と、それを支える基盤構築に取り組んでいる。DX戦略推進本部 情報ソリューション部課長の藤原 忠雄氏はこう話す。
「DX戦略推進本部を旗振り役として『Dプロジェクト』と呼ばれるデジタル化推進のためのさまざまなプロジェクトを全社的に推進しています。顧客接点の改革もその1つであり、2018年から基盤システムであるCRMシステムの刷新と統合に取り組んできました。しかし、このプロジェクトは難易度がとても高く、なかなか当初の予定通りに進みませんでした。そんななか新たなパートナーとして選択したのがテラスカイでした」(藤原氏)
セールス、フィールドサービス、コールセンターの各システムを統合
そもそもシスメックスがCRM刷新プロジェクトに取り組んだ背景には、旧CRMシステムの老朽化によるレスポンスの悪化や拡張性の低下があった。ユーザーの利便性が下がり、新たなサービスを展開したくても機能追加などが難しい状況だったという。DX戦略推進本部 情報ソリューション部の今西 徹氏は、こう説明する。
「新システムへのリプレースにあたって、セールス部門、フィールドサービス部門、コールセンター部門の3部門で利用していたシステムを統合する狙いもありました。統合により、お客様に提供している機器の情報や、お客様からの問い合わせの情報、加入いただいているサービス契約の情報を一元的に管理できるようになり、価値の最大化を図ることができます。この方針に沿ったシステムとして採用したのがSalesforceでした」(今西氏)
Salesforceを採用した大きな理由は、1つのプラットフォーム上で、セールス、フィールドサービス、コールセンターというそれぞれの情報を統合しやすいことにある。また、連携しやすいため、シスメックスが提供する機器をモニタリングしプロアクティブに対応するためのネットワークサービス群のほか、手術支援ロボットなどの新たなサービスを展開しやすいと考えた。さらに、Salesforce はCRM領域におけるグローバルスタンダードであり、システム運用を行う際も運用効率が高いことが評価された。
しかし、プロジェクトを進めるうちに、そうしたSalesforceの魅力が引き出しにくくなってきたという。
「大きく2つの課題に直面しました。1つは、CRMにはビジネスプロセス上連携が必要な多数の周辺システムが存在し、結果として9社ものベンダーが入った複雑なプロジェクトであったため、PMOをうまく機能させることが難しかったという課題です。CRMシステムは複数のサブシステムで構成されています。また、CRMシステムは財務管理システムやビジネスプロセス管理システム、分析システムなどのシステムと連携しています。それぞれの構築や管理はベンダー複数社で協力する体制でした。そのような背景もあって、マルチベンダー体制でプロジェクトを推進するため、PMO体制を強化する必要がありました。もう1つは、システム構築プロセスの変更にともなう課題です。CRMシステムの基盤の刷新にあわせて業務プロセスの標準化を進め、アジャイルなアプローチで開発する仕組みを新たに採用しました。しかし、システムが複雑で、当社特有の業務プロセスも多数存在していたため、既存のプロセスの可視化や新しいプロセスの設計は想定以上に時間がかかりました」(今西氏)
CRM刷新プロジェクトがスタートから半年ほどで停滞し、旧システムのリプレース期限が着実に迫っていたなか、シスメックスはプロジェクトの仕切り直しを決断する。PMO体制のサポートと、Salesforceのカスタマイズおよび周辺システムとの連携を要件としたRFPを作成し、課題解決のパートナーとなってくれるベンダーを模索したという。そこで手を挙げたのがテラスカイだった。
競争優位の業務プロセスを維持しながら、デジタルの進化に柔軟に対応する
プロジェクトの仕切り直しにあたってまず設置されたのは、マルチベンダー・マルチシステムで構成されたCRMシステムと周辺システムを統括するPMO組織だ。テラスカイのコンサルタントやエンジニアがPMOの主要メンバーとして参画し、藤原氏や今西氏らとともに業務プロセスの棚卸しや可視化、システム刷新の方針策定やアーキテクチャ策定に臨んだ。新しい方針のポイントは2つある。1つは、無理にTo Be(理想的な姿)を目指すのではなく、変えるべきプロセスと維持・存続すべきプロセスに明確化することだ。
「アジャイルなアプローチが難しかった背景には、当社の競争優位につながる業務プロセスの存在がありました。当社では機器の製造・販売だけでなく、いわゆるIoTサービスと呼ばれるような機器のメンテナンスサービスや付加価値サービスを提供しています。フィールドサービス、セールス、コールセンターが結びつくように構成されているため、競争優位の業務プロセスをそのままクラウドのベストプラクティスに当てはめることが難しかったのです。そこで発想自体を変えました。競争優位につながるプロセスは基本的に現状踏襲し、デジタルの進化に合わせて、柔軟に変更していけるようなあり方で臨むことにしました」(藤原氏)
2つめのポイントは、Salesforceのカスタマイズや周辺システムとの連携だ。フィールドサービスで利用するServiceMaxと、セールスで利用するSalesforce Sales Cloud。ServiceMaxはSalesforceをベースとしたシステムであるが、ServiceMaxとSalesforce Sales Cloudの連携は、両方の知識を併せ持っていないと難しい。また、コールセンターを構成するサブシステムをSalesforceに統合する必要もあり、さらに財務管理システムなどとはSalesforceとは別の仕組みで連携する必要があったという。
「こうしたSalesforceを軸に複数システムを統合する作業やSalesforceとは別の仕組みを使った他システムとの連携作業をスムーズに行うにはノウハウが必要です。テラスカイに期待していたのは、Salesforceのカスタマイズ対応や、DataSpider Cloud を活用したCRMシステムと周辺システムとのつなぎ込みです。テラスカイはSalesforce導入支援から、さまざまなツールを組み合わせたSalesforce連携、DataSpider Cloudを活用したデータ連携など、豊富な実績と高い技術力を持ちます。難易度の高いシステム連携をうまくこなしてくれると期待していたのです」(今西氏)
その結果は、期待以上だったという。テラスカイのコンサルティングとプロジェクトマネジメント、システム連携のためのインテグレーションサービスなどを活用したことで、難航していたCRM刷新プロジェクトを2021年6月に完遂させることができたのだ。
広範囲な領域をカバーし、見つかった課題に速やかに対処してくれた
テラスカイの働きについて、シスメックスではこう評価する。
「プロジェクトの仕切り直しというリスクの高いプロジェクトに参画してくれたことはもちろん、実際のPMO運営でも目を見張るものがありました。PMOチームは、マルチベンダー・マルチシステム環境のなかで、広範囲な領域をカバーし、見つかった課題に速やかに対処してくれました。こうした環境では各ベンダーも自社の利益や領域にかかわる部分だけの対応に陥りがちです。テラスカイは、見つかったさまざまな課題を自らのものとして取り込んで消化してくれました」(藤原氏)
特にそうした働きが目立ったのが、データ移行への対応だ。フィールドサービスの領域では、旧システムからServiceMaxへのデータ移行に関しては、システム構成が複雑だったため、非常に難度が高いと考えていた。しかし、テラスカイは、実績を活かし、移行作業をまるごと引き継いで実装までこぎつけたという。
また、システム連携の面でも、テラスカイの技術力に感心したと今西氏は振り返る。
「周辺システムとの連携についても、実装をテラスカイに担っていただきました。ERPなどとのデータ連携では、データインテグリティが重視され、設計の抜け漏れを考慮したエラーハンドリングも必要になってきます。システム構成も複雑なため、障害やバグが発生しやすく、かなり難易度の高い実装・開発でした。しかしテラスカイは、単なるデータ移行やデータ連携にとどまらず、今後のデータ活用を見据えた実装を行ってくれたのです」(今西氏)
ServiceMaxとSalesforceの連携では、Salesforceのカスタマイズとデータ連携のノウハウが活用されており、周辺システムとの連携では、DataSpider Cloudを使ったスピーディーで効率の良い実装が行われた。ツールやソリューションを組み合わせた提案、そして実装まで担うことができる技術力こそがテラスカイの大きな強みだと、藤原氏と今西氏は口を揃える。
レスポンスが向上し、新たな業務要件にもスピーディーに対応できるように
新CRMシステムは2021年6月に本格稼働を開始した。Salesforceという堅牢で安定したパブリッククラウド上に移行したことで、システムのレスポンスも向上した。
「従来は、特定の業務プロセスを実行するのに数分待つようなケースがありましたが、新システムへの移行後はそうした遅延がまったく発生しなくなりました。システム基盤の良さに加え、テラスカイが中心となって進めた業務プロセス設計の良さも要因であると感じています。ユーザーからも以前は『データ入力はできる限りしたくない』とクレームが来ることがあったのですが、現在は、フィールド担当者や営業担当者から『スマートフォンからも入力しやすくて良い』と評価されています」(藤原氏)
また、新たな業務要件への対応がしやすくなったのも成果だ。本稼働直前に、営業担当者とフィールド担当者のスケジュール共有の仕組みがSalesforce上でうまく機能しないという課題に直面したが、テラスカイが提供しているSalesforceベースとしたグループウェア「mitoco」を採用することで、スピーディーに機能を追加できたという。
「フィールド、セールス、コールセンターの3部門が一体でお客様に価値を提供するには、各担当者の動きを双方で把握することが重要です。mitocoのようなグループウェアを迅速に追加して機能を強化したことで、Salesforce上にシステムを統合することの効果をあらためて実感することができました」(今西氏)
今後の展開については、まずCRMシステムとシスメックス独自のIoTサービス群の連携を強化し、顧客接点における新たな付加価値の提供を目指すという。IoTサービス群では現在、業務量の可視化や検査部門内の情報共有を支援する臨床検査情報システムと、文書管理や是正処置の管理など臨床検査室の品質マネジメント運用支援システムを提供している。これに新しいサービスを加えていく構えだ。また、ERPシステムについても、今後クラウド移行を控えている。
「シスメックスのDXの取り組みはこれからが本番です。今回のプロジェクトの推進においてテラスカイの役割は非常に大きく、感謝しています。構築ベンダーという視点ではなく、課題解決に一緒に取り組むソリューションパートナーとして、以降もともに歩みを進めていきたいと思っています」(藤原氏)
旧来の企業とベンダーの関係性を見直さないと、DXを推進することも継続することも難しい。シスメックスとテラスカイの関係は、「DXを一体的に推進する共創的パートナー」としてプロジェクトを成功させた一つのモデルケースといえよう。
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