1人1台PCと教育ICT基盤をフルクラウド化

埼玉県鴻巣市教育委員会は、市内の小学校全19校と中学校全8校の教職員と児童・生徒へ1人1台PCを導入。さらに教育ICT基盤をすべてMicrosoft Azureによってフルクラウド化し、2021年4月に利用を開始した。その際、ICT環境のシステム構築および運用支援を担当したのが内田洋行グループだ。構築されたフルクラウド環境は、学術情報ネットワークSINET※とAzureを、国内の教育委員会としては初めて接続した事例となる。これにより、セキュリティと品質を両立したネットワークが構築可能となった。

先生の働き方が変わった大きなポイントがある。校務系、校務外部系、学習系のネットワークを分離した境界防御を変え、ゼロトラストモデルに基づいた包括的なセキュリティ対策を施し、一つのネットワークとすることで、教職員用のPCが統合化された。職員室や教室、授業で使うPCを校務系、校務外部系、学習系と切り分ける必要がなくなった。 教職員用端末としては「Microsoft Surface Pro 7」を配備。最新のインテル® Core™ i5プロセッサーを搭載し、ビジネス向けに高いスペックとセキュリティ、そして持ち運びやすさが、教職員の働き方改革に貢献している。

本稿では、校務と教務の教職員使用端末を統合したことで、鴻巣市立広田小学校、鴻巣市立鴻巣中央小学校といった教育現場で「Surface Pro 7」がどのように活用されているかを紹介。さらに鴻巣市教育委員会のICT教育に対する方針、ICT環境をフルクラウド化した取組、統合型校務支援システムによる先生の働き方改革について、株式会社内田洋行がそれらをいかにサポートしたかを紹介していこう。

(※)SINETは 国立情報学研究所が全国の大学、研究機関等の学術情報基盤として構築・運用している情報通信ネットワーク。なお、現状で接続している各教育委員会は、実証実験及び大学との共同研究契約によるものです。

教職員同士でも児童同士でも“教え合う文化”でICT活用を促進

創立149年目という歴史を誇る鴻巣市立広田小学校は、2021年度に40名の新入生を迎え、児童数228名、教職員等38名となった。地元の伝統行事である“ささら龍頭舞”を4年生の総合的な学習の時間に取り入れるなど、地域との交流にも力を入れている。そんな同校は鴻巣市によるICTパイロット校の指定を受けて、今年1月に児童・教職員に1人1台のPCを配布、教育ICT基盤はフルクラウド化されている。

  • 鴻巣市立広田小学校校舎
鴻巣市立広田小学校 校長 清水良江氏

鴻巣市立広田小学校 校長 清水良江氏

パイロット校に応募した理由について、校長の清水良江氏はこう話す。「そもそも子どもたちよりも教職員の方がICTに馴染んでいないので、まずは教職員がゼロから一緒に研修を受けることで、ICTスキルを高めて授業に活用したいという思いがありました。いずれすべての学校は待ったなしでICT活用が必須となるので、ならば先駆けて進めようと手を挙げたのです。最初は内田洋行さんに基本的な機能や操作を教えてもらい、情報主任が声をかけてミニ研修会を開き、そうすると教職員同士は皆すぐに覚えて実践するようになっていったのです。隣のクラスではこんな新しい使い方をしていたなど、職員室等で情報をオープンにすることで、授業でどうやって使っていくか教職員同士の興味がどんどん沸いてきたと感じます。先生たちのPC持ち帰りも頻繁になってきました」

実際、同校の子どもたちは学年を問わずPCを活用した授業を楽しみにしているという。高学年の児童が1年生にログインの仕方を教えたり、教職員同士も授業でICTをどう使うか共有し合ったり、もともと同校が持っていた“教え合い”の文化もICT活用を促しているようだ。“種をまいて芽が出てきた草花を観察するのにPCを用いて成長過程を撮影”、“プール開きでは、プールに三脚と先生用ノートPCを持ち込み、代表で参加する6年生以外には、リモートで繋いでそれぞれのクラスから参加する”など、新しい授業スタイルに先生たちも積極的だ。また、事情により学校に来られない児童は自宅からMicrosoft Teamsを使用して授業に参加しており、クラスの児童と一緒に図工の作品を作ったり、作成した作品を発表したり、ハイブリッドな一体感のある授業を行っている。

  • 発芽している成長の様子をPCカメラで撮影する児童

    発芽している成長の様子をPCカメラで撮影。持ち運びで新しい学びがひろがる。

  • 友だち同士でまとめている内容を比較して、理解を深めている様子

    友だち同士でまとめている内容を比較して、理解を深めている様子。

鴻巣市立広田小学校 情報主任 石内眞木氏

鴻巣市立広田小学校 情報主任 石内眞木氏

情報主任の石内眞木氏は言う。「自分自身もこの学校に赴任するまでIT系は得意ではなかったのですが、情報主任となるために様々な先生から教えていただきました。気軽に教え合える文化があるので、Teamsを活用しながら先生同士で活発に情報交換しています。教職員に配布されているPC(Surface Pro 7)は軽くてコンパクトなので持ち運びやすく、日報や複数のアプリを同時に開いてもサクサクと動くので業務もより効率的になりました。持ち帰りもできて、授業シーンでも校務シーンでもすべて1台のPCで行うことができ、データを皆で共有ができるのもとても役に立っています」

  • 児童からの質問に答えながらPC操作もこなす石内氏

    児童からの質問に答えながらPC操作もこなす。

今後、鴻巣市では9月から校務支援システムで勤怠管理、文書管理連携の電子申請の整備を行い、ICT活用で教職員の負担軽減を進めていく構えだ。「まだまだ校務や授業に生かせる“技”はたくさんあるはずです。今は手探りではありますが、教職員が使いこなすことで新しい働き方を目指していきたいですね」と、清水先生は力強く語った。

無理せずに着実に利用の積み重ねでITリテラシーを高めていく

一方、鴻巣市立鴻巣中央小学校は市内中心部に位置しており、開校28年目の市内では最も新しい学校である。2021年度は児童数371名、14学級でスタートした同校は、2020年10月に鴻巣市からICTパイロット校に指定されるなど、市内でも先駆けてICT活用に取り組んでいる。取材時の授業では、6年生が、総合的な学習の時間のまとめとしてPowerPointを駆使し、日本の伝統文化に関する発表資料を作成していた。

  • 日本の伝統について発表スライドを工夫しながら作る様子

    日本の伝統について発表スライドを工夫しながら作る様子。

鴻巣市立鴻巣中央小学校 校長 清水励氏

鴻巣市立鴻巣中央小学校 校長 清水励氏

校長の清水励氏は、パイロット校に応募したきっかけをこう振り返る。「2020年度、コロナ禍で突然の休校となり、学校から子どもたちにできることがとても限定されてしまったときに、ICT活用の有効性と効果を実感しました。また、ICTを活用した取組の一つとして、先生方が苦心しながらも、家庭での学習課題に関する動画教材を作成してYouTubeに上げ、担任と子どもたちのつながりの確保や学習保障を図りました。視聴した保護者や子どもたちから喜んでいる声が聞かれたこともあって、先生方も次第に前のめりに動画作成に取り組むようになり、最終的に約90本の動画を作成してくれました。その頃にパイロット校の話を聞き、少々の失敗を恐れずに積極的なチャレンジができるよい機会であることを先生たちに伝えたところ、賛同してくれました」

1月に1人1台のPCが配備され、子どもたちもおおいに喜んでいるという。清水氏は「ちょっとPCを使わないと子どもたちから『今日は使わないの?』と聞かれてしまうこともよくあります(笑)。皆の前で直接発表するのが苦手だった子も、自分の考えをPCから文字や絵などで活発に伝えたがるようになるなど、効果を実感しています。手を挙げる子だけではなく全員の考え方が見えるようになった」と語る。

  • 児童がPCにシールを貼り、愛着を持って自分の道具として活用する様子

    鴻巣市ではPCにシールを貼ることも可。愛着を持って自分の道具として活用してもらえればとのこと。

教職員の間でもTeamsを通じて意見交換や情報共有といったことが当たり前となり、以前の紙ベースではなかなか見なかったような情報も確実に確認するようになったという。PCとモバイルルーターがセットで配布されているので、ほとんどの教職員がPCを学校外にも持ち出しており、どこでも学校と同じ環境で活用することができて利便性も向上しているという。

「以前は、教室の大型モニターに端末を接続することも手間でした。端末も大きく持ち運びが大変で、起動に時間がかかっていました。それが今回はシームレスに手軽にどこでも持ち込めて、すぐに起動して電子黒板に繋げられるのも、とても便利になりましたね」と、清水先生は笑顔を見せる。

同校では、今年の学校課題研究のテーマを「1人1台の学習者用端末の有効活用」としており、個別最適化された学びと協働的な学びという視点でのICT活用に焦点を置きながら授業改善を図っていくことを目指している。

「子どもたちのPCの持ち帰りも定着していきたいです。そうすることで子どもたちがPCに触れる機会が増えるし、保護者の方々の理解もより深まります。そして今後は、人と繋がる道具として意識して使わせていきたいです。教職員も、道具として自然に使いこなせるようになるためにも、無理せず少しずつ着実に活用を積み重ねていければと考えています。そして2学期からは統合型校務支援システムの全機能が使えるようになるので、そこからの本格的な業務効率化にも期待しています」と、今後の抱負と期待を清水氏は語った。

  • 鴻巣市立鴻巣中央小学校校舎

学校現場の現状をふまえた先端的なICTプロジェクト

鴻巣市教育委員会はどのような方針のもと、こうしたICT教育を推進しているのだろうか? 環境整備が実現した経緯について、鴻巣市教育部教育総務課の主任、新井亮裕氏は次のように振り返る。

鴻巣市教育委員会 教育部 教育総務課 主任 新井亮裕氏

鴻巣市教育委員会 教育部 教育総務課 主任 新井亮裕氏

「鴻巣市では、原口和久市長の指示のもと、現行ICT機器が2020年8月に賃貸借期限満了となることを見越し、2018年から“教育ICT環境の刷新“の検討を開始しました。その後、市長や関係部署との協議を重ね、2019年9月に『鴻巣市学校教育情報化推進計画』を策定しました。この計画には、関係者全員の『新しい時代で生きていく子どもたちのために』という熱い想いが込められており、これにより、教育ICT環境の刷新が実現したのです」

これだけの先進的なICT環境整備に踏み切ったのには、教育現場に存在していた課題を何とかしたいという想いがあったという。

「当時、校務用PCは1人1台整備されていましたが、そのPCは重く、持ち運びも想定されていません。もちろん、教室には無線LANも整備されていませんでした。更に、校務系と学習系のネットワークが分離しているため、使用するPCも用途によって使い分けなければならず、当然データの受け渡しも手間がかかります。本来のあるべき姿は、先生が1つのPCを文房具のように、どこにでも持ち運び、用途を意識せずとも活用できる環境ではないでしょうか?」

そうした課題を解決すべく、鴻巣市では教育ICT基盤をフルクラウド化するとともに小中学校の教職員と児童生徒に1人1台のPCを配備することになったというわけだ。

「このタイミングで、教育の情報化を進めなければあっという間に5年、6年と遅れてしまうという危機感がありました。今の子どもたちは、どこに行っても空気のようにICTがある、そんな社会に巣立っていくことになります。子どもたちが、この先の社会でいきいきと活動し、活躍し、情報社会を生き、自らと周囲の豊かな生活を送るために、ICTを身近な道具として使えることは、必要なスキルです。そのうえで、子どもたちの“ひらめきや発想”が新しい社会的価値を紡いでいくための知的生産の日常的道具となるのです。 先ほど申し上げたとおり、本市の学校教育情報化を推進する動きは、2018年から準備をしてきており、これは国のGIGAスクール構想が発表される前から取り組んできたこととなります。そのため、本市では、GIGAスクール構想を最大限活用し、そこに本市独自の取組を組み合わせることで、教育ICT基盤の全面刷新を行うことができました。本市の取組の最大のポイントはまさにこの部分であり、『ICT基盤フルクラウド化』、『個別最適な学び及び協働的な学びの実現』、『働き方改革の観点からの業務改善』などを、”一体的に整備した”ことだと考えております。 そして、このような取組により、多様で柔軟な働き方・学び方が実現されていきます。」

今回のプロジェクトを委託する企業には、プロポーザル方式で何社かが手を挙げたが、鴻巣市の審査で最も評価が高かったのが内田洋行だった。

「提案されたICT基盤がとても先進的で、鴻巣市が進めたかったフルクラウド化のシステム構成や、先生のユーザービリティ向上までが盛り込まれていたのが魅力的でした。本市の“前例が無いような壮大な構想も絶対に達成する”という自信も強く感じました。 内田洋行様は、70年以上前から教育現場を支え続けており、近年では教育ICTや自治体のシステムの構築などもグループ全体で手掛けています。そのため、これらの経験が生かされ、提案内容が、先生や子どもたちの使い方を考慮した環境整備、活用促進のための支援、現場を止めないための運用支援など、学校現場での活用まで、全て考え尽くしているのでしょう。 たとえば、教職員向けの端末を一例としてあげますと、インテルcore i5搭載のモバイルPC(Surface Pro)が今回提案されています。実は、このモバイルPCですが、IceLakeという新しいチップセットが採用されていて、モバイルPC向けに最適化されているものです。このチップセットのおかげで、CPUのクロック性能の向上はもちろんのこと、WiFi6搭載による高パフォーマンスな通信環境の実現やIris Plus Graphicsによる内臓グラフィック性能の向上なども実現されていました。 この最新のチップセットを搭載したモバイルPCは、我々が当時からイメージしていた、“先生がPCを文房具のように、どこにでも持ち運び、用途を意識せずとも活用できる環境”をという先生の新しい働き方を実現する上で、最適なツールであると感じています」と新井氏。

鴻巣市教育委員会 教育部 学校支援課 指導主事 榎本泰氏

鴻巣市教育委員会 教育部 学校支援課 指導主事 榎本泰氏

鴻巣市教育委員会 教育部 学校支援課の指導主事、榎本泰氏もこう続ける。「今回、本市のICT環境整備により、学校教育は大きな変革を迎えました。このことは、先生方にとって大きな戸惑いがあったと思いますが、それでも先生方はこの変革を前向きにとらえ、様々な教育活動においてICTを積極的に活用しています。また、ICT化により伝えられる情報量が圧倒的に増えたことも大きなメリットとして捉えています。これは、校務と授業のどちらにもいえることです。本整備により、用途に縛られずPCの持ち運びが実現したことで、情報共有や協議、授業活用などが今まで以上に円滑に行えるようになり、先生方の授業改善につながるものと思います。さらに、今回の新たな校務支援システムの導入により、先生方の業務がより効率的に行えるようになり、先生方が子どもたちと向き合う時間が増えることも期待しています」

今後の学校現場でのICT活用について新井氏は、「教職員のPC1台によるマルチタスクは達成したので、9月以降から校務システムに先生たちの出張・休暇申請などを勤怠管理と連携することを目指しています。 すでに子どもたちの日々の出欠席や保健管理、小学校から中学校までの1人1人の子どもの個人カルテが共有できるようになり、子どもたちの成長の見守りに繋がっています。今後は、子どもたちの成長に応じた教育データ活用なども視野にいれて、より良い教育環境を築いていきたいです」と、抱負を述べた。

ICTを通じて未来の子どもたちの成長を支え続けていきたい

  • 鴻巣市のICT環境整備後の構成図:図表作成内田洋行

    鴻巣市のICT環境整備後の構成図:図表作成内田洋行

株式会社内田洋行 教育ICT事業部 山口竜太氏

株式会社内田洋行 教育ICT事業部 山口竜太氏

新たな鴻巣市教育委員会の取組を支えたのが内田洋行だ。同社の営業担当、山口竜太氏は、一連のプロジェクトで特に注力したポイントについて次のようにコメントする。「お客様の要望に対して、内田洋行グループではデバイスからネットワーク基盤、校務支援システム、教材コンテンツ、活用促進のためのICT支援員や学校ヘルプデスクの機能を一気通貫で提供できるのが当社の強みであり“らしさ”です。さらに商社でもあるため、顧客の希望する他社の優れた製品も提供できる。鴻巣市様のハイレベルな要件に満足いただけるサービスを提供するため、提案・デザインする事を常に意識していました」

株式会社内田洋行 システムズエンジニアリング事業部 永山達也氏

株式会社内田洋行 システムズエンジニアリング事業部 永山達也氏

同社のSEでプロジェクトマネージャーを務める永山達也氏は、「鴻巣市様は教育委員会として初めて学術情報ネットワークのSINET※とMicrosoft Azureを接続し、フルクラウド化を実現しました。安定稼働やセキュリティ担保などお客様が求める課題に対して、きちんと満足してもらうような“答え”を提供するのは当たり前であると同時に、新システムが少しでも先生方の負担を少なくできるような設計を心がけました。難易度の高い要件ではありましたが、プロジェクトマネージャーとして努力を続け納得できるものになったのではないかと思います。」と、自信を覗かせる。

より安全面を強化するには、ハードウェアレベルでのセキュリティ機能を備えたインテル® vPro® プラットフォーム搭載機がお勧めだ。ウイルスソフトやアプリケーションのセキュリティ機能では検知されないOSより下のレベルでの攻撃に対応している。

株式会社内田洋行 ICTリサーチ&デベロップメントディビジョン 部長 井上由紀夫氏

株式会社内田洋行 ICTリサーチ&デベロップメントディビジョン 部長 井上由紀夫氏

最後に、同社の統合型校務支援システム開発や、国が進める自治体システム標準化へ対応した学齢簿等の就学事務及び教育データ標準化に対応した学校向け教育ポータル「L-Gate」との連携にも携わる井上由紀夫氏は、教育事業の今後の展開もふまえて次のように締めくくった。

校務だけでなく、生活困窮世帯の子どもに対して教育の充実を図っていく課題の中で、今後は教育委員会事務や子育て・教育・発達相談などの多様な情報とデータ連携した見守りの強化も推進していきます。教育分野における国際技術標準に準拠した名簿連携の仕組み「OneRoster」を提供することで教育、自治体間をつなぐシステム全体の標準化に対応したソリューションを提供します。散在する児童生徒の情報を集約することにより、学習成熟度の応じた指導や子どもの貧困からくる 生活状況等の変化に気づきを与え、未来の子どもたちの成長を育み、見守っていくことをサポートしていきたいと考えています」と展望を語る。

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