2020年9月8日、Webセミナー「マイナビニュース スペシャルセミナー クラウド移行、成功と失敗の分岐点」が開催され、失敗しないクラウド移行をテーマに、さまざまなセッションが展開された。本稿では、クラスメソッドによる講演「クラウド移行を成功に導くAWS活用の勘所」をピックアップしてお届けしよう。

  • クラスメソッド「クラウド移行を成功に導くAWS活用の勘所」

クラスメソッドはAWSを中心とする総合支援サービス「クラスメソッドメンバーズ」を展開し、AWSに関わるデータ分析やモバイルアプリケーション開発、サーバーレス開発といったさまざまな技術支援を提供している。5年連続で「AWSプレミアムコンサルティングパートナー」に認定されているほか、2018年にはAWSパートナーとして「APN Consulting Partner of the Year 2018」も受賞。1,300社以上のAWS導入を支援した実績を持つ。

そもそもAWSを選択するアドバンテージとは?

今回の講演は、クラウドサービスの中でもとりわけAWSへの移行を検討、もしくは移行プロジェクトを実行中の企業等を対象に、移行の進め方と検討すべきポイントを整理したものだ。クラスメソッド株式会社 AWS事業本部コンサルティング部長の菊池修治氏は、まず「なぜAWSが選ばれるのか」について10の理由を挙げた。

クラスメソッド株式会社 AWS事業本部 コンサルティング部長 菊池修治氏

クラスメソッド株式会社 AWS事業本部 コンサルティング部長 菊池修治氏

  • 初期費用ゼロ/低価格
  • 継続的な値下げ
  • サイジングからの解放
  • ビジネス機会を逃さない俊敏性
  • 最先端の技術をいつでも利用可能
  • いつでも即時にグローバル展開
  • 開発速度の向上と属人性の排除
  • マネージドサービスによる負荷軽減
  • 高いセキュリティを確保
  • 24時間365日、日本語によるサポート

これについては、「オンプレミスで予測を立ててハードウェアを用意すると、予測と実際の需要にズレが生じたとき機会損失や過剰投資につながりますが、AWSはクラウドサービスですから必要なときに必要な分だけ利用できます。また、使った分だけ課金される従量課金であること、コンピュート・ストレージ・ネットワークといったIaaSの領域から、具体的な利用シーンに合わせたデータ分析、アプリケーション、モバイル開発、IoTやAIなどの最先端技術活用、セキュリティ、そしてガバナンスまで100を超えるサービスを提供していることも強みです」と解説した。

そもそもオンプレミスのデータベースサーバー構築では、電源・ラックといった物理的なモノの用意からラッキング、サーバーメンテナンス、OSインストール、各種パッチ適用、データベースソフトのインストール、バックアップや可用性、スケーリングの設計をしてから実装し、ようやくアプリケーションの最適化に至る。

これに対し、AWSでデータベースを利用する場合は2つの方法があるという。

「まず、EC2と呼ばれるAWSの仮想サーバーで作れば、OSインストールまではAWSが担ってくれるので、ユーザーはそれ以降の作業を行うだけで済みます。さらにマネージドサービスであるRDSを利用すれば、スケーリングまでをAWS側に任せ、ユーザーは最後のアプリケーション最適化に注力することができます」

  • マネージドサービスの利点

クラウドを導入する際に不安を感じることの多いセキュリティについても、「AWSのセキュリティは国内外のさまざまな第三者認証を取得しているので、AWSを利用すれば自社でこれらの認証を取得するよりはるかに容易にセキュリティを確保できます」と話し、AWSが採用する「責任共有モデル」(セキュリティをユーザーがコントロールする部分とAWSが担当する部分に分けて実施する仕組み)のメリットを強調した。

計画・移行・運用の3つのフェーズにおいて重要な要素とは

それでは実際にAWSへの移行を進める際に、どのようなプロセスを経て行うことになるのだろうか。菊池氏は、その際に検討したいポイントを以下のように解説。

「AWSに移行するプロセスは『計画』→『移行』→『運用』の3フェーズに分かれています。まず『計画』のフェーズでは、クラウド移行の目的を明確にしておくことが、移行そのものを成功に導く重要な要素になります」

  • マイグレーションの全体プロセス

移行の目的は企業・組織によって当然変わってくるが、菊池氏は例として「インフラコストの削減」「運用負荷軽減」「BCP(事業継続計画)対策」「SLAの改善」「開発の生産性向上」「グローバル展開」を挙げる。

「これらの目的に対し、なぜクラウドに移行したいのかをしっかり説明できるようにしておきましょう」と、目的を持つことの重要性を訴えた。

さらに、移行の成果を評価するためにTCOや運用作業量の削減率、アプリケーションのリリース頻度など具体的な数値目標を設定することが大切だという。「定量的なKPIを設定することで、クラウド移行の目的が達成できたのか、あるいはできそうなのかを判断する指標になります」と指摘した。

実際的なプロセスとしては、移行元の把握と移行先の設計を行ったうえで、PoC(概念実証)を実施しながら移行計画の確度を高めていくことが必要になる。「PoCは、全部について実施するのも大変ですから、移行の難易度の低いものから試すか、あるいは難易度が最も高いものから試すかのいずれか極端なほうを選ぶのがいいでしょう」とアドバイスした。

移行の設計では、AWSがシステム設計・運用の大局的な考え方として公開しているベストプラクティス集「AWS Well-Architected Framework」を参考にするのがいいと菊池氏。さらに「設計においてはAWSのマネージドサービスをどれだけ採用できるかが、サーバー環境最適化の最大のポイントになってきます。マネージドサービスを積極的に利用する移行方針を立てることで、可用性向上・運用負荷軽減・コスト効率などの面でメリットが出てくきます」と語った。

また、その移行方針の立て方として、“7つのR”を紹介した。

移行方式 概要
Re-Locate 既存サーバー機能の設置場所を変更
Re-Host 改修を伴わない単純移行/必要最低限の変更/迅速移行後、クラウド最適化
Re-Platform プラットフォーム変更/ある程度のアプリケーション変更発生の可能性
Re-Purchase アプリケーションを新しいものに変更
Refactor オンプレミス移行前にアプリケーションを変更/クラウドネイティブなアプリケーションにする
Retire オンプレミス環境のサーバーやプリケーションを廃止・撤退
Retain オンプレミス環境を継続利用/技術的・経済的理由から継続

継続的改善に向けてポイントとなるのは自動化の取り組み

『移行』のフェーズでは、AWSから提供されているさまざまな移行支援ツールやマイグレーション関連サービスを活用することで、移行を簡単に進められると菊池氏。そして『運用』のフェーズでは「クラウド移行の効果を最大化するには継続的改善が必要になる」とし、以下の3点がポイントになるという。

  • サービスアップデートを取り込み、システムに活かす
  • 実際にユーザー部門が使用して得られたフィードバックを取り込み、システムを改善していく
  • これらの作業を自動化することで、より効率よくフィードバックのループを回していく

そのうえで自動化の取り組みがきわめて重要であるとし、「自動化で運用を効率化し、運用課題を解決していくことによって、定型作業の人的コストの削減、オペレーションミスの低減、障害などのシステムイベントに対する素早い反応といったことが可能になります。AWSはすべての操作をAPI経由で実行可能なため、自動化を行いやすいという特徴があります。監視・ログ管理・オーディット・オペレーション実行・インベントリ機能など、自動化を行うためのサービスも数々提供されています」と解説した。

ただし、自動化に際しては「AWSでは“できないこと”は少ないものの、自動化を導入するとその仕組みの維持に手間とコストがかかります。そのため、極力ノンコーディング、もしくは簡単なプログラムで済ませられる必要最低限の範囲にとどめ、過度な作り込みを避けること、それ以上の部分についてはSaaSの利用も視野に入れることが大切です」と指摘した。

最後に菊池氏はパイオニア、ホーチキなど、クラスメソッドが実際に支援した企業の成功事例を紹介し、本講演を締めくくった。

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