いまやあらゆる企業においてデジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みが不可欠とされているなか、DXを実現するには「どのような課題に対して」「デジタル技術をどのように使うことで」改革していくのかを理解する必要がある。まずは企業のITシステムが抱えている課題を把握して、解決へのアプローチを確認することがDX成功への第一歩となる。

2019年6月28日に都内で開催された「デジタルトランスフォーメーションセミナー ~デジタルエンタープライズ変革へのアプローチ~」(主催:オージス総研)では、DXに取り組む企業を対象に、現代の企業が抱える課題と、それを解決するためのデジタル技術や活用手法について豊富な事例を交えながら解説した。

  • デジタルトランスフォーメーションセミナー ~デジタルエンタープライズ変革へのアプローチ~

経産省「DXレポート」の策定に関わった山本教授が現状を分析

名古屋大学大学院 情報学研究科 教授 山本修一郎氏

名古屋大学大学院 情報学研究科 教授 山本修一郎氏

本セミナーは、名古屋大学大学院 情報学研究科 教授 山本修一郎氏の基調講演「デジタルトランスフォーメーションの展開 ~デジタルエンタープライズへの変革に向けてなすべきこと」で幕を開けた。

経済産業省の「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」の委員を務める山本氏は、日本におけるDX研究の第一人者といえる。講演では、自身が策定に関わった「DXレポート」にて取り上げられている「2025年の崖」問題に言及した。

「日本企業の約8割に老朽システムが残っており、約7割の企業はその老朽システムがDXの足かせになっていると感じています」と山本氏。

老朽システムを構築した技術者が退職することでシステムがブラックボックス化し、トラブルやリスクが増大。若手技術者は老朽システムの管理を嫌がって転職するなど、人材不足も発生する。こうした老朽システムによるトラブルがピークを迎えると予想されるのが2025年で、これが「2025年の崖」といわれる所以となる、DXレポートは「2025年の崖」で年間12兆円の経済的損失が発生すると警告している。

山本氏は、DXの足かせとなるもうひとつの課題として、日本におけるIT人材のほとんどがIT企業に所属しており、ユーザー企業には3割しか配置されていないことを挙げる。IT人材の約65%がユーザー企業のIT部門に所属する米国と比べると、デジタル技術を業務に活用する際の迅速性に問題が生じているという。

こうした課題を解決して「2025年の崖」からの転落を防ぐためには、ただちにデジタル変革に取り組み、老朽システムを置き換えていく必要があると山本氏。DXレポートでは、段階的なデジタル変革期間として、準備期間を2020年までと設定しており、企業に残された時間は長くはない。

本講演ではDXを「企業が」「競争上の優位性を確立し」「デジタルエンタープライズになる」ための手段として定義。山本氏は「デジタルエンタープライズを定義するためには、企業が自らのデジタルケイパビリティの現状とあるべき姿を明確化することが重要。そしてあるべきデジタルケイパビリティの実現にはDX推進指標を設定して管理していくことが必要」と語り、密度の濃い講演を締めくくった。

国内の大手企業が抱えるDX共通課題とは

オージス総研 取締役 常務執行役員 技術統括 技術部長 山口健氏

オージス総研 取締役 常務執行役員 技術統括 技術部長 山口健氏

続いて、本セミナーを主催するオージス総研の取締役 常務執行役員 技術統括 技術部長 山口健氏による「オージス総研が考えるDXの方向性」という講演が行われた。

大阪ガスのITシステム子会社として設立したオージス総研では、大阪ガス事業の情報システム構築・保守をはじめ、一般顧客に対する受注開発から製品・サービス提供まで幅広いITビジネスを展開している。

同講演では、基調講演でも指摘されていた老朽システムにおける費用対効果の測定が、新しいシステムを導入する際と比べて不透明になっている企業が多いことを指摘。この問題を放置することで無駄なコストが発生していると警告する。また、シーズ(技術)起点の開発スタイルが続いていることも挙げられ、「現状のシステムの技術的な制約を前提に開発が行われるなど、本末転倒な状況になっているケースが多い」という。

山口氏は、こうしたDXに取り組む際の課題が国内大手企業に共通すると指摘。多数の企業のマイグレーションに携わっている同社の経験から、システム全体を一括して導入するBig Bangアプローチは難しく、DXに取り組む際に重要となるのは、企業のシステム間の依存関係を整理して可視化を行うことだという。このモデル化だけで1年以上かかるケースもあると山口氏。全方位でデジタル変革を進めるのではなく、複数のビュー(指標)で仕分けし、変革のしやすさや重要性、緊急度によって優先順位を付け、廃棄や塩漬けにする機能も判断していくのが効率的な手法だと語った。

こうした条件をふまえたDXに取り組む基本スタンスとしては、複数のプラットフォームが必要になる。既存プラットフォームの影響を極力除外して、これまでと異なるパラダイムで開発・改善スピード、利便性を提供する「Mode2」のプラットフォーム。既存プラットフォームを、より新しい技術でモダナイゼーションした「Mode1」プラットフォーム(+モダナイゼーション移行用のプラットフォーム)を別個に構築する必要があると山口氏は話す。

  • DXに取り組む際は複数のプラットフォームが必要

    DXに取り組む際は複数のプラットフォームが必要

そしてDXに向けたプラットフォームの構築にあたっては「いかにデータを有効に活用するか」が重要になる。山口氏はポイントとなるテクノロジーのひとつとして「マイクロサービス」を挙げ、独立性や保守性といったメリットと、導入にあたっての注意点を解説した。

さらに山口氏は、膨大なデバイスがネットワークにつながることで、従来のリクエスト/レスポンス型システムからイベント駆動型システムへと切り替わっていると分析。すでにフィールドサービス管理やサプライチェーン管理、リアルタイム配車管理などさまざまなシーンでイベント駆動型システム(アプリ)が活用されており、今後も増加が進んでいくと予測する。山口氏は講演の最後にこう語った。

「これまでは、大手企業のIT部門やBtoBのIT事業者によってソリューションが開発され、コモディティ化により中小企業へと展開されていきましたが、現在は、消費者のニーズに合わせたソリューションをフットワークの軽い新興企業が開発し、大手企業が取り入れていく流れが増えてきました。いまでは最新の技術もコモティティ化が早く、まずは技術を活用したソリューションを作って市場で検証、フィードバックで改善を図っていくことが重要です。シーズ指向からニーズ(顧客)指向への移行が必要となってくるでしょう」

BRMSがDXにおける課題解決に効果

オージス総研 ソリューション開発本部 BRMSソリューション部長 吉田隆光氏

オージス総研 ソリューション開発本部 BRMSソリューション部長 吉田隆光氏

引き続きオージス総研からは、ソリューション開発本部 BRMSソリューション部長 吉田隆光氏による「DX実現に向けたシステム刷新の実践的アプローチ ~その鍵はルールベース活用にあり~」と題した講演が行われた。

先ほど山口氏が語ったDXにおける課題をふまえた解決アプローチとして、「BRMS(ビジネスルール管理システム)」の活用について解説。ビジネスルールとは「何々するならば」「何々する/しない」という業務遂行上の条件と行動を表したもので、「コンディション」+「アクション」から成る「決定表(デシジョンテーブル)」で表現される場合が多い。そのビジネスルールの作成・管理・実行を行うシステムがBRMSだ。

「ビジネスフローには多数のタスクがあり、タスクにはさまざまなルールが含まれています。つまり日々の業務はルールのカタマリで、毎日たくさんの意思決定を行っていることになります。このため、ビジネスルールをITシステム(BRMS)で自動化することで生まれる価値は高いといえます」

  • ビジネスのルールを決定表(デシジョンテーブル)で表す

    ビジネスのルールを決定表(デシジョンテーブル)で表す

吉田氏はDXへの取り組みとしてBRMSを活用するメリットをこう語る。従来のシステムではロジックとルールが混在し、密結合な状態で実装されているため、修正・変更に手間とコストがかかり、またメンテナンスが繰り返されることにより、さらにプログラムが複雑化していくという課題も抱えていた。これに対しBRMSは、ルールを切り出して登録・実行を管理するため、ごく限られた部分の修正で対応でき、切り離されたルールだけで動かせるので確認も容易。アジャイル開発やDevOpsとの相性も抜群とのことだ。

講演では、ガス料金決定支援システムや大手銀行の自己資本規制など、BRMSを活用して効率化に成功した事例が多数紹介された。DX導入の課題に対しても「ビジネス変化への柔軟な対応」「日々の業務の可視化による効率化」「属人化の排除と継承問題の解決」などを実現できると吉田氏。BRMSの活用によって競争力の強化が図れると力を込める。

吉田氏は最後に、オージス総研が展開するBRMSフレームワークについて紹介。コンサルティングサービスとなる「BRMSアセスメント」をはじめ、ディシジョンサーバー(サービス)の構築に向けて、ルールベース開発の設計フェーズ、実装フェーズもサポートしていることを解説し、セミナー参加者の注目を集めた。

DX最前線で活躍するキーマンが語る3つの取り組み実例

後半の3セッションは、DXの取り組みに関するノウハウを持つ企業のキーマンをゲストに迎え、事例講演/特別講演として展開された。

・宇部興産の取り組み

宇部興産 化学生産本部 生産技術センター 情報技術グループ 山田幸治氏

宇部興産 化学生産本部 生産技術センター 情報技術グループ 山田幸治氏

宇部興産 化学生産本部 生産技術センター 情報技術グループの山田幸治氏による「化学スマートファクトリー化に向けた取り組み」では、同社の中期経営計画(2019~2021)の3つの基本方針の1つとなる「事業の成長基盤強化」に向けた「ICTの活用と人材育成」に対する取り組みについて講演。化学カンパニー内に2つの情報技術部門を設立し、本社の情報システム部と連携することで、事業部主体のサプライチェーン、工場主体のエンジニアリングチェーン双方でスマート化技術開発に着手した経緯が語られた。

山田氏は、オージス総研の生産ライン向けデータ分析ソリューション「MADORA(マドラー)」を採用し、生産設備のビッグデータを異常予兆検知に活用した事例や、Raspberry PiとPythonを利用したデータ収集デバイスの作成・検証といった成果、防爆規制への対応、現場のビジネス課題とIT活用の両方に精通した人材の不足といったスマートファクトリー化の課題について説明。効率的な取り組みには、外部(IT企業や大学をはじめとした研究機関など)との協業が重要だと語った。

・住信SBIネット銀行の取り組み

住信SBIネット銀行 IT統括部長 浦輝征氏

住信SBIネット銀行 IT統括部長 浦輝征氏

住信SBIネット銀行 IT統括部長 浦輝征氏による特別講演「住信SBIネット銀行が進めるDX ~銀行が銀行プラットフォーマーとなるために~」では、同社の経営理念にもある最先端のITを駆使した革新的な取り組みが解説された。

2007年の開業と同時に開始した「SBIハイブリット預金」をはじめ、2016年は国内初となる参照系APIと更新系APIを提供、同年には中小企業向けの最短即日融資が可能な「トランザクションレンディング」(2019年5月、商品名を「事業性融資 dayta」に変更)も展開するなど、テクノロジーを活用したサービスを次々に開発。2018年にはブロックチェーン技術を活用した送金アプリ「Money Tap」をリリースし、次世代型のオープンな金融インフラを構築した。

近年はAPI基盤を通じて必要な銀行機能を提携先のサービスに融合する「NEO BANK戦略(BaaS)」を採用しており、2019年5月には日立製作所と共同で、AI審査サービスを金融機関向けに提供する新会社を設立した。浦氏は、同社のデジタルトランスフォーメーションの最新事例として、インターネットバンキングシステムのAWS移行と、日本航空(JAL)とのアライアンスによるプリペイドカード発行について解説。銀行がニーズを予測する「Bank 3.0」時代に対応するための事業戦略を語ってくれた。

・コニカミノルタの取り組み

コニカミノルタ IoTサービスPF開発統括部 中原慶氏

コニカミノルタ IoTサービスPF開発統括部 中原慶氏

そして最後の講演となったのは、コニカミノルタ IoTサービスPF開発統括部 中原慶氏によるセッション「老舗メーカーにおけるアジャイル型開発の普及と人財育成」だ。

長年ものづくりを行ってきた老舗メーカーの「組織構造と文化」がDXの障壁となるという事実と、その課題を解決するためにはアジャイル型開発の普及と人財育成が重要となることが解説された。

中原氏は、同社における組織構造と文化変革の取り組みで有効だった「トップマネジメントを味方につける」「仲間を作る」「話を大きくする」という3つの活動を紹介。どのようなアプローチで取り組みを進めたのかを詳細に語ってくれた。本講演で語られた事例は同社の環境におけるものだが、その内容は製造業を中心にさまざまな企業に当てはまるもので、多数のセミナー参加者が熱心に聞き入っていた。

こうして、大盛況のうちに閉幕を迎えた今回のデジタルトランスフォーメーションセミナー。長時間のプログラムながら、途中退出する参加者はほとんどおらず、DXへの取り組みに課題を抱える企業が多いことがうかがえた。各講演でも繰り返し語られていたが、DXを成功させるためには、豊富なノウハウを持つIT企業など外部との協業が必要となってくる。そうした意味でも、オージス総研をはじめ本セミナーで登壇した各企業の今後の展開には注視していく必要があるだろう。

[PR]提供:オージス総研