第1回でも触れたように、個人メディアと連携し、ウェブを介して広くリーチを取るための手法として利用されている「ブログ/SNSと連携したウィジェット」について、利用状況や課題などの現状把握を行いつつ、2009年のトレンド予測を行います。ボリュームがあるので、本テーマは前編・後編に分けてご説明したいと思います。さっそく、前編のトピックは、ブログやSNSを利用したマーケティングを検討にするにあたり必要とされる市場環境を把握できるように、以下の点について重点的にまとめてみました。

  • ブログ/SNSウィジェットの普及状況
  • ブログ/SNS両ウィジェットの特性と普及の背景

ブログ/SNSウィジェットの普及状況

まずは、全世界でのウィジェット普及状況を把握するため、少し古くはなりますが、米国の調査会社comScoreが2007年6月公開したデータを紹介したいと思います。comScoreは「comScore Widget Matrix」という「全世界のウェブ上のウィジェットの利用状況を追跡・レポーティングするサービス」をローンチし、その際に、地域別のウィジェット浸透率(計測期間:2007年4月の1カ月間)というデータを公開しています。

地域別のウィジェット浸透率(comScore調べ、計測期間:2007年4月の1カ月間)

ここで言う、「ウィジェット浸透率」とは、ウィジェットを閲覧した人の数÷各地域のインターネットユーザー数により導き出されたもので、各地域にどれくらいのユーザーがウィジェットを表示しているサイトを訪問しているか? を表す指標となります。上記のグラフを見ると、全世界でウィジェット浸透率は20%を超えており、1カ月間で5人に1人はウィジェットが表示されたサイトを訪問しているということになります。

地域別で見ると、北米地域は40%、西欧地域は24.3%、アジア・太平洋地域は11%と地域間で差異が見られます。やはり、北米地域の数字が群を抜いて高い理由としては、「Facebook」や「MySpace」といった全世界で1億人以上の会員を抱える大手SNS上でウィジェットが展開されていることが挙げられるかと思います。

ブログ/SNS両ウィジェットの特性と普及の背景

ウィジェットの表示エリアは、一般にブログ/SNSともに訪問者が見るページ、特にプロフィールが表示されている付近になります。そこにユーザーが自分で気に入ったウィジェットを表示させるわけです。

SNS連携ウィジェット(Facebookの例)

ただ、ブログとSNSがそれぞれ異なるメディア特性を持つように、ブログ用ウィジェットとSNS用ウィジェットについても特性に差異が見られます。米国を中心に普及しているSNSと連携したウィジェットでは、ユーザー間のコミュニケーションを誘発するようなウィジェットが人気を博しています。友達の写真を表示するものや対戦型ゲームなどがそうです。リアルな関係性に基づきユーザー間が繋がっているというSNSの特性を活かしたものと言えます。

SNSとウィジェットの連携が多いのは、大手SNSのプラットフォーム開放にともない、ウィジェット提供者がSNSの機能特性を活かした「コミュニケーション」型のウィジェットの提供を開始したことによるものです。たとえば、友人たちと手軽に楽しめるゲームウィジェットの場合は、SNSならではの情報である「フレンドリスト」を利用して対戦成績を表示・共有させることで、個人から個人へと瞬く間に広がっていきます。そのためSNSウィジェットでは、一気に多くのユーザーに普及するケースを多く見かけます。

ブログパーツ(FLO:Qの例)

一方、日本では、個人ブログと連携したウィジェット「ブログパーツ」が広く普及しています。その背景としては、大手SNS上でウィジェットサービスが解禁される前段階であること、日記感覚でアクティブにブログを利用する日本特有のアクティブブロガーが増加したことが考えられます。

ブログの楽しみ方のひとつに、ブログスキンと呼ばれるデザインを自由に変更できる機能がありますが、ブログパーツについても、そのブログスキンにマッチするよう「デザイン性」が強く求められるようになりました。実際に、日本国内での調査会社による調査データを見てもその傾向は顕著に表れています(参考:「ブログ、ブログパーツはデザイン重視。過半数を超える」アイシェア調べ)。

では、近年、日本国内において、ブログパーツ利用者数や提供されるブログパーツ数はどのような推移を見せているのでしょうか?

ブログパーツポータルサイト「ブログパーツ.com」の運営企業であるアイオイクスから、ブログパーツの利用者数/普及数について非常に興味深い数字をいただきました。下のグラフは、2006年4月から2008年10月まで、「ブログパーツ.com」を訪れた月間ユーザー数(青・棒グラフ)と、サイトの月間ページビュー(緑・折れ線グラフ)の推移を分かりやすくまとめたものです(「ブログパーツ.com」は、Googleで"ブログパーツ"と入力すると、一番最初に表示されるサイトですので、現状の市場トレンドを把握するには最適なのではないかと思います)。

ブログパーツの利用者数/普及数(集計期間:2006年4月~2008年10月、ブログパーツ.com調べ

グラフを見ると、2007年10月頃から急激に利用者数/ページビューともに伸びており、月間のユーザー数が10万人、ページビューが100万を超えています。一方で、この時期のブログパーツ登録数は、2007年10~12月の3カ月間で227件、1日平均2.5個のブログパーツが新たにリリースされている計算になります。

この後、利用者数/ページビューは、15万人/150万PVといった状況。ブログパーツ登録数は、直近2008年10~12月の3カ月間で329件、需要・供給ともに堅調な伸びを見せ、結果として1年間で約1.5倍に成長していることになります。

アイオイクス ソリューション事業部 コンサルタントの中田氏はこの成長について、「2007年時点では、全体の30%くらいが個人のクリエイターから提供されたもので、自身の作品発表の場として利用されていた側面があった。ところが、2008年に入ると徐々に少なくなり、現状ではその数も5%程度となった。ここ1年、企業が提供するものが圧倒的に増えたことが、ウィジェット数増加の要因に直結している」と説明します。

日本におけるブログパーツ普及では、ブロガーのニーズに沿った「デザイン性の高いブログパーツ」が企業から数多く提供されたことが、一気にブログパーツの需要拡大に結びついたようです。コミュニケーション要素から普及したSNS連携ウィジェットとは、異なる広まり方と言えます。

このようにウィジェットには、プラットフォームごとに機能的な差異がある一方で、普及のために必要とされる共通事項として、「メディア特性とユーザーニーズにマッチしたウィジェットが数多く提供されることで、ユーザーのウィジェットに対する意識が向上する。この需要と供給のバランスがポジティブに保たれることで、ウィジェット普及のトリガーとなる」といった点が挙げられます。

ここでのポイントは、新たなプラットフォーム上でウィジェットが普及する際に、企業によるウィジェット供給量がドライビングフォースになるということ。そして、プラットフォーマーとして、企業ニーズに合ったサービス環境の提供が必須であるということです。逆に言うと、企業が新しいプラットフォームを選択をする際、この環境面が整備されていない場合には、リスクがともなうということも認識しなければなりません。

後編では、ブログ/SNSウィジェットパートでの核心ともいえる次の2点

  • ブログパーツマーケティング成功の秘訣と課題
  • 2009年のトレンド:解禁間近! 日本最大SNS「mixi」が展開する「mixiアプリ」とは?

について詳しく説明したいと思います。

著者プロフィール : 竹下直孝

2001年 ソニー株式会社に入社。インターネットサービスを手掛ける部門に属し、利用したコミュニティサービスに関する事業企画を担当する。2005年に有志で「新しいネットメディアの開発」をコンセプトに、ウィジェットサービス「FLO:Q(フローク)」プロジェクトを発足。06年10月にブログパーツサービスを、07年11月にはPCデスクトップ・ウィジェットサービスをリリース。2009年1月現在、ブログパーツはサービス全体で月間1.8億インプレッションを保有、独自の広告モデルを展開中。デスクトップウィジェットについても、昨年末に10万ダウンロードを突破し、本格的にビジネスメニューの提供を開始。さらに、1月から国内で発売されるパーソナルコンピューター「VAIO」の新機種に管理ソフト「FLO:Q Widget Manager」のプリインストールを開始した(※一部、機種を除く)。