総務省は2023年4月25日、「デジタル田園都市国家インフラ整備計画」の改訂版を公表しています。これは2022年に公表された初版からどのような点が改訂され、政府が携帯電話産業にどのような課題感を抱いているのかを、5G/6Gの視点から確認してみましょう。→過去の「次世代移動通信システム『5G』とは」の回はこちらを参照。

HAPSや衛星通信など「NTN」の国内展開に重点

現在の岸田文雄首相の政権下で打ち出された「デジタル田園都市国家構想」。その実現に向けたデジタル基盤の整備に向け、総務省は2022年3月に「デジタル田園都市国家インフラ整備計画」を公表しました。

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そこでは2027年度までに光ファイバの世帯カバー率99.9%を、2023年度末に5Gの人口カバー率95%を達成することなどが盛り込まれ、とりわけ5Gの整備に関しては、当初目標をより上積みした目標設定がなされたことで話題となりました。

そして、およそ1年が経過した2023年4月25日、総務省はそのデジタル田園都市国家インフラ整備計画の改訂版を公表しています。

総務省の発表内容を見ますと、社会情勢の変化によりネットワークの信頼性向上や地方におけるデジタル活用の重要性が高まっていることを挙げており、そのためにインフラ整備などの取り組みを一層強化するため改訂に至ったとされています。

その内容を確認しますと、以前のデジタル田園都市国家インフラ整備計画で強化すべき点に挙げられていた、光ファイバを主体とした「固定ブロードバンド」、5Gを主体とした「ワイヤレス・IoTインフラ」、「データセンター/海底ケーブル等整備」、「Beyond 5G」だけでなく、新たに「非地上系ネットワーク(NTN)」が加わったことが大きなトピックの1つといえるでしょう。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第95回

    総務省「デジタル田園都市国家インフラ整備計画(改訂版)」の概要より。従来の固定ブロードバンドや5Gなどに加え、新たにHAPSや衛星通信など「NTN」の早期展開に向けた取り組みの推進が追加されている

NTNに関しては、HAPSや衛星通信を活用したネットワークを、2025年度以降に国内で早期展開するための取り組みを推進するとのこと。

具体的な取り組みとして、HAPSに関しては「WRC-23における周波数の拡大など国際ルール策定の推進」「実現に必要な国内制度の整備」、そして海外展開の推進が挙げられています。

また、衛星通信に関しては、周波数などの制度整備に加え、日本独自の衛星通信コンステレーションの構築に向けたサービスや通信技術の調査・検討を実施するとされています。

低軌道衛星のコンステレーションとそれを用いたサービスとしては、スペースXの「Starlink」が知られていますが、同種の衛星群を日本でも独自に用意するとともに、スマートフォンと衛星との直接通信なども早期に実現したい考えのようです。

携帯電話産業に抱く2つの課題とは

しかし、5G/6Gに関連する改訂内容を見ますと、国が通信産業に抱いている課題感が如実に表れている印象です。

1つは人口が少ない地方の5Gネットワーク整備に携帯各社が消極的であり、5Gを活用した地域課題を解決するソリューションの開拓が進んでいないことです。

そのことを示すのが、新たに「道路カバー率」が追加されたことです。これは高速道路および国道の5Gカバー率を示したもので、2030年度末までに99%、高速道路については100%の達成を目指すとしています。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第95回

    5Gのネットワーク整備方針については、人口カバー率に加え新たに「道路カバー率」を追加。2030年度末までに道路カバー率を99%、高速道路については100%の実現を目指すとしている

道路カバー率を追加したのは「平時・災害時を問わず人流・物流として重要であり、今後、自動運転などで携帯電話事業者の全国ネットワークが必要となることが見込まれる」ためとされており、5Gの自動運転への活用を見据えたものと見ることができそうです。

ワイヤレスを活用したソリューションに関しても、レベル4の自動運転に関する政府目標達成のため、自動運転に必要な通信の信頼性確保のための支援策をするとしており、自動運転の重要性が高まっている様子がうかがえます。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第95回

    ワイヤレスを活用したソリューションとして、関係省庁の自動運転などのプロジェクトと連携して地域のデジタル基盤素インを求めている

さらに、道路カバー率向上など、非居住地域の5G・4G整備の加速に向け、インフラシェアリングの活用も含めた一層の支援のあり方を検討するとされています。

人が住まない場所はビジネスにつながらないので携帯電話会社がネットワーク整備をしたがらないことから、そうしたエリアの対策に向け政府が何らかの補助を打ち出すことは極めて重要であり、対策の促進が求められるところです。

グローバルではまったく存在感を発揮できていない

そしてもう1つが、日本の技術的優位性をグローバルでのビジネス成功へと明確に結びつけること。

とりわけそのことを示しているのがBeyond 5G、要は6Gに関する取り組みの改訂で、より一層グローバル市場で国内企業が競争力を持つことに重点が置かれていることが分かります。

これまで日本は高い通信技術を持ちながらも、国内市場中心の展開に重点を置いてきた結果、グローバルのビジネスではまったく存在感を発揮できていないのが現状です。

それゆえBeyond 5Gに関する項目では「グローバル視点に立つ」「社会実装・海外展開を強く意識したプロジェクトを重点的に支援」といった文言が多く並ぶなど、日本企業が海外で成功するための取り組みを明確にしている様子を見て取ることができます。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第95回

    Beyond 5Gに関しては、海外展開を強く意識したプロジェクトを重点的に支援するなど「グローバル」という言葉が目立つ

同様に、5Gに関する項目で追加がなされている「国内外におけるOpen RANの普及促進」でも、日本企業のグローバルでの成功を重視している様子を見て取ることができます。内容は、グローバルでのオープンRAN普及のため「Japan OTIC」を強化することが挙げられています。

Japan OTICは2022年12月に神奈川県横須賀市に設立された「O-RAN ALLIANCE」の仕様に準拠した機器の試験や認証をするための施設。日本企業のビジネス契機にもつながるオープンRANの機運を、国を挙げて高めようとしている様子がうかがえます。

一連の改訂では、政府としてモバイル通信事業のプレゼンスを国内外で高めたい様子を見て取ることができます。

ただ、ここ最近の動向では政府主導による携帯電話料金の引き下げが携帯各社の業績を直撃し、5G整備モチベーションが向上せず品質低下につながる事例があるなど、世界的に高い品質を誇ってきた日本のモバイル通信インフラの質が国の影響で低下しているようにも感じています。

改訂で国が通信産業を担う各社にどのような支援と対処をし、それが本当に日本の携帯電話産業に貢献するものになるのかはしっかり見届けておく必要があるでしょう。