日本では5Gで基地局など無線設備のオープン化「オープンRAN」に向けた取り組みが進みつつありますが、NECなど国内の通信機器ベンダーはその技術を生かして海外の携帯電話事業者への機器導入に向けた取り組みを進めています。→過去の次世代移動通信システム「5G」とはの回はこちらを参照。
ただオープン化に対する温度差は国や個々の携帯電話会社によって違いがあり、その取り組みが順調に進むとは限りません。NECの取り組みからオープンRANの現状と課題を確認してみましょう。
オープンRANで実績を積み上げるNEC
これまで通信機器ベンダーごとに仕様が異なっていた、基地局など無線アクセスネットワーク(RAN)のインタフェースをオープンな仕様に共通化し、1つのネットワークに複数のベンダーの設備を導入できるようにする「オープンRAN」。
5G時代に入り、とりわけNTTドコモや楽天モバイルなど日本国内の携帯電話事業者が積極採用を進めており、世界的にも注目が高まっています。
そして、オープンRANの機運の高まりとともに、積極的な動きを見せているのが日本の通信機器ベンダーです。日本の通信機器ベンダーは、これまで海外進出がほとんどうまくいっておらず、事業展開はほぼ国内に限られ世界的存在感はないに等しい状況でした。
しかし、オープンRANの機運の高まりとともに、再び海外に打って出る機運が高まっているようで、その1社となるのがNECです。同社は、すでにNTTドコモや楽天モバイルにオープンRAN対応の機器導入を進めていますが、海外でも大手携帯電話会社への機器導入を積極的に進めているのです。
実際、同社は2021年6月に英ボーダフォンからオープンRANの5G基地局装置パートナーに認定されたほか、独ドイツテレコムの商用オープンRANプロジェクトで5G基地局装置を提供したと発表。
さらに、同年9月にはスペインのテレフォニカとオープンRANのプレ商用実証に合意したと発表しており、海外企業への機器提供が積極的に進められている様子を見て取ることができるでしょう。
2022年9月22日にNECが実施した説明会では、すでに世界20カ国以上で、36の事業者がオープンRAN導入に向けたトライアルや商用向けの構築を進めているほか、その市場規模も2025年には基地局市場全体の3割程度に達するなど、今後オープンRANが市場全体で大きく伸びることを見込んでいるようです。
そこで、NECは現在オープンRANへの積極投資を進めており、2025年度にはオープンRANを主体としたグローバル5G事業で売上収益1900億円、調整後営業利益率10%を達成するという意欲的な目標を掲げています。同社がこの事業に非常に強い期待をかけている様子を見て取ることができます。
NECのオープンRANに関する海外でのビジネスは、現在のところRANのうちRU(Radio Unit)、つまりは無線処理を担うハードウェアのみの提供となっていますが、ハードだけではいずれ価格競争に巻き込まれる可能性もあります。
そうしたことからNECはRUを軸としながら、顧客との関係を強めてその上のCU(Central Unit)やDU(Distributed Unit)、さらにはコアネットワークやシステム全体の運用へとビジネスを広げていきたい考えのようです。
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NECが現在携帯各社への導入を進めているのはオープンRAN対応の無線設備のみだが、今後はNECのシステムインテグレート力を生かして基地局やネットワークのより深い部分での機器やサービス提供を進めたい考えのようだ
最大のハードルは既存事業者の導入意欲
しかし、その一方で必ずしもNECの思惑通りにオープンRANの導入が進んでいない様子を見て取ることができ、それを示しているのが“期ずれ”です。
というのも同社は2022年度、当初計画ではグローバル5G事業で1100億円の売上を見込んでいたのですが、国内外で需要の見込みにずれが生じ、820億円へと下方修正しているのです。
とりわけ海外での減収要因となったのが「ブラウンフィールド」、要は既存ベンダーの基地局設備をすでに導入してサービス提供している事業者の動向にあり、一部にオープンRANの導入に慎重な姿勢を示し実証実験が遅れたためだとしています。
楽天モバイルや米Dish Network、独1&1といった新興の携帯電話会社は、ゼロからネットワーク構築を進められる「グリーンフィールド」であり、オープンRANなどの新しい技術も導入しやすいのですが、飽和が進む携帯電話市場でそうした事業者はごくわずかに過ぎません。
大半の事業者はブラウンフィールドに相当し、既存の設備で多数の顧客にサービスを提供しているので顧客への影響などを考えると新しい技術の導入に前向きな判断を下すのは難しいのです。
ただ、オープンRANに慎重な姿勢を見せる携帯電話会社が増えるほど、安定を求めてクローズドな大手ベンダーの機器に依存するという従来の体制が変わらないこととなります。それはオープンRANに力を入れるNECなどにとって商機が失われ、再び海外進出への道が閉ざされることにもつながってくるでしょう。
そこでNECは、当面オープンRANの導入に積極的な姿勢を見せる欧州の大手携帯電話会社との取り組みに重点を置く姿勢を見せています。
日本だけでなく欧州でもオープンRANの明確な実績を積み上げる上げることにより、他のブラウンフィールド事業者のオープンRANに対する信用、そして導入への機運を高めてビジネス機会の拡大へとつなげていきたい考えのようです。
オープンRANは国内の通信機器ベンダーにとって大きな商機であることに間違いないでしょうが、大手ベンダーの壁は非常に高く成功が約束されているものではありません。NECをはじめとした国内ベンダーが成功するためには、オープンRANの導入機運をいかに早く高められるかが勝負になってくることは確かなようです。