ノキアは2021年10月13日、日本のローカル5G仕様に対応した5G固定無線アクセスブロードバンドゲートウェイ「FastMile 5G Gateway 3.2」を発表。ローカル5G関連の製品やソリューションも紹介され、ローカル5G向けのネットワークや機器が出揃いつつある様子が見える一方で、ローカル5Gの普及に向けた大きな課題も見えてきます。→過去の回はこちらを参照。
ルータ型のローカル5G対応デバイスを投入
ノキアは2021年10月13日、同社の5G技術やソリューションなどを紹介する「Nokia Connected Future 2021」を実施しました。このイベントではノキアの現在の取り組みを紹介するとともに、いくつかの新製品も打ち出していました。
その1つは自社開発のネットワークプロセッサの最新版「FP5」で、主に通信事業者などに向けたネットワークルータなどに用いられるもの。プロセッサ上にメモリを搭載することなどによって、高速化と大幅な低消費電力を実現するとともに、処理の高速化によってネットワーク上のトラフィックをフルで暗号化できるなど、高いセキュリティ性能を持つ点も特徴となっています。
そして、もう1つは「FastMile 5G Gateway 3.2」という製品です。こちらは5GのFWA(Fixed Wireless Access:固定無線アクセス)に対応した固定無線アクセス端末で、要は「SoftBank Air」や「home 5G」など、4G・5Gを固定回線の代替として用いるサービスの、ルーター製品に近いものといえるでしょう。
ノキアは今回、そのFastMile 5G Gateway 3.2を日本のローカル5Gの周波数帯に対応させて提供するとしています。対応するのはサブ6の4.5GHz帯(n79)のみでミリ波の28GHz帯(n257)には対応しませんが、スタンドアローンだけでなくノンスタンドアローンでの運用が可能なことから、そのアンカーバンドとなる4G用帯域として、地域BWAの2.5GHz帯(バンド41)にも対応。日本市場に特化した周波数帯構成になっているのが大きなポイントです。
Wi-Fi部分も5Gの高速通信を広範囲で生かせるよう、Wi-Fi6やEasyMeshに対応しており、SIMは物理SIMだけでなくeSIMにも対応。また、ローカル5Gの周波数帯で用いられているTDD(時分割複信)方式の準同期運用にも対応し、上りの通信速度を向上させることも可能なことから、コンシューマー向けだけでなく企業向けの需要もかなり意識していることが分かります。
ソフトウェアに関しても、OSにOpenWRT準拠のオープン仕様のものを採用、企業の用途に合わせて開発されたアプリを導入しやすくなっているとのこと。さらに、今後オプションとして、BluetoothやGPS、さらには電話を接続する際に用いるRJ-11端子等も追加できるそうで、かなり幅広い用途での活用を意識している様子がうかがえます。
ローカル5Gの主要顧客が求める「リリース16」
ローカル5Gに用いられる周波数帯、とりわけ4.5GHz帯は用いられている国が少なく、対応する端末が少ないことが、以前より課題とされてきました。
すでに国内メーカーがいくつか対応端末を投入していますが、どちらかと言えばスマートフォン型など、エッジデバイスとしての利用も意識した高性能なものが主流で、通信に特化したルータ型の端末はあまり出てきていませんでした。
それだけにFastMile 5G Gateway 3.2の登場は、ローカル5Gを手がける事業者にとって大きな恩恵となることは確かでしょう。ケーブルテレビ事業者など、ローカル5Gで家庭向けのFWAサービス提供を考えている事業者だけでなく、カスタマイズのしやすさなどから法人向けの需要も大きいものと見られます。
それに加えてノキアは以前より、クラウドでコアネットワークを提供することで、ローカル5GやプライベートLTE(日本であればsXGP)などの自営ネットワークを導入しやすくする「NDAC」(ノキアデジタルオートメーションクラウド)を提供するなど、ローカル5Gに向けた取り組みに力を入れています。
ネットワークから端末まで、ローカル5G関連機器を包括的に提供できるようになったことで、ノキアのローカル5G導入に向けた取り組みは一層加速すると考えられます。
ただ、最近の動向を見ますと、事業拡大には課題も少なからずあるというのが正直なところで、それはローカル5Gに対するニーズと性能がまだ一致していないことに起因します。というのもローカル5Gのニーズが高いとされる製造業などが期待を寄せているのは、現状の5Gが実現している高速大容量通信より、もう1つの特徴である低遅延・高信頼性であるからです。
確かにスタンドアローン運用が可能な4.5GHz帯の免許割り当てによって、ローカル5Gでも5Gの性能をフルに発揮できるようになりましたが、現行運用されている5Gネットワークに用いられる機器は、標準化団体の3GPPが定めた「リリース15」に対応したものが大半で、低遅延・高信頼性の部分は基本的な機能の実装にとどまっています。
しかし、多くの企業は機器同士のトラフィックの優先順位付けができるなど、低遅延・高信頼性の部分で機能強化がなされる次の仕様「リリース16」に期待をしているようです。
そのため、ローカル5Gの本格活用はリリース16の仕様が機器に反映されるのを待って進むのではないかと見られているのです。その時期は2022~2023年頃と予測されているようですが、それまでは実証実験レベルの小規模な機器導入にとどまってしまうというのが、ノキアのような事業者にとっては悩ましいところといえるでしょう。