2025年3月現在、トランプ大統領はバイデン前政権に路線を継承する形で、先端半導体分野における対中国輸出規制を強化していく構えだ。
そして、バイデン前政権がそうだったように、半導体の製造装置で世界シェアを誇る日本に対しても同調を求めてくることは間違いなく、その対応次第で日本と中国の経済・貿易関係は大きく左右されることになろう。
ここでは、トランプ政権が日本に同調を呼び掛け、石破政権が「同調する」シナリオと「同調しない」シナリオを想定し、それぞれの場合に中国と日本の経済貿易関係がどうなるかを予測する。
石破政権がトランプ政権に同調する場合
このシナリオでは、中国と日本の経済貿易関係は冷え込む可能性が高い。中国は日本を「米国の手先」とみなし、報復措置を講じるだろう。
まず、経済的報復として、日本からの輸入品に対する関税引き上げや非関税障壁の強化が予想される。2023年のデータでは、中国は日本の輸出先として約20%を占め、自動車や機械類が主要品目だ。これに対し、中国が日本車への輸入規制や現地生産への圧力を強めれば、トヨタやホンダなど自動車メーカーの収益が打撃を受ける。また、中国がレアアースなど重要資源の輸出制限を再び実施する可能性もあり、日本の製造業全体に影響が及ぶ。
また、中国は日本企業への投資や技術協力を縮小するかもしれない。近年、日系企業は中国市場でのEV生産や半導体関連事業で協業を進めてきたが、規制同調によりこうした関係が冷え込み、日本企業の中国事業が縮小する恐れがある。一方で、日本は米国市場への依存を強める形で、半導体関連の対米輸出や投資が増加する可能性はある。しかし、中国市場の喪失は日本のGDPの数%に相当する損失を意味し、経済成長率の低下につながるリスクがある。中国側も日本製装置への依存度が高いため、短期的な生産停滞が予想されるが、長期的には国産化を加速させ、日本への依存を減らす戦略を進めるだろう。結果として、日中経済関係は暗い時代に入ることは間違いない。
石破政権がトランプ政権に同調しない場合
一方、石破政権がトランプ政権の呼び掛けに同調せず、独自路線を取るシナリオを考える。
このシナリオでは、中国と日本の経済貿易関係は比較的安定を保つ可能性が高い。中国は日本の非同調を「現実的な選択」と評価し、両国間の経済協力を維持・強化する姿勢を見せるだろう。
2023年時点で、日本の対中輸出額は約17兆円に上り、中国にとっても日本からの高品質な製造装置や素材は不可欠だ。したがって、中国は日本企業への市場アクセスを維持し、レアアース供給や投資協力を継続する可能性が高い。これにより、日系企業の中国事業は拡大し、特に自動車や電子機器分野での貿易が堅調に推移する。
ただし、蜜月関係とはならない。中国は日本の「曖昧な態度」に不信感を抱き、半導体国産化を加速させる戦略を続けるだろう。例えば、ファーウェイやSMICへの投資を増やし、日本製半導体製造装置への依存を減らす動きが顕著になる。また、日本が米国との関係を完全に切らない以上、中国は日本を「信頼しきれないパートナー」と位置付け、長期的な経済関係に一定の距離を置く可能性がある。一方で、日本にとっては、中国市場を維持することで経済的なバッファーが確保され、米国からの報復関税や圧力に対抗する余地が生まれる。結果として、日中経済関係は実利的な協力が続きつつも、戦略的信頼の欠如から深い結び付きには至らないだろう。
いずれにせよ、石破政権の選択は中国と日本の経済貿易関係に大きな波及効果をもたらす。同調すれば関係は冷え込み、報復と依存低減の連鎖が加速するだろう。非同調なら実利的な協力が維持されるが、戦略的距離感が残るだろう。日本の経済的レジリエンスを保つには、どちらの道を選ぶにせよ、ASEANなどグローバルサウスとの関係が極めて重要になろう。