AppleのiPhone、Mac、iPadなどに採用されている「Appleシリコン」について、現状と将来像について、シリーズでお伝えしていく。
まずは、Appleシリコンについて、その成立や経緯を振り返っていこう。
Appleシリコンとはなにか
Appleシリコンは、Appleが設計するARMチップを指している。iPhoneのアプリケーションプロセッサとしてARMアーキテクチャを採用し、2010年に登場したiPhone 4から「A4チップ」として独自設計へ移行し、その取り組みを強化してきた。
A4チップが登場した時にはまだ「Appleシリコン」という言葉は使われていなかった。Appleが積極的にAppleシリコンと謳い始めたのは、2020年にMacがIntelチップからApple設計のチップへ移行する頃からだ。
そもそもAppleシリコンが採用しているARMアーキテクチャは、英国で1990年に設立された半導体設計企業「ARM」(Advanced RISC Machines)からライセンスを受けて作られているものだ。
そのARM設立には、Acorn Computers、VLSI Technologyとともに、Appleも合弁事業として参画していた。当時開発中だった携帯情報端末「Newton」のために、低消費電力プロセッサを求めており、ARM設立に参加するきっかけとなった。
また2008年にはP.A. Semiを買収。これにより、高性能低消費電力チップの設計に携わる150人もの技術者を迎え入れ、前述の2010年の独自設計チップの採用をスタートさせた。
Appleシリコンの特徴は多様な「サボる技術」
Appleシリコンは、成立の経緯からして、「低消費電力」が念頭に作られてきたことがわかる。
特にモバイルデバイスでは、高性能化以上に、低消費電力が求められる。簡単にいえば「いかにサボるのが上手いか」でデバイスのバッテリー持続時間が大きく左右される。
その特徴は、Macに搭載される際にも引き継がれているが、同じパフォーマンスを半分の電力で実現するだけでなく、同じ電力で倍のパフォーマンスを発揮する、という方向にも、低消費電力性を活用している点で、iPhoneと異なる側面を見せるようになった。
加えて、特にiPhoneで顕著だったのが、スマートフォン上で行われるタスクの変化に合わせて、チップに実装するアクセラレータを追加していった点だ。 例えばカメラセンサーから入力される信号を処理するISPや、ビデオのエンコード・デコードを行うコーデックは、iPhoneカメラの画質のよさ、特にビデオ撮影の品質の高さの根拠となっている。
さらにNeural Engineと言われる機械学習コア(NPU)の搭載は、前述の写真撮影やその他アプリのAIタスク、Apple Intelligenceのデバイス上の処理を行う仕様を実現している。これらの実装は、高速化、高品質化はもちろんだが、CPU/GPUといった汎用処理を行うプロセッサの負担を軽減し、やはり消費電力の低減に寄与する。
進行する内製化
Appleがチップ設計を行う中で、内製化の進行もまた、変化として位置付けられる。
グラフィックス、電源管理ICに続いて、2025年2月に登場した「iPhone 16e」では、Apple C1モデムと言われる、Apple独自のモデムを搭載し、長らく採用してきたQualcomm(クアルコム)のチップから置き換えた。
iPhoneのグローバルマーケティングを担当するカイアン・ドランス氏にApple C1について聞くと、その役割の一端を垣間見ることができた。
A18チップと連携し、ユーザーが使っているアプリの通信と、バックグラウンドタスクを判別し、通信状況が悪いところではバックグラウンドタスクの通信を後回しにする形で、通信のパフォーマンスを高めるという。速度がいらないバックグラウンドタスクでは、電力を節約する制御も行われていると考えられる。
このように、内製化によって、ユーザー体験、アプリ、OS、チップの連携を強化し、高いパフォーマンスと消費電力の低減を両立する連携を実現しているのだ。これもまた、前述の「サボる技術」であり、ハードウェアからソフトウェアまで垂直投合するAppleが、チップの内製化を進める結果と見ることができる。(続く)