いち早く市場の変化に対応し、ビジネスを推し進めて行く上で、デジタル化はもはや必須であることは言うまでもない。だが、日本企業のデジタル化は、他国の企業に比べて大きく遅れを取っているのが現状だ。それを裏付けるのが、ガートナーによる2021年のCIO調査である。

例えば、「社内でデジタル化された業務の割合」について見てみると、日本はわずか27%に過ぎず、デジタルに起因する売上の割合も15%と極端に低い結果が出ているのだ。参考までに中国を見ると、「デジタル化された業務」が55%以上あり、売上全体の32%がデジタルに起因している。そのほかの国々と比較しても、日本は圧倒的にデジタル化が遅れていると言わざるを得ないのだ。

なぜ日本ではデジタル化がこれほど遅れてしまったのか。

6月21日、22日に開催された「ガートナー アプリケーション・イノベーション&ビジネス・ソリューション サミット 2021」では、22日の講演「デジタル・トランスフォーメーションを成功に導く組織文化の変革の進め方」に、ガートナー ジャパン バイスプレジデント アナリスト ガートナー フェローの藤原恒夫氏が登壇。デジタル化が進まない背景と、デジタル化を進めるために必要な組織文化変革の方法論について語った。

なかなか進まない日本企業のデジタル化 - 遅れを取り戻すには?

日本企業のデジタル化の遅れには、人材リソースやデジタルスキルの不足などさまざまな原因が挙げられる。なかでも藤原氏が「最大の障壁」と指摘するのが「組織文化の障壁」である。

なかでも、特に大きな要因になっているのは「組織全体でイノベーションが進んでいないこと」「変化に対するリーダーシップ/計画/実行力が弱いこと」「IT部門と事業部門間の関係が効果的でないこと」だという。

デジタル化の障壁は組織文化

デジタル化の障壁は組織文化/出典:ガートナー(2021年6月)

では、どうすればこれらの障壁を取り除き、DX(デジタルトランスフォーメーション)を進めることができるのか。

藤原氏が提案するのが「小さなマインドセットの変革」だ。

そもそも従来型の組織では、「計画的にリスクを回避し、改善が得意で、製品に対して完璧主義であること」が特徴だった。将来への道筋が明確だった時代は、こうした特徴を持った組織が良しとされていたのである。

しかし、コロナ禍で明らかになったように、今は”確実な未来”など期待できない時代である。そんな”不確実な未来”に対応するためには、従来型の組織モデルでは不十分なのだ。

これから組織に必要とされるのは、「戦略的投資対象を持ち、失敗を許容する組織文化」である。そして、組織文化を変革するためには、小さなマインドセットの変革を行う必要があるというわけだ。

藤原氏が説いた「目指すべき組織文化」の具体例は次のようなものだ。

  • 新しいことへの挑戦を支援
  • 経営層を巻き込める
  • 部門をまたいだ信頼関係が存在
  • モチベーションが高い
  • さまざまな人たちと協働できる

ただし、必ずしも現状の組織文化の全てを捨て去る必要はないと藤原氏は言う。

「これまでの組織文化にも良いところはあるはずです。例えば、ルールと秩序が維持され、約束が守られ、想定外がないことや、解決策が手元になくても上司と気軽に話ができること、週に3~4日は在宅勤務ができることなどが挙げられます。そのような良い部分をリストアップし、変革のベースにしてみてください」(藤原氏)

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ガートナー ジャパン バイスプレジデント アナリスト ガートナー フェローの藤原恒夫氏

また、組織文化変革を成功させるポイントとして、藤原氏は「まず1つから始める」ことだと説明する。

というのも、組織文化を変革させるということは、単純にカルチャーを変えるということではないからだ。社員の価値観や意識、社内制度まで踏み込んで変革していかなければ、真の組織文化変革はなし得ない。

それらの変革を全て同時に行うのは難しい。だからこそ、まずは「1つから」始めるべきだというのである。

具体的に変革すべき分野を細分化すると次のようになる。

  • 組織
  • 人材、能力
  • リーダーシップ
  • 顧客との関係
  • 事業部との関係
  • ベンダーとの関係
  • イノベーション
  • 文化、カルチャー
  • 忠誠心
  • 仕事の進め方
  • ガバナンス
  • 開発テーマ
  • その他

このうち、藤原氏が勧めるのは「イノベーション」の変革から始めることだ。その際、「現在」と「将来」、「理由」という3項目を書き出して共有することが大事だという。

例えば、現状が「ビジネスケース重視、品質重視、改善型のため、イノベーションが起きにくい」とする。そして、目指すべき将来を「スピード重視、研究感覚で小さくスタートする。ビジネスケースは後で判断すればよい」と設定する。さらに、そうなるべき理由として、「ラディカルなイノベーションにより、リスクが高くても次の主軸になり得るビジネスモデル構築ができるようにする」ことを定めるといった具合だ。

このように、「現状を認識し、目指すべき将来と、そうなるべき理由を言語化して共有する」ことが、社内の理解を得て周囲を巻き込んでいく上で重要になる。