自分に向いている仕事は他にないだろうか、もっと良い選択肢はないか——。
こうした「マッチング」にまつわる悩みを解決しようとしているのが、2016年創業のLAPRASだ。
同社は、インターネット上に掲載されているITエンジニアの情報をクローリング技術を駆使して集め、機械学習を活用してプロフィールを自動生成したうえで、求人企業とのマッチングを支援するサービスを展開している。
同社は2020年4月、ミッションを「あらゆる事象を必然化し、世の中のミスマッチをなくす」から「あらゆる選択肢から、その人が最も幸せになれる選択肢をマッチングするシステムを創る」と変更した。
これまでも複数回見直しを行うなど、ミッションの文言に強いこだわりを持っている。それは、LAPRASが「ホラクラシー組織」を導入しているためだ。ホラクラシー組織を上手く回していくには、明確なミッションが必要となる。
今回は代表取締役の島田寛基氏に、LAPRASが目指す世界観やホラクラシー組織の実際のところについて聞いた。
AIでより本質的なマッチングを実現する
京都大学を卒業後、英国・エディンバラ大学の修士課程でAIを専攻していた島田氏。AI技術を活用しスケールするビジネスを手掛けたいという思いから、日本へ帰国する4カ月前に現在のLAPRASとなる会社を創業した。
「高校時代の友人の中に、絵を描く才能があるのにも関わらず、それを仕事にすることを諦めている人や、大学で天文学を勉強したいと思っていたのに、就職に役立たないと親に言われてしまったことで経済学部へ進んでしまった人がいました。
場所によっては強く求められるスキルを持っている人たちなのに、選択肢があることに気づかないことにより、才能が有効活用されていない状況が生まれてしまっているのです。
そこで、その人に関する情報を集めてデータベースをつくり、人間の力ではできないようなマッチングの仕組みを提供できないかと考えました」(島田氏)
従来の人材系サービスを通した就職活動は、企業側が効率よく採用するためのマッチングシステムとしてデザインされてきたと言える。しかし島田氏は「個人の幸福という観点で見ると、完全なシステムではありません」と指摘する。そこで島田氏がまず目を付けたのが、エンジニアの採用だ。
LAPRASは現在、AIによりインターネット上のオープンデータから情報を取得して個人の能力を自動分析し、最適な企業とマッチングする登録不要の転職サービス「LAPRAS SCOUT」を主軸に事業を展開する。
ITエンジニアは、GitHub、Twitter、Qiitaアカウントを基にLAPRASへサインアップすると、AIが活動内容を分析し、自身の能力や成長の軌跡などを確認できるようになる。会員情報はITエンジニアの採用ニーズを持つ企業も閲覧可能で、LAPRASの会員は特別な活動をしなくてもスカウトがやってくるという仕組みだ。
経験年数や希望年収といった単純な数値情報だけでなく、ブログ執筆履歴、イベント登壇履歴など、自分の書いたコードやブログ投稿などの定性的な情報も踏まえてレジュメとその人を表すタグを生成することにより、より本質的なマッチングを可能としている。
LAPRAS SCOUTの個人利用は無料。企業側が月額利用料を支払うビジネスモデルとなる。データベースには約148万人の情報が登録されているという。
事業の方向性をより明確に表したミッションへアップデート
<MISSION>
あらゆる選択肢から、その人が最も幸せになれる
選択肢をマッチングするシステムを創る<VISION>
すべての人にとってミスマッチのない世界<Value>
革新を追い求める<Action Agenda>
Be Open オープンであれ
Be Technology Oriented 技術志向であれ
Be End User First エンドユーザーファースト
Measurement Over Conjecture 推測より計測
Running Lean LEANに実行する
LAPRASは、2020年4月にミッションをアップデートした。もともと創業期には「世の中のミスマッチをなくす」というシンプルなミッションを掲げていたが、事業を展開していくなかで、目指す方向性をより具体化させてきた。
現在のミッションに至った理由について島田氏は、「『ミスマッチをなくす』という言葉が曖昧だと感じていました。いつ、どのように実現するのか。また、全世界に対してやるのか、日本国内だけなのかということがわかりづらかったためです。また、表現が不明確であったために『転職したい人が転職できれば良い』と解釈する社員と、『転職したいと考えていない人たちにも選択肢を提示する』と解釈する社員とで意見がわかれてしまうなどの弊害もありました」と説明する。
現行バージョンは、事業の方向性がより明確にわかる表現となっている。
自律性の高いホラクラシー組織には明確なミッションが必要
ミッションを複数回にわたって再考してきたのには理由がある。
それはLAPRASがホラクラシー組織を採用しているためだ。
ホラクラシー組織は、「組織は人ではなくロール(役割)から構成されている」という考えが基本にあり、階層や上下関係がなく個々のメンバーによる裁量と意思決定によって役割分担がなされる。裁量が大きく自由に動けるぶん、目的、つまりミッションを明確にしなければならない。
また、ホラクラシー組織では、各組織の目的を表現する「サークル」が設定されている。会社としていちばん大きなサークルとなるのがミッションだ。これにより、ミッションは自ずと日々意識しなければならないものになる。
「サークルごとに不定期に目的の見直しが発生しています。整合性が取れなくなってきたらその都度考え直さなければなりません。
したがって、最も大きなサークルの目的である会社のミッションは今後も変わる可能性があります。より抽象化されるか、スペシフィックなものになるかはわかりませんが、それは目的側から歩み寄ってくるものだと考えています」(島田氏)
LAPRASの社員数は2020年4月時点で約30名。組織は、最も小さい組織単位で数えると400ほどのロールから構成されている。1つのロールに集中する専門性が高いスタッフもいれば、さまざまなサークルにちらばり活躍するゼネラリストもいるという。
ホラクラシー組織には、従業員の行動を直接的には制御できないので、サークルの方針が曖昧だとリソースが分散しがちになってしまうといった難しさもある。
自律した組織でなければ挫折するとも言われている。LAPRASも導入にあたっては苦労することも多かったという。「2年前に導入を決めた後、5カ月ほどで本格導入に至りました。当時はまだ10名ほどの規模でしたが、今でもまだ途上だと考えています」と島田氏。
現在でもホラクラシー組織のより良い運用方法を開発しているところだ。
新ミッションで、他業種・他業界への展開も視野に
本人は気づいていないがより良い選択肢がある=ミスマッチが起きている状況は、ECや広告など人材以外の分野でも発生しうる。
LAPRASのビジョン「すべての人にとってミスマッチのない世界」のうち、「すべての人」という言 葉には、現在手掛けているエンジニア領域 のサービスだけでなく、他職種・他業界にも展開していこうとする意思が込められている。さらに海外進出もこのミッションによって導かれる。
島田氏は今後の展望について、「エンジニア以外にも営業職やマーケティング職などにも展開し、マッチングの巡り合わせをもっと科学していきたいですね。HR以外にも、その人が使うべきサービスや商品の提案などビジネスマッチングの領域にもニーズはあると思っています
現在の課題は、マッチングの質を上げていくこと。人間のエージェントが行っているようなマッチングを機械化していくプロジェクトを進めているところです」と語る。
潜在的なミスマッチは多くの領域・職種に存在しているため、LAPRAS自体の選択肢も非常に多くあると言えるだろう。多様な選択肢のなかからLAPRASは今後、次の一手をどう選ぶだろうか。引き続き注目していきたい。