富士通コネクテッドテクノロジーズは、10月25日に開催した発表会で法人向けスマートフォンの新モデル「ARROWS M357」を発表。12月に4万9800円(税別)で発売することを明らかにした。新モデルは、NTTドコモの2016年夏モデル「arrows SV」の基本デザインを踏襲しつつ、国内法人ユーザーのさまざまな要望に応える端末であると富士通は位置付けている。その特徴を詳しく見ていこう。

国内一貫体制で提供、カスタムメイドにも応える

富士通コネクテッドテクノロジーズ 執行役員の林田 健氏は、MM総研の市場予測を引用し、国内の法人スマートフォン市場が今後も拡大していくと説明。携帯電話市場全体の台数規模は、2020年度まで大きく変わらないものの、フィーチャーフォンからスマホへの移行が進むためだ。

法人スマホを発表した富士通コネクテッドテクノロジーズ 執行役員の林田健氏

法人向け携帯電話市場ではスマホの比率が増加

林田氏は、こうした市場環境の中で「国内一貫体制」や「きめ細かな要望対応」という富士通の強みが生きると主張する。特に強調したのが「カスタムメイド」で、営業担当者が顧客企業の要望をヒアリングしながら、特定のアプリや設定を取り入れたマスターROMを作成し、端末にインストールする。キッティング済みの状態で納品することで、システム担当者の作業簡略化に貢献する。

アプリの追加や削除、カメラの無効化などのカスタムメイドに対応

カスタム項目は細部にまで及んでおり、端末1台ごとの個別設定や、機器管理用ラベルの貼り付け、添付品の追加・削除などが行える。また、個人向けスマホでは最新のOS環境が求められるが、法人向けではアプリの動作確認などからOSバージョンを固定したいというニーズがある。これついても、カスタムメイドのメニューとして対応するそうだ。

これらのきめ細やかなサービスは、グローバルの枠組みでしか対応できない海外メーカーとは異なる、国内メーカーならではの優位性という印象だ。

FeliCa決済や無線LANのハンドオーバーに対応

また、法人向けに特化したサービスとして富士通は、「FeliCa」や「Wi-Fiハンドオーバー調整」を挙げる。

一般的にFeliCaと言えば「おサイフケータイ機能」を連想するが、ARROWS M357は決済端末として利用できる。一般的に電子マネー用に決済端末を導入する場合、「数十万円の費用がかかる」(富士通)とのことで、スマホ単体で決済が可能になれば、大きなコスト削減につながる。

近年はモバイルPOSソリューションも増えているが、一般的に小額決済との親和性の高い小規模商店などでスマホによる決済ができれば、iPhone 7のFeliCa対応などでにわかに活気を見せる電子マネーのさらなる利用促進の後押しとなりそうだ。

ARROWS M357とTFペイメントサービスによる決済プラットフォームを用いた電子決済のデモ

Bluetooth接続のモバイルプリンターからレシートも印刷可能

一方のハンドオーバー調整機能は、スマホを持ってAP間を移動する際に、AP1(仮)の電波が完全に弱くなる前に、AP2(仮)に切り替える設定値を調整できるというものだ。富士通によれば倉庫や病院などでハンドオーバー調整のニーズがあるとのことで、「無線LAN上でVoIPによる内線通話を利用する」といったシナリオを想定しているという。

Wi-Fiのアクセスポイント切り替え時の設定値を調整する

スマホを内線として利用できるルーター「MobiSart」との組み合わせも

国内市場を基盤に、コア技術を他分野に応用

ARROWS M357は、前モデルの「ARROWS M305/KA4」が対応していた防水防塵などに加え、新たにMIL規格にも準拠している。かつて「タフネスモデル」といえば頑丈な見た目が特徴的だったが、いまや標準的なフォルムのスマホでも高耐久性を実現できるようになった。

前モデルの防水防塵性能に加え、MIL規格にも対応した

富士通によれば、12月の発売後2年間は継続販売する予定。性能面ではCPUが米Qualcomm製Snapdragon 410、メモリーは2GBで、Android端末としてはミドルレンジのスペックとなる。しかし、複数のアプリを立ち上げる”普段使い”というよりも、特定業務アプリの特化運用が需要の中心になるとみられるため、大きな問題ではないだろう。

むしろ気になるのは、富士通の携帯事業の行方かもしれない。2016年2月に富士通から携帯事業を分社化したのが富士通コネクテッドテクノロジーズだが、PC事業を担う富士通クライアントコンピューティングはレノボとの協業が検討されており、ブランドやサービスは継続すると説明しているものの、先行きが気になる状況に置かれている。

ただし携帯事業については、国内のシニア向け市場を「らくらくホン」で押さえており、今後はスマホ技術をコアに、他社との協業、特にロボットやIoTなど他分野に応用していくとのビジョンを示した。個人向け・法人向けの両面で「しぶとく生き残っていく」というのが筆者の見立てだ。