5月31日~6月4日まで、台北で「COMPUTEX TAIPEI 2016」が開催された。COMPUTEXは、インテルやマイクロソフトが基調講演を毎年行っており、最新PCやスマートフォンの発表で盛り上がる展示会だ。だが今年は、Atomを搭載した低価格デバイスの存在感が低下。デバイストレンドに変化が起きている。

台北でCOMPUTEX TAIPEI 2016が開催

COMPUTEXから消えた「低価格Atomタブレット」

近年、タブレットの低価格化を牽引してきたプラットフォームはAndroidだ。これにWindowsも真正面から対抗し、インテルやマイクロソフトはAndroidに匹敵する低価格Windowsタブレットを模索してきた。

そのハードウェアにおける要となっていたのが、インテルのAtomプロセッサーだ。Coreプロセッサーより省電力で、かつて一世を風靡した「ネットブック」にも採用されたように、低価格も一つの特徴だ。近年はAndroidにも対応し、両OSを全く同じハードウェアで動かすことや、起動時にOSを選択できるデュアルブートも可能になった。

2014年のCOMPUTEXで登場した東芝の低価格Windowsタブレット(左)。Android版(右)とハードウェアを共通化したことが特徴だ

かつてのWindowsはOSライセンス料が発生していたため、Windowsタブレットだけ価格が高止まりしていたが、マイクロソフトはWindows 8.1より、一定の条件下でメーカーへOSの無償提供を決断した。この施策によってAndroidとWindowsのタブレットは、ほぼ同価格となった。

しかし、市場環境は大きく変わりつつある。というのも、Atomを手がけるインテルが、この4月に最大1万2000人のリストラを発表したのだ。これは、成長分野であるデータセンターやIoTへ経営資源をシフトしていく方針の一環で、栄華を極めていたPC向けCPUからの脱却を意味するものといえよう。

これと時を同じくして同社は、スマートフォンやタブレットなどのモバイル向けAtomの開発を中止したと報じられているが、筆者が取材したOEMメーカーからも同様の情報を得た。今後、インテルが再び方針を変えない限り、モバイル向けAtomの新モデルは登場しないと考えて良いだろう。

現行世代のAtomは継続、今後はCore Mに置き換えも

ただ、Atom搭載デバイスがなくなったわけではない。タブレットとしても利用できる2-in-1型PCなど、複数の製品はCOMPUTEX 2016会場で展示されていた。いずれの製品も現行世代のAtomを搭載しており、OEMメーカーによれば「現行のAtomは、当面は供給される」という。

また、次世代Atomコアとして開発されていた「Apollo Lake」は、その存在がなくなるわけではなく、PentiumやCeleronといったブランド名のCPUとして、低価格PCに搭載されるとみられる。

ASUSが新機種として発表したAtom搭載の「Transformer Mini」

Atomを搭載したSurfaceスタイルの2-in-1デバイス

もちろん、Atomがなくなるからといって該当セグメントの製品がすべてなくなるわけではない。たとえば、HDMI出力用の端子を備え、テレビに接続するだけで利用できる「スティック型PC」が人気を博している。その多くはAtomを搭載してきたわけだが、インテルが1月にCore Mプロセッサーを搭載したモデルを発表している。

Atomより高性能な「Core M」プロセッサーを搭載したインテルのスティック型PC

Core MはAtomより発熱が大きく、単純な置き換えはできないものの、冷却の問題をクリアできれば高性能化が期待できる。

ペン入力やWindows Helloなど新たなユーザー体験を訴求

Windowsタブレットは、iPadを代表とするスマートOSタブレットでは満たせない企業のニーズを引き受ける存在として、ここ1、2年の間に成長してきた。この分野に水を差しかねないAtomの開発中止は、どのような影響を与えるのだろうか?

実はこれまで、Android対抗を意識しすぎるあまり、「(Windowsタブレットとしての)ユーザー体験が限定的なものだった」という指摘が散見されていた。筆者もWindows 8.1世代で安価な小型タブレットを購入したが、使い勝手はお粗末なもので、ストレージ容量の少なさからWindows Updateすら満足に実行できなかった。

しかし、時代は変わる。COMPUTEX 2016の基調講演でマイクロソフトは、Windows 10のさまざまな新機能をデモンストレーションを行った。一例としては、ウェアラブルデバイスを用いたWindows 10のロック画面を解除で、複雑なパスワードを入力することなく、高いセキュリティ性を維持できる。つまり、社員にウェアラブルデバイスとタブレットをセットで配布し、安易なパスワードを付けさせずに高いセキュリティを保つといった用途も考えられるだろう。

なお、次期大型アップデートの「Anniversary Update」では、Windows Hello対応デバイスを拡充するほか、サードパーティ製アプリを活用するケースが多かったペン入力についても、標準機能を拡充する予定だ。これもまた、企業のタブレット活用に大きな変化を与える可能性がある。

ウェアラブルデバイスでWindows 10にログイン

マウスコンピューターはWindows Hello対応のWebカメラを発表

今後も、一部低価格モデルの需要は続くものの、2-in-1やモバイル機では、ペンやWindows Helloといった新しい操作体験を訴求していくことが進化の方向性として見えてきた。つまり、「Atomなくしても業界は将来像が描けている」という結論になる。

法人も、こうした新しい利用シーンの提案に対して、業務活用を検討する価値が十分あるのではないだろうか。