私はマニュアル(MT)試験の時代に自動車の運転免許を取得した。MT車を運転できたらオートマ(AT)車の運転なんて簡単と思っていたが、免許を取ってから乗り始めたAT車は難解な乗り物だった。ただ走らせるだけならMT車より簡単だけど、車の変速を理解してきちんと走らせるにはATのクセを知る必要があり、理解するのにしばらく時間がかかった。
マニュアルで免許を取得した世代は、オートマ限定取得者より運転が上手いと自讃しがちである。しかし、車の理解を含めて運転というなら、私はAT車の教習を受けた経験はなく、MT車の経験で乗っているに過ぎない。とはいえ、AT車の場合はMT車のように走らせられないことにイラっとするぐらいで深刻な問題は起きない。だが、先進的な運転支援システムを搭載した車になると話は別である。AAA(全米自動車協会)の報告書によると、自動化が進む車をそれまでの運転経験だけで使いこなすのには限界があり、浅い理解度で運転すれば、自動車の安全性を高めるはずの機能がかえって道路を危険にさらすことになりかねない。
AAAの過去の調査で、ドライバーのアダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)の理解度の違いが、同システムを搭載する車の安全に影響することが明らかになっていた。そこで同協会は、次のステップとしてドライバーがどのように理解を深められるかを調べる調査を行った。過去6週間にACCを搭載した車を初めて購入した人に参加を呼びかけ、集まった39人(3年以上の運転経験のある25~65歳)のACCに対する理解度の変化を半年間モニタリングしたのだ。
結果は、日常的な運転を通じて多くのドライバーがACCの理解を深めて機能を使いこなせるようになった。しかし、過去の調査において、ACCの集中的な訓練を受けたドライバーに比べると、半年のドライビングで同じレベルの理解に達せていない。例えば、工事用コーンなど車線内にある物体にシステムが対処すると思ったり、天候に左右されずに機能すると誤認した危ういケースが見られた。中には、ACCを十分に理解できていないにもかかわらず、自身の知識に任せてACCを利用する自信過剰なドライバーも現れた。
調査結果は、先進的な運転支援システムを"走らせながら学ぶ"のには限界があり、独学のアプローチでその機能を完全にマスターできない可能性を示している。対して、短期間であってもトレーニングを受けたドライバーは新しい技術を効果的に使用できている。AAAのリサーチ担当ディレクターのジェイク・ネルソン氏は、「今日の高度な自動車技術を使いこなすには、トライアル&エラー(試行錯誤)以上の学習が必要であることを示唆しています」としている。
人は色々試してみる中で、ポジティブなことが起こる反応を取りやすくなり、ネガティブなことが起こる反応をしなくなる。トライアル&エラーの繰り返しから学習を成立させられる。そのため、車に限らず、人の試行錯誤学習の能力に期待して新しい技術や機能が提供されることが珍しくない。
運転の負担を減らすACCはまさに試行錯誤学習でマスターできそうだが、問題は代わりに技術の動作を監視するモニターという新たな役割りがドライバーに課せられること。実際の運転より簡単な作業であっても、それまでの運転経験から、例えばモードの違いなどシステムの詳細を理解することはできない。理解があやふやなまま利用すれば、ドライバーのモード混乱や状況認識喪失のようなヒューマンエラーが起こり得る。車の場合、それが人命にかかわる可能性があるから、試行錯誤学習だけに頼れない。
Autopilotを備えたTesla車両の一連の死亡事故について、米国道路交通安全局(NHTSA)は技術の設計がドライバーの誤用を助長している可能性を調査している。また「Autopilot」や「ProPILOT」(日産)、「Pilot Assist」(Volvo)のようなドライバーに自動運転を想像させる名称が影響した可能性も指摘している。
AAAは、ドライバーが先進技術の理解を深められるように、自動車メーカー、政府機関、リサーチャーが協力して取り組み、またドライバーがPLANに従うことを推奨している。PLANとは、P(Purpose:目的)、L(Limitations:制限)、A(Allow time for Practice:練習時間の確保)、N(Never rely on it:非依存)を指す。
- Purpose:ディーラーでの講習会やメーカーのWebサイトなどで、運転支援技術の目的を学ぶ。
- Limitations:技術への期待を技術ができることと思い込まない。運転支援システムと自動運転の混同は避けられるべき。
- Practice:技術について学習した上で、実際の運転状況でどのように機能するかを知るために安全な路上での練習時間を確保。
- Never rely on it:車両がACCを搭載していないかのように、常にコントロールを取り戻すことを心掛けて運転する。