データ会社のAdjustとApptopiaによると、2021年10〜12月に暗号通貨アプリのダウンロードが1四半期で初めて1億件を超えた。
増加は新型コロナ禍の2020年に始まって、2021年に加速した。2020年は前年比64%増、2021年は同400%増、そして昨年の第4四半期は前年同期比567%増だった。ビットコインやイーサリアムの価格に連動するように増減しており、2021年第1四半期に一度1億ダウンロード近くまで増え、ビットコインやイーサリアムの価格が急落した第3四半期に約5000万ダウンロードに減少。仮想通貨の価格と同様に増減が激しい。だが、今は急減しても、前回の仮想通貨ブームで2017年第1四半期に大きく伸びた時の2000万ダウンロードを大きく上回っている。
これが何を意味するかというと暗号通貨の一般普及である。
3年前との違いは、仮想通貨を保有するハードルがずいぶんと下がったこと。今の暗号通貨の購入者の多くは、Coinbase、Binance、FTXといったプラットフォームを使用して保有・管理している。電子メールにたとえるなら、自分でメールサーバーを運用したり、POPサーバーやSMTPサーバーを手動でクライアントに設定していた頃の電子メールはとっつきにくい存在だったが、アカウントにログインするだけですぐに利用できるGmailのようなサービスの登場で身近なコミュニケーションツールになった。暗号通貨の保有・管理も手軽に開始できるサービスの成長が利用者の増加を後押ししている。
そして、メールにおけるGmailのような勝者を目指したプラットフォームの競争が暗号通貨市場で展開され始めた。例えば、Coinbaseは昨年秋にNFTのマーケットプレイス「Coinbase NFT」を提供する計画を明らかにし、今年1月にMastercardとの提携を発表、まもなくローンチする。競争のダイナミズムがあり、それが暗号通貨アプリのダウンロード数のさらなる増加を呼び、市場規模が拡大するプラス循環が生じている。
そうした変化は、非接触決済のようなコロナ禍からの社会経済活動の正常化を目指した動きにも現れている。3月14日にAppleがiOSの春の大型アップデートと呼べるiOS 15.4をリリースしたが、そのベータ版から同社が2月に発表した「Tap to Pay on iPhone」(以下Tap to Pay)のAPIを提供し始めていた。
Tap to Payに関して、Appleは言及していないが、リアルな世界での「仮想通貨で買い物」を普及させる可能性が指摘されている。
Tap to Payは、小売店や飲食店などがiPhoneを使ってアップルペイや非接触型クレジットカード/デビットカードなどによる支払いを受け取れるようにするサービスで、今年後半にまずは米国で利用できるようになる予定だ。追加の周辺機器やデバイスが不要で、iPhone(iPhone XS以降)単体で非接触決済を完了できる。イベントでの出店、屋外のフリーマーケットなど、どこにでも決済システムを持ち歩け、特にスモールビジネスや個人事業者の可能性を広げてくれるサービスといえる。
Tap to Payは、決済プラットフォームが対応したソフトウェア開発キット(SDK)を顧客に提供できるようにNFC機能が開放される。つまり、小売側がTap to Payを導入した決済プラットフォームを利用するか、またはCoinbase CommerceやPayPal Businessのようなマーチャント向けサービスを利用することで、クレジットカード/デビットカードだけではなく、暗号通貨による支払いもTap to Pay(非接触決済)で受け取れるようになる可能性がある。ネット通販やオンラインでの取り引きだけではなく、これまで直接現金をやり取りしていた取り引きにも仮想通貨決済を利用できる環境が整いつつあるのだ。
暗号通貨アプリの利用者が増加していることを考慮すると、暗号通貨の支払いをサポートするのは顧客満足度の向上にもつながる。Visaが中小企業経営者を対象に行った2022年版のGlobal Back to Business Studyによると、82%が2022年にデジタルオプションに対応すると回答、そして24%がデジタル通貨の支払いを年内に受け入れるとした。
暗号通貨決済はまだ身近な存在とは言いがたいが、どこかの店が対応したら隣の店も競って導入し始める……そんな"ニワトリとタマゴ"な状況が崩れそうな雰囲気が強まっている。最近はファーマーズマーケットでも現金を使わないで買い物できることが増えてきた。再来年の夏ぐらいには農家側もキャッシュレスになっているかもしれない。