クリスマスの2週間前ぐらいから、Amazonで商品検索すると、クリスマス前に届く商品には「Arrives before Christmas」というグリーン色のサインが表示される。でも、本当にクリスマスまでに届くのか? ここ数年ホリデーシーズン商戦が始まると、年々増加するオンラインショッピングの荷物を宅配業者が処理できるかどうかが熱い話題になる。そこに今年はもう1つ「Amazon対Fedex」という話題が加わった。

「Amazon対Fedex」の発端は、米国で小荷物配送が2026年までに倍増するのを見通して、この春にFedExが米国でのAmazonとの契約を更新しない決断を下したこと。Amazonも対立色を強め、米国での報道によると同社はAmazon.comに出品する外部の事業者に対してFedexの配送サービスを使わないように要請したという。

  • Amazonの配達トラックが走っている光景が今や日常的に

2014年から独自の配送システムの構築に乗り出し、順調に拡大させてきたとはいえ、ホリデーシーズンの荷物数は桁違いだ。Fedexの撤退で今年はAmazon Logisticsの負担が一気に増加する。特に今年はホリデーシーズンのスタートになる感謝祭が11月28日といつもより遅く、年末のショッピングデーが昨年より6日少ない。それにも関わらずオンラインショッピングの荷物は昨年以上になる見通しで、少ない日数でより多くの荷物を処理しなければならない。しかも、感謝祭後の週末に北東部に激しい雪、中西部では猛吹雪という大荒れの天候に見舞われた。

果たして、Fedexに頼らない初めてのホリデーシーズンをAmazonは乗り切れるのか。そして、Amazonの輸送契約を打ち切ったFedexは、その大きな穴を埋められるだろうか。

結論から言うと、どちらも苦戦した。

特にFedexは厳しい状況だ。同社が17日に発表した9~11月期決算は、売上高が前年同期比3%減の173億2400万ドル。前期に続いてアナリストの予想を下回り、さらに通期の1株利益見通しを下方修正したこともあって時間外取引で失望売りが膨らんだ。同社の説明によると、貿易摩擦の激化で世界経済の減速懸念が強まり、物流需要の伸びが停滞。小口配送需要の増加に対応するための投資に力を注いでいたため収益力が悪化した。Amazonに依存しない体制への移行に乗り出したものの、新たな成長メカニズムの構築に悪戦苦闘している。

ターゲットはディスカウントストアやドラッグストアの買い物客

Fedexに比べると、Amazonは苦しいながらも将来に向けた成果を示せている。10月末に発表した7〜9月期決算は、利益が前年同期比26%減の21億3400万ドル。9四半期ぶりの減益だった。その原因となったのが米国内での「翌日配送サービスの拡大」だ。多くの商品で以前は2日間だった配送の期間を短くするために従業員や倉庫で抱える在庫などを増やした結果、物流などの費用が増加した。

翌日配送の拡大は、Amazon LogisticsやスーパーマーケットチェーンWhole Foodsの買収を含む長期的な取り組みの一環である。その狙いは「ディスカウントストアやドラッグストア、スーパー、コンビニエンスストアの買い物客の取り込み」だ。

翌日配送の拡大と平行して、Amazonは5ドル以下の低額商品のPrime対象を拡大している。これまで、そうした低額商品の多くは、1回の買い物の合計金額がある程度以上(多くは合計25ドル以上)の場合に無料配送になる「Add-on」商品だった。それがPrimeメンバーなら5ドル以下の商品だけでも購入でき、注文によってはその日のうちに受け取れる。

5ドル以下の商品には、電池、お菓子、シャンプーといった消耗品が多く、1回の購入金額は小さくても継続的かつ定期的な購入が期待できる。ただ、これまで配送コストの問題からAmazonでは利用者が買いやすいように提供できていなかった。もしこれらの商品もスマートフォンやパソコンから気軽に買えてすぐに受け取れるとなったら、ディスカウントストアやドラッグストアから奪えなかった買い物客を取り込める。

その先にあるAmazonの狙いは「米消費者の過半数のPrime利用」である。Prime加入者の伸びは2017年の20%増から今は一桁台に鈍化しているが、それでも今のペースが続くと2020年に50%を超えられる見通しだ。そのタイミングで低額商品もPrimeで買えるように整え、そしてAmazonが扱う多くの商品が即日配送されるようにすることで、人々があらゆるものをネットで買う未来を現実にしようとしている。

短期的な利益を追わず、将来の成長を見込める分野に積極投資して長期的な成長につなげるのがAmazonである。だから、減益になっても即日配送拡大のペースを緩めず、年末商戦に向けてさらに在庫を積み増す計画を明らかにしていた。その結果、Amazonはほぼトラブルなくホリデーシーズンの配送をこなし、多くの商品で24日注文の即日配達を実現。物流費用が重しになって10〜12月期決算も減益になる可能性が高いものの、米Amazonの配送に対する利用者の満足という価値のある成果を得た。

Amazonが宅配事業に参入する可能性も

Morgan Stanleyは、すでにAmazonが同社が発送する小荷物のおよそ半分をAmazon Logisticsで配送していると推測する。このペースだと、2022年には年間65億個に達し、FadexやUPSの配送数を上回る。ディスカウントストアやドラッグストアの領域にまで踏み込むなら、それは必然である。年間にいくつもの商品を購入するPrimeメンバーに5ドル以下の商品を即日配達していたら、FedexやUPSに頼る配送体制では配送コストに利益が食われてしまう。Primeメンバーが多い地域に展開するスーパーマーケットWhole Foodsを配送拠点として活かし、人々の買い物動向を分析してあらかじめ商品を移動させておくような独自の物流ネットワークがあってこそだ。

独自配送ネットワークはEコマースを進化させるものであって、FedexやUPSの市場を狙ったものではない。だが、配送ネットワークの維持費用に利益が圧迫されないようにAmazonは輸送のムダを徹底して省くだろう。配送ネットワークが巨大になれば、Amazonが航空貨物や陸上配送の空きスペースを販売する可能性があるとMorgan Stanleyは指摘している。

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