スタートアップが手がけて大ヒットしたスニーカーと瓜二つな製品をAmazonがオリジナルブランドで発売した。価格は1/2弱。コピーキャットがAmazonに現れたのなら、Amazonに販売差し止めを求めることができるが、相手はそのAmazonである。スタートアップには悪夢のような出来事だが、創業者は「どうぞ盗んでくれ (ただし、ちゃんと)」とAmazonを挑発している。そのスニーカーメーカーは肝となる素材をオープンソースで公開しているのだ。

下の写真はAllbirdsの「Wool Runners」とAmazonのオリジナルブランド206 Collectiveの「Tracy」だ。9月に206 Collectiveからウール素材のスニーカーが登場した時、すぐに「Allbirdsのコピー」と話題になった。

  • Allbirdsの「Wool Runners」、軽くて履きやすく、丸洗い可能。価格は95ドル

    Allbirdsの「Wool Runners」、軽くて履きやすく、丸洗い可能。価格は95ドル

  • Amazonのオリジナルブランド206 Collectiveの「Tracy」、価格は45ドル

CNNに対してAmazonは「お客様の声を反映した商品を提供することは、小売業界では一般的です。206 Collectiveのウール混合スニーカーはAllbirdsのデザインを侵害していません。こうしたデザイン特性はAllbirdsに制限されるものではなく。他のいくつかのブランドも似たような製品を提供しています」とコメントしている。

Allbirdsは自然素材にこだわり、軽く、自然な履き心地のスニーカーを提供するD2C (Direct to Consumer: 消費者に直接製品を提供)ブランドだ。実際にAllbirdsのスニーカーを履くと段違いの快適さに驚かされる。天然素材なので環境にも優しい。

快適な履き心地と環境への影響は関係がないことのように思うかもしれないが、日々の暮らしの快適さを求める人の中には環境のことを考える人が多く、環境への取り組みを含めてAllbirdsを選んでいるファンが多い。製品数は少ないが、昨年に評価額が10億ドルを突破してユニコーンの仲間入りを果たした。

たしかにAmazonの言う通り、デザインだけを切り取ったら普通のスニーカーである。しかし、Allbirdsはそのシューズを履く体験がユニークであり、そこに人気の理由がある。

また、Allbirdsの場合、シリコンバレーで特に人気が高いことで模倣の論争が広がった。例えば、The Vergeはこの問題を取り上げた記事に「Facebookがコピーするかもしれないのはあなたのアプリ、Amazonがコピーするのはあなたのシューズ」というタイトルを付けた。Snapchatのような新しい若いサービスが台頭し始めると、Facebookは買収を試み、うまく進まなかったら同じような機能やサービスを自分たちで作ってしまう。しかも、コピーを否定せず、参考にしたことを潔く (臆面もなく)認めている。それと同じ、ネット市場における強者総取りの問題がEコマースでも起こっているというわけだ。

11月25日に、Allbirdsの共同創業者の1人であるJoey Zwillinger氏が「Dear Mr. Bezos,」というオープンレターをMediumで公開した。Allbirdsはこれまで石油加工素材が用いられてきたソール向けに、ブラジルのBraskemと共同でサトウキビを用いた新素材を開発。自然の代替素材を普及させるために、その成果をオープンソースとしている。それなのにAmazonは似たデザインの靴に、需要があって自由に使えるソール素材を採用していない。

「当社の再生可能素材を自社の製品に取り入れることに関心のある100以上のブランド(直接競合企業を含む)と提携してきたように、(Amazonも)シューズを当社のシューズのように見せるだけでなく、持続可能性に対する当社のアプローチにマッチさせる素材を使ってもらいたいと考えています」(Zwillinger氏)

  • 法に頼ってもAllbirdsのような会社は包括的なプロテクションを得られないと共同創業者Joey Zwillinger氏

Allbirdsのデザインを真似たシューズはすでにいくつも存在する。過去には訴訟も起こしてきた。だが、デザインの模倣を取り締まり続けるのは非生産的だ。そこで、自分たちの思う価値の共有に踏み出した。天然素材を採用したシューズが増えれば、Allbirdsが切り拓いてきた市場が拡大し、自分たちにもライバルにもビジネスチャンスが生まれ、競争がさらなる発展につながる。また、環境へのインパクトが減ることは全ての人々の利益になる。

今回あえてAmazonに苦言を呈したのは、「アルゴリズムで生成された初のコピーキャット」だったから。AllbirdsはD2Cだが、Allbirds製品を真似た商品が多数Amazonで販売されており、それらの動きや消費者の反応を分析した結果を参考にAmazonはオリジナルブランドで扱う商品を開発しているはずだ。

そうした分析が悪いと言いたいのではない。むしろ逆で、消費者の動きに敏感な企業であり、そして小売りの世界で最も影響量のある企業だからこそ、Allbirdsの顧客が何に価値を見いだして同社の製品を選んでいるのか、そこまで突き詰めた商品開発を実現して欲しいということだ。Amazonは9月にカーボンニュートラル達成の目標に合わせ排出ガスを削減する取り組みを強化する計画を明らかにしたのだから、なおさらである。

デザインを真似されても総合的な体験でコピーキャットを圧倒し、投資家や株主を意識するのではなく、エンドユーザーのための製品やサービスにこだわることで価値を上げる。AllbirdsはかつてのAppleを思わせる。