Web 2.0以降、Webは広告を中心に回ってきた。広告によって製品やサービスの無料提供が可能になり、オンライン広告の成長がWebの拡大を下支えしてきた。そんなWeb企業が広告頼みを止めるのは容易なことではないが、米Mozillaが4日(現地時間)にFirefoxの新規タブで提供してきたスポンサー付きタイルの提供を打ち切ると発表した。
売上の大部分を占めていたGoogleとのパートナーシップを2014年末に解消し、Google依存からの脱却に進み始めたMozillaは、実験的な広告コンテンツの提供にも乗り出していた。その一つがスポンサー付きタイルである。ユーザーが過去に訪れたサイトをベースにした「よく見るサイト」のタイルと共に、ユーザーが興味を持ちそうなサイトを提案する「おすすめのサイト」、そしてパートナーが宣伝する「スポンサーのサイト」のタイルを表示してきた。だが、ユーザーは広告タイルよりも自身により関連性の高いコンテンツを好み、そうしたコンテンツと積極的に関わることが利用データに表れていたそうだ。
とはいえ、Firefoxは無料であり、スポンサー付きタイルはタイル全体のほんの一部である。スポンサー付きタイルを提供してきたこの1年を振り返っても、Firefoxの透明性やユーザーの選択が損なわれたとは思わないし、Mozillaが「魂を売った」というような批判も見当たらない。むしろ「武士は食わねど高楊枝」と意固地になることでFirefoxの開発が細ってしまうのではないか、と心配になる。
そうした見方に対して、Mozillaのコンテンツサービス担当バイスプレジデントのDarren Herman氏は、広告タイル終了の理由を「コンテンツの発見(Content discovery)に集中するため」と説明する。
ビデオに偏るモバイル広告
発見(Discovery)は、特にモバイルにおいて2016年のキーワードの一つになりそうな言葉である。
モバイル広告は順調に成長しているが、偏りが見られる。The InformationのJessica Lessin氏は以下のように指摘している。
「モバイル広告の成長の大きな部分はビデオからもたらされている。小さなスクリーンにも上手くフィットする形式であり、そしてスケールが問われる。だから、FacebookやGoogleがモバイル広告市場を独占している」
アプリの経済において、もちろんモバイル広告は大きな存在だが、ビデオを扱わないアプリは不利であるのが現状だ。だから、いくつかの例外を除いて、大きな成功を狙うなら広告に依存しない収益モデルを確立しなければならない。そこで注目され始めたのが"発見"である。
ユーザーが求めるモノや製品、サービス、情報にユーザーを効果的に結びつける。成功例を挙げると、移動の手段を必要とする人とライドシェアできる人を結びつけるUberだ。また「Uber型の…」と表現されるあまたのサービスの多くも、ユーザーの発見を促すサービスになっている。そうしたオンデマンドサービスの他にも、SnapchatやPinterest、Slackなどコミュニケーション分野にも成功例は多い。いずれも「発見のポータル」として地位を確立しており、Pinterestの「Buy」ボタンのように発見を売上に結びつける試みも広がり始めている。
Amazon.comが販売するデジタルアシスタント端末「Echo」を使うと、「トイレットペーパーを補充」と頼むだけで、過去の購入履歴を調べて再注文してくれる。オンラインストアにアクセスし、商品を検索したり、過去の注文を調べる必要はない。一声かけるだけだ。私たちが今パソコンやスマートフォンなどで利用しているWebと同じ機能を備えながら、もっとシンプルで簡単に使えるインタフェースで、ユーザーが必要としている情報や機能に結びつけてくれる。ディスプレイもない、音声コミュニケーションのみ。これが未来のWebサービスなら、広告が提供されるスペースは限られ、ユーザーが便利と認めるサービスが生き残る。
Mozillaが11月25日に公開した2014年度の決算報告書によると、傘下事業を含めた2014年の売上高は3億3,000万ドルで前年比5%増だった。ただし、2014年はGoogleとのパートナーシップ期間であり、独歩し始めたMozillaの将来性への評価は次回の決算報告からになる。その体裁を整えるなら、スポンサー付きタイルを維持するべきである。だが、Mozillaはモバイルも視野に発見を重んじてスポンサー付きタイルの提供を見送った。
広告に頼らないことで、しばらく低迷期に落ち込むかもしれないが、ユーザーのコンテンツの発見にこだわることがWebの未来につながる。オープンで透明なWebを標榜するMozillaの立ち位置を示した判断だと思う。そのビジョンをどのように収益モデルに結びつけるのか、現段階では不明だが、何の勝算もなしに、そのような判断は下さないだろう。発見のプラットフォームとしてFirefoxがより便利なブラウザに進化すると想像できるし、広告にとらわれないMozillaの姿勢がやがて広告依存からの脱却を図るWeb企業の道しるべになると期待する。