今年のスーパーボウルでは、昨年に続いてSamsungがAppleをからかうCMを提供すると多くの視聴者が期待していた。直前に公開した予告CMが完全にAppleをおちょくった内容だったからだ。ところが、本編CMはGalaxyファミリーとSamsungがここ数年掲げている「The Next Big Thing is Here」をストレートにアピールする内容だった。iPhoneとの比較広告を期待した人たちからは落胆の声が上がった。
路線変更? そんなことはない。去年と今年、CMは全く異なるが、変わっていないことが1つある。長いCMの間にAndroidという言葉が全く出てこないのだ。ここ最近の米国でのマーケティングにおいてSamsungは、意図的に避けているかのようにAndroidに触れていない。今やAndroid陣営の中で飛び抜けた存在であり、次の目標はSamsungとしてAppleに追いつくことだ。そのためには、これ以上Android陣営の中の1社というイメージを持たれたくないのだろう。"Android端末メーカーの代表というイメージからの脱却"の矛先はAppleに向いているから、Appleをおちょくらなかった今年のCMからもAppleへの対抗心が存分に伝わってきた。
スーパーボウルCMの半数に登場したハッシュタグ
さて、今年のスーパーボウルがらみのマーケティングはSamsung対Appleだけではなく、Twitter対Facebook、マイクロブログとSNSの頂点に立つ2社の影響力対決という点でも大いに注目された。
まず軍配はTwitterに上がった。きっかけはMarketing Landに掲載されたMatt McGee氏の「ゲームオーバー: スーパーボウルCMの50%に登場したTwitter、Facebookはわずか8%、Google+は完敗」である。
McGee氏が数えたところ、52本の全米向けCMのうち26本がTwitter向けの情報を載せ、Facebook向けの情報を載せたのはわずか4本だった。あとはYouTubeが1本、Instagramが1本。Google+はゼロだったという。同氏はハッシュタグ、Twitterのロゴ、またはTwitterのURLがCMに登場したらTwitterを活用していると見なした。Twitterも公式ブログで「今年は試合中に放映された全米CM52本の50%にハッシュタグが登場した」と喧伝。早速、「マーケターはFacebookに見切りをつけたのか?」というような議論が広がり始めた。やっと株価が上向き始めたFacebookに、またまた暗雲である。
ところがCHRGDのBobby Grasberger氏が、McGee氏の"Twitter圧勝"に物言いをつけた。記事タイトルは「結局のところ、スーパーボウルCMの50%で使われたのはTwitterではなく、ハッシュタグだった」。CMがハッシュタグを載せたからといって、Twitterを活用したマーケティングと見なすのはおかしいとしている。
たしかに、その通りである。今ハッシュタグを活用したサービスというと、多くの人が真っ先にTwitterを思い浮かべるが、ハッシュタグはIRCの頃から使われてきた。現在ハッシュタグをサポートするサービスはTwitterだけではない。Google+、YouTube、Kickstarter、Pinterest、そしてFacebook傘下のInstagramもサポートしている。
ハッシュタグを載せたスーパーボウルCM26本のうち、Twitterのロゴを付けたのは3本(しかも1本は古いロゴ)。Grasberger氏は「88%(26本のうちTwitterロゴを付けなかった23本)についてはInstagramやGoogle+の獲得票とも見なせるし、ハッシュタグをサポートする3大プラットフォームすべてにポイントを加えるのがやはり適当である」と主張。最後に「ソーシャルゲームは続く: スーパーボウルCMの50%で使われたハッシュタグ、Facebookは8%に登場、Twitterは6%、Instagramは2%」と、McGee氏に対して記事タイトルの変更を提案している。
2013年のスーパーボウルCMが"ハッシュタグの年"になったのは、様々な点で興味深い。過去のスーパーボウルCMは企業がそれぞれの主張やイメージを視聴者に押しつけるようなマーケティングだった。それはCMからWebサイトへの誘導が行われるようになった2000年代も変わらない。ハッシュタグは人々に発言を促すものであり、その中からは批判的な声も出てくるだろう。従来のマーケティングのように消費者の考えを企業が誘導するのが難しくなる。それでもソーシャル時代の口コミの力は魅力的で、スーパーボウルという最大の宣伝の場で多くの企業がハッシュタグを示した。
ところが、ハッシュタグを選択したマーケターの大多数が、ハッシュタグを示す効果を高められるであろうTwitterのロゴを含めなかった。それが意図的なものだったとしたら、特定のプラットフォームへの依存を避けていることになる。Facebook向けの情報を載せた企業も少なかったのだから、おそらくそれは事実だ。つまり今年のスーパーボウルはTwitter対Facebookどころか、ともにマーケッターから敬遠されたスーパーボウルだったのだ。
今は"ゲームオーバー"ではない。ネットユーザーに定着している「ハッシュタグ=Twitter」というイメージをライバルが覆せるか、またFacebookはハッシュタグのサポートに踏み切るか……Grasberger氏が"ソーシャルゲームは続く"とした通り、ゲームはこれからである。