面と向かってコミュニケーションするわけではないネット上では、リアルな関係ほど性別の違いは影響しない。むしろ、ネット上のつきあいだけでは本当の性別がわからないあいまいさが面白くもある。だがリアルな関係をネットに反映しようとするSNSでは、あいまいさはメリットではないようだ。Facebookがユーザーに性別を選択してもらう新ポリシーを打ち出した。
性別選択の目的の1つは、サービス中で正確な文法に従った言葉を使用することだ。英語の人称代名詞の場合、 "He"と"She"で性別が反映される。これまでFacebookでは特にプロフィールの性別にこだわらず、むしろ性別を明らかにしたくないというユーザーの希望を尊重してきた。そのためプロフィールで性別が明示されていない場合、Facebookからの通知に「Ken tagged "themself" in a photo」というような、himself/ herselfの代わりにthemselfが使われる奇妙な文章が生成されていた。
ところが、Facebookが日本語を含む多国語でのサービスを展開し始めると、あいまいな表現が問題になり始めた。英語以上に性別がはっきりと反映される言語があるため、翻訳者やユーザーからのフィードバックに、ユーザーの性別が判別できないと混乱するという意見が寄せられたという。そこで性別の選択をデフォルトに改めたのだ。新規ユーザーには選択を要求し、既存ユーザーに対しては選択を求めるメッセージを表示させる。これらはNews FeedやMini-Feedに反映されるが、性別で検索したり、基本情報として性別が表示されたりすることはないという。
選択は男性・女性だけではない。性別を含む多くの個人情報を公開したくないというユーザーは多い。また男・女の分類で扱われることを制限と考えるユーザーもいる。そのため新ポリシーでも、オプションとして男性/女性の選択の拒否も可能にする。しばらくは、3つの選択のままフィードバックを集めるそうだ。
新ポリシー下でも、これまでFacebook上で実際とは違う性別を演じてきた人は、そのままなりきってしまえばいい。本当の性別の反映を強制しているわけではない。Facebookとしては、プレスリリースを出すほどでもない小さなポリシーの変更である。しかしながら、これまでオンラインサービスにおいて、さして重視されなかった性別に、Facebookのような人気サービスがこだわり始めたのは、ソーシャルメディアの今後を長い目で考えると大きな変化になりそうに思える。
SNSを動かしているのは女性
IDCのDigital Marketplace Model and Forecastによると、2008年のインターネット広告市場は652億ドル規模になる。これは広告市場の10%に近い。このまま15~20%の成長を維持すれば2011年には1,066億ドル、広告市場の13.6%になる。同調査では、従来スタイルのWeb 1.0と今後に影響を及ぼしそうなWeb 2.0スタイルの2方向からインターネット広告市場を分析している。前者のカテゴリーは、インターネットユーザーのタイプ、ネット接続に利用しているデバイス、B2C、B2Bなど。後者はインターネットユーザーの行動に着眼し、性別やアクティビティに基づいたカテゴリー分けが行われている。
匿名であっても個人やその行動の分類は、個人の特定につながりかねないため、IDCのいうWeb 2.0カテゴリーとビジネスを結びつけるのを懸念する声は強い。それでも広告を含めて、オンラインサービスは着実に個人向けにカスタマイズされるようになっている。その中心がソーシャルメディアだ。ユーザー同士のつながりや情報交換を促進するサービスを提供しながら、それらの行動をユーザーやユーザーグループの分類につなげるのが、ソーシャルメディアのビジネス手法である。
性別も分類の1つに過ぎないが、ソーシャルネットワークをマネタイズするうえで大元となる分類と言える。RapLeafが定期的に行っているソーシャルメディア・ユーザー動向調査の08年6月のレポートによると、現在FacebookやMySpaceを最も利用しているのは14~24歳の女性である。ティーンエイジャーと20代前半がソーシャルメディアの中心ユーザー層であるのに変わりはないが、以前よりも高い年齢層のユーザーが増加している。特に女性は全年齢層で男性よりもFacebookやMySpace、写真共有サービスを活用しており、高い年齢層でも積極的にソーシャルメディアを楽しんでいる。一方男性はというと、ビジネスSNSのLinkedInに限れば、25~34歳の男性が中心ユーザーとなっている。RapLeafの分析では、女性は男性よりもソーシャルネットワークに時間を割き、様々な関係づくりや関係強化に努力する。男性も若い頃はソーシャルだが、年齢を経るにつれて、特に結婚後は広範なソーシャルネットワークに興味を失い、LinkedInに代表されるようなビジネスライクな関係づくりに力を注ぐようになる。つまりLinkedInのような例を除けば、ソーシャルネットワークをビジネスに結びつけるには女性をターゲットにしたほうが可能性が広がる。Facebook向けアプリケーションに女性をターゲットにしたようなサービスやインタフェースが目立つようになったのは、女性オーディエンスの価値の高まりを反映した結果と言える。
Facebookは今回の性別選択をマネタイズに結びつけてはいないし、入手したデータの管理には慎重を期す姿勢を示している。しかし意地悪な見方をすれば、今回のようにサービス向上や国際展開という理由を挙げなければ、特に30代以上のユーザーは納得しない。今後ソーシャルメディアをビジネスとして成立させるには、抵抗感を薄めるようなインパクトのあるサービス、一枚ずつ抵抗感をはぎ取るようなサービス改善が必要ということになる。