健康的な身体へ近づくことと、その維持
健全な仕事は健全な身体からだ。健全な身体には適度な運動、バランスの良い適度な食事、適切な睡眠が欠かせない。そして、運動と睡眠のモニタリングをサポートしてくれるのがスマートウォッチであり、本連載ではスマートウォッチのこの機能にフォーカスしている。
厚生労働省「令和元年 国民健康・栄養調査結果の概要」によると、BMIが25kg/㎡以上で肥満と分類される人の割合は男性で33%、女性で22.3%とされている。女性はこの10年間で有意な増減は見られないが、男性はこの10年間で有意に増加している。社会人として働く世代を見ると、20歳代から50歳代まで年を経るごとに肥満者の割合がほぼ増加している。つまり、男性サラリーマンの3人に1人は肥満であり、年々増えているという状態だ。
本連載では、数年というスパンで次の状態に持っていくことを目標として、スマートウォッチを活用する方法を取り上げる。
- 健康的とされる体重および体脂肪率へ近づける、または、そこからもう少し脂肪を減らしかつ筋肉を増やした状態へ近づけ、それを維持する。
統計データと本連載の目標を加味すると、スマートウォッチは主に次の2つの目的で使うことになる。
- 肥満の状態なら、生活や運動をモニタリングして、除脂肪を進めるための基盤とする
- 肥満ではない状態なら、生活や運動および睡眠をモニタリングして、健全な状態維持の基盤とする
健全な状態を維持できない原因のひとつは、生活状態を可視化できないことに原因がある。その日の消費カロリーと摂取カロリーが目の前に常に数字で表示されていれば、食べ過ぎも減ってくるというものだ。可視化して現状を知ること、これが大切だ。
肥満は適度な運動とPFCバランスの良い適度な食事で解消しやすいが、いきなり生活を変えると無理が生じる。本連載では数年という比較的長いスパンで健康的な身体へ近づくために徐々に生活を変えていくという方法を取り上げる。それには、スマートウォッチを使ったモニタリングは欠かすことができない。
では、こうした目的で、本稿執筆時点における4つのお薦めスマートウォッチを紹介する。
Polar Vantage V2
本稿執筆時点で連載の目的に最も適した機能を提供しているのは「Polar Vantage V2」だろう。Polarが発表したばかりのフラッグシップモデルだ。
特に、次の3つの機能からPolar Vantage V2をお薦めしたい。
- 運動について、消費カロリーの内訳(炭水化物、タンパク質、脂質)を表示する機能を搭載している
- 睡眠ステータスのみならず、自律神経ステータスの状態を加味した睡眠による回復状態計測システム(Nightly Recharge + Sleep Plus Stages)を搭載している
- クラウドサービス「Polar Flow」を提供している
まず、注目したいのは、消費カロリーの内訳(炭水化物、タンパク質、脂質)を表示する機能だ。人間は運動する時に脂質、糖質(炭水化物)、タンパク質をエネルギー源として使用する。どれがエネルギーとして使われるかは運動の種類と強度に依存している。低負荷の有酸素運動なら脂質の消費割合が大きく、高負荷になると脂質の割合が減って炭水化物が使われる割合が増える。
肥満状態で除脂肪を進めたいと考えた場合、脂肪が高割合で使われる運動を選びたい。加えて、楽なやつがいい。有酸素運動で脂肪が使われることはわかっているのだが、辛い運動は長続きしないのだ。
しかし、である。実際どの程度の強度の有酸素運動でどの程度脂質が使われるのかがわからない。書籍などにある程度指針はまとまっているが、「この負荷ならこの程度の割合で燃える」という説明の「この負荷」が自分の体感でどの程度なのかわからないのだから、消費割合もぼんやりとしていてわからない。
Polar Vantage V2ではこれがパーセンテージで表示される。試してもらえばわかるが、脂質を燃やそうと思ったら、軽い有酸素運動が有効だということがわかる。ランニングやジョギングをしても、辛い割にあまり脂肪は使われていないということもわかる。数カ月で除脂肪を進めたいがために無理して走り込むこともあるかもしれないが、辛さの割に効果が低いのである。
この機能は除脂肪を効率的に進める上で欠かせない。どの運動でどの程度脂質が燃えるかがわかれば、それをベースに脂質燃焼パートを生活のルーチンに組み込めるようになる。 楽して無理せず高効率で除脂肪を進めるのに最適な機能だ。
最近のスマートウォッチは睡眠時モニタリング機能を持っている。次のスクリーンショットはPolarのSleep Plus Stagesという機能だ。類似機能はほかのスマートウォッチも提供している。
Polarはこの機能に加えて自律神経の回復も加味した「Nightly Recharge」という機能を提供している。睡眠で自律神経がどの程度回復したかを計測してくれるのだ。
睡眠時間や睡眠の中身(深い睡眠、浅い睡眠、レム睡眠、ノンレム睡眠など)だけでは、自律神経の回復具合はわからない。「夜遅くまでディスプレイを凝視している」「仕事のストレスがたまったまま寝ている」「寝る直前まで食事をしている」といったことをしていると、自律神経の回復が悪い。そうなると、睡眠ステータスは良好なのに寝起きも日中も調子が悪いということになる。
Nightly Rechargeを使うと自律神経も回復具合がわかるので、睡眠の質を改善するきっかけを作ることができる。健全な身体には適切な睡眠が欠かせない。Polarであればこの部分にもスマートウォッチを利用できる。
クラウドサービス「Polar Flow」が使える点も大きい。本連載の読者はPCやMacを使う方が多いと思うが、細かな分析や長期の動向を調べようとしたら、アプリよりもWebブラウザからのほうが扱いやすいのだ。
Garmin fēnix 6
2つ目はGarminのフラッグシップモデル「Garmin fēnix 6」だ。フラッグシップモデルだけあって提供される機能が多い。物理的なガジェットとしての満足感が高いのも特徴だ。装着した時の満足感がたまらないデバイスである。
このモデルはガジェットとしての魅力が高いのだが、本連載の視点で、次の3つの機能からGarmin fēnix 6をお薦めする。
- バッテリー駆動時間が長いモデルが用意されている
- 身体の余力を表示する「Body Battery」および回復までの時間を表示する「Recovery Time」が提供されている
- クラウドサービス「Garmin Connect」を提供している
Garmin fēnix 6はスポーツタイプのスマートウォッチでありながら、ソーラー充電機能を備えがモデルが存在しており、類似するほかのスポーツタイプスマートウォッチの2倍から3倍の駆動時間を実現している。ソーラー充電機能がないモデルはほかのスポーツタイプスマートウォッチとバッテリーに保ちはそれほど変わらない。
使い方にもよるのだが、毎日何らかのトレーニングを行った場合、スポーツタイプのスマートウォッチの駆動時間は1週間持つかどうか、といったところだ。Garmin fēnix 6も同じようなものなのだが、ソーラー充電機能を備えたモデル(DualPowerシリーズ)であれば、駆動時間が2倍〜3倍くらいまで伸びる(もちろん使い方で変動する)。
スマートウォッチは着け続けてモニタリングを継続することに意味があるので、この長い駆動時間は魅力的だ。ただし、Garmin fēnix 6 DualPowerシリーズの価格は今回取り上げた中で一番高い。あとは予算との兼ね合いということになるだろう。
「Body Battery」という機能にも注目だ。この機能は人間の身体をスマートフォンのように見立てて、身体の余力をバッテリーで表すというものだ。身体にどの程度余裕があるのか知ることができる。
デバイス側では、次のような感じで表示される。
回復までの残り時間を表示するRecovery Timeという機能もある。トレーニングをしたら、この値を見ながら次のトレーニングをどうするかを考えることが可能だ。
Polar Flowと同じように、Garminもクラウドサービス「Garmin Connect」を提供している。こちらも長期にわたってデータを取っていくのなら必須と考えておきたいサービスだ。
Polar Vantage V2と比べると、Garmin fēnix 6は積極的にトレーニングをするためのデバイスといった色が濃いと思う。健康的な身体の実現や健康維持といった目的を越えて、トレーニングをしてもっと身体能力を高めていくならGarmin fēnix 6はそれに必要となるいくつもの機能を提供してくれる。
Apple Watch
3つ目はApple Watchだ。スマートウォッチの購入が初めてで、スポーツタイプは好みじゃない、できれば損をしたくない、という場合は「Apple Watch」がよいと思う。日本は世界的に見てもiPhoneのシェアが高く、多くのビジネスマンがiPhoneを使っている。
本稿執筆時点では、Apple WatchはiPhone専用のスマートウォッチで、Apple WatchはiPhoneを使っていることが前提になっている。この点、日本のビジネスマンはApple Watchを使う前提が整っている人が多いのだ。
Apple Watchの魅力は汎用性の高さにある。アプリをインストールすればかなりいろいろなことができる。他のスマートウォッチではできないようなことが、あとからアプリをインストールすればできるようになることもある。しかも、年に1回の大型アップデートで新機能が追加されるので、買っておいて損はしないデバイスだ。
Apple Watchを使う場合は「充電タイム」を熟考してもらえればと思う。トレーニングを行った場合、Apple Watchは丸1日保つか、微妙なところがあり、どこかのタイミングで100%まで充電する必要がある。特に睡眠前に100%の状態にしないと、睡眠時の計測が不安だ。また、睡眠モニタリングも現状では満足のいくようなものではなく、ある程度レベルの高いモニタリングを実施するなら、サードパーティ製のアプリを購入する必要がある。
スポーツタイプのスマートウォッチと比べると本連載で欲しい機能は弱いが、それでも購入して損のないスマートウォッチだと思う。特に最初の1台としてスマートウォッチを体験するなら、優れたデバイスではないだろうか。
Garmin ForeAthlete
4つ目はGarminのForeAthleteシリーズだ。日本ではスポーツマンにGarminの人気が高い。前項で、Garminからは「Garmin fēnix 6」を既に取り上げているが、このデザインを敬遠する女性もいるかもしれない。そんな方にはGarminの「ForeAthlete」シリーズをお薦めしたい。
バッテリの駆動時間はスポーツタイプのスマートウォッチの平均値くらいでfēnix 6のDualPowerシリーズのようにはいかないのだが、Body BatteryとRecovery Time、Garmin Connectといった「Garmin fēnix 6」のお薦め理由として取り上げた3つのうち2つは健在だ。ForeAthleteはいくつかシリーズがあるので、予算に応じて選べるという利点もある。
重要視すべきは「カッコイイ」「かわいい」「常に着けたい」
以上、連載の目的に沿った機能という観点から、次の4つのモデルをお薦めモデルとして取り上げた。
基本的には、スポーツタイプのフラッグシップモデルがお薦めだ。自分に必要な機能がわかったら、次の1台は機能を備えたもっと廉価なモデルも選択肢となる。スマートウォッチの機能は体感してみないと、自分に必要なものなのかを判断ができないので、最初は奮発して予算の許す限りフル機能を購入したい。
しかし、である。大前提として、スマートウォッチは「着け続ける」ことが重要となる。常にモニタリングすることでデータを収集し、それを身体の健康へ生かしていく。このため、いくらばっちりな機能があったとしても、本人が気に入らないなら意味がない。そこで、カッコいい、かわいい、常に着けていたい、こんな風に「気に入った」スマートウォッチを買うという考えを優先したほうがよいと思う。
健康の維持を目的とした場合、スマートウォッチは一生付き合っていくことになるデバイスだ。デバイスの特徴を把握し、その機能を使いこなし、常に元気でいるためのデータを収集し、生活にフィードバックしていく。長期にわたって付き合っていく相棒として、じっくり検討してもらえればと思う。