ビジネスマンは太ってきている

元気に仕事を続けていくには「健康」が第一だ。しかし、ビジネスマンは年々太っている。厚生労働省の調査結果「令和元年 国民健康・栄養調査結果の概要」によれば、BMIが25kg/㎡以上で肥満と分類されるのは男性で3人に1人、女性で5人に1人だ。ビジネスマン世代をみると、20歳代から50歳代まで年齢が増えるごとに肥満者の割合も増えている。ビジネスマンは年々太っているのである(主に男性)。

  • Polar Vantage V2

    Polar Vantage V2

健康に関する研究は日々進んでいるが、そのすべてのメカニズムが明らかになっているわけではない。健康について参考にするデータは、結局のところ統計的データに依る健康の指針ということになってくる。

このため参考にすべきデータは常に更新し続ける必要があるわけだが、執筆時点ではBMIは25kg/㎡以下にしたほうがよいと考えられていることが多い。BMIの下限をどこに設定するかは年齢や男女、対象する指針(死亡率で見るのか、検診の結果で見るのかなど)によって異なってくる。

BMI値は低すぎてもよくないというのは一致しているのだが、どこを下限とするかは条件で変わるのだ。ビジネスマン世代で見ると、低すぎても18.5くらいが下限とされることが多く、上限と下限の間で概ね22ないしは23くらいが推奨されることが多い。

本連載で焦点を当てているのは、除脂肪を進めて(余分な体脂肪を減らして)BMI値を下げる方法だ。

除脂肪するなら、筋トレはすべき?

スマートウォッチで筋トレのアクティビティをモニタリングしてみよう。例えば、次のアクティビティは50分ほど筋トレをしたときのものだ(プルダウン、ロウプル、デクラインアブクランチ)。

  • 筋トレのモニタリング結果 - Polar Vantage V2を使用

    筋トレのモニタリング結果 - Polar Vantage V2を使用

強度の強い筋トレは無酸素運動が主体と考えられている。主に使われるエネルギーは糖質(炭水化物)とされる。しかし、上記のスクリーンショットからわかるように、筋トレ時の主要なエネルギー源は脂肪だ。糖質はあまり使われていないように見える。

次に、上記筋トレに後に行った40分間の有酸素運動(インクラインウォーキング)のモニタリング結果を見てみよう。こちらのほうが脂肪の燃焼割合は低い。しかし、カロリー消費は筋トレの3倍以上だ。結局、有酸素運動の方がよくエネルギーを使っており、除脂肪も進むことになる。

  • ウォーキングのモニタリング結果 - Polar Vantage V2を使用

    ウォーキングのモニタリング結果 - Polar Vantage V2を使用

こうしたモニタリング結果を見ると、除脂肪を進めるなら筋トレではなく有酸素運動だけをやった方が効率的に見えてくる。筋トレの消費カロリーは椅子に座っているときとあまり変わっていないようにすら見えてくる。

筋トレはスマートウォッチと相性が悪い

実のところ、筋トレとスマートウォッチはあまり相性がよくない。スマートウォッチは基本的に心拍数を計測して各種身体変化を「推測」するデバイスだ。筋トレでは心拍数が一気に上るような運動が少なく、さらにその継続時間が短い。筋トレはスマートウォッチからは「見えにくい運動」なのだ。

主流となる筋トレというのもおかしな話なのだが、例えば筋肥大を狙うような筋トレのトレンドというのは時代とともに変わっている。以前はインターバルを1分間くらいとし、8回~12回を3セットくらいでオールアウトさせる方法が効果的だと言われることが多かった。

現在では、インターバル時間を3分、4分と比較的長めにとって、きっりちやるほうがオールアウトさせやすく、筋肥大をうまく実現できると考えることが増えているように見える。1分間のインターバルでは回復が追いつかないので、長めに休んでもちゃんと追い込もうという発想だ。

そうなってくると、スマートウォッチで筋トレの効果を測っていても、そのほとんどは休憩時間ということになる。先程は50分ほどの筋トレをモニタリングしていたが、実際に力を込めているのは10分ほどで、それ以外はインターバル(回復)時間だ。となると、計測結果が安静時とあまり変わらないというのも、スマートウォッチの仕様上はどうしようもないのだ(なお、もっと細かく筋トレをモニタリングできるデバイスもある)。

筋トレにはアフターバーン効果がある

筋トレそのもので消費されるカロリーは低い。このため、筋トレは除脂肪に向かない、ないしは、時間がかかりすぎると考えるかもしれないが、そうとも限らないのだ。筋トレは「アフターバーン効果」と言われるカロリー消費効果が確認されており、スマートウォッチの計測以上に消費カロリーを増やしている可能性がある。

アフターバーン効果に関してはそのすべてのメカニズムが解明されているわけではない。しかし、現象として筋トレを実施すると1日~3日ほど消費カロリーが増加することが確認されており、その仕組みのいくつかは実験レベルで確認が取れている。アフターバーン効果については今後も新しい知見が発見されていくことが見込まれ、より詳しいメカニズムもわかってくる可能性が高い。

今のところ筋トレやHIITでアフターバーン効果が発動すると考えられている。HIITはきつすぎるので普段あまり運動していないビジネスマンが継続するのは困難だと思われるので、筋トレを考えることにする。

こうした効果が存在していることは確認され、発動させる方法もわかっている。しかし、より細かな発動条件や、具体的にどの程度消費カロリーが増えるのか、それを知るための計算方法などはまだわかっていない。アフターバーン効果を除脂肪設計に取り入れるにはまだ不確定要素が多いのだ。けれども、筋トレも除脂肪に効果があるというのは間違いなさそうだ、というのが現状だ。

除脂肪には筋トレもしよう!

筋トレがどの程度除脂肪に寄与するかはまだまだ研究が必要であるように見えるが、消費カロリーは増えるし、さまざまな健康効果があることは明らかになっている。

世界保健機関(WHO: World Health Organization)が2020年末に公開した「World Health Organization 2020 guidelines on physical activity and sedentary behaviour - PubMed」も、健康になる確率が高い運動として、週に150~300分の中強度運動がよいとし、週に300分以上の中程度の運動や、週に2回以上の中強程度の筋トレも行うとさらに上の健康を目指すことができると述べている。筋トレが健康を促進するというのは統計的に見ても確からしさの高い状況だ。

したがって、スマートウォッチで計測される消費カロリーが低いからといって、筋トレをしないのはもったいない。できるだけ筋トレも取り入れていくことが、健康的に仕事をするために効いてくるというものだ。

一口に筋トレといっても、何を目的とするかで効果的な筋トレの方法も変わってくる。筋トレをしていくなら、基本的な知識はつけておいた方が得だ。しばらくは筋トレとスマートウォッチとの関係に焦点をあてつつ、除脂肪を進める方法を取り上げていく。