回復のもうひとつの鍵は「自律神経系」

前回は、スマートウォッチで睡眠をモニタリングし、記録された睡眠データを読む方法を取り上げた。具体的には、スマートウォッチは睡眠を「深い睡眠」「浅い睡眠」「レム睡眠」というステージに分けて記録することが多いこと、各ステージで主な回復対象が異なること、「深い睡眠」は主に肉体の回復を、「レム睡眠」は主に心的な回復を促すこと、「深い睡眠」と「レム睡眠」は睡眠全体における割合が重要なこと、睡眠の中断は毎晩起こっていること、睡眠の中断は短いほうがよいことなどを取り上げた。

ここまで読めるようになっていれば、睡眠データを見て昨晩の睡眠の質と量が良いものだったか悪いものだったかを判断できるようになっているはずだ。

しかし中には、睡眠の質も量も十分なのに、どうも疲れが取れた気がしない、心が落ち着かない、朝いきなり目がばっちり覚めるのに日中眠くなるなど、快調とはいえない日があるかもしれない。そんな場合に役立つ可能性があるモニタリングデータが「自律神経ステータス」だ。

  • 自律神経ステータスの計測例 - Polar Vantage V2

    自律神経ステータスの計測例 - Polar Vantage V2

自律神経ステータスまで計測できるスマートウォッチはまだ少ない。Polarのスマートウォッチには、自律神経ステータスのモニタリング機能がついているモデルが多いので、必要性を感じるなら、購入を検討するとよいかもしれない(Polarは先日、Polar Vantage M2Polar Ignite 2という新モデルを発表した。フラッグシップモデルよりも廉価で購入しやすいので、睡眠モニタリングを目的に検討対象に加えるのもよいと思う)。

自律神経系のバランスが崩れると、体調が悪くなることが知られている。自律神経は、闘争や逃走に関する時期(交感神経)と、休息や消化に関する時期(副交感神経)という、2つの行動をコントロールしている。起きている間は交感神経が優位になることが多く、寝ている間は副交感神経が優位になることが多いと言われている。

自律神経のバランスを取るには、寝ている間にどれだけ自律神経を沈静化させる(副交感神経を優位にする)ことができるかがポイントとされている。スマートウォッチを使って睡眠をモニタリングすることで、ちゃんと自律神経が沈静化したのかを調べることができるのだ。

睡眠中の自律神経系沈静化具合がポイント

Polarの提供している自律神経ステータスは、「睡眠の最初の4時間の間に、自律神経系がどれだけ沈静化したか」を表すものだ。スケールは-10から10で、0前後が通常のレベルとされている。10だと普段と比較して休息や消化が最も優位になっていたことになる。計測結果は過去28日間のデータと比較して、最終的に自律神経ステータスとして表示される。睡眠の最初の数時間で自律神経系がよく沈静化していると、寝起きも気持ちがよいことが多い。逆に沈静化が悪いと、どうも疲れが抜けたような感じがしなかったりする。

Polarのスマートウォッチは計測した心拍間隔時間データを「心拍数」「心拍変動」「呼吸数」へ変換し、自律神経ステータスの算出に使っている。特に自律神経系の沈静化を示すデータとして影響力が大きいのが「心拍数」で、逆に「呼吸数」は影響力が小さいとされている。

自律神経ステータスが悪い、つまり自律神経系の沈静化が悪い時というのは、睡眠に向かって自分をリラックスした状態にするのに時間がかかっているということを意味している。原因は精神的なストレスであったり、直前まで運動を行っていたり、深酒していたりとさまざまだが、何らかの原因でリラックスへ向かうのに遅れが出ると、自律神経ステータスの悪化という形でモニタリング結果に表れてくる。

心拍数

心拍数は自律神経系によって変動しており、自律神経の状況を表している。成人の値は40bpm〜100bpmほどだが、毎晩の心拍数の値に差が出るのは日常のことで、普段のレベルと比較することが大切だとされている。心拍数が低い方が自律神経ステータスは高くなる。

心拍変動

心拍変動は、連続した心拍間の時間の変化のこと。心拍変動の値が高いほど、休息と消化活動に関する自律神経の活動(副交感神経)のが活発であると言われている。つまり、心拍変動の値が高いほど、自律神経は落ち着いているということになる。

Polarの説明によると、「一般的に、心拍変動が大きいほど、一般的な健康状態、心肺機能の高さ、ストレス耐性に関係していると考えられている」ということになる。この値も個人差が大きく、絶対値ではなく過去の自分の値との比較が重要とされている。

呼吸数

呼吸数は睡眠ステージとともに変化し、成人で毎分12から毎分20ほどと言われている。呼吸数はそれほど大きく変化することはないと言われている。

自律神経系の沈静化具合の読み方

自律神経の沈静化具合に関しては過去のデータと比較する必要があるので、自力で判断するのは難しいのだが、ひとつの指針として次の状態になってれば自律神経系の沈静化が起こっていたことがわかる。

  • 心拍数が下がっている
  • 心拍変動が上がっている
  • 呼吸数が下がっている

逆に心拍数が高く、心拍変動が低ければ、それほど自律神経系の沈静化が起こっていなかったということになる。基準となる心拍数や心拍変動は人それぞれ異なるので数値だけで判断するのは難しいのだが、長期に渡って自律神経ステータスを見ていくと、数値だけからも判断できるようになる。

自律神経ステータスを計測してみよう

実際に自律神経ステータスの計測結果を見てみよう。次の計測結果は筆者の計測結果だ。自律神経ステータスが良好だった日から最悪だった日まで選んで掲載してある(Polarの場合、モバイルアプリPolar Flowで自律神経ステータスの詳細を見ることができる)。

  • 自律神経ステータス: +10.0

    自律神経ステータス: +10.0

  • 自律神経ステータス: +5.1

    自律神経ステータス: +5.1

  • 自律神経ステータス: -0.6

    自律神経ステータス: -0.6

  • 自律神経ステータス: -4.1

    自律神経ステータス: -4.1

  • 自律神経ステータス: -10.0

    自律神経ステータス: -10.0

特に重要となる心拍数と心拍変動を、それぞれの自律神経ステータスとともに整理すると次のようになる。

自律神経ステータス 心拍数 心拍数変動
+10.0 52 54
+5.1 55 51
-0.6 59 44
-4.1 57 40
-10.0 62 37

心拍数が低く心拍変動が高いほど自律神経ステータスが高く、心拍数が高く心拍変動が低いほど自律神経ステータスが低くなっていることがわかる。つまり、睡眠の最初の4時間に心拍数が低く心拍変動が高い状態を作り出すように工夫していくことで、自律神経ステータスは常に高い値になり、1日の快適さが変わってくるわけだ。その方法については次回以降で説明する。

睡眠の「中身」を見て良い睡眠を

「適度な運動」、「バランスの良い食事」、「十分な睡眠」、この3つが健康でいるために重要であることはこれまでさまざまな機関や組織が何度も何度も繰り返し発表している。

ここにスマートウォッチの登場だ。これまで「十分な睡眠」は睡眠の「長さ」が注目されることが多かったが、実際にはその「質」が大切なんだということを可視化によって実感できるようになった。さらにここに「自律神経系の沈静化」というモニタリングも追加されたのだ。「深い睡眠」「浅い睡眠」「レム睡眠」「睡眠の中断」「自律神経系の沈静化」という「睡眠の中身」を調べることで、睡眠の質を判断することができるわけだ。

  • Polarのスマートウォッチは睡眠ステータスと自律神経ステータスの双方を計測する

    Polarのスマートウォッチは睡眠ステータスと自律神経ステータスの双方を計測する

  • 睡眠ステータスと自律神経ステータスで回復具合を数値化して表示している - Polar Vantage V2

    睡眠ステータスと自律神経ステータスで回復具合を数値化して表示している - Polar Vantage V2

睡眠が心身の回復においてきわめて重要な効果を発揮していることは間違いのないところだ。スマートウォッチは、あくまでも推測値ではあるが、この「睡眠」の中身を見せてくれるデバイスだ。このデバイスを使いこなし、睡眠を知り、その内容を改善させていくことは、生活の質の向上そのものであり、当然仕事にも直結してくる。睡眠を調べるためにスマートウォッチを購入するというのもよい選択肢だと思う。誰しも優れた睡眠は毎日欲しいものだ。その最初の一歩としてスマートウォッチに手を伸ばすのは悪くないのではないだろうか。

参考

今回の記事より詳しい説明は、次のページに情報がまとまっている。日本語版のページもあるが、英語のページの方が内容がわかりやすいと思うので、より詳しい説明については可能であれば英語のページの方を読んでいただければと思う。

;;link;; https://news.mynavi.jp/article/smartwatch-for-business-4/ https://news.mynavi.jp/article/smartwatch-for-business-3/ https://news.mynavi.jp/article/smartwatch-for-business-2/ https://news.mynavi.jp/article/smartwatch-for-business-1/