チーム・コミュニケーションを円滑にするビジネスのサポートツール「Slack(スラック)」。コロナ禍におけるリモートワーク文化が進んだことも相まり、近年は多くの企業が導入を始めている。では、Slackはどのように企業のコミュニケーションを円滑にしているのだろうか。今回は2020年からSlackを導入し、現在運営する全スクールの生徒にアカウントを付与・運用するバンタンの事例を紹介する。

IT専門スクールでの運用から全スクールへの導入へ

即戦力人材を育成するスクール運営事業を行っているバンタン。飲食やファッション、アニメーション制作など、あらゆる専門分野における複数のスクールを運営する同社では、2021年4月から全スクールの新入生約4,000人にSlackアカウントを付与した。

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バンタンが最初にSlackを導入したのは2020年2月。オンライン通話やメールよりも密にコミュニケーションが取れるツールとして、当初は社内スタッフ間での運用からスタートした。

一連のSlack運用の舵を取ったのは、IT専門のスクール・バンタンテックフォードアカデミーのスクール運営を担当する上原啓介氏と、事業企画部事業推進グループに所属する夏川知子氏。上原氏は「全スクールの新入生への導入」に至るまでの経緯を、次のように語る。

「スタッフ間での導入後、バンタンテックフォードアカデミーの全生徒と主要講師にも、2020年4月の開校と同時にアカウントを付与しました。効果などを確認したうえで、2021年4月からは他のスクールでも新入生を対象に運用をスタートさせる、という手順でSlackを浸透させていきました」(上原氏)

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    バンタン バンタンテックフォードアカデミー スクール運営チーフの上原啓介氏

現在、スタッフ400人用のSlackのEnterprise Grid、生徒約4,000人用のプロプランのアカウントを保有するバンタン。全4,400人分の有料アカウントを運用する、という提案に対し、経営層はどのような反応を示したのだろうか。夏川氏は稟議の降りた背景について「元々Slack利用に対する理解があった」ことが関係しているのでは、と振り返る。

「そもそもSlack導入を推進したスタッフも前職などでSlackを活用していたので、使い勝手の良さを理解していたんですよね。かつ経営層もSlackに触れたことがあって、どちらかといえば推進派の印象がありました。バンタンには『世界で一番、社会に近いスクールを創る』というビジョンがあります。オフィシャルツールとして利用する企業が多いSlackを生徒に付与することが理にかなっており、比較的スムーズに通りました」(夏川氏)

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    バンタン 事業企画部事業推進グループの夏川知子氏

また「はじめにバンタンテックフォードアカデミーの生徒に向け導入し、ある程度活用事例を生み出せたことが功を奏した」と夏川氏。

「2020年7月に、バンタンテックフォードアカデミーでの活用事例を社としてリリースしたんです。実はこのリリースが皮切りとなり、全校的な導入への検討にもつながりました」(夏川氏)

「募集」「依頼」を積極的に生み出すSlack活用法

バンタンが運用するワークスペースはスタッフ用と全生徒用、そしてバンタンテックフォードアカデミー用の計3つ。定められた最低限のルール(チャンネル名称の付け方やマナーなど)のもと、各ユーザーが自主的にコミュニケーションを取っている。

スタッフ、講師は生徒用のワークスペースにもログインできるため、生徒用ワークスペースには授業ごとのチャンネルもオープン。現在、スタッフ用ワークスペースには約1,200、生徒用ワークスペースには約600ものチャンネルがある。

特徴的なのは、スクールを横断した“横のつながり”を積極的に生み出すための活用術が施されていることだ。上原氏によると「ファッションの生徒のモデル募集や、作品展示や販売の告知、仕事依頼などが活発に行われている」という。

「『写真を撮ってほしい』『スタッフやお手伝いがほしい』だけではなく『こんなことに興味があります』というアピールの投稿はよく見かけますね。スクールを超えた仕事のシェアやコミュニティ形成を期待してSlackを導入したからこそ、期待通りの活用がされ始めているのでは、と感じています」(上原氏)

「スタッフ用ワークスペースでも同様の動きはありますね。弊社では副業が可能なので、スタッフから映画の告知や副業募集などの投稿がされることもあります。食に特化したレコールバンタンのスタッフから『◯日に生徒が作ったケーキを販売します!』という告知などもされるんです。他の専門スクールを担当するスタッフが実際にケーキを買いに行くなど、リアルに繋がるようなコミュニケーションが取られているのは嬉しいですね。また、卒業式や入学式でも積極的にSlackが活用されており、出欠のデータや台本共有、当日の進行などはSlackを通しスタッフ全体に共有されていました」(夏川氏)

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    スタッフ用ワークスペース内で投稿された卒業式の様子

ハドルミーティングをはじめとする直近で導入された機能も「積極的に活用されている」と上原氏。気軽に通話できるからこそ、コンセンサスを取るときなどのシーンで気軽に活用されている。

生徒同士では面白い活用方法も。バンタンテックフォードアカデミーの生徒が利用するワークスペースにはオンラインで麻雀を健全に楽しむチャンネル「テック雀荘」が開設され、オンラインゲームを複数人で会話しながら楽しむ事例が生まれた。

「コロナ前で生徒同士が遊べなくなったからこそ、ハドルを使って一緒にゲームやカラオケをするなど、効果的な活用をしている様子は見かけますね。あとは、バンタンテックフォードアカデミーの生徒が作ったBotも登場しました。例えば私が『出席取るのが大変だな……』という時に、生徒が自動で出欠確認を取れるBotを開発してくれたこともありました(笑)」(上原氏)

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    学生が作成し、 生徒用ワークスペースで導入された出欠Bot

「Google画面を各自で開きながらハドルで会話など『ながら使い』で活用されている印象はありますね。生徒はデジタル世代が多いからこそ、新機能の使い方には長けているように思います。クリップ機能で自分の声を録画して授業に活用した、という声も聞きました」(夏川氏)

2021年4月に全スクールで導入されてから1年。「積極的に活用しているのはまだ全体の半数ほど」ではありつつも、母体数から考えると多くの生徒、スタッフが利用している状況だ。では、どのようにSlackの利用を浸透させていったのだろうか。上原氏は「生徒に対する接し方」を意識したという。

「生徒同士であればスタンプでもいいのですが、できるだけテキストで返信し、リアクションをとるようにしています。正直、導入から浸透までに半年ほど時間がかかりましたが、使い方やリアクションの方法などのガイドを作成し啓蒙活動を取ることで、徐々にリカバーを図ろうとしているところ。現在は生徒用のSlackワークスペースの研修を実施し、より各ワークスペースが活性化するようなアクションを取っています」(上原氏)

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    授業以外のいわゆる「雑談」に分類されるチャンネルが多いこともバンタンの特徴だ

在校生・卒業生が“横のつながり”を活用できる場でありたい

では実際にSlackを導入したことで、生徒間・スタッフ間のコミュニケーションにはどのような変化がもたらされたのだろうか? 上原氏はこの1年間を次のように振り返る。

「われわれが当初抱えていた一番の課題は、スクール間の横のつながりが薄いことでした。店舗をオープンしたいレコールバンタンに在籍する生徒がバンタンテックフォードアカデミーに在籍する生徒にアプローチしたり、一緒に起業するメンバーを探したり、仕事依頼したり、という事例がSlack上で数十件ほど見受けられたので、課題をクリアするための第一歩は踏み出せたように思います。

何より身近で起きた大きな変化でいうと、対面での発言が苦手な生徒が積極的に講義で発言するようになったことですね。コロナ禍でオンライン授業が増え、授業中の発言やリアクションがSlackのチャンネルでもできるようになりました。生徒自身の意見や考えを述べるハードルが下がったことは嬉しかったですね」(上原氏)

これからの目標は「全スクール内でのSlack利用率を増やし、卒業後もつながりを生み出せるようなジョイントの役割を担うこと」。今後の展望を、二人は次のように述べる。

「いろんな分野のスクールを1つの会社で運営し、かつ高校生から社会人まで幅広い年代の生徒が在籍している、というのはバンタンの特長でもあります。さまざまな分野で活躍する人同士がつながることで、新たな活動も生まれるはず。在学中に横のつながりを作り、そのまま卒業後も仕事ができるような仕組みを整えたいです」(夏川氏)

「個の時代が到来し、職業のオリジナル性やスキルの特異性が求められるようになると、やはり“つながり”が重要になります。何より『一人じゃない、自分が所属するスクールの外にも協力者はいる』ということは、Slackを通し伝えたいです。

現在は新入生、そしてバンタンテックフォードアカデミーのOB・OGにのみアカウントを付与していますが、ゆくゆくは全スクールの卒業生にもフリープランアカウントを付与することを検討しています。卒業後もSlackでコミュニケーションを取り、新たな活動をサポートできるような環境づくりをしていきたいですね」(上原氏)