「1GW相当のAIデータセンターを構築するには、約500億ドルの資金が必要であり、そのうち最もコストがかかるのは半導体で、その割合は6割以上」と豪語したのは世界のAI半導体市場の7割以上を掌握するNVIDIA CEOのJensen Huangである。
現在、安全保障/経済安全保障上最も重要とされているAI技術の開発に必須となっているNVIDIAのGPUアクセラレーターは、世界中のテック企業がAI開発を加速する中、ずば抜けて高いコストにもかかわらず引く手あまたの状況が続いている。しかし、技術主導のこの市場では一社による独占状態にはそれに抗う勢力が必ず現れる。
米国技術依存から脱却する準備を着実に進める中国
最近AI業界で最もホットな話題は、NVIDIA製品の中国への輸出規制についての目まぐるしい動きだ。バイデン政権で開始された中国へのNVIDIA製品に対する輸出規制は、最近のトランプ大統領の判断で、H200製品が輸出可能となった。
現在、NVIDIAが擁する最新製品であるB300のひと世代前の製品であるとはいえ、その処理性能はAI開発には充分なパワーを持っている。CEOのJensen Huangの強力なロビー活動と、トランプ大統領の対中貿易摩擦への解決策の糸口という利害関係が一致した結果だが、輸入する側の中国の事情でそう簡単に輸出解禁とはならない状況が続いている(この記事の執筆時点での状況)。この問題では4者の思惑が交錯している。
- NVIDIA:世界最大の中国市場へのアクセスで売り上げを伸ばしたい
- 米政府:硬直状態の米中貿易摩擦を解決する強力なカードとしてH200を使いたい
- Alibabaなどの中国AI開発企業:AI開発競争で遅れを取らないようにできるだけ多くのNVIDIA製品を合法的に入手したい
- 中国政府:米国のNVIDIA依存状態を脱却すべく、国内AI半導体製造能力を推進したい
中国ではHuwawei、Cambricon、Moore Threadsなどの国産AI半導体企業が実力をつけてきており、NVIDIA一強状態が徐々に変わりつつある。中国政府は、巨額の政府資金を投入して半導体自給自足を後押しするが、依然としてNVIDIAをはじめとする米国勢の技術には追い付いていない。そのボトルネックはアクセラレーターの設計分野から、超微細加工製造の先端技術へと移ってきている。事態は非常に流動的であるが、NVIDIA/AMDなどの米国製と中国企業による中国製を両方使用する折衷案になる可能性がある。
NVIDIA依存状態を脱却しつつある米国ビッグテック
最新のNVIDIAのGPUアクセラレーター製品を高額で大量購入する米国ビッグテックのNVIDIA依存状態にも大きな変化が訪れている。
最近のGoogleによるGemini3と自社開発TPU(Tensor Processing Unit)の最新製品の発表がこれを象徴している。TPUとしては第7世代となる“Ironwood”は推論分野でのベンチマーク性能でNVIDIA製品を凌駕するという。GoogleはNVIDIA製品を継続して大量購入しているが、一部のアナリストの分析によると、Googleのデータセンターには旧世代版も含めてすでに50万~100万個レベルの自社開発TPU製品が使用されているという。
この分析の妥当性はGoogleとASIC設計パートナーとして協業しているBroadcomの強気の決算発表からも伺える。Broadcomの2025年8-10月期の売上高は、前年同期比28%増の180億ドルを超えるものだったが、業界をさらに驚かせたのはAI半導体の次期売上予測が2倍になるというCEO、Hock Tanの強気の見通しだった。
GoogleがGemini3の開発プラットフォームとして使用した最新TPUは、新興AI開発企業Anthropicに対し最大100万個レベルで供給されるとも発表していて、元来自社使用を目的として開発したしたカスタムASICが、他社への供給によりハードウェアビジネスを形成する勢いを見せている。GoogleもAnthropicもNVIDIAの製品を大量に購入しているが、高性能カスタムASICの併用によって、AI開発のスピードを落とすことなく、NVIDIAとの価格交渉を有利に持っていこうという意図が表れている。また、Google以外のビッグテック各社も例外なくカスタムチップの自社開発を進めている。
こうした旺盛な需要を受けて、AI半導体製造のほとんどを請け負っているTSMCも生産能力増強に巨額の設備投資を行っている。
NVIDIA一強状態が現出するかつて見たことがない業界の景色
私自身の業界経験から考えると、国家間の貿易問題で特定のデバイスの扱いがこれほど問題になったケースもなければ、カスタムASICがこれほどの取引量になるケースも、AMDが開発したPlayStationやXBoxなどのゲームコンソールのエンジンチップの例くらいしか思い浮かばない。 加速するAI開発のスピードとその戦略的重要性、急拡大する半導体市場サプライチェーンの動きは、かつて見たことがない業界の景色を現出させている。

