先週発表されたNVIDIAの2026会計年度第2四半期決算(2025年5-7月期)は旺盛なAI需要に支えられ、最高益を記録した。

AI半導体市場の7割以上を掌握するNVIDIAは、巨大テックの巨額のAI設備投資の恩恵を一手に受けている状態だが、今や戦略的重要物資となっているAI半導体分野での覇権競争を繰り広げる米中政府の狭間で大きな影響を受けつつある。

空前の最高益を記録したNVIDIAの決算

先週発表された決算での売上高は前年同期比56%増の467億ドル(約7兆円弱)という結果で、市場予想を上回る勢いを見せた。

  • NVIDIAの2026会計年度第2四半期の決算概要

    NVIDIAの2026会計年度第2四半期の決算概要 (出所:NVIDIA)

72%超の粗利率が示す通り、AIビジネスを有利に展開するためにはいくら単価が高くてもNVIDIA製品の技術をいち早く取り入れることが最も肝要であると業界全体が認識しているのだと言えよう。市場関係者が抱く不安要素は米政府による対中輸出規制にあった。

4-6月の直前期では中国市場向けに、主力製品BlackwellをダウングレードしたH20製品が米政府の決定で輸出規制の対象となり、仕掛品の在庫部材などの引当金を損金計上した経緯を受けて減益となった。CEOのJensen Huangは「5-7月期での中国顧客に対するH20製品の販売はなかった」と明言したが、NVIDIAは米国以外にも欧州や中東へと販路を拡大しており、H20製品の引き取り先は値段次第ではいくらでもある。トランプ大統領との交渉の結果、H20製品の対中輸出が可能となれば、中国向けの輸出が開始される予定で、次期の8-10月期には更なる増収を見込んでいる。また、Blackwellの後継製品「Rubin」の開発が順調に進んでいて、製造パートナーのTSMCでのテープアウトが進められていることも明らかになった。AI半導体市場でのNVIDIAの勢いには衰えが感じられない。

  • Jensen Huang CEO

    Blackwellを手にするJensen Huang CEO(NVIDIA AI Summit Japan 2024にて編集部撮影)

対中輸出に「上納金」を要求する米政府と、国内製AI半導体を奨励する中国政府

ロードマップ通りに優れた製品を出荷して旺盛な需要に応える、という半導体企業としては見事な企業努力で破竹の勢いを見せるNVIDIAではあるが、その戦略的重要性が増すにつれて、国家間の地政学的影響をもろに受けているのも事実である。

特に米トランプ政権は、一旦は対中輸出規制の対象としたH20製品を15%の「上納金」と引き換えに規制を解くという方向転換を図ったが、その「上納金」の名目や使い道は未だに不明である。対中輸出が再開されればかなり大きな金額の「上納金」が米政府に入ることになるが、この資金は米政府が資本参加を表明しているIntelへの補助金の原資として使われる可能性もある。

しかし、NVIDIAのJensen Huangにとって、より気になるのは中国市場での競合の出現であろう。中国政府は中国内の主だったテック各社に対し、NVIDIA製品の代わりに中国製のAI半導体を使用するよう強力に働きかけている。Alibaba、Tencent、Deepseekなどの中国内のクラウドベースのAIサービス企業が生み出すAI半導体需要は巨大で、その需要に応えるべく国内でのAI半導体開発は予想以上に進んでいる。この事実は世界市場を熟知しているJensen Huang自身が現在最も懸念してる事だろう。

米国の有力紙の報道によれば、中国内の複数のメーカーがAI半導体の開発を進めており、来年での生産量の大幅な拡大を目指しているという。中国政府はこの2-3年自国内での半導体開発の進捗を表面だって発表しない方向性を取っているが、HuaweiやAlibabaを中心とする複数企業が主に推論性能の強化を目的としたAI半導体の設計・製造の能力を飛躍的に増強しているという報道内容である。世界市場での売上高で3位に位置するSMICは、7nmプロセスによる製造能力を倍増させる予定であるという。EUVなどの先端露光装置の輸入を規制されている中国だが、現在保有の装置体制での先端化を進めていて、その実力は世界をリードするTSMCとのギャップを縮めつつある。これらの中国勢は中国内の需要を満たした後には、やがて世界市場での競合となりうる。

AI半導体の世界では付加価値を生み出す技術の優劣のみがその運命を決定づける

生成AIの爆発的な普及は突如として巨大な半導体市場を出現させた。AI半導体市場はその驚異的な拡大スピードでNVDIAがリードするGPUベースのAIアクセラレーター以外にも、競合のAMDや、Google/MicrosoftなどのAIサービス提供者による自社開発のアクセラレーターに加え、TenstorrentやGraphcoreなどの多くのスタートアップ企業を呼び込んでいる。アクセラレーター市場の拡大は、広帯域メモリー(HBM)や高密度パッケージ市場の活性化を呼ぶ。

こうした多くのプレーヤーが押し寄せる中で、生き残るのは独自技術で付加価値を提供する者だけだというのがこの業界の必定である。