前回、Intelの新CEOであるLip-Bu Tanが現在押し進める大胆な改革について書いたが、その後米国の複数メディアでさらなる大きな戦略変換の兆しを思わせる報道が出たこともあり、今回もIntelの話題である。現在、Intelが鋭意開発を進める先端プロセス「Intel 18A」の使用を自社ブランド製品に限るという決定をするかもしれないという話だ。
それと対照的にIntelの長年のライバル、AMDを率いるLisa Suは、最近の自社イベントに登場し、AI半導体で世界市場を掌握するNVIDIAを追撃するプランを次々と発表した。
「Intel、18Aを切り捨てる」、との衝撃的タイトルの記事
RibbonFET/PowerVIAといった先進の技術を取り込んだIntelの野心的なプロセス技術「Intel 18A」は、リスク生産が始まっており、このプロセスで製造される最初の製品であるPanther Lake(開発コード名)が早ければ今年の第4四半期に生産開始される、というのがこれまでの報道での業界人の認識であった。
このプロジェクトはIntel自身が発表している事であり、ロードマップ通りに進められていると見られるが、業界人の興味はもう1つある。ファウンドリ会社としてこのプロセスにより製造されるIntel以外の顧客はどこか? ということだ。この点について、最近の複数の米国メディアの報道で「Intel 18AはIntel製品のみに適用され、ファウンドリ会社がIntel以外の顧客に提供するのはIntel 18Aの次の世代のIntel 14Aらしい」という記事が出た。その中には「Intel、18Aを切り捨てる」、という衝撃的なタイトルの記事もあって、Intelの今後の発表に注目が集まる。
Intelからの正式発表はもちろんないが、どうやらこの方向性はLip-Bu Tanの考えで、秋の取締役会までは結論がでない様子だ。確かに、私もこれまでのIntelのファウンドリ会社の顧客獲得については大きな興味を持って見てきたが、Microsoft、Amazonと米国防省が名乗りを上げているだけで、具体的な製品には全く言及がなかった。
記事によるとIntel 18Aの歩留りや性能などの要因でTSMCの対抗軸としての実力がまだ明らかでなく、積極的な顧客獲得の時期を逃したという観測がなされている。確かにこれまでのLip-Bu Tanやその前任のPat Gelsingerの発言は「Intel 18Aの最初の製品はIntelブランドのCPU製品」ということで一貫している。記事によると、Lip-Bu Tanの考えでは、Intelファウンドリ会社の主力プロセスとしては「Intel 14A」を設定し、今後の開発リソースをこちらに集中させることによって、より競争力のあるファウンドリ会社を目指すということであるらしく、その場合には本格生産が2028年までにずれ込むことになる。
Intel 18AによるPanther Lakeの生産がうまくいったとしても、すでに巨額をつぎ込んだIntel 18A開発投資から発生する減価償却費は大きな負担となって今後のIntelの財務状況には重圧として残る。
現在のIntelの製品ポートフォリオにはAI半導体分野が決定的に欠落していて、今後AI半導体を自社で開発、あるいはAI半導体のファブレス企業を顧客として取り込む以外に財務状況を飛躍的に改善する方法はない。Intelの復活を目指し、第2波のリストラを進める最中にも長期的なビジョンを持ちながらさらなる「聖域なき改革」を進めるLip-Bu Tanの今後の道のりは極めて険しそうだ。
AI半導体の強力な第2の選択肢として地盤を固めるAMD
Intelの長年のライバルとしてCPU市場で熾烈な競争を繰り広げてきたAMDは、そのターゲットをNVIDIAに切り替えている。
最近の自社イベントに登場したCEOのLisa Suが非常に元気なAMDを代表している。NVDIAとは長年のGPU市場でのライバルだったAMDだが、AI半導体ではエコシステムを掌握したNVIDIAに遅れを取った。対抗製品Instinct MI300シリーズで一定のポジションを築いたが、猛烈な勢いで成長するNVIDIAとのギャップは埋まらず、しばらく株価が停滞したが、次世代製品Instinct MI350の市場での評価がよく、その先の製品ロードマップに期待がかかる。
AI半導体の第一フェーズである「学習」分野から、性能差がさらに際立つ「推論」分野へとフォーカスが移ることが目される中、NVIDIAに次ぐ第2の選択肢としての地盤を固めつつある。巨大プラットフォーマーによる自社半導体開発のパートナーとして実績を積むBroadcomとともに、あまたあるAI半導体のブランドの中でひときわ目立った存在になっている。
AMDは6月にサンノゼで「Advancing AI 2025」と題する自社イベントを開催したが、基調講演で登壇したCEOのLisa Suは2026年にも登場するInstinct MI400の概要を明らかにした。また、AIラックソリューションの「Helios」も発表し、この分野であくまでもNVIDIAに食らいついていく姿勢を見せた。
その中でも注目されたのが、OpenAIのCEO、Sam Altmanと壇上で協業体制を強くアピールした事である。AMDは現在世界のAI開発をリードするOpenAIをデザインパートナーとして、LLM用半導体のさらなる技術革新を追及するという。この結果をInstinct MI450という半導体製品としてロードマップに載せる、というなんとも勢いのある話である。こうした状況を受けてAMD株はこの2-3か月で上昇基調にある。
かつては「Intelの2番煎じ」として扱われたAMDであるが、現在では「NVIDIAに最も近い競合」として認識される。かつての王者Intelとのコントラストが印象深い。