相変わらず「朝令暮改」のトランプ大統領による発言に世界経済が揺れている。
就任式では各社のCEOらが顔を揃えて支持を表明したビッグテックであったがその恩恵を受けている様子はまだ見えない。むしろ最近目立つのは、株価下落や、定まらない関税政策によるネガティブな影響などの動きである。もともと、ビッグテック各社には政権による「規制緩和」への期待があったが、米国内の経済は関税政策に振り回されていて、規制緩和どころの話ではない。米国による関税政策を牽制するかのようにEUはAppleとMETAに対してDMA(デジタル市場法)をもとに多額の制裁金を課す動きに出ている。
ビッグテック7社の時価総額が総計24%消失
トランプ大統領が高らかに標榜する「相互関税」に対し、技術集約的なデジタルプラットフォームをグローバル市場に展開するビッグテック各社の将来には不透明性が増すこととなり、株価は一斉に下落した。その中でも、トランプ政権の発足直後からその政策変革の顔ともなり、政府関係機関の大リストラに奔走したTesla社のCEO、Elon Musk氏は、本業であるTesla社のEV車がヨーロッパ市場で不買運動に合い巨額の減益となった。この数か月は、自身の多くの時間をトランプ政権参画に使ったが、今後は本業の業績を立て直すために現場復帰へと舵を切らざるを得ない。
トランプ大統領の一連の発言を見ていると、自動車、鉄鋼、造船、化石燃料など、米国が一時世界市場をリードしたいわゆる「オールドエコノミー」への執着を非常に強く感じるが、テック分野への関心が比較的薄い印象を持つ。単純に考えれば、高度にグローバル化したサプライチェーンの基に構築されたビッグテックのコストは、米国が各国にかける関税により、結局コスト高の代償としてはね返ってくる。もとより、米国のビッグテックはその優れた技術をグローバル市場に展開することによって発展してきた経緯があり、ビジネスの基盤には国境がないのが特徴だ。圧倒的なデジタル技術とエンドユーザーの個人情報を集約したそのビジネスモデルは、国境間の取引を制限する関税政策とは、元々相いれない関係にある。
欧州規制当局の厳しい目にさらされる米国ビッグテック
規制緩和への期待でトランプ大統領にすり寄ったビッグテック各社だったが、トランプ政権の相互関税で痛手を受ける欧州は、規制当局が米国ビッグテックに対して厳しい姿勢を見せている。競争法分野で従来米国より企業に対し厳しい欧州では、2022年に発足したDMA(デジタル市場法)が、その内容を進化させながら個人情報保護のための法整備が進んでいる。最近では欧州当局のDMA法に違反との判断で、Appleに対し800億円、METAに対し300億円と巨額の制裁金の支払いを命じた。
他のビッグテックに対する調査も進んでいる。巨大なデジタルプラットフォームを基盤とする巨大企業が存在しない欧州が、自国内の個人を相手にデジタル黒字を重ねる米国ビッグテックに厳しい目を向けるのは当然の成り行きと考えられる。前述のように、トランプ政権には最初から強力な支持表明をし、トランプ政権による規制緩和の恩恵を受けるものと市場が期待したTesla社であったが、CEOのElon Musk氏は、欧州の極右政党支持ともみられる発言で欧州市場で不買運動が広がり、66%の減収に追い込まれた。
つい最近では、日本の公正取引委員会がGoogleに対し「排除措置命令」を発出した。業界標準ともなっているアンドロイドOSの独占的地位を濫用し、スマートフォンのメーカーに自社のアプリを搭載させる契約を結んだことが、規制違反と判断された。日本の公正取引委員会がビッグテックに対し排除措置命令を出すのは初めてである。
自国のテック体制を強化する中国
トランプ大統領の派手な立ち回りとは対照的に、相互関税の一番のターゲットとなっている中国は静かに、しかし精力的に自国のテック体制を整えている。
ここ数年で、AI、EV、半導体といった先進分野でかなりの技術的成果を上げている印象がある。かつての中国であったらその成果を大々的に発表したであろうが、最近の中国はその成果の発表には非常に慎重であるように見える。その裏にあるのは着実に進展する技術格差の縮小だろう。
AI技術では今年初めにディープシークが衝撃のデビューを飾ったが、それも学会に発表された論文が事の発端だった。現在ではさらに高性能なAI技術が開発されているとの報道もある。半導体分野では、米国による先端製造装置の禁輸によりレガシープロセスの半導体に集中したが、この分野では中国メーカーは着実に世界シェアを奪いつつある。米国ビッグテックの強さを支えるハードウェア基盤となる電子機器システムには、先端半導体のほかに多くのパワーデバイスや機構部品などが使用されていて、その一個でも入手ができなければプラットフォームは機能しない。
複雑に入り組んだサプライチェーン構造を解体し再構築するのは最早不可能である。