SC17において、「ポストムーア時代のスーパーコンピューティング」と題するパネルディスカッションが行われた。
量子コンピューティング
最初にポジションを述べたのはD-WaveのMurray Thom氏である。ムーアの法則が終わりに近づいている現在、なぜ、量子コンピューティングが注目されているかというと、大幅なスピードアップが得られる可能性があること、NPハードな問題が解ける、そして従来のシステムでは消費電力が大きな問題であるのに対して量子コンピューティングは消費電力が小さいなどの利点があるからであるという。
D-Waveの量子コンピュータの心臓部のQuantum Processor Unit(QPU)は熱の流入で系の状態が影響を受けるのを避けるために、絶対温度で15mKまで冷却している。そのため、電源や信号の配線を伝わって流入する熱を抑えるため、50K、4K、100mK、15mKという4段階の熱階層をとっている。
D-Wave 2000Qシステムに使われているQPUは2000Qubitを集積している。
D-Waveの量子コンピュータは、系のエネルギーが最低となる状態を見つける量子アニーリングという原理で最適化問題を解いている。量子ビットを使わず、通常のアニーリングでもエネルギーの低い状態を見つけることはできるが、局所的なエネルギーの低い状態に陥ってしまうケースも多く、最低エネルギーの状態にたどり着くことは容易ではない。これに対して、量子ビット(Qubit)を使うとエネルギーの高い壁を量子トンネル効果で突き抜けて、よりエネルギーの低い状態に移行できるので、最低エネルギーの状態を見つけやすいという利点がある。
それぞれのQubitの重みai、量子ビットの間に結合qiqjを作り、結合の強さbijをプログラムすることで系を記述し、そのエネルギーが最低となった時のQubitの状態qiが最適化問題の解となるようにする。
次の図では、横軸が年で、縦軸がQubit数である。そして、Qubit数に応じてどのような能力を持つかを記載している。それによると、数Qubitでは紙と鉛筆で解ける程度の問題が解け、10~20QubitではExcelで解ける程度の問題が解け、100Qubitでは通常のコンピュータでソフトを実行する方が速いという性能である。しかし、500Qubit程度になるとシミュレーテッドアニーリングと同等、1000Qubitではシミュレーテッドアニーリングを超える性能になり、2000Qubitになると通常コンピュータでの解より速くなるという。
これにより、画像認識、ウインクと瞬きの区別、交通の最適化、故障や不良に識別、さらには、ポートフォリオの最適化、放射線治療の最適化などが可能になると期待される。
アニール型の量子コンピュータは2000Qubitを超え、従来のスパコンでは追いつけない性能になってきている。今後、Qubit数がさらに増えていき、従来の延長の計算法では解けない問題が解けるようになると期待される。
(次回は1月16日に掲載します)