衛星画像が注目を集める3つの理由
実は、人工衛星を使った地球観測(EO:Earth Observation)は今に始まった訳でなく、ずっと古くから存在した。先に紹介した衛星Landsatも、戦後すぐに打ち上げられた衛星だ。
ではなぜ、近年こういった衛星画像を使ったデータ分析が注目を浴び始め、それらをビジネス活用してく動きがでてきたのか。その理由は大きく分けると「人工衛星の商業化」「クラウドの技術」「AI・コンピュータビジョン」の3つの進歩にある。
1. 人工衛星の商業化
少し前まで宇宙は完全に国家や政府の分野だった。人工衛星の開発・製造も、衛星を打ち上げる組織も、その運用も、ほとんどが政府や国家の機関で、いずれも莫大な資金が必要だった。その結果なのか、衛星データを分析する主要プレーヤーも国防関係や研究機関が多く、用途も同様だった。
しかし今、開発費用は低コスト化し、SpaceXを台頭に民間企業の参入が可能になった。つまり、ビジネスとして人工衛星を開発、打ち上げ、運用、衛星画像販売などが民間企業でも可能になった。
そのため、よりビジネスに適した人工衛星の機能改善をしたり、API連携などデータ取り扱いも便利になったり、使い勝手やさらなる商業化の体制が整ってきた。これにより、この業界におけるプレーヤーも増えてきている。
2. クラウド技術の進歩
初期の地球観測衛星は、撮った写真をフィルムに記憶させ、そのフィルムを実際に地球に落として、地上で回収した後に現像してはじめて見ることができる、という恐ろしいほどローテクノロジーで時間がかかるものだった。
技術が進歩して数十年前に衛星画像のデータ転送が可能になったが、実際には地上でそのデータを受け取るグランドステーションが必要で、さらにそこに保管されたデータをCD-ROMなどの外部記憶媒体に記録し、郵送で送る必要があった。
しかし、近年のコンピュータ処理速度の進化と、クラウドコンピューティングの進化に伴い、今では撮像された衛星画像はグランドステーションからすぐにクラウドに保存され、インターネットにつながっている環境であればほぼ瞬間的に地球のどこからでも、誰でも、そのデータにアクセスできるようになっている。
こういったクラウドの発展が、今まで限られた人にしかアクセスができなかった衛星画像データを誰にでも簡単に、しかも瞬時にアクセス可能となり、商業化と利用の幅が一気に広がりを見せた。
3. AI・コンピュータビジョン技術の進化
コンピュータが進化したとはいえ、近年まではごく単純な数字の計算ができるものであって、画像の解析はスーパーコンピュータレベルのCPUを持ったパソコンでしかできなかった。
しかしGPUが発展し、今では誰でも市販のノートパソコンでも画像や映像の処理ができるようになった。さらに、それらの処理を自動で行うAI・コンピュータビジョン(画像処理)も恐ろしいスピードで発展している。
衛星画像のような巨大で大量の画像データは、今まで人間が目で時間をかけてチェック(または無視)されていたが、何かを探す、判断するという単純なものであればAIで効率化できるようになる。
例えば、10枚の動物の写真の中から猫の写真を見つけるのであれば、人間でも数秒で簡単にできるが、10億枚の写真の中から同じ作業を行うのはおそらくAI・コンピュータビジョンの方がはるかに効率的に同じ処理ができる。
このような大量の画像の中から特定のものを分析するというのは、AIが人間より得意なところで、地球の膨大な地表画像データを処理する衛星画像解析は、まさにAI・コンピュータビジョンには適しているデータである。それらを高速に行えるようになった技術は、衛星画像のビジネス活用に大きく貢献している。
これから衛星画像のビジネス活用はどうなっていくのか?
衛星画像のビジネス活用を考える上で、将来を予測して計画、行動していくことは非常に重要だ。
上記で紹介した3つの要因が今の衛星画像のビジネス活用を後押ししているのであれば、将来どのような予測ができるだろうか。
ここでは、筆者がタイムリーに見聞きするビジネスニーズおよび技術革新を織り交ぜて、近い将来の姿を予測する。
人工衛星の商業化はより加速し、今の技術的課題は減少する
さまざまな民間企業からのニーズや資金投入によって、今よりずっと多くの、そして多種多様な人工衛星が打ち上がって行くことが予想される。
技術的にも躍進し、人工衛星の小型化・低価格はすでに始まっている。前記事で紹介した高額なSAR衛星画像も、恐らく近い将来高額ではなくなるだろう。
誰でも簡単に低額で好きな場所の衛星画像が取得できる時代になりつつある。
クラウド技術はより進化し、データを瞬時に誰でもアクセスできるようになる
クラウドはより発展し、画像の取得から解析まですべてをクラウド上で完結することが当たり前になっていくと考えられる。
そもそも、解析自体をAIがクラウド上で行うなら、わざわざ撮像されたすべての衛星画像を地上に持ってきて、人間が画像自体を目視する必要はない。
撮像した画像を人工衛星側で解析させ(エッジコンピューティング)、必要な箇所または解析結果だけを地上へ送信し、結果として出力するということも可能になるだろう。
さらに、そのクラウド上で解析とその活用のアプリケーションを常時させておけば、分析「後」に行う活用または施策も瞬時に行えるようになるのではないか。
例えば、人工衛星が宇宙から山火事を検知・解析し、人の手を介さずに火事周辺住人の自治体やスマホへ避難勧告を出すというソリューションが開発されるかもしれない。
AI・コンピュータビジョン(画像処理)はより賢くなる
大量に増加する人工衛星画像や映像を、より多く学習し、さらに高速・高精度に処理できるAI・コンピュータビジョンは今日も開発されている。この流れは止まらないだろう。現時点では、主に人間が行っていることの補助や単純作業を置き換えることがメインの用途である。
今後は、大量のデータを処理させた高い計算速度をもつAIやアルゴリズムが、限られた専門家しかできないような高度の分析や予測ができようになるだろう。
さらに、AIやアルゴリズムがより多くのデータを学習することで、人間では思いつかないような解析や予測が可能になるかもしれない。
先程と同じ例を使えば、山火事そのものを起きてから検知するのではなく、衛星画像から山火事が起こりそうな場所と時刻を「予測」し、実際に火が起きる前に現地の消防隊に報告し、人の派遣と山火事の予防を促すということも可能になるかもしれない。
衛星画像のビジネス活用に必要なもの
ここまで、現在の衛星画像のビジネス活用における3つの共通点と、その背景および将来像を紹介した。実際、上記で紹介した将来の予測がいつ実用化されるかどうかは定かではない。
しかし、人工衛星の技術的進歩と低価格化、クラウドの発達、そして分析のAI・コンピュータビジョンの開発は、今この瞬間も少しずつ起きている事実だ。
こういった状況のもと、衛星画像のビジネス活用を考える上で重要になってくるのは、業種・業界限らず、いかに新しい技術と既存のものと組み合わせて、実際にある課題を解決していくかといった「問題解決能力」だと筆者は考える。
次回からは具体的に、衛星画像やその他の地理空間情報データがどのように利用されているのか、企業や組織の活用事例を紹介していく。是非、自社や今後の活用のアイディアになれば嬉しい。